ポップオフバルブ(adjustable pressure-limiting valve、一般にAPL弁と略され、ポップオフ弁、ポップ弁などとも呼ばれる)は、麻酔器の一部として用いられる流量調節弁英語版の一種である。過剰な新鮮ガス英語版と呼気ガスを呼吸回路から排出させるとともに、周囲の空気の回路内混入を防ぐ[1]

GEデーテックス-オメダ社製 麻酔器「アイシス」のAPL弁。回路内圧の単位はセンチメートル水柱(cmH2O)で表示されている。APL弁の奥には、麻酔回路の切り替えレバーがあり、右に倒すと用手換気から機械換気に切り替えられ、APL弁と麻酔回路が分離される。

機構 編集

このバルブは、アメリカの歯科医ジェイ・ハイドブリンク(Jay Heidbrink)が最初に記述したもので、バネで固定された薄板を使用していた[2]。このバルブは調整可能なバネ式で、バルブの上部を回すことでバネの圧力を変化させ、バルブの開口部の圧力を調節することができる[1]。非常に軽いバネが使われており、最小設定では患者の呼吸のみによる低圧で弁を開くことができる[3]。現代のAPL弁には3つの開口部(ポート)がある。1つはガスの流入用、もう1つは患者にガスを戻すための流出ポート、そして廃ガス用の排気ポートで、排気システムに接続することが可能である[1]。バルブを時計回りに回すと回路内圧が上昇する。反時計回りに回すと回路内圧が減少し、最小値は大気圧と等圧の0 cmH2Oである。全身麻酔によって、患者の呼吸は減弱、ないしは停止する。その際にこのバルブを締めて、リザーバーバッグと呼ばれるラグビーボール様の袋を手で押すとリザーバーバッグ内の新鮮ガスを、呼吸回路に接続されたマスク気管チューブを経由して、患者の気管に送り込むことができる。これを用手換気という。現代の麻酔器は人工呼吸器を内蔵しており、麻酔回路の切り替えスイッチにより、人工呼吸器による機械換気を行うことも可能である。この場合、麻酔器内の呼吸回路はポップオフバルブから分離されるため、回路内圧はもっぱら人工呼吸器の設定に左右される。なお、旧式の麻酔器には人工呼吸器が付属していなかった[4]ため、かつての麻酔科医達は麻酔中の大半の時間、用手換気を続けねばならなかった。

出典 編集

  1. ^ a b c Baha Al-Shaikh; Simon Stacey (2013). “Breathing systems”. Essentials of Anaesthetic Equipment. Elsevier Health Sciences. pp. 55–73. ISBN 978-0-7020-4954-5. https://books.google.com/books?id=9jNV55CcAXcC 
  2. ^ Steven M. Yentis; Nicholas P. Hirsch; James K. Ip (2013). “Adjustable pressure-limiting valves”. Anaesthesia and Intensive Care A-Z: An Encyclopaedia of Principles and Practice. Elsevier Health Sciences. p. 12. ISBN 978-0-7020-4420-5. https://books.google.com/books?id=M_W-55fYDyAC 
  3. ^ Davis, Paul D; Kenny, Gavin N C (2003). “The Interrelationship of Pressure and Force”. Basic Physics and Measurement in Anaesthesia. Butterworth-Heinemann. p. 3. ISBN 978-0-7506-4828-8. https://books.google.com/books?id=oi96QgAACAAJ 
  4. ^ 麻酔博物館設立10周年記念小冊子”. 公益社団法人日本麻酔科学会. 2023年2月9日閲覧。