マーモセット亜科

マーモセット亜科 (マーモセットあか、Callitrichinae) は、哺乳綱霊長目オマキザル科に分類される亜科。分類によっては独立したマーモセット科(Callitrichidae)とすることもある[1][5]

マーモセット亜科
コモンマーモセット
コモンマーモセット Callithrix jacchus
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目 Primates
: オマキザル科 Cebidae
亜科 : マーモセット亜科 Callitrichinae
学名
Callitrichinae Thomas, 1903[1]
シノニム[2]

Callithricidae Thomas, 1903
Callitrichidae Napier and Napier, 1967
Hapalidae Wagner, 1840

和名
マーモセット亜科[3][4]

マーモセットやタマリンなどの小型の広鼻類(新世界ザル)を含む[1]。古くは構成種に対してキヌザルキヌゲザルという和名が用いられた[1]

分布編集

コロンビア北部、およびパナマからブラジル南部にかけて[6]

形態編集

小型の霊長類であり、雌雄で体の大きさの差(性的二形)は少ない[1]。後肢の親趾を除いて、全ての指趾に鉤爪を備える[1]。尾は把握能力を持たない[7]

歯列はゲルディモンキーを除いて、門歯が上下4本ずつ、犬歯が上下2本ずつ、小臼歯が上下6本ずつ、大臼歯が上下4本ずつの計32本であり[8]、第3大臼歯は消失している(現生種ではゲルディモンキーのみ第3大臼歯を持つ)[9]。上顎の大臼歯は3咬頭性で[7]、第1大臼歯のハイポコーン(遠心舌側咬頭)は小さく、退化傾向にある(ゲルディモンキーでは比較的発達し、化石種のMicodon属ではハイポコーンが現生種より大型)[9]。ゲルディモンキー・タマリン・ライオンタマリンでは下顎の門歯が短く、犬歯が長く突出する[1][9][10]。マーモセットでは下顎の門歯が大型で、犬歯と同様に細長く[1][10]、樹液食に適応していると考えられている[9]

分類編集

 
左上から順に、コモンマーモセット・ドウグロライオンタマリン・エンペラータマリン・ピグミーマーモセット・シルバーマーモセット・ゲルディモンキー。

タマリン属Saguinus

ライオンタマリン属Leontopithecus

ゲルディモンキーCallimico goeldii

コモンマーモセット属Callithrix

ピグミーマーモセットCebuella pygmaea

シルバーマーモセット属Mico

分子系統解析による本亜科の系統図[6]

以前はサキ類やクモザル類を含むオマキザル科と対をなすグループと考えられていたが[1]、1979年にリスザル属を含むオマキザル亜科と本亜科でオマキザル科を構成する説が提唱された[7]

マーモセット(英:marmoset)は、旧マーモセット属Callithrix(現在のコモンマーモセット属Callithrix・シルバーマーモセット属Mico[注 1]の構成種を含む)とピグミーマーモセット属Cebuellaの総称[1]。以前はこれらのマーモセット類を旧マーモセット属にまとめる説もあった[1]。1968年にピグミーマーモセットを除く旧マーモセット属を、アマゾン地域のC. argentata group(シルバーマーモセットグループ)とブラジル東海岸のC. jacchus group(コモンマーモセットグループ)の2種群に分ける説が提唱され[11]、1984年にC. argentata groupをMico亜属、C. jacchus groupをCallithrix亜属に分類する説が提唱された[5]。1998年にクロカンムリマーモセットがCallithrix humilisとして記載され、2003年にクロカンムリマーモセットのみで構成される新属Callibellaが提唱された[12]。2005年にはピグミーマーモセット・クロカンムリマーモセットを含む旧マーモセット属を4亜属とする分類が提唱されたが[2]、これらの亜属をそれぞれ独立した属として区別する説や[5]、クロカンムリマーモセットをシルバーマーモセット属に含める説もある[13]

