メルセデスAMG・F1 W11 EQ Performance

メルセデスAMG・F1 W11 EQ Performance (Mercedes-AMG F1 W11 EQ Performance) は、メルセデス2020年のF1世界選手権参戦用に開発したフォーミュラ1カーである。 この年からシャシーおよびパワーユニットの名称に、将来のすべてのメルセデスAMGハイブリッドモデルの技術ラベルとなる「EQ Performance」が付けられることになった。

メルセデスAMG・F1 W11 EQ Performance
第9戦トスカーナGP(2020年9月)
第9戦トスカーナGP(2020年9月)
カテゴリー F1
コンストラクター メルセデス
デザイナー ジョン・オーウェン(チーフデザイナー)
ジェイムズ・アリソン(テクニカルディレクター)
ジェフ・ウィリス(エンジニアリングディレクター)
マイク・エリオット(テクノロジーディレクター)
先代 F1 W10 EQ Power+
後継 F1 W12 E Performance
主要諸元
エンジン メルセデスAMG F1 M11 EQ Performance 1.6L V6ターボ
タイヤ ピレリ
主要成績
チーム メルセデスAMGペトロナス・フォーミュラワン・チーム
ドライバー イギリスの旗 ルイス・ハミルトン
フィンランドの旗 バルテリ・ボッタス
イギリスの旗 ジョージ・ラッセル
出走時期 2020年
コンストラクターズタイトル 1 (2020年)
ドライバーズタイトル 1 (2020年)
初戦 2020年オーストリアGP
初勝利 2020年オーストリアGP
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本項では特に断りのない限り、省略形の「W11」を用いる。

概要 編集

 
2020年シーズン開幕前のプレシーズンテストでのW11(ドライバーはルイス・ハミルトン

実車発表に先駆けて2020年2月10日にW11のカラーリングがYouTubeで公開され、従来のシルバーベースに加え、同日にスポンサー契約を交わしたイギリスの複合化学メーカーのイネオスのロゴがインダクションポッドとフロントウィングのエンドプレート内側に掲示され、その部分が赤く塗られた[1]

その4日後の2月14日に実車が公開され[2]、同日シルバーストン・サーキットでシェイクダウンを行った。テクニカルディレクターのジェイムズ・アリソンは冬の開発に加え、前部はアップライトとホイールリム周辺の構造を複雑化させ、中央部は上側の側面衝撃吸収構造の位置を下げ、後部は冒険的なサスペンションレイアウトを採用したと述べ[3]レギュレーションの変更がない本年であえて大胆なアプローチを行いつつ、前年のW10の弱点であった冷却面の改善を行ったとした[4]。このアリソンの言葉通り、リアサスペンションのロワアームに大幅な改良が施されており、ディフューザーから遠ざけるために後ろ側のアームごと上側に持ち上げた、前例のないレイアウトとなっている[5]

発表からまもなく行われたカタロニア・サーキットでのプレシーズンテストで、ステアリングに新たな軸を追加する斬新なシステム「DAS(Dual Axis Steering、二重軸ステアリング[6])」を搭載した[7]。このシステムが合法であるか疑問視する声もあったが、アリソンはFIAに問い合わせ済みで、合法であることは明らかだと述べている。なお、2020年の使用はFIAに許可されたものの、1シーズン限りで禁止となった[8]

2020年5月にアメリカで起きた黒人男性を白人警官が死に至らしめた事件に端を発する世界的に広がった抗議運動を受け、ハミルトンがこの運動を支持したこと[9]をきっかけにチームも追従し、マシンとドライバーのレーシングスーツを黒を基調としたカラーリングへ変更して参戦することを表明した[10]。黒は光の吸収率が高い事で知られるため、熱問題の発生などパフォーマンスに影響するのではという疑念も抱かれたが、チームはマシンの断熱材の効果もあり影響がないことを確認しているとコメントした。しかし、レーシングスーツについては少なくともボッタスが(服の厚みの違いや体感に基づいたものという断りを入れつつも)暑さに困っているとコメントしている[11]

2020年シーズン 編集

ドライバーはルイス・ハミルトンバルテリ・ボッタスのコンビを継続。

プレシーズンテストでは、前述のDASで話題をさらいつつ依然として高い戦闘力を維持し、タイトル争いの中心にいることを改めてアピールした[12]。だが、ここ数年高い信頼性を誇っていたPU絡みのトラブルが自チームも含めてたびたび発生し、不安を残した[13]

