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メーデイア古希: Μήδεια, Mēdeia)は、ギリシア神話に登場するコルキス(現在のグルジア西部)の王女である。イアーソーン率いるアルゴナウタイの冒険を成功に導いたとされる。長母音を省略してメデイアとも表記される。

目次

概要編集

太陽神ヘーリオスの孫であり、魔女キルケーの姪にあたる[1]。すでにヘーシオドスの『神統記』に名前が現れており、コルキスの王アイエーテースオーケアノスの娘エイデュイア(イデュイア)の娘で[2]アポロドーロスによればカルキオペー[3]アプシュルトスという兄弟がいたが[4]ロドスのアポローニオスはアプシュルトスを異母兄としている[5]。後代の説ではタウリケー王ペルセースの娘ヘカテーとアイエーテースの娘で、キルケー、アイギアレウスと兄弟とするものもある[6][1]。イアーソーンとの間にメーデイオス[7]、あるいはメルメロスとペレースを生んだとも[8]アテーナイアイゲウスとの間にメードス英語版を生んだともいう[8][9][10][11][12]

ヘーシオドスはメーデイアを《眼輝く乙女》と呼んでおり[13]、ロドスのアポローニオスはメーデイアやキルケーがヘーリオスの子孫の証である黄金色の光を発する輝く瞳を持つとしている[14][15][16][17]。ヘカテー神殿に仕える巫女であり[18][17]、ヘカテーの魔術に長けていた。元来はギリシアに征服された地方の土着の女神だったと考えられている[19]

メーデイアの魔法編集

ヘカテーからプロミセウスの根と呼ばれる魔法の軟膏塗り、1日だけ火から護られた。

メーデイアはヘカテーの加護を祈りながら、魔法の秘薬で竜を眠らせ、イアーソーンは金羊毛を手に入れた。その後、ヘカテーの助りを借りて夜の闇に魔法の薬を空中に撒き魔力を働かせ、月を遮られたので弟のアプシュルトスを待ち伏せで騙まし討ちされ逃げる。

メーデイアは祖父ヘーリオスから有翼の竜に引かせた二輪の戦車に乗っていたが、この戦車には、メーデイアが大地と天界の両方を支配していることを象徴するために翼があった[20]

神話編集

イアーソーンたちアルゴナウタイとの主な神話についてはイアーソーンの項を参照。ここでは、メーデイアを中心とした追補的な神話や異説について述べる。

アプシュルトスの殺害編集

アポロドーロスによると、イアーソーンとメーデイアが金羊の毛皮(金羊毛)を獲ってアルゴー船を出航させたとき、アイエーテースの船団に追われ、メーデイアは、一緒に連れてきていた幼い弟アプシュルトスを殺し、亡骸を海にばらまき、追手がこれを拾い集めている間に脱出したとされている[4]

しかしこれには異説がある。ロドスのアポローニオスによると、アプシュルトスはアイエーテースとコーカサスニュムペーのアステロディアーの子で、このときすでに成人していて、追手の船団を率いた。そしてメーデイアが小島にアプシュルトスをおびき出したところをイアーソーンがこれを殺したというものである[21]

アイソーンの若返り編集

 
コッラード・ジアキント英語版の1760年の絵画『メーデイアはアイソーンを若返らせる』。メトロポリタン美術館所蔵。

オウィディウスの『変身物語』によると、イアーソーンは、メーデイアに対して自らの年老いた父アイソーンの延命を願い出たが、メーデイアが薬草を使って若返りの術を行う[22]

メーデイアの復讐編集

 
ウジェーヌ・ドラクロワの1862年の絵画『我が子を殺すメデイア』。パリルーヴル美術館所蔵。

メーデイアはペリアースの娘たちに老いた雄羊を切り刻んで鍋に入れてぐつぐつ煮て、若返らせる所を見せた。姫たちは父親を同じように若返らせようと、ペリアースを切り刻み、鍋に入れてぐつぐつゆでたが、ペリアースは死んでしまった。メーデイアがペリアースを謀計によって殺した後、イオールコスの人々はメーデイアの残酷な仕打ちに怒り、メーデイアはイアーソーンとともにコリントスに向かった。

コリントスはもともとメーデイアの父アイエーテースの出身地であり、アイエーテースが執政を置いていたのでメーデイアは統治権を要求できる立場にあったという。しかるにイアーソーンはメーデイアとの誓いを破棄してクレオーン王の娘グラウケーと結婚しようとしたため、メーデイアは毒を染みこませた結婚衣装をグラウケーに送り、グラウケーはクレオーンとともに焼け死んだ。このとき、メーデイアはイアーソーンとの子まで殺したとされているが、有翼の竜の戦車に乗って逃げる[8]。これは後代のエウリーピデースによる脚色であるともいわれる[23]。イアーソーンとメーデイアの間には、7人の息子と7人の娘がいたが、メーデイアが手にかけたのではなく、グラウケーとクレオーンの殺害に憤激したコリントス人たちが、彼らをことごとく捕らえ、石を投げつけて殺したというものである。また、長男のメーデイオスは、イアーソーン同様ペーリオン山のケイローンに養育されていて、難を逃れたともいう。