タマリン(英:tamarin)はタマリン属Saguinusのみを示すこともあるが[14][15]、タマリン属とライオンタマリン属Leontopithecusの総称とすることもある[1]。2016年にタマリン属からクロクビタマリンとセマダラタマリン類をLeontocebus属に分割し、セマダラタマリンを複数種に分割する説が提唱された[16]。一方で2018年にはLeontocebus属をタマリン属に戻し、タマリン属をLeontocebusSaguinusTamarinusの3亜属(ダスキータマリンは所属不明とみなす)とする説が提唱された[6]

かつては頭骨や歯の形態の比較から多くの祖先形質を持つゲルディモンキーが初期に分岐したと考えられており[9]、本亜科から独立させてゲルディモンキー亜科Callimiconinaeあるいはゲルディモンキー科Callimiconidaeとする説もあった[1]。一方で分子系統解析では、タマリン属・ライオンタマリン属・ゲルディーモンキー・コモンマーモセット属・シルバーマーモセット属の順にピグミーマーモセットとの共通祖先から分岐したと推定されている[6]

以下の現生種の分類は、Garbino & Martins-Junior (2018) に従う[6]。和名・英名は、分類に変更がない限り日本モンキーセンター霊長類和名リスト(2018年11月版)に従う[3]

マーモセット類と近縁とする説のある化石属として、MicodonLagonimicoが挙げられる[7]

生態編集

 
モルフォチョウを食べるゲルディモンキー。

熱帯雨林に生息するが、カーチンガやセラードなどの乾燥した植生に適応した種もいる[11]。樹上性[8]。同亜科の他種と混群を形成することがある[18]

昆虫などの小動物・果実などを食べ、マーモセットでは樹液食も行う[9][11]

1回に1 - 3頭の幼獣を産む(通常2頭、ゲルディモンキーは1頭)[1]

人間との関係編集

大航海時代エキゾチックアニマルとしてヨーロッパに持ち込まれ、王侯貴族のペットとして飼われた種もいる[19]

マーモセットという呼称は、フランス語のmarmouset(古くは「子供・小人」の意があった)に由来すると考えられている[1]。旧和名のキヌザル・キヌゲザルは、マーモセットを指すドイツ語名Seidenaffe・Seidenäffchen(-äffchenは「小さいサル」の意)の直訳で、ドイツ語名は属名Callithrix(「綺麗な毛」の意)や旧属名Hapale(「柔らかい・優しいもの」の意)の意訳と考えられている[1]

タマリンは、カイエンヌにおけるアカテタマリンを指す呼称としてフランスの神父・探検家であるAntoine Bietによって言及され、Buffonによって現地語とみなされた[1][19]。一方で現在のカリブ系言語ではアカテタマリンの現地語はKusiriとされ、植物のタマリンドを指す呼称としてTamaren・Tamarinが存在し、タマリンを現地語とする説には疑問が提示されている[19]

注釈編集

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c 旧マーモセット属から分割された狭義のCallithrixMicoの2属の和名はそれぞれコモンマーモセット属・マーモセット属とするもの[3]、マーモセット属・シルバーマーモセット属とするもの[4]がある。便宜上、本項目では「マーモセット属」の和名は使用せず、コモンマーモセット属・シルバーマーモセット属とした。

