マッチメイクMatch Make)とは、格闘技において対戦カードを決定すること。特にプロレスの場合は、その意味に加えて、試合進行のシナリオ、筋書き(ブック)を作ることも含まれる場合が多い。

概要 編集

プロレスの興行においては、マッチメイカーと呼ばれる人間が対戦カードを決める。また、この場合の試合の大まかな流れや結末も決定する(一般的に「台本」があるとよくいわれるが、ミスター高橋の著作本によれば、実際には台本で詳細を定めているわけではなく、おおまかな内容を口頭で打ち合わせる)。たとえば10分経過のアナウンスが流れたら、AがBをキックでKOする、などである。

またマッチメイクは試合のみならず、リング外での筋書き(アングル)の作成を指すことがある。記者会見場での乱闘のタイミング、場外での襲撃、挑発合戦の方向性(~の形式で決着を着ける)などが代表例である。

マッチメイカーのシナリオが、その団体の話題性や集客力に直結するため、複数のマッチメイカーによる合議制を敷いたり、外部の脚本家に依頼する団体もある。

故に時勢を見誤ったマッチメイクは興行そのものを窮地に追いやるほどの危険が伴う。

ブック 編集

ブックはプロレスの試合における段取りや勝敗の付け方についての台本のこと(なお照明、音響、撮影係等のスタッフ用の興行進行台本はこれとは別の物)。この台本を考案、作成する人間を「ブッカー」または「マッチメイカー」と呼ぶ(ただしbookerのbookは「出演契約を取る」という意味のbookであり「脚本家」という意味ではない)。ブッカーはリング外での筋書き(アングル)および試合展開や決着方法についての台本を考えて、レスラーはそれに合わせた試合を行う。勝敗以外の詳細な試合展開については、試合を行うもの同士の裁量に任されることが多いと言われ、口頭での打ち合わせによるものとされる。実際に本があるわけではなく、それでも力学に変動のある様式を岡村正史は「ジャズアドリブ演奏」に例えている[1]

基本的に試合展開や決着方法に関するブックは当事者以外には知らされないとされているが、進行や演出の都合上、音響や撮影スタッフに伝達されることがある(後述)。

WWEの内幕を描いたドキュメンタリー映画ビヨンド・ザ・マット』では、ザ・ロックミック・フォーリーが場外乱闘時の観客席の移動ルートやパイプ椅子での殴打回数などを打合せするシーンが見られるが、WWEは経営上の理由から台本の存在を公言した(スポーツではなくショー・ビジネスとして登録する方が税金保険料が低減されて税制上有利であり、また株式上場にあたり台本の存在を非公表のまま上場するとコンプライアンス上の問題があるため)。

リック・フレアーは自身のDVDの中で当時のNWA王者決定方法について述べている。

日本の場合はプロレス団体自らが台本の存在を公言したことは無い。芸能人タレントも試合を行うハッスルのように「エンターテインメント」をキャッチコピーとして用いる団体は存在する。

日本のプロレスで台本の存在が公になったのは法廷である。2003年4月27日ディファ有明での大仁田厚と渡辺幸正(セッド・ジニアス)がからんだ試合で、事前の取り決めにもめていたためか試合終了後渡辺が場外乱闘を仕掛け、それを大仁田側セコンドについていた大仁田の議員秘書中牧昭二がブックではない本気の蹴りで阻止し、渡辺が負傷した。このことについての裁判では、東京地方裁判所が「通常のプロレス興行で、事前の打ち合わせ無しに相手に攻撃を仕掛けることは許容されておらず、観客に見せるプロレス興行としては異質の暴行」との裁判例を示した[2]

また、女子プロレス(アルシオン)でもアジャ・コングロッシー小川(小川宏)社長間の名誉毀損肖像権をめぐる裁判で、リング上での試合放棄は社長が演出し指示した、試合が始まったらほかの選手がリングに上がって辞任要求を出すので『辞めてやる』といえ、と言われたのでそのとおりにしたと、アジャ選手の退団にはアングルの流れが作られていたことを示唆する内容答弁などから、台本の存在を認定した上で判決が行われた。

