ヨグ=ソトース
概要編集
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品に登場する存在[1]。「存在」ではなく「空虚」[2](void)[注 1]と表現される場合もある。時空の制限を一切受けない最強の神格にして、「外なる神」の副王とされる[1]。『銀の鍵の門を越えて』ではヨグ=ソトースに関して、「始まりも終わりもない。」とされ[3]、「かつてあり、いまあり、将来あると人間が考えるものはすべて、同時に存在するのだ。」とされている[3]。
等もヨグ=ソトースと呼ばれる[2][4][5]。主人公のランドルフ・カーターが出会った際には、次のように描写されている[6]。
「 | 」 | |
— (『ラヴクラフト全集 6』、134頁より) |
森瀬繚の『図解 クトゥルフ神話』によると、ヨグ=ソトースは時間と空間の法則を超越しており、全ての時と共に存在し、あらゆる空間に接しているという[1]。「ひとつにして全てのもの」「全てにしてひとつのもの」ともいう[1]。過去・現在・未来はヨグ=ソトースの中で一つであり、全存在(「外なる神」や旧支配者すらも)がヨグ=ソトースに含まれている[1]。ヨグ=ソトースこそが全情報を細大漏らさず記録している「アカシャ年代記」ともいわれる[1]。この神は一つの概念であると同時に、手で触れられない「ヨグ=ソトースという現象」でもある[1]。
詳細編集
別名や形容編集
- 「人間であり非人間であり、脊椎動物であり無脊椎動物であり、意識をもつこともありもたないこともあり、動物であり植物」[7]
- 「カーターが自分であることを知っている存在」[7]
- 「カーター自身の原型」[8]
- 「時間と空間を超越するただ一つの窮極的かつ永遠の<カーター>」[9]
- 「まだ生まれてもいない未来の世界におけるランドルフ・カーターと呼ばれる不条理かつ法外な種族の実体」[10]
- 「幼年期の夢で見た魅惑つきせぬ領域」[11]
- 「惑星ヤディスの魔道士ズカウバが繰返し連続して見る夢」[10]
- 「地球はおろか太陽系において知られざるものの囀りや呟きに似た音」[12]
- 「局所性、自己一体感、無限性とが組み合わさった空恐ろしい想念」[6]
- 「力の渦動」[5]
- 「存在、大きさ、範囲という概念のことごとくを超越するもの」[5]
- 「原型的な無限の目眩く到達不可能な高み」[3]
- 「不変かつ無限である現実」[13]
- 「ただ一つの原型的かつ永遠の存在」[14]
- 「<窮極の原型>」[8]
- 「深淵と全能の<実体>」[15]
- 「口にするのもはばかれるほど神聖な存在」[9]
- 「インドの寺院に彫りこまれた手足と頭を多数備える彫像」[4][注 3]
- 「<真実の人>」[17]
- 「<彼のもの>」[2]
- 「<そのもの>」[8](IT[18])
外見編集
無定形の怪物とされる[1]。時空間の底の底、混沌の只中で永遠に泡立ち続けており触覚があるが、その装いは一つ一つが太陽のように強烈な光を放つ玉虫色の球体の集積物であるという[1]。ヨグ=ソトースの化身はウムル・アト=タウィルといい、ヴェールをまとう人間の姿をしており、銀の鍵の持ち主を窮極の門へ案内する[1]。この化身は「案内者」「窮極の門の守護者」「生命長き者」「最古なる者」とも呼ばれる[1]。
銀の鍵が開く、「窮極の門」を超えた場所に座すというヨグ=ソトースは実体を備えた神性であり、かつてウェイトリー家の女性との間に子をなしたことすらあったという[1]。ジョン・ディーや初代ランドルフ・カーターといったエリザベス朝の魔術師達は、ヨグ=ソトースを手に入れることで神の座に到達できるとすら考えていたとされる[1]。
関連する呪文編集
『ネクロノミコン(死霊秘法)』では、「外なる神」が住まう外宇宙への門こそヨグ=ソトースであるが、門の鍵にして守護者であり、宇宙の秘密そのものともされている[1]。この門を開くための呪文は『ネクロノミコン』に記されているが、17世紀刊行のラテン語版以外の版では肝心の部分が抜け落ちてしまっているという[1]。「ユゴスよりのもの」はヨグ=ソトースを「彼方のもの」と呼んで崇拝しており、プロヴィデンスの黒魔術師ジョゼフ・カーウィンはヨグ=ソトース召喚の呪文を編み出し、これを唱えて彼の者の顔を見たとされる[1]。
ヨグ=ソトースへ至る順序編集
以下はヨグ=ソトースへ至る順序の要約[19]。ヨグ=ソトースを目指す者はウムル・アト=タウィルに案内を受けつつ、「第一の門」から「窮極の門」へ向かうとされている[19]。
その他編集
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』(1927年)において初めて名前が言及されるが、特に重大に扱われているのは『ダニッチの怪』(1929年)である。その他、ラヴクラフトの作品においては、『銀の鍵の門を越えて』(1933年)などに登場する。
オーガスト・ダーレスによって体系化されたクトゥルフ神話において人間に害をなすと位置付けられた旧支配者、外なる神の一柱である。ヨグ=ソトースは、時空連続体の外側、全てに隣接するがどこにも行けない場所に追いやられている。[要出典]また外世界にいるものは、「銀の鍵」を使ってヨグ=ソトースを通過せねばならないとされている。
名前編集
旧支配者の名前を正しく発声すると危険が迫る、または、人間ではない彼らの名前は、正確に発音できないとされる。そのためいくつかの呼び名がある。
- ヨグ=ソトホート
- ヨグ・ソトト
- ヨグ・ソトホース
