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ライララパクスLyrarapax)は、カンブリア紀に生息した澄江動物群に属するアノマロカリス類の1属である。 本属の1種 L. unguispinus の化石に保存されたの構造が注目されており、アノマロカリス類と真節足動物の頭部付属肢の対応関係に重要な証拠を与えた古生物である[1]

ライララパクス
生息年代: 520 Ma
20191018 Lyrarapax unguispinus.png
Lyrarapax unguispinusの復元図
地質時代
古生代カンブリア紀前期
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
: (ステムグループ)
節足動物門 Arthropoda[1]
: 和訳なしDinocaridida
: 放射歯目 Radiodonta
亜目 : アノマロカリス亜目 Anomalocarida
: アンプレクトベルア科 Amplectobeluidae
: ライララパクス属 Lyrarapax
Cong et al., 2014
学名
Lyrarapax
Cong et al., 2014
タイプ種
Lyrarapax unguispinus
Cong et al., 2014
和名
ライララパクス
下位分類(
  • Lyrarapax unguispinus
    Cong et al., 2014 [1]
  • Lyrarapax trilobus
    Cong et al., 2016 [2]

ライアーという弦楽器に似た体の輪郭と捕食者であることに由来し、属名「Lyrarapax」はラテン語の「lyra」(ライアー)と「rapax」(捕食者)の合成である[1]

化石編集

本属は中国雲南省澄江における化石産地から出土した化石標本によって知られる(澄江動物群)。L. unguispinus のタイプ標本には、神経節、複眼の神経叢、網膜と六角形のレンズ(個眼)の痕跡が保存されており、アノマロカリス類の発見史上において最も完全な化石の1つである[1][3]。2018年に発表された L. unguispinus の幼生化石は、全長18 mmしか及ばず、発見史上最小のアノマロカリス類完全化石として知られている[4]

形態編集

体長は最大8㎝しか及ばない小型のアノマロカリス類である。近縁属として考えられるアンプレクトベルアのように、はさみ型前部付属肢と1対の尾毛を持つ[1]

頭部編集

他のアノマロカリス類と同様、頭部は3枚の甲皮を持つ。いずれも小さく、頭部の上面に備わる甲皮は円盤状で、残りの2枚は頭部の両側に備わる[4]。頭部の両側には、やや細長い眼柄に付いた雫型の複眼が張り出している。前方にある前部付属肢は発達した棘を基部の腹側に備わり、全体がのような構造になっている。この棘はナイフのように幅広く、内側にはノコギリ状の突起が密生しており、アンプレクトベルア属のタイプ種に見当たる単純の細長い棘から区別できる。また、前部付属肢の棘の配列や各部位の比例は種によって異なる[2]

2014年(L. unguispinus)と2016年(L. trilobus)による化石標本は、いずれも口(oral cone)の部位に環形の皺に囲まれる構造のみが見られ、アノマロカリス類として典型的な「放射歯」らしき部分が全く見当たらなかった。従って、本属は例外的に「歯の無い」アノマロカリス類と考えられた[2]。しかし2018年の新たな発見により、十字放射状の歯の存在が幼生化石に確認され、前述の「環形の皺」は口の内部構造ないし歯の付着面と見なされる[4]

胴部編集

胴部の前端4節はやや幅狭い「首」になり、その両側に並んだ退化的な鰭(ひれ)は1節に1対ずつある。「首」に次ぐ、胴体部には少なくとも8対の細長い鰭を持ち、後端に向けて次第短くなる。それぞれの鰭の前縁部には「strengthening rays」と呼ばれる筋のような構造がある[2][4]L. unguispinus の場合、第1対の鰭の先端は更に長く伸びている[1]。確認されたものに限れば、胴体部の尾端には3対の尾鰭[1]もしくは1対の尾毛がある[4]。保存状態が悪いものの、「setal blades」という鰓らしき櫛状の構造体が確認される[1]

生態編集

多くのアノマロカリス類と同様に、ライララパクスは活発な捕食者であった考えられる。基部が屈曲した関節を持つ型の前部付属肢は、現生節足動物であるカマキリの前脚とサソリモドキ触肢ように獲物を捕獲する機能を持ち、小さな甲皮は防衛に用いられる同時に前部付属肢の広い可動域をも維持できたと考えられる[4]。また、L. unguispinus の幼生化石にも発達した前部付属肢を持つため、本種は幼生から既に捕食者であったことも示唆される[4]

分類編集

アノマロカリス類の中で、ライララパクス属は従来ではアンプレクトベルア属に近縁と考えられ、共にアンプレクトベルア科に分類される[1]。一方、ライララパクスは同科のアンプレクトベルア属とRamskoeldia 属にある顎基らしき附属体を欠如し、歯の構造も異なるなどの相違点により、この系統的位置は疑問視される向きがある[5]

ライララパクス属には、L. unguispinusL. trilobus という2種が知られる。両者は主に前部付属肢の形態によって区別される [2]

