モクレン(木蓮[注 2]、木蘭、学名: Magnolia liliiflora)は、モクレン科モクレン属に属する落葉低木の1種である。春に葉が展開するのと同時期に紫紅色の花が上向きに咲く。花が紫色であることからシモクレン(紫木蓮)ともよばれ、こちらを標準名としていることも多い[14][15]中国南部原産であり、日本を含む世界各地で観賞用に植栽されている。またモクレン類のつぼみを風乾したものは生薬として辛夷しんいとよばれるが、漢名の辛夷はモクレン(シモクレン)とされることが多い(日本ではコブシに辛夷の字を充てる)[16]

モクレン
モクレン(シモクレン)の花
保全状況評価[1]
DATA DEFICIENT
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: モクレン科 Magnoliaceae
: モクレン属 Magnolia
: ハクモクレン節[2] Magnolia sect. Yulania[3]
: モクレン M. liliiflora
学名
Magnolia liliiflora Desr., 1792[4]
シノニム
  • Lassonia quinquepeta Buc'hoz[4]
  • Magnolia atropurpurea Steud.[4]
  • Magnolia discolor Vent.[4]
  • Magnolia gracilis Salisb.[4]
  • Magnolia liliiflora f. nigra (G.Nicholson) Geerinck[4]
  • Magnolia plena C.L.Peng & L.H.Yan[4]
  • Magnolia polytepala Y.W.Law, R.Z.Zhou & R.J.Zhang[4]
  • Magnolia purpurea Curtis[4]
  • Magnolia quinquepeta (Buc'hoz) Dandy[4]
  • Talauma sieboldii Miq.[4]
  • Yulania japonica Spach[4]
  • Yulania liliiflora (Desr.) D.L.Fu[4]
和名
シモクレン(紫木蓮、紫木蘭)[5][6]、モクレン(木蓮、木蘭)[7][8]、モクレンゲ(木蘭花)[9]、モクラン[10]、ハネズ(唐棣花、棠棣、朱華)[注 1]
英名
purple magnolia[1], red magnolia[1], Mulan magnolia[12], lily magnolia[12], woody-orchid[1]

また「モクレン」という語は、モクレン属Magnolia)の植物の総称として使われることもある[6][17]。以下ではとしてのモクレン(シモクレン)について解説する。

特徴

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落葉広葉樹低木から小高木[18]株立ちすることが多く[18][8]、幹はしばしば基部で分枝し、高さ2 - 4メートル (m) になる[7][15][19][20](下図1a)。樹皮は灰白色で、平滑で皮目がある(下図1b)[8][7][20]。若木の樹皮は褐色を帯びる[8]。一年枝はやや細く紫褐色[8]、小枝は紫緑色から紫褐色で短枝化しやすく、托葉痕が枝を一周する[8][20]

1a. 花をつけた個体(3月)
1b. 樹皮
1c. 葉

互生し、葉身は広倒卵形から卵状楕円形で、長さ8 - 20センチメートル (cm)、幅 3 - 11 cmになり、葉縁は全縁でやや波状、基部はくさび形、先端は急に突出する[15][7][19](上図1c, 下図1e)。葉脈は羽状、側脈は8 - 10対[19][20]。葉はやや厚く、表面は緑色、裏面は灰緑色で葉脈上に毛がある[15][7][19][20]葉柄は長さ 0.8 - 2 cm[15][7][19][20]

冬芽は互生し、葉芽は小さく、短毛に覆われる[8][7](下図1d)。葉痕は浅いV字形や三日月形であり、維管束痕は7 - 8個、托葉痕は枝を1周する[8][7]花芽は大きく、長さ2 cmほどの先がとがった長卵形で枝先につき、白く長い軟毛で覆われる[8][7](下図1d)。冬芽の芽鱗は托葉2枚と葉柄基部が合着して、帽子状に被っている[8]。若葉は、開花と同時期に開き始める[18]

1d. 花芽と葉芽
1e. 花
1f. 雄しべ群と雌しべ群

花期は3 - 4月であり、葉より前に開花し始め、葉の展開に伴って咲き続ける[15][7](上図1a, 1e)。花は両性花、長さ約 10 cm、上向きに直立して開花するが、ふつう全開しない[18][15][7][20](上図1e)。モクレンの花は大形で、開きはじめのころは日当たりの良い方が早く生長するため、先端部が北の方角に向くのが目立つ[21]花被片はふつう3個ずつ3輪、外側の3枚は萼片状で長さ 2 - 3.5 cm、黄緑色から紫緑色で反曲し、早落性(上図1e)、内側の6枚は花弁状で倒卵状長楕円形、8 - 10 × 3 - 4.5 cm、紅紫色だが内面が白っぽいことがある(上図1e)[15][7][20]雄しべは多数がらせん状につき、長さ8 - 10ミリメートル (mm)、紅紫色、花糸は短く、は側向葯で長さ約 7 mm、葯隔は突出する[15][20](上図1f)。雌しべは多数がらせん状につき、離生心皮、淡紫色、無毛[20](上図1f)。花にはやや芳香があり[20]、花の匂いの主成分はペンタデカンである[22]