出典編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 岩本光雄「サルの分類名(その6:マーモセット科)」『霊長類研究』第4巻 2号、日本霊長類学会、1988年、134-144頁。
  2. ^ a b Colin P. Groves, “Order Primates,” In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 111-184.
  3. ^ a b c d 日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ「日本モンキーセンター 霊長類和名リスト 2018年11月版」(2018年12月16日公開)2022年1月15日閲覧。
  4. ^ a b c 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・鈴木聡・押田龍夫・横畑泰志「世界哺乳類標準和名リスト2021年度版」日本哺乳類学会、2021年12月24日公開、2022年1月15日閲覧。
  5. ^ a b c Anthony B. Rylands, Adelmar F. Coimbra-Filho and Russell A. Mittermeier, “The Systematics and Distributions of the Marmosets (Callithrix, Callibella, Cebuella, and Mico) and Callimico (Callimico) (Callitrichidae, Primates),” In Susan M. Ford, Leila M. Porter and Lesa C. Davis (eds.), The Smallest Anthropoids. Developments in Primatology, Springer, 2009, Pages 25-61.
  6. ^ a b c d e Guilherme S.T. Garbino, Antonio M.G. Martins-Junior, “Phenotypic evolution in marmoset and tamarin monkeys (Cebidae, Callitrichinae) and a revised genus-level classification,” Molecular Phylogenetics and Evolution, Volume 118, 2018, Pages 156-171.
  7. ^ a b c d 高井正成「広鼻猿類の進化と系統分類の現状」『Anthropological Science』第103巻 5号、日本人類学会、1995年、429-446頁。
  8. ^ a b 岩本光雄「サルの分類名(その5:オマキザル科)」『霊長類研究』第4巻 1号、日本霊長類学会、1988年、83-93頁。
  9. ^ a b c d e f 名取真人「マーモセット科の系統関係」『霊長類研究』第3巻 1号、日本霊長類学会、1987年、1-9頁。
  10. ^ a b 名取真人「オマキザル科(Cebidae)の歯の形態とその分岐関係」『哺乳類科学』第30巻 1号、日本哺乳類学会、1990年、41-51頁。
  11. ^ a b c 名取真人・小林秀司「マーモセットの種の分類と現状」『霊長類研究』第15巻 1号、日本霊長類学会、1999年、61-72頁。
  12. ^ Marc G.M. van Roosmalen and Tomas van Roosmalen, “The Description of a New Marmoset Genus, Callibella (Callitrichinae, Primates), Including Its Molecular Phylogenetic Status,” Neotropical Primates, Volume 11, Number 1, 2003, Pages 1-10.
  13. ^ Guilherme S. T. Garbino, José E. Serrano-Villavicencio & Eliécer E. Gutiérrez, “What is in a genus name? Conceptual and empirical issues preclude the proposed recognition of Callibella (Callitrichinae) as a genus,” Primates, Volume 60, Issue 2, 2019, Pages 155–162.
  14. ^ 名取真人「Saguinus mystaxSaguinus nigricollis の亜種の和名」『霊長類研究』第19巻 2号、日本霊長類学会、2003年、171-174頁。
  15. ^ a b 名取真人「頭蓋計測値に基づくクラライ(ペルー)のキンイロマントタマリンとアカマントセマダラタマリンの相違」『霊長類研究』第23巻 2号、日本霊長類学会、2007年、71-80頁。
  16. ^ a b c d e f g h i Anthony B. Rylands, Eckhard W. Heymann, Jessica Lynch Alfaro, Janet C. Buckner, Christian Roos, Christian Matauschek, Jean P. Boubli, Ricardo Sampaio and Russell A. Mittermeier,“ Taxonomic review of the New World tamarins (Primates: Callitrichidae),” Zoological Journal of the Linnean Society, Volume 177, Issue 4, 2016, Pages 1003-1028.
  17. ^ Jean P. Boubli, Maria N. F. da Silva, Anthony B. Rylands, Stephen D. Nash, Fabrício Bertuol, Mário Nunes, Russell A. Mittermeier, Hazel Byrne, Felipe E. Silva, Fábio Röhe, Iracild Sampaio, Horacio Schneider, Izeni P. Farias, Tomas Hrbek, “How many pygmy marmoset (Cebuella Gray, 1870) species are there? A taxonomic re-appraisal based on new molecular evidence,” Molecular Phylogenetics and Evolution, Volume 120, 2018, Pages 170-182.
  18. ^ 伊沢紘生新世界ザルの種間関係」『哺乳類科学』第19巻 2号、日本哺乳類学会、1979年、53-64頁。
  19. ^ a b c 名取真人「Linnaeus(1758)以前のアカテタマリンとワタボウシタマリン」『霊長類研究』第30巻 2号、日本霊長類学会、2014年、217-226頁。

外部リンク編集