Lyrarapax unguispinus Cong et al., 2014
前部付属肢は少なくとも12節からなり、腹側の棘は第2-6節に備え、そのうち第2節のが著しく発達しており、内側には6-7本の小さな棘な密生する。残りの棘は三叉状、第3、5節の棘は短い。第7-11節の腹側に棘は無く、代わりに背側には水平の棘が走る。終端の第12節には1本の爪が具えている。3対の尾鰭と1対の尾毛がそれぞれタイプ標本と幼生標本から確認され[4]、胴部の第1対の鰭は長く伸びている[1]
発達した棘を持った爪状の前部付属肢に由来し、種小名「unguispinus」はラテン語の「unguis」(爪)と「spinus」(棘)の合成である[1]
Lyrarapax trilobus Cong et al., 2016
前部付属肢は少なくとも11節からなり、L. unguispinus のに比べれば比較的に細長く、幅の変化と棘の発達具合は控え目である。最も発達した腹側の棘の長さは L. unguispinus のより短く、第3節の腹側に具え、内側には7本の小さな棘が密生する。第2、5、7、9、11節はそれぞれの腹側に1対の棘がある。終端の第11節は爪状である[2]
化石標本の胴部の背側には1対の溝が走り、胴部が縦に3部分に分かれるように見える。種小名「trilobus」はその特徴に由来する[2]

発見の意義編集

アノマロカリス類前部付属肢は、汎節足動物のどの付属肢に相同し、どの体節に由来なのか、長く議論されていた。その中で、真節足動物鋏角、第一触角Megacheira類の大付属肢に相同(中大脳性、第1体節由来)、または有爪動物の触角と真節足動物上唇に相同(前大脳性、先節由来)、などの仮説が与えられた。この対応関係は、アノマロカリス類の節足動物の系統における位置を大きく左右する的として注目されるものの、当時においてアノマロカリス類の化石による神経構造の証拠を欠如しており、確実な対応関係は不明だった[6]

ライララパクスのタイプ種L. unguispinus のホロタイプの化石には、アノマロカリス類の発見史上に前例のない神経構造の跡が保存された。おかけで今まで謎だったアノマロカリス類の神経構造が明らかになっており、上述の議論も、今までにない直接的な証拠が与えられた。本属の原記述でもある、この構造を解析する論文は2014年に公表した。

 
様々な汎節足動物における前部の体節と付属肢の対応関係。前大脳性・中大脳性・後大脳性の体節と付属肢はそれぞれ赤(P)・黄(D)・緑(T)で示される。

節足動物の3つの脳神経節からなるとは異なり、アノマロカリス類であるライララパクスの脳は前大脳という1つの脳神経節のみからなる。前部付属肢の神経は前大脳に対応し、複眼視神経よりも前方に位置する。このような神経の配置は有爪動物に類似である。従って、アノマロカリス類の前部付属肢は、真節足動物の上唇と有爪動物の触角相同[1]、中大脳性の真節足動物の鋏角、第一触角およびMegacheira類の大付属肢とは相同でないことが明らかになった[6]。節足動物の初期系統(ステムグループ)として位置されるアノマロカリス類の有爪動物との脳の類似点も、このような神経構造は、節足動物と有爪動物の最後の共通祖先の祖先形質であることを示唆する[1]

2018年、L. unguispinusの幼生化石が発見され、成体と同じように発達した前部付属肢にあることが分かった。これにより、肉食性のアノマロカリス類は多くの現生肉食性節足動物のように、幼生から既に捕食者であることが示唆される[4]

脚注編集

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n Peiyun Cong; Xiaoya Ma; Xianguang Hou; Gregory D. Edgecombe; Nicholas J. Strausfeld (2014). “Brain structure resolves the segmental affinity of anomalocaridid appendages”. Nature 513 (7519): 538–42. doi:10.1038/nature13486. PMID 25043032. 
  2. ^ a b c d e f g Cong, Peiyun; Daley, Allison C.; Edgecombe, Gregory D.; Hou, Xianguang; Chen, Ailin (2016). “Morphology of the radiodontan Lyrarapax from the early Cambrian Chengjiang biota”. Journal of Paleontology: 1. doi:10.1017/jpa.2016.67. 
  3. ^ “Arthropod eyes: The early Cambrian fossil record and divergent evolution of visual systems” (英語). Arthropod Structure & Development 45 (2): 152–172. (2016-03-01). doi:10.1016/j.asd.2015.07.005. ISSN 1467-8039. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803915000638. 
  4. ^ a b c d e f g h i Liu, Jianni; Lerosey-Aubril, Rudy; Steiner, Michael; Dunlop, Jason A.; Shu, Degan; Paterson, John R.. “Origin of raptorial feeding in juvenile euarthropods revealed by a Cambrian radiodontan” (英語). National Science Review. doi:10.1093/nsr/nwy057. https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwy057/5025873. 
  5. ^ Cong, Pei-Yun; Edgecombe, Gregory D.; Daley, Allison C.; Guo, Jin; Pates, Stephen; Hou, Xian-Guang (2018-06-23). “New radiodonts with gnathobase-like structures from the Cambrian Chengjiang biota and implications for the systematics of Radiodonta” (英語). Papers in Palaeontology. doi:10.1002/spp2.1219. ISSN 2056-2802. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/spp2.1219. 
  6. ^ a b “Origin and evolution of the panarthropod head – A palaeobiological and developmental perspective” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 354–379. (2017-05-01). doi:10.1016/j.asd.2016.10.011. ISSN 1467-8039. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803916301669. 

関連項目編集

外部リンク編集