マイノリティ・リポート
『マイノリティ・リポート』(Minority Report)は、2002年に公開されたアメリカの SF・アクション映画[3]。ドリームワークスによって製作され、20世紀フォックス映画によって配給された。フィリップ・K・ディックの1956年の短編小説『マイノリティ・リポート』(旧題:『少数報告』)を原作としてスティーヴン・スピルバーグが監督を務め、トム・クルーズが主演した。
マイノリティ・リポート | |
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Minority Report | |
監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
脚本 |
ジョン・コーエン スコット・フランク |
原作 |
フィリップ・K・ディック 『マイノリティ・リポート』(旧題:『少数報告』) |
製作 |
ボニー・カーティス ジェラルド・R・モーレン ヤン・デ・ボン ウォルター・F・パークス |
製作総指揮 |
ゲイリー・ゴールドマン ロナルド・シャセット |
出演者 |
トム・クルーズ コリン・ファレル サマンサ・モートン |
音楽 | ジョン・ウィリアムズ |
撮影 | ヤヌス・カミンスキー |
編集 | マイケル・カーン |
製作会社 |
ドリームワークス 20世紀フォックス映画 クルーズ/ワグナー・プロダクションズ |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
公開 |
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上映時間 | 145分 |
製作国 |
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言語 | 英語 |
製作費 | $102,000,000[1] |
興行収入 |
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2015年9月から、FOXチャンネルで映画に基づいた続編となるテレビドラマ作品が放送された(『マイノリティ・リポート (テレビドラマ)』)。
概要
編集サイバーパンク映画の舞台は2054年のワシントンで、専門の警察署が「プリコグ」と呼ばれる3人の超能力者から予知 を得て犯罪者を逮捕する。キャストは他に、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、マックス・フォン・シドーら。この映画は、テック・ノワール、ミステリー、スリラー、SFの要素を組み合わせたものであると同時に、主人公が犯してもいない罪で告発されて逃亡者となることから、伝統的な追跡映画でもある。
ストーリー
編集「プリコグ」と呼ばれる3人の予知能力者たちで構成された殺人予知システムが実用化された近未来。予防的治安維持機能を遂行する犯罪予防局によって、システムの導入から6年が経過した西暦2054年のワシントンD.C.の殺人発生率は0%になったと報告されていた。
犯罪予防局の部隊長を務める刑事のジョン・アンダートンは6年前、休暇中に息子のショーンを何者かに誘拐・殺害されたことがきっかけで予防局に入局し、犯罪予防活動にのめり込むようになっていた。妻のララとも別れて疎遠になり、病的な程に仕事へ邁進する一方、苦痛を紛らわすために違法薬物にも手を出す有様だった。
殺人予知システムの全国規模での導入に対する国民投票が近々行われようとしている中、司法省調査官のダニー・ウィットワーが予防局を訪れ、システムの完全性を調査するための調査が始めた。調査が一旦終わった直後、プリコグの一人である女性のアガサが、湖畔の森の中で1人の初老女性が黒づくめの人間に襲われ、湖に沈められて溺死する予知映像をジョンに見せてきた。何かが引っ掛かったジョンは未来犯罪者の収容所へ行くと監視担当者のギデオンに溺死関連の事件データを調べさせた。アガサの予知映像は、6年前の犯罪予防局発足時に発生した事件が該当した。その加害者は「ニューロイン」という麻薬中毒者にして網膜走査を逃れるために闇医者の手術で眼球を他人のものと入れ替えていた身元不明の男で、被害者は同じくニューロイン中毒だったが後にそれを克服したアン・ライブリーという初老女性だと判明する。だが、予知されていた事件の記録映像を確認しようとすると何故かアガサのものだけが無く、被害者のアンも現在は謎の失踪を遂げて行方不明のままであった。ジョンは違反を承知の上でその事件のデータをコピーし、予防局長のラマー・バージェスに報告するが詳細は分からず、予知システムの今後についての話が優先された。
