ヤン・マーデンボロー

イギリスのレーシングドライバー (1991 - )

ヤン・マーデンボローJann Mardenborough, 1991年9月9日 - )は、イギリスのレーシングドライバー。

ヤン・マーデンボロー
基本情報
国籍 イギリスの旗 イギリス
生年月日 (1991-09-09) 1991年9月9日(32歳)
出身地 ウェールズ カーディフ
SUPER GTでの経歴
デビュー 2016
所属 KONDO RACING
車番 24
過去所属 TEAM IMPUL
出走回数 40
優勝回数 1
過去参加シリーズ
2011
2012
2012
2013
20132014
2014-2015
2015
2016
2017
2016
2017
GT4ヨーロッパ カップ
ブリティッシュGT選手権
ブランパン耐久シリーズ
ヨーロッパ・フォーミュラ3選手権
トヨタ レーシング シリーズ
GP3 Series
FIA 世界耐久選手権
全日本F3選手権
スーパーフォーミュラ

名前の"Jann"の発音は「ジャン」ではなく「ヤン」である。彼へのインタービュー動画[1]や紹介動画[2]でも、「ヤン」と発音されていることが確認でき、SCEが公開しているGTアカデミーの卒業生一覧[3]にも、「ヤン・マーデンボロー」と記載されている。姓についても"Mardenborough"はイギリス英語では「マーデンバラ」と発音される為、「ヤン・マーデンバラ」の日本語表記が本来の発音に一番近い。

経歴 編集

生い立ち 編集

ヤン・マーデンボローは、プロサッカー選手の父・スティーヴ・マーデンボローの息子として、イングランド北部の町ダーリントンで生まれた[4][5]。マーデンボローが誕生した当時、父親はダーリントンFCでプレーしていた。その後、家族は父親がダーリントンに在籍する以前に所属していたカーディフ・シティFCのあるウェールズカーディフに移り住んだため、そこで彼は育った[5][6]

マーデンボローは「GTアカデミー」に入るまで真剣にレースに向き合える機会に恵まれていなかった[7]。幼少期のレースキャリアについて、日本auto sport誌のインタビューで聞かれたマーデンボローは「なぜだかWikipediaにレーシングカートをやっていたと書かれているが、数回友達の誕生日にインドアカートに遊びに行ったことがあるぐらい。僕にはレーシングカートの経験が無い。Wikipediaは間違っている」と答えている。

GTアカデミー 編集

2011年にマーデンボローは「GTアカデミー」の育成選手選考大会に参加した。この大会は日産ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の協賛によって開催されていた。参加者はPlayStation 3のドライビングゲームソフトのグランツーリスモシリーズをプレイして競い合った。優勝者はプロのレーシングドライバーになるチャンスが与えられる。マーデンボローは9万名の参加者に競り勝ち、2011年の大会を制した[8]

デビュー 編集

 
スパ24時間の表彰台に立つマーデンボロー(2013年/右から2番目)
 
GP3,2014年シーズンのシルバーストン戦でアーデン・インターナショナルのレースカーをドライブするマーデンボロー

優勝したマーデンボローは2012年のドバイ24時間レースに日産チームで参戦する権利を得た。マーデンボローはドバイ24時間レースに出場し、彼がエントリーしたSP2クラスで3位の成績を挙げた[4]

2012年シーズンのブリティッシュGT選手権にアレックス・バンコムとパートナーを組んで参戦し、1回の優勝を挙げ、GT3クラスの6位でシーズンを終えた。更に彼はブランパン耐久シリーズの4戦に参戦している。

フォーミュラへ 編集

2013年になると、マーデンボローはフォーミュラカーのレースに参戦の場を移した[9]。年初にマーデンボローはニュージーランドのフォーミュラカー・シリーズのトヨタ・レーシング・シリーズに参戦し、新人最上位の10位で選手権を終えた。その後はヨーロッパに戻り、カーリン・モータースポーツのシートを確保してFIA ヨーロッパ・フォーミュラ3選手権[10]イギリス・フォーミュラ3選手権[11]に参戦した。なお、同年にはスパ24時間にも参戦している。

F3を主戦場とした2013年シーズンの後、アーデン・インターナショナルに加入してGP3の2014年シーズンを戦うことになり、レッドブルのジュニア・チームの若手ドライバーの育成プログラムにも署名した[12]ドイツホッケンハイム戦では、第1ラウンドの順位を逆にしたグリッドで争われる第2ラウンドにおいて、彼は第2ラウンドのポールポジションファステストラップを出してGP3初優勝を挙げた[13]

