マンセル表色系 (まんせるひょうしょくけい、: Munsell color system) とは、を正確に表示することを目的とした表色系(顕色系)[1]

概要 編集

アメリカの画家・美術教育者であるアルバート・マンセル(1858-1918)によって作り出された表色系で[1]1898年に研究を始め、1905年にその成果として『A Color Notation』(色彩の表記)という本を著して発表した[2]。ただしこれは個人が作成した色体系であったため使う上では整理が必要となり、1943年アメリカ光学会が視感評価実験によって修正を加えた[1][2]。修正したものは「修正マンセル表色系」とも呼ばれるが、現在一般的に「マンセル表色系」と言った場合は修正したものを意味する[1]。なお、マンセルの後に著した新しい書籍『Munsell Book of Colors』は現在でも使用されている。

色を色の三属性色相明度彩度)という理解しやすい属性で表現している点が特徴[3]。色を系統的に整理し、三属性を尺度化して、数値や記号を用いることで正確に表示することを目的としている[1]。国際的に通用する表色系の1つであり、日本ではJIS Z 8721(三属性による色の表示方法)の規格として採用されている[1]。カタログなどの参考色の表記としても用いられるなど最も一般性の高い表色系であるといえるが、反面色見本を前提としたシステムであり、色表記から実際の色をイメージする際の正確さに欠けるという意見もある[2]。同じ表記であっても再現される色には幅があるため参考値と考えるのが現実的であり、日本における工業分野の色指定にはDIC日本塗料工業会が作成した色見本が用いられることも多い[4][5][6]

色相 (Hue) 編集

 
マンセル表色系の色相環

マンセルは色を基本となる5つの色相 (R・Y・G・B・P) に分け、それぞれの中間を5つの色相 (YR・GY・BG・PB・RP) を加えて補完することで、大まかな10色相を設定した[1][3][2]

略号 R YR Y GY G BG B PB P RP
名称 黄赤 黄緑 青緑 紫青 赤紫

各色相をさらに10分割し、計100色相の細かな色相を設定した[1][3][2]。分割された色相は左から順に数字が割り振られ、色相「R」の2番目であれば『2R』のよう表記される[1][3]。以下は5RPから5YRまでの範囲の奇数番号のみを抽出したもの。

略号 5RP 7RP 9RP 1R 3R 5R 7R 9R 1YR 3YR 5YR

付された数字は数字が小さいほど左隣の色相に、大きいほど右隣の色相に近い色であることを意味し、中心の5番目(黄色であれば5Y)にはその色相の典型的な色が置かれている[1][3]

明度と彩度 編集

明度 (Value) 編集

 
マンセル表色系の色立体
 
5PBと5Yの等色相面

無彩色を基準に尺度が設定され、有彩色はそれに応じた値をとる。理想的な黒を0、理想的な白を10とする11段階で設定しているが、理想的な白や黒は物理的に表現できないため、現実的な数字として黒は1程度、白は9.5程度が用いられる[1][3][2]。各色相における代表色の最高明度は色相ごとに異なり、最高値は黄( 5Y)の「8」、最低値は赤( 5R)や紫青( 5PB)の「4」である[3]

なお、アメリカ光学会が1943年に発表したレポートでは、マンセル表色系の明度(Value、V)とxyY表色系の「Y」との間には、反射率の観点から以下の関係性があることを示唆している[7]

 

彩度 (Chroma) 編集

無彩色を0とする[1][3]。有彩色は鮮やかになるほど数値は高くなるが、色相や明度によって最大値は異なる[1][3]。最大値はおおよそ8~14の範囲で、最高値の「14」は黄( 5Y)、最低値の「8」は青緑( 5BG)である。

以下は黄緑( 5YG)と青( 5B)を例にした場合の等色相面のイメージ。

明度
9
7
5
3
1
2 4 6 8 10 12 14 彩度
明度
9
7
5
3
1
2 4 6 8 10 12 14 彩度

色相ごとに最高彩度やその明度が異なるため、マンセル表色系の色立体はでこぼことした歪な形状となっている[8]。その形状は自然界に自生する樹木のように見え、また技術の進歩によって成長(変化)する可能性を秘めたことから「カラー・ツリー」とも呼ばれる[8]

色の表記方法 編集

基本的な表記方法は「色相 明度/彩度」であるが、無彩色は色相・彩度の表記が不要なためNeutralの頭文字をとって「N 明度」と記す[1][3]。具体的な表記例は以下のとおり。

表記
5R 4/14
3GY 8.5/11
N 5.5
N 9.5
N 1.5

日本語では『5R 4/14』は「ごアール よんのじゅうよん」、『N 5.5』は「えぬごてんご」と読む[1]

この表示は「マンセル値」「マンセル記号」などとも呼ばれ、また有彩色の表記は頭文字をとって「HV/C」とも呼ばれる[1]アクリルガッシュなど一部の絵具などに色はマンセル近似としてこれが表記されている。

脚注 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 色彩活用研究所サミュエル監修『色の事典 色彩の基礎・配色・使い方』(2012年、西東社
  2. ^ a b c d e f 東洋インキSCホールディングス (2015年1月29日). “仕事で使える色彩学 #03 マンセルカラーシステム”. TOYO INK. 2021年7月7日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j 槙究著『カラーデザインのための色彩学』(2006年、オーム社
  4. ^ 井上紙袋. “【DICカラーガイド】”. 井上紙袋. 2022年5月11日閲覧。
  5. ^ 日本ペイント. “マンセル表色系”. 日本ペイント. 2022年5月11日閲覧。
  6. ^ タカラ塗料. “日塗工番号について”. 調色屋. 2022年5月11日閲覧。
  7. ^ Newhall, Sidney M.; Nickerson, Dorothy(英語版); Judd, Deane B (May 1943). “Final report of the O.S.A. subcommittee on the spacing of the Munsell colors”. Journal of the Optical Society of America 33 (7): 385–418. doi:10.1364/JOSA.33.000385. 
  8. ^ a b マンセル表色系とは”. DIC color & comfort. 2021年7月14日閲覧。

外部リンク 編集