裁判以外でも個人が日本の団体における台本の存在を明かすことはある。

マット・モーガンが海外でのインタビューで「新日本プロレス永田裕志と試合を行った時、フィニッシュ・ホールド(決着を付ける技)だけは前もって説明が必要であったが、それ以外は話すことなく試合をさせてくれるので自由で良い団体だ」と語った。近年多く出版されるプロレス内情暴露本では新日本のOBレスラーが昔は台本はあってもそれ以外の部分は必死に闘っていたのに、今のレスラーは必死さが足りないと嘆く形で存在が明示された。

台本の存在や取り決め方は新日本プロレスのレフェリーであった、ミスター高橋が自著で詳しく述べている。新日本プロレスのレフェリーであった同氏は著書の『流血の魔術 最強の演技』で新日本における台本の存在や演出などを詳しく述べ、新日本で行われた異種格闘技戦も台本が存在したとミスター高橋は著書で述べている。代表的なものとして柔道メダリストのウィレム・ルスカアントニオ猪木が試合をした場合もルスカはプロレス技を数多く受ける台本を打ち合わせの時点で了承していたと述べた。

全日本プロレスの場合には元週刊プロレス編集長であったターザン山本が、近年自著の中で台本の存在を明らかにした。全日本からのSWSによる選手の引き抜きに伴い、ジャイアント馬場が山本に裏金を渡した上で誌上でのSWSバッシングを行う様依頼したことが契機となり、山本と癒着に近い関係が生まれ、馬場はその後週刊プロレス誌上で全日本プロレスを優遇する見返りに、ビッグマッチにおける台本を山本および一部記者に決定させる権限を与えていたと山本は述べている。中でも、三沢光晴が大きく飛躍する契機となったジャンボ鶴田対三沢光晴戦の決着を、ピンフォールではなくフェイスロックでのギブアップとする結末を山本らが決定したことを主張している。一方で、当時全日本プロレスのマッチメイクを担当していた渕正信はこのようなことを認めておらず、実際には「懇意であった彼らのアイディアを採用したことがある」程度であった可能性がある。(先述した鶴田・三沢戦においても、三沢は当時フェイスロックを試合で使用しておらず、鶴田からギブアップ勝ちをしたのはその1年以上後に行われた世界タッグ選手権であることから、山本の当時の記憶に齟齬があることも窺える)。また台本の存在が公表されているアメリカで出版された外人レスラーの伝記に「この時の日本遠征では世界王座が移動する予定はなかった」などの記述が登場することがある。ハーリー・レイスリック・フレアーの自伝など。

金子達仁による高田延彦を扱った書籍「泣き虫」において高田が台本の存在を明示している記述がある。

またプロレスの台本の存在をトリックに組み込んだミステリー小説『マッチメイク』が江戸川乱歩賞を受賞。

長野県を中心に活動している信州プロレスリングや芸人たちによるギャグプロレス団体の西口プロレスではキャッチコピーに「台本重視、安全第一」などと掲げている。

ラジオ番組オールナイトニッポンでゲスト出演した構成作家が某女子プロレス団体でも仕事を行っていると発言。

当時全日本プロレスを中継していた日本テレビ系列よみうりテレビが製作したアニメ「シティーハンター2」の第12話「場外乱闘流血必至!!恋のコブラツイスト☆」(1988年6月24日放送)では「プロレスはショー」という台詞が取り入れられている。

ただし、個人が台本の存在を明示することはあっても全ての団体、全ての試合に台本があるという証明がされているわけではないので、その点においては理解が必要である。

またかつての全日本女子プロレスの所謂抑え込みマッチの様にプロレスとしてのフォルムや暗黙の掟を守りつつ結末を決めないで試合をする事が日常茶飯事だった例もある[3]

台本通りの試合展開にならなくなることをそれを引きちぎる様から「ブック破り」と呼ばれる。ブック破りは一方の選手が意図的に行うことが多いが何らかのアクシデントのためやむを得ずブック破りになってしまう試合もある。

脚注 編集

  1. ^ 岡村正史「プロレスという文化」(2018年)ミネルヴァ書房 214頁
  2. ^ [1] [2] [3]
  3. ^ 吉田豪「吉田豪の“最狂”全女伝説」(2017年)白夜書房 313頁

関連項目 編集