翌日、ウィットワー調査官の視察が続く中で新たに殺人事件が予知されるが、そこには見ず知らずリオ・クロウという男を射殺するジョンの姿が映っていた。何者かの罠だと感じたジョンは逃亡し、殺人予知システムの考案者であるアイリス・ハイネマン博士に助けを求める。ハイネマン博士は、システムが偶然の発見から生まれたものであることを明かす。ハイネマンは元々、ニューロイン中毒患者から生まれた遺伝子疾患を持つ子供達の研究を行っていた。子供達の大半は12歳までに亡くなってしまったが、生き延びた少数の子達は予知夢の能力を獲得しており、そこからシステムが開発されたのだという。しかしシステムは完全なものではなく、時にブリコグ同士で予知が食い違うこともあり、少数の意見「マイノリティ・リポート」にあたる予知映像はシステムの完全性を疑われないために破棄され、プリコグ達の中でも特に能力の強いアガサの脳内にのみ保存されているという。
ジョンは自らの無実を証明するため、アガサの脳内にある「マイノリティ・リポート」入手を決意する。街中に網膜スキャナーによる捜査網が張り巡らされており、これを掻い潜るために闇医者のエディ・ソロモンに他人の眼球を自分に移殖してもらった。ジョンは街中の捜査網をかいくぐって予防局に到着すると、今度は摘出した自分の眼球の網膜を使って局内に潜り込み、アガサの誘拐に成功する。ジョンは連れ出したアガサを連れ、殺人予知システムの操作系統を設計したルーファス・T・ライリーの元を訪れてアガサの脳内を探るが、ジョンの「マイノリティ・リポート」は存在しなかった。信じられないジョンに、アガサは再びアン・ライブリー溺死事件の予知映像を巻き戻しながら見せるが、アンを襲った黒づくめの犯人の顔が出る前に追跡部隊が近付いてきたことで映像は途切れてしまった。
アガサとジョンは、最後の手掛かりであるリオ・クロウの部屋へと向かう。部屋には子供の写真が大量に散らばっており、息子ショーンの写真もあった。ジョンは、ショーン誘拐について詰問し、リオ・クロウも罪を認めたことで、ジョンは例の予知映像通りにリオ・クロウを射殺しようとするが、アガサの説得もあって辛うじて思い留まり、誘拐犯として逮捕するためリオ・クロウにミランダ警告を告げる。しかし、リオ・クロウは「知らない男から電話で頼まれて誘拐犯のふりをした。自分を殺してくれないと家族が金を得られない」と訴えてきた。困惑するジョンが立ち去ろうとするが、リオ・クロウは無理矢理ジョンに発砲させ、予知映像を現実にする形で絶命した。
ジョンとアガサと再度逃走した後、リオ・クロウ殺害現場を捜査したウィットワーは、現場の不自然な状況からこの事件が何者かの手で仕組まれたものであることに気付き、その真犯人がジョンを陥れていると確信し、アン・ライブリー事件の予知映像も調べ、隠されていた真実に辿り着いた。
すぐさまウィットワーはラマー局長をジョンの自宅に呼び出し、クロウの部屋から回収したジョンの拳銃を手渡すと、推理を語り始めた。双子のプリコグが予知したアン・ライブリー溺死事件の予知映像を見せ、続けてアガサによる予知映像を再生する。この2つの映像で僅かだが異なる箇所があることを指摘し、2つの映像は異なる時間帯に起きた別々の事件の予知映像と断定した。ウィットワーは、予知システムを自由に扱える犯罪予防局での高官級の関係者が真犯人であるとも説明したが、ラマー局長はジョンの拳銃でウィットワーを射殺してしまう。全ての黒幕はラマー局長であったのだ。
アガサを連れたジョンは妻のララの家に向かい真相に辿り着こうとしていたが、駆けつけた予防局の部隊によってウィットワー殺害の容疑も着せられた上でジョンは逮捕され、収容所に投獄される。アガサは再び予防局のシステム内に戻され、改めて殺人予知システムが全国で導入されることとなった。しかし、ラマー局長がアン・ライブリー溺死事件についてジョンと犯人しか知り得ない情報を口にしたのを聞いて、ラマー局長こそが一連の事件の黒幕であることに気付いたララは、ジョンが手術で摘出していた眼球を使って収容所へと潜入し、監視担当者のギデオンに銃を突き付けながらジョンを脱獄させた。
殺人予知システムの全国導入を祝うパーティ会場で、ジョンは緊急電話越しにラマー局長に突き止めた真実を語りかけ、ララの手引きにより大勢の聴衆の前でアガサが見せた溺死事件の全容を明らかにした。消息を絶ったアン・ライブリーはアガサの実の母親であり、予防局にアガサを返すよう迫っていたのだった。しかし、殺人予知システムにアガサが必要不可欠であったため、ラマー局長はアンを抹殺すべく計画を立てて実行したのだった。アンの遺体は湖に沈んで身元不明の行方不明者として処理され、予防局のデータベースに記録されたアガサによる事件の予知映像データも消去していたのだ。しかし、アガサの脳内に唯一残る予知映像を偶然にも見たジョンが捜査を始めようとしたため、真相が暴かれるのを危惧したラマー局長はリオ・クロウを買収してジョンの愛息子のショーンを殺害した誘拐犯を演じさせ、ジョンが怒りでリオ・クロウを殺害することで収容所に投獄されるよう仕向けていたのだった。