また別名とされる称号も数多く冠している。以下に例を挙げる。
- 門にして鍵(The Key and the Gate)
- 全にして一、一にして全なる者(The All-in-One, The One-in-All)
- 彼方の者(The Beyond One)
- Opener of the Way
- 外なる神
- 混沌の媒介
- 原初の言葉の外的表れ
- 虚空の門
- 「漆黒の闇に永遠に幽閉されるものの外的な知性」
外見編集
顕現の際、その姿は絶えず形や大きさを変える虹色の輝く球の集積として現れ、互いに接近したり離れたりしている。この球体に触れると火脹れ、組織の乾燥、骨の露出を起こす。
他の神との関係編集
ヨグ=ソトースをはじめ神々の系譜については、ラヴクラフトが友人に宛てた手紙で冗談めかして語っている。それによるとアザトースの生み出した「無名の霧(Nameless Mist)」からヨグ=ソトースは、生まれたとされる。リン・カーターによればクトゥルー、ハスター、ヴルトゥームは、ヨグ=ソトースの息子とされる。またシュブ=ニグラスの夫とされ、ナグ (Nug) とイェブ (Yeb) をもうけたともされている。さらに『ダンウィッチの怪』では、ラヴィニア・ウェイトリーとの間にウィルバーと名もない弟の双子の混血児を作っている。他にツァトゥグアが孫にあたるとするものもある。
呪文編集
死者を復活させる呪文が登場している。
- Y'AI'NG'NGAH
YOG-SOTHOTH
H'EE-L'GEB
F'AI THRODOG
UAAAHH
これに対応するのが死者を元の塩に戻す呪文である。
- OGTHROD AI'F
GEB'L-EE'H
YOG-SOTHOTH
'NGAH'NG AI'Y
ZHRO
注釈編集
出典編集
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 森瀬繚 2005, p. 18
- ^ a b c d ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 119
- ^ a b c ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 138
- ^ a b c ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 133
- ^ a b c d ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 137
- ^ a b ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 134
- ^ a b ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 132
- ^ a b c ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 142
- ^ a b ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 141
- ^ a b ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 147
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 121
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 130
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 139
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 140
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 149
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 112-113
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 1989, p. 129
- ^ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 2009, p. http://hplovecraft.com/writings/texts/fiction/tgsk.aspx
- ^ a b c d e f g h i 森瀬繚 2005, p. 19
参考文献編集
- ハワード・フィリップス・ラヴクラフト、大瀧啓裕訳 『ラヴクラフト全集 6』 創元推理文庫(東京創元社)、1989年。ISBN 9784488523060。
- 森瀬繚 『図解 クトゥルフ神話』 新紀元社、2005年。ISBN 4775304224。
- ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (2009), Through the Gates of the Silver Key, The H. P. Lovecraft Archive
- 平凡社 『世界大百科事典 第2版』 平凡社、2015年 。
その他の参考文献編集
- 山本弘著『クトゥルフ・ハンドブック』初版(S63年出版)ホビージャパン社 ISBN 978-4938461461