2014年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにおいて、マーデンボローはニスモ日産・GT-Rのタイムアタック・パッケージをドライブして、有名な「グッドウッド・ヒル」と呼ばれるヒルクライムレースで参加したスーパーカーを凌ぎ最速のタイムを計測した[14]

世界耐久選手権とル・マン参戦 編集

ル・マン24時間レースには2013年2014年に参戦し、2015年は、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルチームに所属し、FIA 世界耐久選手権のLMP1クラスに参戦し、ル・マン24時間レースにも参戦した。

日本へ 編集

2016年は日本に拠点を移し、ニッサン・ドライバー・デベロップメント・プログラム(NDDP)からSUPER GT・GT300クラス及び全日本F3選手権に参戦した[15]。SUPER GTでは1勝し、全日本F3選手権ではシーズン2位を獲得した。

2017年はSUPER GT・GT500クラス、スーパーフォーミュラにステップアップし、SUPER GTはチーム インパルから安田裕信と、スーパーフォーミュラは関口雄飛とタッグを組み参戦した。

2018年からはSUPER GT・GT500クラスに専念したがマシン性能に恵まれず未勝利に終わり、2020年まで日本で活動した。

帰国 編集

2020年限りでSUPER GTのシートを失いイギリスへ帰国し、2021年より元F1ドライバーのマーク・ブランデルが運営するMBパートナーズと契約した。優先しているのはSUPER GTへの復帰だが、世界を包むCOVID-19の猛威のため叶わず、2023年以降のLMDh車両を走らせるメーカーのシート獲得だという[16]

映画出演 編集

2023年に公開されたマーデンボローの実話を基に制作された伝記映画『グランツーリスモ』では、カースタントとして参加し、自身の役を務めた[17]。また、本作の脚本にも深く関わっている[18]。劇中のマーデンボローはアーチー・マデクウィ(日本語吹き替え声優は松岡禎丞)が演じた[19]

レース記録 編集

経歴の概略 編集

参戦カテゴリー チーム 参戦 優勝 PP F/Lap 表彰台 ポイント 順位
2011年 GT4ヨーロッパカップ RJN・モータースポーツ 1 0 0 0 0 0 NC
2012年 ドバイ24時間レース 1 0 0 0 0 0 26位
ブリティッシュGT選手権 10 1 1 0 3 108.5 6位
ブランパン耐久シリーズ GTアカデミー・チーム・RJN 4 0 0 0 0
2013年 トヨタ・レーシング・シリーズ ETEC・モータースポーツ 15 0 0 0 0 491 10位
FIA ヨーロッパ・フォーミュラ3選手権 カーリン・モータースポーツ 30 0 0 0 0 12 21位
イギリス・フォーミュラ3選手権 12 0 0 0 1 85 6位
マスターズF3 1 0 0 0 0 0 13位
ブランパン耐久シリーズ 日産GTアカデミー・チーム・RJN 2 0 0 0 1 30 14位
ル・マン24時間レース グリーヴス・モータースポーツ (LMP2) 1 0 0 0 1 N/A 3位
2014年 トヨタ・レーシング・シリーズ ジャイルス・モータースポーツ 15 3 1 2 7 782 2位
GP3 アーデン・インターナショナル 18 1 0 2 2 77 9位
ル・マン24時間レース オーク・レーシング (LMP2) 1 0 0 0 0 N/A 5位
ブリティッシュGT選手権 日産・GTアカデミー・RJN・モータースポーツ 1 0 0 0 0 0 42位
ユナイテッドスポーツカー選手権 マッスルミルク・ピケット・レーシング (プロトタイプ) 1 0 0 0 0 19 64位
2015年 GP3 カーリン・モータースポーツ 14 0 0 0 2 58 9位
GP2 2 0 0 0 0 0 35位
ブランパン耐久シリーズ 日産・GTアカデミー・RJN・モータースポーツ (Pro-Am) 1 0 0 0 1 18 18位
FIA 世界耐久選手権 NISMO 1 0 0 0 0 0 34位
ル・マン24時間レース 1 0 0 0 0 N/A DNF
2016年 SUPER GT NDDP RACING (GT300) 8 1 0 1 2 52 4位
全日本F3選手権 B-MAX Racing with NDDP 17 4 6 6 11 110 2位
マカオGP 1 0 0 0 0 N/A 20位
2017年 SUPER GT TEAM IMPUL (GT500) 8 0 0 1 0 17 15位
スーパーフォーミュラ 7 0 1 1 0 4.5 14位
インターコンチネンタルGTチャレンジ NISMO 1 0 0 0 0 6 13位
2018年 SUPER GT TEAM IMPUL (GT500) 8 0 0 0 1 29 12位
ブランパンGTシリーズ・エンデュランスカップ GTスポーツMOTUL・チーム・RJN 1 0 0 0 0 0 NC
2018-19年 フォーミュラE ニッサン・e.dams シミュレータードライバー
2019年 SUPER GT KONDO RACING (GT500) 8 0 0 0 0 17 14位
2020年 SUPER GT 8 0 0 0 0 4 19位
2021-22年 フォーミュラE ニッサン・e.dams シミュレータードライバー