こうして大勢の人間がいるパーティ会場で過去の犯行を映像で暴露され、ラマー局長がジョンを射殺するという予知映像まで流される。ラマー局長がジョンを射殺しなければ、殺人予知システムの予知は外れたことになり、予知が当たればラマー局長が逮捕されることになる。追い詰められたラマー局長は予知されていた殺害現場へと向かい、待っていたジョンに拳銃を向けるが、ジョンから「自分の未来は自ら望む通りに変えられる。あんたにそのチャンスはまだ残っている」と諭されたことで自分自身を撃った。
その後、ラマー局長の一件で殺人予知システムは不完全と認められて廃止となった。これに伴い。収容所に投獄されていた未来犯罪者達の大部分にも特赦が与えられ釈放された。ジョンとララは復縁し、ララがジョンの新しい子供を身ごもる。プリコグの3人も殺人予知システムから解放され、誰にも知られない人里離れた土地で平穏な余生を過ごすのだった。
キャスト
編集役名 | 俳優 | 日本語吹替 | ||
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オフィシャル版 | DVD版 | |||
ジョン・アンダートン | トム・クルーズ | 堀内賢雄 | 須賀貴匡 | |
ダニー・ウィットワー | コリン・ファレル | 楠大典 | ||
アガサ | サマンサ・モートン | 根谷美智子 | 水樹奈々 | |
ラマー・バージェス局長 | マックス・フォン・シドー | 大木民夫 | ||
アイリス・ハイネマン博士 | ロイス・スミス | 久保田民絵 | ||
エディ・ソロモン医師 | ピーター・ストーメア | 仲野裕 | ||
ギデオン | ティム・ブレイク・ネルソン | 牛山茂 | ||
ジャッド | スティーヴ・ハリス | 乃村健次 | ||
ララ・クラーク | キャスリン・モリス | 日野由利加 | ||
ウォリー | ダニエル・ロンドン | 土田大 | ||
フレッチャー | ニール・マクドノー | 荒川太郎 | ||
ノット | パトリック・キルパトリック | 谷昌樹 | ||
エヴァンナ | ジェシカ・キャプショー | |||
ルーファス・T・ライリー | ジェイソン・アントゥーン | |||
リオ・クロウ | マイク・バインダー | |||
アン・ライブリー | ジェシカ・ハーパー | 久保田民絵 |
- オフィシャル版 - スティーヴン・スピルバーグおよびトム・クルーズ公認のもの。すべてのソフトに収録。オンデマンド配信にもこちらが使用されている。
- DVD版 - DVDにのみ収録。
吹替はオフィシャル版が先に製作されたものの、日本の配給会社によって独自にDVD版が製作され、DVDにはこちらのみを収録する予定だった。だが、スピルバーグとクルーズの連名によるクレーム[4]があったことでオフィシャル版がメインの吹替として収録されることとなり、DVD版は特典扱いでの収録となった。これに伴い、プロモーションのため開催予定だった須賀による公開アフレコイベントは中止となっている[5]。
スタッフ
編集- 監督:スティーヴン・スピルバーグ
- 製作:ボニー・カーティス、ジェラルド・R・モーレン、ヤン・デ・ボン、ウォルター・F・パークス
- 製作総指揮:ゲイリー・ゴールドマン、ロナルド・シャセット
- 原作:フィリップ・K・ディック
- 脚本:ジョン・コーエン、スコット・フランク
- 撮影:ヤヌス・カミンスキー
- VFX:インダストリアル・ライト&マジック
- 音楽:ジョン・ウィリアムズ
- 編集:マイケル・カーン
日本語版制作スタッフ
編集テーマ
編集『マイノリティ・リポート』の主なテーマは、自由意志と決定論という古典的な哲学的論争である。この映画で取り上げられている他のテーマには、強制的な拘禁、ハイテク社会[6]における政治・法制度の性質、メディアが支配する世界[7]におけるプライバシーの権利、自己認識[8]の性質[9]などがある。この映画はまた、崩壊した家族を描く[10]というスピルバーグの伝統を踏襲しており、彼によると、これは子供の頃の両親の離婚がきっかけだという[11]。
音楽
編集作曲と指揮は、スピルバーグと定期的に仕事を共にしてきた[12]ジョン・ウィリアムズが担当した。ウィリアムズはバーナード・ハーマンの映画音楽に触発されており、SF要素に重点を置く代わり[13]に、いくつかのシーンで女性歌手を起用したり、感情的なテーマを取り入れるなどした。また、フランツ・シューベルトの交響曲第7番『未完成交響曲』、ハイドンの弦楽四重奏曲『作品64、第1番』[14]、チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』など、いくつかの古典作品が取り入れられた。
その他