果期は8 - 9月、個々の雌しべ袋果となり、花軸が伸長して長さ 7 - 10 cm ほどの集合果になる[7][15][20](下図1g)。袋果が裂開すると、赤い肉質種皮で覆われた種子が珠柄に由来する白い糸で垂れ下がる[15](下図1h)。染色体数は 2n = 76[15][20](4倍体)[5]

1g. 集合果
1h. 袋果から出現した種子

分布・生態

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中国南部(福建省湖北省湖南省雲南省陝西省四川省)が原産地であるが、日本やヨーロッパ北米など世界各地で観賞用に植栽されている[4][1][20]。日本へは元々薬用として中国から持ち込まれたが、庭木として定着している[18]

英語圏に紹介された際に Japanese magnolia と呼ばれたため、日本が原産国と誤解されたことがある[要出典]

原産地では、標高300から1,600メートルの林縁に生育する[1][20]。中国では野生のものは絶滅危惧種に指定されている[要出典]

人間との関わり

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園芸

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2a. 植栽されたモクレン
2b. 植栽されたモクレン(ルーマニア)

古代中国では、モクレン(シモクレン)はハクモクレンとともに、花の気高い印象から宮廷の庭園や寺院に植えられていた[18][23][24]。日本には古くに導入され、また欧米には18世紀後半に紹介された[24]

現在では、モクレン(シモクレン)は庭木や公園樹として世界各地で植栽されている[1][7][20](右図2a, b)。栽培には日当りがよい場所で、水はけのよい肥沃な土壌を好む[25][26]剪定は花後、新葉が出る前に行う[25]施肥は冬と花後に行い、若木には9月頃にも行う[25][26]カミキリムシによる害が知られている[26]実生挿し木接木により増やすが、挿し木や接木は難しい[26]。植え付けは落葉期の1月から3月上旬[26]

モクレン(シモクレン)には、いくつかの園芸品種が知られている。トウモクレン(ヒメモクレン、Magnolia liliiflora ‘Gracilis‘[注 3])は全体に小型であり、葉が細く、花被片の内側は白っぽく先端がやや尖る[7][28]。またカラスモクレン[29]Magnolia liliiflora ‘Nigra‘[30])は花色が濃い(下図2c)。

2c. カラスモクレン
2e. ソコベニハクモクレン(サラサモクレン
2f. ソコベニハクモクレン(サラサモクレン
2g. モクレンとシデコブシの交雑種

モクレン(シモクレン)とモクレン属の他の種との間の交雑種がいくつか作出され、園芸に用いられている。特にハクモクレンとの交雑種であるソコベニハクモクレン(サラサモクレンとよばれることが多い)は、欧米で最も人気があるモクレン属の花木である[23]

薬用

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2h. 辛夷

モクレン(シモクレン)などのつぼみを風乾したものは「辛夷しんい」とよばれ、蓄膿症鼻詰まりなどの鼻炎や、頭痛、熱、咳などに対する生薬とされることがある[38][12][39][16](右図2h)。主な成分としては、モノテルペンα-ピネン(α-pinene)やシネオール(cineole)、フェニルプロパノイドのオイゲノール(eugenol)がある[12]。日本ではコブシに「辛夷」の字を充てるが、中国の「辛夷」は特にモクレン(シモクレン)を意味する[16]。ただし日本薬局方が定める生薬である辛夷の基原植物としてはタムシバコブシハクモクレンM. biondiiM. sprengeri が指定されており、モクレン(シモクレン)は含まれていない[12][40]

季語・花言葉

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「木蓮」や「木蘭」、「もくれんげ」、「紫木蓮」は仲春の季語である[41]

モクレン(シモクレン)の花言葉は、「自然への愛」や「恩恵」である[42][43]

分類

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モクレンの学名としては、一般的に Magnolia liliiflora Desr., 1792 が用いられる[4][1][14]。しかし、Buc'hoz (1779) が記載した Lassonia quinquepeta Buc'hoz1779 もシモクレンであると考えられており、この名に基づく Magnolia quinquepeta (Buc'hoz) Dandy, 1934 を用いるべきとする意見もある[32][44]