フォーミュラ 編集

ヨーロッパ・フォーミュラ3選手権 編集

チーム エンジン 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 順位 ポイント
2013年 カーリン・モータースポーツ VW MNZ
1

Ret
MNZ
2

11
MNZ
3

14
SIL
1

16
SIL
2

DNS
SIL
3

8
HOC
1

16
HOC
2

Ret
HOC
3

22
BRH
1

13
BRH
2

10
BRH
3

Ret
RBR
1

13
RBR
2

21
RBR
3

Ret
NOR
1

7
NOR
2

27
NOR
3

12
NÜR
1

15
NÜR
2

Ret
NÜR
3

11
ZAN
1

16
ZAN
2

23†
ZAN
3

14
VAL
1

18
VAL
2

Ret
VAL
3

11
HOC
1

16
HOC
2

18
HOC
3

11
21位 12

GP3 編集

チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 Pos. Points
2014年 アーデン・インターナショナル ESP
FEA

14
ESP
SPR

14
AUT
FEA

11
AUT
SPR

Ret
GBR
FEA

9
GBR
SPR

15
GER
FEA

8
GER
SPR

1
HUN
FEA

7
HUN
SPR

3
BEL
FEA

4
BEL
SPR

4
ITA
FEA

11
ITA
SPR

Ret
RUS
FEA

6
RUS
SPR

4
ABU
FEA

13
ABU
SPR

Ret
9位 77
2015年 カーリン・モータースポーツ ESP
FEA

4
ESP
SPR

3
AUT
FEA

5
AUT
SPR

15
GBR
FEA

17
GBR
SPR

15
HUN
FEA

Ret
HUN
SPR

17
BEL
FEA

Ret
BEL
SPR

12
ITA
FEA
ITA
SPR
RUS
FEA

5
RUS
SPR

3
BHR
FEA

7
BHR
SPR

Ret
ABU
FEA
ABU
SPR
9位 58

全日本フォーミュラ3選手権 編集

チーム エンジン クラス 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 順位 ポイント
2016年 B-MAX Racing Team with NDDP VW SUZ1
2
SUZ2
3
FSW1
2
FSW2
4
OKA1
8
OKA2
1
SUZ1
10
SUZ2
3
FSW1
1
FSW2
2
TRM1
1
TRM2
1
OKA1
4
OKA2
8
SUG1
2
SUG2
2
SUG3
2
2位 110

スーパーフォーミュラ 編集

チーム シャシ エンジン タイヤ 1 2 3 4 5 6 7 順位 ポイント
2017年 ITOCHU ENEX TEAM IMPUL ダラーラ・SF14 トヨタ・RI4A Y SUZ
18
OKA1
6
OKA2
17
FSW
8
TRM
14
AUT
8
SUG
9
SUZ1
C
SUZ2
C
14位 4.5

グランドツーリングカー 編集

SUPER GT 編集

チーム コドライバー 使用車両 タイヤ クラス 1 2 3 4 5 6 7 8 順位 ポイント
2016年 NDDP RACING   星野一樹 日産・GT-R NISMO GT3 Y GT300 OKA
10
FSW
1
SUG
5
FSW
6
SUZ
10
CHA
2
TRM
13
TRM
6
4位 54
2017年 TEAM IMPUL   安田裕信 日産・GT-R B GT500 OKA
8
FSW
14
AUT
7
SUG
11
FSW
5
SUZ
11
CHA
14
TRM
7
15位 17
2018年   佐々木大樹 B GT500 OKA
14
FSW
6
SUZ
4
CHA
6
FSW
12
SUG
3
AUT
11
TRM
11
12位 29
2019年 KONDO RACING   高星明誠 Y GT500 OKA
5
FSW
12
SUZ
8
CHA
4
FSW
Ret
AUT
9
SUG
15
TRM
10
14位 17
2020年   高星明誠 Y GT500 FSW
10
FSW
12
SUZ
11
TRM
13
FSW
14
SUZ
8
TRM
14
FSW
13
19位 4