編集- 劇中で2054年モデルのレクサスが登場する。これはレクサス・チャンネルを展開するトヨタ自動車の北米のデザイン拠点、CALTYがデザインしたものである。日本での劇場公開時、そのプロモーションの一環で東京・池袋にあるトヨタ自動車の展示ショールーム、アムラックスで劇中車のレクサスと作品に使われた小道具類が期間限定で特別展示された。なお、2002年当時は日本ではレクサスは展開前で、その事業発表もなされていなかった。
- ジョン・アンダートンが地下鉄で逃亡したとき、新聞の速報を見てジョンを発見する男性乗客は、映画『バニラ・スカイ』のキャメロン・クロウ監督である。クルーズはクロウ監督作品の常連である。さらにその後ろには、目から上しか映っていないがキャメロン・ディアスがカメオ出演している。
- 本作は銀残しという手法を用いて現像処理され、コントラストが強く、彩度の低い映像となっている。監督のスピルバーグは「汚い映像にすることでリアリティを出したい」と意図してこれを用いている。場面によってはモノクロの映像のように見える特殊な表現であるため、当初トム・クルーズは反対の異を唱えていた。
- トム・クルーズはなんでもスタントを自身でやりたがる俳優としても知られているが、スピルバーグは撮影前に「君がやるべきスタントは私が決める」と言って聞かせたという逸話がある。
- エヴァンナ役で出演のジェシカ・キャプショーはスピルバーグ監督の義子である。
- 本作は「ジョン・アシュクロフト司法長官により、9.11以降アメリカ政府が国民の情報を管理しようとしていること」に対しての政治的問いかけを含んでおり、政府が未来を予測できるようになればどうなるかを描いている[17]。
関連項目
編集脚注
編集- ^ a b c “Minority Report (2002)” (英語). Box Office Mojo. 2010年4月9日閲覧。
- ^ “日本映画産業統計 過去興行収入上位作品 (興収10億円以上番組) 2003年(1月~12月)”. 社団法人日本映画製作者連盟. 2010年4月9日閲覧。
- ^ “Minority Report”. British Board of Film Classification. 2025年1月25日閲覧。
- ^ イギリスで先行して発売されたDVDの特典に技術的な不備が発覚したことから、スピルバーグは全世界で発売予定のDVDをチェックしていた。
- ^ 「マイノリティ・リポート」アフレコ中止に| ZAKZAK at the Wayback Machine (archived 2003-04-08)
- ^ O'Hehir, Andrew (2002年6月21日). “Meet Steven Spielberg, hardboiled cynic”. Salon. 2010年11月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月25日閲覧。
- ^ Powers, John (2002年6月27日). “Majority Report”. LA Weekly. 2025年1月25日閲覧。
- ^ Ian Rothkerch. “Will the future really look like 'Minority Report'?”. Salon. オリジナルの2011年5月14日時点におけるアーカイブ。
- ^ Hall, Martin (2004). “Time and the Fragmented Subject in Minority Report”. Rhizomes (8) 2025年1月25日閲覧。.
- ^ Hoberman, J. (2002年6月25日). “Private Eyes”. The Village Voice. 2025年1月25日閲覧。
- ^ Tulich, Katherine (2002年6月22日). “Spielberg's future imperfect”. The New Zealand Herald 2025年1月25日閲覧。
- ^ “Minority Report [Original Motion Picture Score]” (英語). 2025年1月25日閲覧。
- ^ Randy, Shulman (2002年6月27日). “Minority Rules”. Metro Weekly. オリジナルの2010年2月3日時点におけるアーカイブ。 2025年1月25日閲覧。
- ^ “Minority Report soundtrack review”. Filmtracks.net. 2025年1月25日閲覧。
- ^ “Minority Report (Original Motion Picture Score)” (英語). 2025年1月25日閲覧。
- ^ “Minority Report” (英語). 2025年1月25日閲覧。
- ^ 「映像の魔術師 スピルバーグ自作を語る」