2019新型コロナウイルスの世界的流行の影響によりF1は休止状態となったが、開幕戦となったオーストリアGPでは相変わらずの高い戦闘力を発揮。ボッタスがポールポジションを獲得し、幸先良くスタートできるかと思われた。しかし、信頼性の不安は解消しきれておらず、決勝では2台ともギアボックスにトラブルが発生。結果的にボッタスのポールトゥーウィンでレースを終えたが、最悪の場合ダブルリタイアになる可能性があったこと[14]も認めており、PUのカスタマーチームに目を向ければ、4台中2台がリタイア[15][16]しており、手放しに喜べる結果にはならなかった。ところが、第2戦までに問題の再発を防ぐことに成功[17]。ここから本領を発揮し、タイヤに苦しみ終盤窮地に陥った第4戦も、ハミルトンがファイナルラップで3輪走行状態になりながら優勝[18]。タイヤに苦しみ優勝を逃した第5戦ですら予選までメルセデスが他チームを圧倒[19]、それ以外のグランプリでは第2戦以降をメルセデスが席巻。第3戦の段階でハミルトンから「W11はメルセデスの最高傑作」[20]と言わしめるほどの速さを見せ、両タイトル争いはメルセデス勢が大きく先行した。

スペック 編集

シャシー 編集

[21]

トランスミッション 編集

サイズ 編集

  • 全長: 5,000mm以上
  • 全幅: 2,000mm
  • 全高: 950mm
  • 重量: 746kg

パワーユニット 編集

[22]

  • 型式: メルセデスAMG F1 M11 EQ Performance
  • 重量: 145kg
  • 構成: 内燃機関/エンジン(ICE)、モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック(MGU-K)、モーター・ジェネレーター・ユニット・ヒート(MGU-H)、ターボチャージャー(TC)、エナジーストア(ES)、コントロールエレクトロニクス(CE)
  • 割り当て: ICE/TC/MGU-H ドライバーに対し3基、MGU-K/ES/CE ドライバーに対し2基

内燃エンジン(ICE) 編集

  • 排気量: 1,600cc
  • 気筒数: V型6気筒
  • バンク角: 90度
  • バルブ数: 24
  • 最高回転数: 15,000rpm(レギュレーションで規定)
  • 最大燃料流量: 100kg/h(10,500rpm以上)
  • 燃料噴射方式: 高圧縮直噴(1つの噴射機/シリンダーあたり最大500bar
  • ターボチャージャー: 同軸単段コンプレッサー、排気タービン
  • エキゾーストタービン最大回転数: 125,000rpm

ERS(エネルギー回生装置) 編集

  • 構成: 電気モーター・ジェネレーター・ユニットを介した統合ハイブリッドエネルギー回生
  • エナジーストア: リチウムイオンバッテリー(規定重量の20kg)
  • 最大エネルギー蓄積量: 4MJ
  • MGU-K
    • 最高回転数: 50,000rpm
    • 最大出力: 120kW(161bhp
    • エネルギー回収: 2MJ
    • エネルギー放出: 4MJ(フルパワー時で33.3秒)
  • MGU-H
    • 回転数: 125,000rpm
    • 最大出力: 無制限
    • 最大エネルギー回生: 無制限(1周あたり)
    • 最大エネルギー放出量: 無制限(1周あたり)

燃料&潤滑油 編集

  • 燃料: ペトロナス Primax
  • 潤滑油: ペトロナス Syntium

記録 編集

key

No. ドライバー AUT
 
STY
 
HUN
 
GBR
 
70A
 
ESP
 
BEL
 
ITA
 
TUS
 
RUS
 
EIF
 
POR
 
EMI
 
TUR
 
BHR
 
SKR
 
ABU
 
ポイント ランキング
2020 44   ハミルトン 4 1 1 1 2 1 1 7 1 3 1 1 1 1 1 3 573 1位
63   ラッセル 9
77   ボッタス 1 2 3 11 3 3 2 5 2 1 Ret 2 2 14 8 8 2