逃避行編集

コリントスを追われたメーデイアは、初めテーバイヘーラクレースを頼った。ヘーラクレースは、イアーソーンが本当に不誠実で、自分を襲った狂気を治してくれるのならかくまおうといった。しかし、クレオーンはテーバイの王でもあったため、テーバイ人たちはこれを許さなかった。

次にメーデイアはアテーナイを訪れた。アテーナイのアイゲウス王は喜んで迎え、メーデイアと結婚した。しかしメーデイアは王宮にやって来たテーセウスを危険視し、排除しようとした。そこで夫にテーセウスに用心するよう言い含めた。アイゲウスは彼が自分の息子だとは気づかずにメーデイアの言葉を信じ、テーセウスをマラトーンの牡牛退治に行かせた。そしてテーセウスが無事に戻って来るとメーデイアは今度は毒殺しようと試みた。しかしアイゲウスがメーデイアから渡された毒薬入りの飲物でテーセウスをもてなそうとしたとき、トロイゼーンに残した自分の剣をテーセウスが献上したので自分の息子だと気づいた。こうして毒殺に失敗したメーデイアは王の息子を殺そうとしたために息子メードスとともにアテーナイを追放された[8][24][注釈 1]

その後メーデイアはイタリア半島に行き、マルビウム人たちに蛇遣いの術を教えた。テッサリアー地方にも一時滞在し、女神テティスと美しさを競ったが、イードメネウスの審判で敗れたという[25]。さらに、小アジアに達して王と結婚した。この王はアイギオスでメーデイオスの父だともいう。

その後編集

コルキスで父王アイエーテースが伯父ペルセースに王座を奪われたと聞いたメーデイアは、メードスを連れてコルキスに戻った。メーデイアはペルセースを殺し、アイエーテースを再び王座につけた[8]

やがてメーデイアは不死の身となり、エーリュシオンの野を治めたという。アキレウスは死後ヘレネーと結婚したという伝説があるが、相手はヘレネーではなく、メーデイアだという説もある[26]

エウリーピデースによる悲劇編集

古代ギリシア三大悲劇詩人の一人エウリーピデースによる戯曲。コリントスを舞台とし、夫イアーソーンに離婚を告げられ、追放を言い渡されたメーデイアは、イアーソーンへの復讐のために彼の新しい花嫁とその父王、そして自分の2人の息子を殺害してコリントスを去っていく。一人の女性によって全てを狂わされてしまう物語である。

系図編集

オケアノス
 
テーテュース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ペルセーイス
 
ヘーリオス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
キルケー
 
オデュッセウス
 
 
クレータの牡牛
 
パーシパエー
 
ミーノース
 
 
 
ペルセース
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
エイデュイア
 
アイエーテース
 
 
ラティーノス
 
テーレゴノス
 
 
ミーノータウロス
 
カトレウス
 
デウカリオーン
 
アリアドネー
 
パイドラー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
メーデイア
 
イアーソーン
 
 
カルキオペー
 
プリクソス
 
 
アプシュルトス
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
メルメロス
 
ペレース
 
アルゴス
 
キュティッソーロス
 
プロンテス
 
メラース
 
プレスボーン
 


ギャラリー編集

脚注編集

注釈編集

  1. ^ このエピソードはテーセウスのミーノータウロス退治直後に自殺したアイゲウス王が生きているためミーノータウロス退治以前のものだが、テーセウスがミーノータウロスの退治後に上記のアルゴナウタイに参加していた説もあるので矛盾が生じている。

出典編集

  1. ^ a b 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』280頁。
  2. ^ ヘーシオドス、959行-962行。
  3. ^ アポロドーロス、1巻9・1。
  4. ^ a b アポロドーロス、1巻9・24。
  5. ^ ロドスのアポローニオス、3巻241行-244行。
  6. ^ シケリアのディオドロス、4巻45・1-45・3。
  7. ^ ヘーシオドス、997行-1002行。
  8. ^ a b c d e アポロドーロス、1巻9・28。
  9. ^ ヒュギーヌス、26話。
  10. ^ ヒュギーヌス、27話。
  11. ^ ヒュギーヌス、244話。
  12. ^ ヒュギーヌス、275話。
  13. ^ ヘーシオドス、998行。
  14. ^ ロドスのアポローニオス、3巻287行-288行。
  15. ^ ロドスのアポローニオス、4巻683行-684行。
  16. ^ ロドスのアポローニオス、4巻727行-730行。
  17. ^ a b グスターフ・シュヴァープ 『ギリシア・ローマ神話』第1巻、角信雄/訳
  18. ^ ロドスのアポローニオス、3巻250行-252行。
  19. ^ 里中満智子 『マンガ ギリシア神話6 王女メデイアの激情』 中央公論新社
  20. ^ ロバート・グレーヴスギリシア神話 下巻』、紀伊国屋書店
  21. ^ ロドスのアポローニオス、4巻410行-481行。
  22. ^ 『変身物語』7巻。
  23. ^ アイリアーノス、5巻21話。
  24. ^ アポロドーロス、適用(E)1・5-1・6。
  25. ^ Photius, Myriobiblon 190。
  26. ^ アポロドーロス、適用(E)5・5。

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集