モクレン属を複数の属に細分する場合は、シモクレンは Yulania に分類されることがある(Yulania liliiflora (Desr.) D.L.Fu[20]。しかし2022年現在、シモクレンはふつうモクレン属に含められ、モクレン属のハクモクレン節[2](section Yulania)に分類される[3]

ギャラリー

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脚注

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注釈

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  1. ^ 万葉集で詠まれている初夏に赤い花をつける植物であるが、具体的にどの植物なのかは不明である。シモクレンとする説のほか、ニワウメバラ科)とする説がある[11]
  2. ^ 「きはちす」、「きばちす」と読んだ場合はフヨウムクゲアオイ科)を意味する[13]
  3. ^ シモクレンの変種(Magnolia liliiflora var. gracilis)として分類学的に分けることもある[27]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h GBIF Secretariat (2022年). “Magnolia liliiflora Desr.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年2月17日閲覧。
  2. ^ a b 東浩司 (2003). “モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源”. 分類 3 (2): 123-140. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649577. 
  3. ^ a b Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J. (2020). “Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming”. Journal of Systematics and Evolution 58 (5): 673-695. doi:10.1111/jse.12588. 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Magnolia liliiflora”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年2月13日閲覧。
  5. ^ a b シモクレンhttps://kotobank.jp/word/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3コトバンクより2022年2月16日閲覧 
  6. ^ a b モクレンhttps://kotobank.jp/word/%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3コトバンクより2022年2月16日閲覧 
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 勝山輝男 (2000). “モクレン”. 樹に咲く花 離弁花1. 山と渓谷社. p. 377. ISBN 4-635-07003-4 
  8. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 240.
  9. ^ 木蘭花https://kotobank.jp/word/%E6%9C%A8%E8%98%AD%E8%8A%B1コトバンクより2022年2月16日閲覧 
  10. ^ 木蓮・木蘭https://kotobank.jp/word/%E6%9C%A8%E8%93%AE%E3%83%BB%E6%9C%A8%E8%98%ADコトバンクより2022年2月26日閲覧 
  11. ^ 唐棣花・棠棣・朱華https://kotobank.jp/word/%E5%94%90%E6%A3%A3%E8%8A%B1%E3%83%BB%E6%A3%A0%E6%A3%A3%E3%83%BB%E6%9C%B1%E8%8F%AFコトバンクより2022年2月16日閲覧 
  12. ^ a b c d e シモクレン”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2022年2月16日閲覧。
  13. ^ 木蓮https://kotobank.jp/word/%E6%9C%A8%E8%93%AEコトバンクより2022年2月26日閲覧 
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  16. ^ a b c 辛夷https://kotobank.jp/word/%E8%BE%9B%E5%A4%B7コトバンクより2022年2月26日閲覧 
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  18. ^ a b c d e f 平野隆久監修 1997, p. 16.
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  21. ^ 菱山忠三郎 1997, pp. 76–77.
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  24. ^ a b 植田邦彦, 緒方健 (1989). “モクレン属”. In 堀田満ほか. 世界有用植物事典. 平凡社. pp. 650–652. ISBN 9784582115055 
  25. ^ a b c シモクレン(紫木蓮)のまとめ!”. 植物の育て方や豆知識をお伝えするサイト. 2022年2月18日閲覧。
  26. ^ a b c d e モクレンの育て方”. ガーデニングの図鑑. 2022年2月18日閲覧。
  27. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2007–). “トウモクレン”. 「植物和名ー学名インデックスYList」(YList). 2022年2月19日閲覧。
  28. ^ トウモクレンhttps://kotobank.jp/word/%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3コトバンクより2022年2月27日閲覧 
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  38. ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 68.
  39. ^ 春を告げる香り高い「ハクモクレン」”. 生薬ものしり事典. 養命酒製造株式会社. 2022年2月6日閲覧。
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  41. ^ 木蓮(もくれん)”. きごさい歳時記. 2022年2月28日閲覧。
  42. ^ モクレンの花言葉”. はなたま (2021年4月6日). 2022年2月19日閲覧。
  43. ^ モクレン(木蓮)の花言葉”. LOVEGREEN. 2022年2月19日閲覧。
  44. ^ Ueda, K. (1985). “A nomenclatural revision of the Japanese Magnolia species (Magnoliac.), together with two long-cultivated Chinese species: III. M. heptapeta and M. quinquepeta”. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 36 (4-6): 149-161. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078551. 

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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