脚注 編集

注釈 編集

出典 編集

  1. ^ メルセデスF1、2020年型マシン『W11』のカラーリングをお披露目。スポンサーカラーのレッドをあしらう”. AUTOSPORTweb (2020年2月10日). 2020年2月17日閲覧。
  2. ^ メルセデスF1が『W11』の実車を初披露。ハミルトンはシューマッハーに並ぶ7度目の戴冠なるか”. AUTOSPORTweb (2020年2月14日). 2020年2月17日閲覧。
  3. ^ メルセデス、新車W11の仕上がりは上々? 3つの”開発”が鍵に”. motorsport.com (2020年2月15日). 2020年2月17日閲覧。
  4. ^ メルセデスF1『W11』:あえて“大胆なアプローチ”で改善図る。フェラーリを警戒し直線スピード向上にも注力”. AUTOSPORTweb (2020年2月15日). 2020年2月17日閲覧。
  5. ^ Bilan technique F1 2020 : la Mercedes W11F1i.auto-moto.com(2020年12月21日)2021年2月12日閲覧。
  6. ^ FIA、メルセデスの新兵器”DAS”の安全性について「懸念なし」”. motorsport.com (2020年2月22日). 2020年2月22日閲覧。
  7. ^ メルセデス、革新的ステアリング”DAS”の存在を認める。合法性に自信”. motorsport.com (2020年2月21日). 2020年2月22日閲覧。
  8. ^ メルセデスF1の新ステアリングシステム『DAS』、2021年には禁止に”. AUTOSPORTweb (2020年2月22日). 2020年2月22日閲覧。
  9. ^ 黒人差別撤廃を訴えるハミルトン、抗議デモに参加 コミッションを設立formula1-data.com(2020年6月22日).2020年7月2日閲覧。
  10. ^ メルセデスF1、漆黒の「ブラック・アロー」を投入…反人種差別姿勢を強調formula1-data.com(2020年6月29日).2020年7月2日閲覧。
  11. ^ 漆黒のメルセデス、高温下でのレースでは不利? バルテリ・ボッタス「クソ暑い!」formula1-data.com(2020年8月18日).2020年8月20日閲覧。
  12. ^ メルセデスW11は『ロー・レーキ』の抱える弱点をDASでカバーも、PUに懸念残るwww.as-web.jp(2020年3月2日)2020年7月2日閲覧。
  13. ^ またか…テスト4度目の信頼性トラブル。メルセデス製F1エンジンに何が起きているのか?formula1-data.com(2020年2月28日)2020年7月2日閲覧。
  14. ^ 開幕戦優勝のメルセデスを襲ったギヤボックストラブル。即リタイアの可能性もあった? jp.motorsport.com(2020年7月6日)2020年7月6日閲覧。
  15. ^ ストロール「設定を変えて問題解決を試みたが、リタイアするしかなかった」:レーシングポイント F1オーストリアGP日曜www.as-web.jp(2020年7月7日)2020年7月7日閲覧。
  16. ^ ウィリアムズは当初は燃料系の部品類のトラブルかと思われたが、PUの個体別の不良品による故障であったことが判明した。ウィリアムズF1、第2戦で早くもラッセルに2基目のメルセデスエンジンを投入formula1-data.com(2020年7月9日)2020年7月9日閲覧。
  17. ^ メルセデス、1週間でギヤボックスの問題を修正。今後の再発防止にも自信jp.motorsport.com(2020年7月13日)2020年7月17日閲覧。
  18. ^ ハミルトン、パンクの原因はコース上の破片?「僕のタイヤ管理は完璧だったのに……」jp.motorsport.com(2020年8月3日)2020年8月3日閲覧。
  19. ^ メルセデス、完全支配で予選へ…フェルスタッペンは渋滞に阻まれ7番手 / F1-70周年記念GP《FP3》結果とダイジェストformula1-data.com(2020年8月8日)2020年8月10日閲覧。
  20. ^ 【気になる一言】「高速コーナーをほぼ全開で行ける」圧倒的な速さを見せたW11はメルセデスの最高傑作www.as-web.jp(2020年7月19日)2020年7月20日閲覧。
  21. ^ Mercedes-AMG F1 W11 EQ Performance”. メルセデスAMG F1 (2020年2月14日). 2020年2月17日閲覧。
  22. ^ Mercedes-AMG F1 M11 EQ Performance”. メルセデスAMG F1 (2020年2月14日). 2020年2月17日閲覧。