メチルエルゴメトリン (Methylergometrine)、またはメチルエルゴノビン(methylergonovine)は、エルゴリンリゼルグ酸アミド類に属す物質である。エルゴノビン(エルゴメトリン)の合成された類縁体である。子宮収縮作用から産婦人科領域で産後の出血を防ぐ目的で用いられている。メチルエルゴメトリン・マレイン酸の医薬品の製品名はメテルギン (Methergine)である(ノバルティス製造販売)。「パルタンM」(持田製薬製造販売)。

メチルエルゴメトリン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 メテルギン、パルタンM、Methergine
Drugs.com 国別販売名(英語)
International Drug Names
MedlinePlus a601077
胎児危険度分類
  • Contraindicated
法的規制
  • JP: 劇薬、処方箋医薬品
  • (Prescription only)
投与経路 経口、経静脈、皮下、筋肉内
薬物動態データ
代謝肝臓
半減期30–120 min
排泄Mostly bile
識別
CAS番号
113-42-8 チェック
ATCコード G02AB01 (WHO)
PubChem CID: 8226
IUPHAR/BPS 150
ChemSpider 7933 ×
UNII W53L6FE61V ×
ChEMBL CHEMBL1201356 ×
別名 メチルエルゴノビン (methylergonovine)
メチルエルゴバシン (Methylergobasine)
Methylergobrevin
D-リゼルグ酸-1-ブタノールアミド
化学的データ
化学式C20H25N3O2
分子量339.432 g/mol
物理的データ
融点172 °C (342 °F)
水への溶解量insoluble mg/mL (20 °C)
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2mgの摂取で幻覚剤のLSDにやや似た作用があるが、LSDとは異なり不快な身体作用も起こすため完全な代替物ではない[1]。子宮収縮作用を期待した場合のメチルエルゴメトリンの用量は200 µgで、幻覚剤として作用する量の10分の1である。

適応症 編集

子宮収縮の促進並びに子宮出血の予防及び治療の目的で次の場合に使用する。

胎盤娩出前後、弛緩出血子宮復古不全帝王切開術、流産人工妊娠中絶

用途 編集

産科 編集

メチルエルゴメトリンは平滑筋収縮薬であり、主に 子宮で作用する。 これは分娩時の過剰な出血を治療する、または予防するために用いられる。流産や人工妊娠中絶でも用いられる。胎盤娩出を促進するために用いられることもある。錠剤、水溶液、注射薬として用いられる[2][3][4]

片頭痛 編集

メチルエルゴメトリンは片頭痛の予防[5]または急性期の治療に[6]用いられることがある。メチルエルゴメトリンは、メチセルジド (methysergide) の活性代謝物である。

禁忌 編集

メチルエルゴメトリンは 高血圧症 、妊娠子癇には禁忌である[2]HIV 陽性患者で プロテアーゼ阻害剤であるデラヴィルジン (delavirdine) とエファビレンツ (efavirenz) とも併用禁忌である。(これらは5HT2A-mGlu2受容体サブユニットのアゴニストであり、メチルエルゴメトリン投与時の幻覚を増強させる。)[7]

副作用 編集

副作用:

過量投与では、メチルエルゴメトリンは筋攣縮、呼吸抑制 と昏睡を引き起こす。

相互作用 編集

メチルエルゴメトリンは、肝臓CYP3A4を阻害する薬物と相互作用を示す。アゾール系抗真菌薬(azole antifungals)、マクロライド系抗生物質(macrolide)や多くのHIV治療薬などが該当する。 メチルエルゴメトリンは交感神経作動薬や麦角アルカロイドと同様に血管を収縮作用を増強させる。[2]

作用機序 編集

メチルエルゴメトリンは セロトニンドーパミン および α-アドレナリン 受容体の部分的アゴニスト/アンタゴニストである。 その特異的なな結合・活性化のパターンにより、子宮平滑筋を 5-HT2A セロトニン受容体[8]を通じて収縮させる。全身の血管への影響は、その他の麦角アルカロイドに比べて少ない。

メチルエルゴメトリンは、エルゴノビン(エルゴメトリン)の合成された類縁体である。このエルゴノビンは、幻覚剤である麦角アルカロイドであり、麦角菌や、多くの種類の朝顔が含有する。またこのエルゴリン (ergoline) 系化合物には、エルゴメトリン、リゼルグ酸リゼルグ酸アミド(エルジン:ergine)、LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)などがある。

ジョナサン・オット英語版によると、1970年代には2mg(通常量の10倍)のエルゴノビンの摂取によって幻覚作用が生じることが報告され、1980年にはオットはメテルギン(本物質の製品名)2mg(医薬品としての使用量の8倍以上)を用いた自己実験を行いややLSDに似た効果を報告しエルゴノビンより強いとしたが、両薬物共にLSDとは異なり身体にはだるさなど不快な作用が生じるため、LSDと同等の代替物にはなりえないとしている[1]

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ a b Ott J; Neely P (1980). “Entheogenic (hallucinogenic) effects of methylergonovine”. J Psychedelic Drugs 12 (2): 165–6. doi:10.1080/02791072.1980.10471568. PMID 7420432. 
  2. ^ a b c Jasek, W, ed (2007) (German). Austria-Codex (62nd ed.). Vienna: Österreichischer Apothekerverlag. pp. 5193–5. ISBN 978-3-85200-181-4 
  3. ^ Mutschler, Ernst; Schäfer-Korting, Monika (2001) (German). Arzneimittelwirkungen (8 ed.). Stuttgart: Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft. p. 447. ISBN 3-8047-1763-2 
  4. ^ Fachinformation des Arzneimittel-Kompendium der Schweiz: Methergin (ドイツ語)
  5. ^ Koehler, PJ; Tfelt-Hansen PC (Nov 2008). “History of methysergide in migraine.”. Cephalalgia 28 (11): 1126–35. doi:10.1111/j.1468-2982.2008.01648.x. PMID 18644039. 
  6. ^ Niño-Maldonado, Alfredo; Gary Caballero-García; Wilfrido Mercado-Bochero; Fernando Rico-Villademoros; Elena P Calandre (8 Nov 2009). “Efficacy and tolerability of intravenous methylergonovine in migraine female patients attending the emergency department: a pilot open-label study”. Head Face Med 5 (21). doi:10.1186/1746-160X-5-21. PMC 2780385. PMID 19895705. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2780385/. 
  7. ^ http://www.drugs.com/monograph/methylergonovine-maleate.html
  8. ^ Heinz Pertz, Eckart Eich (1999). “Ergot alkaloids and their derivatives as ligands for serotoninergic, dopaminergic and adrenergic receptors”. In Vladimír Křen,Ladislav Cvak. Ergot: the genus Claviceps. CRC Press. pp. 411–440. ISBN 978-905702375-0