スポーツカー 編集

世界耐久選手権 編集

チーム 使用車両 クラス 1 2 3 4 5 6 7 8 順位 ポイント
2015年 NISMO 日産・GT-R LM NISMO LMP1 SIL SPA LMN
NC
NUR COA FSW SHA BHR NC 0

ル・マン24時間レース 編集

チーム コ・ドライバー クラス 周回 Pos. Class
Pos.
2013年   グリーヴス・モータースポーツ   ミハエル・クルム
  ルーカス・オルドネス
ザイテック・Z11SN-ニッサン LMP2 327 9位 3位
2014年   オーク・レーシング   アレックス・ブランドル
  マルク・シュルジッツスキー
リジェ・JS P2-ニッサン LMP2 354 9位 5位
2015年   NISMO   オリヴィエ・プラ
  マックス・チルトン
日産・GT-R LM NISMO LMP1 234 DNF DNF

脚注 編集

  1. ^ Jann Mardenborough Interview”. YouTube (2014年11月18日). 2015年2月20日閲覧。
  2. ^ Jann Mardenborough : Gamer to Racing Driver”. YouTube. Trans World Sport (2013年11月3日). 2015年2月20日閲覧。
  3. ^ 卒業生 - GTアカデミー”. ソニー・コンピュータエンタテインメント. 2015年2月20日閲覧。
  4. ^ a b "„Jann Mardenborough"". gran-turismo.com. 2013年3月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月5日閲覧
  5. ^ a b Giles Richards (29 April 2012). ""From gamer to racing driver"". guardian.co.uk. 2013年4月5日閲覧
  6. ^ "Driver Biography: Jann Mardenborough". gbritishgt.com. 2015年2月20日閲覧
  7. ^ Red Bull snap up PlayStation champion Jann Mardenborough”. http://www.theguardian.com. The Guardian. 2014年12月8日閲覧。
  8. ^ Antony Ingram (17 July 2011). ""Brit Becomes Latest Gamer-Turned-Racer In 2011 GT Academy"". motorauthority.com. 2013年3月5日閲覧
  9. ^ "„Jann Mardenborough fährt in der F3-Meisterschaft"". gran-turismo.com. 26 February 2013. 2013年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月5日閲覧
  10. ^ Marion Rott (21 February 2013). "„Formel 3 EM — Carlin gibt Fahrer-Großaufgebot bekannt"". Motorsport-Magazin.com. 2013年2月21日閲覧
  11. ^ Three car team for Carlin's British F3 assault at Silverstone”. Carlin Motorsport (2013年5月16日). 2014年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年2月17日閲覧。
  12. ^ 'PlayStation racer' signed up to compete at GP3”. BBC (2014年2月17日). 2014年2月17日閲覧。
  13. ^ Masterful Mardenborough claims maiden win in Hockenheim”. www.gp3series.com. GP3 Series (2014年7月20日). 2015年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月20日閲覧。
  14. ^ Jann Mardenborough Smashes Goodwood Hill Climb Supercar Record”. www.gtspirit.com. GTspirit (2014年6月30日). 2014年7月1日閲覧。
  15. ^ 日産自動車、2016年のグローバルモータースポーツプログラムを発表 - 日産自動車・2016年2月26日
  16. ^ ヤン・マーデンボロー、スーパーGT復帰への強い思いを語る「僕にはやり残したことがある」”. jp.motorsport.com 2021年5月17日. 2021年10月17日閲覧。
  17. ^ (日本語) 特別映像<夢への挑戦>『グランツーリスモ』9月15日(金)全国の映画館で公開 #映画グランツーリスモ, https://www.youtube.com/watch?v=SishMaoow3M 2023年9月16日閲覧。 
  18. ^ “スーパーGTを去った後は“スタントマン”にも挑戦!? 富士24時間出場で注目のヤン・マーデンボローが見据えるキャリアプランとは”. (2023年5月26日). https://jp.motorsport.com/super-taikyu/news/Jann-on-future-plan/10473587/ 2023年12月5日閲覧。 
  19. ^ “『グランツーリスモ』アーチー・マデクウィ、プロのゲームプレイヤー⇒プロレーサーを演じる役作りの秘密に注目”. クランクイン!. (2023年9月3日). https://www.crank-in.net/news/133157/1 2023年10月25日閲覧。 

外部リンク 編集