ゴールデンラズベリー賞

アメリカの映画賞
ラジー賞から転送)

ゴールデンラズベリー賞(ゴールデンラズベリーしょう、: Golden Raspberry Award)は、アメリカ映画賞。毎年、アカデミー賞授賞式の前夜に「最低」の映画を選んで表彰するもので、ラジー賞(Razzies)とも呼ばれている。

ゴールデンラズベリー賞
受賞対象最低の映画
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
主催ゴールデンラズベリー賞財団
初回1981年3月31日
公式サイトhttps://www.razzies.com/index.html

歴史 編集

UCLAから映像製作・映画宣伝の道に進んだジョン・J・B・ウィルソンにより1981年に創設された。

初期は正真正銘のB級映画が各部門受賞を独占することが多かったが、近年は、輝かしい実績があるにもかかわらずどうしようもない役柄を演じてしまった俳優や、前評判と実際の出来のギャップが著しい大作などが受賞する傾向にある。

この賞自体が一種のユーモア洒落)であり、本当にくだらない、つまらない作品を選ぶ場合もあるが、一方で出来はよいが惜しい作品や、強烈なカリスマ性や異色性が強すぎて一般ウケしない作品に与えられることもあり、この受賞がきっかけで衆目を集め、意外によく出来た面白い作品として評価されることがある。

また、俳優に与えられる賞も、必ずしも酷い演技をした役者が受賞するわけではなく、第1回の『ジャズ・シンガー』で受賞したニール・ダイアモンドは同じ作品でラジー賞とゴールデングローブ賞を同時受賞している。

また、上述のように一種のジョーク賞であることから、受賞した作品が「一般受け」はしないが、マニアからは「カルト映画」と評価される場合もある(『フォード・フェアレーンの冒険』『ハドソン・ホーク』『ショーガール』など)。

なお、ジョージ・W・ブッシュ大統領を激しく批判する内容で製作され、そのブッシュ大統領が最低主演男優賞を獲得した『華氏911』や、狙いそのままに「最優秀頭からっぽティーン向け作品賞」を受賞した『ジャッカス・ザ・ムービー』のように、遠回しに正の評価を贈られた作品も希ながらある。

第32回(2011年度)には『ジャックとジル』が初の全部門制覇を果たしている。

2023年1月25日、事務局は第43回(2022年度)の最低女優賞候補としていたライアン・キーラ・アームストロングのノミネートを撤回して謝罪した。アームストロングは12歳で「炎の少女チャーリー」(リメイク版)で主演女優を務めていたが、将来のキャリアを台無しにしかねないとして批判を受けていた[1]

名称 編集

「野次」を意味する「Razz」から命名された「Razzie Award」が正式な賞名であるが、「Razz」のもうひとつの意味である「Raspberry」(ラズベリー:木イチゴ)の実を模したトロフィーのデザインにより「Golden Raspberry Award」とも呼ばれる。

また、英語の「ラズベリータルト」(raspberry tart)が「fart」(おなら) と韻を踏んでいることから、ラズベリーはおならをまねた音、すなわちブーイングの音を指すようになった[注 1]。賞の名はこのことにも掛かっている。

トロフィーは、ゴルフボールで作ったラズベリーを金色に塗装し8mmフィルム缶に乗せ、木目の入った台所用壁紙を巻いてタイトルを貼り付けただけの貧乏臭いデザインである。制作価格はわずか4ドル79セントほどと言われるが、近年は8mmフィルムが市場から姿を消しつつあるため手に入りにくく、価格は上昇傾向にある。 

選考 編集

ラジー賞は米映画アカデミーの会員による投票・審査で受賞が決定されるアカデミー賞と同じく、「ゴールデンラズベリー賞財団」の会員による投票で受賞作品を決定する。ただし実績ある映画業界人によるアカデミーと違い、ラジー賞選考には一般の映画ファンが小額の会費(2013年現在、新規会員は40ドル)を払うだけで投票権を有する事もできる。また、2作品が同一部門で受賞する事もある。

主要部門は毎年変わらないが、その年だけの部門が作られているのも、ラジー賞の特徴である。

第35回(2014年度)には名誉挽回賞The Razzie Redeemer Award)が新設された。これはラジー賞の常連や、ラジー賞を受賞したことで有名な俳優や監督を対象とし、その年にアカデミー賞ノミネートなどの功績を挙げて「名誉挽回」した者に贈られる特殊な賞である。新設された2014年度は事あるごとに酷評される『ジーリ』のベン・アフレックが、2015年度はラジー賞のチャンピオンとまで称されたシルヴェスター・スタローンが受賞した。

第36回(2015年度)には商業的にも批評的にも失敗した作品を対象とするバリー・L・バムステッド賞(Barry L. Bumstead Award)が新設された。これはゴールデングローブ賞におけるセシル・B・デミル賞のパロディである。

一方、第42回(2021年度)では、特別賞として「2021年公開映画で見せたブルース・ウィリスの最低演技賞」が設けられ、ウィリスを特別に腐す趣向が設けられたが、その4日後にウィリスが失語症を理由に俳優業からの引退を公表したことを受けて、これら賞の撤回を行っている[2][3]。同様に、第1回において最低主演女優賞にノミネートされたシェリー・デュヴァル(『シャイニング』)に対しても、現在ではスタンリー・キューブリックによって精神的に追い詰められていたことがわかっており、今回のウィリスへの対応に合わせて彼女へのノミネートも同様に撤回されることが公表された[4]

授賞式 編集

例年、本家アカデミー賞の授賞式の前日に授賞式が開催されていたが、第32回のラジー賞はノミネート発表がアカデミー賞前日の2012年2月25日、授賞式はエイプリルフールの同年4月1日に行われた。第33回ラジー賞の授賞式は再びアカデミー賞の前日に戻り、ノミネート発表が2013年1月9日、授賞式が同年2月23日(現地時間)に行われた。

賞の意味合いからトロフィーを受け取りにくる者はほとんどいないが、第8回でラジー史上初めてトロフィーが受賞者の手に渡っている。当年、『ビル・コスビーのそれ行けレオナルド』で3部門受賞したビル・コスビーは、授賞式に出席はしなかったが作品の失敗を自ら認めており、のちに出演したテレビ番組の中でそのトロフィーを受け取った。

 
第30回授賞式に出席したサンドラ・ブロック

授賞式でのトロフィー授与が初めて実現したのは第16回授賞式で、最低作品賞・監督賞など7部門を受賞した『ショーガール』のポール・バーホーベン監督が出席し、「蝶からサナギになった気分だ」とコメントした。以降、第22回の授賞式には最低作品賞・監督賞など5部門を受賞した『フレディのワイセツな関係』の監督・主演のトム・グリーンが、第25回の授賞式には『キャットウーマン』(最低作品賞・監督賞など4部門受賞)で最低主演女優賞を受賞したハル・ベリーらが出席し、その懐の深さに授賞式参加者は満場の喝采を贈った。

特にハル・ベリーは『チョコレート』で受賞したオスカー像を持参して左手に持ち、右手にはラジー像を抱えてアカデミー賞主演女優賞を受賞した際の自身のスピーチのパロディを演じ切り、涙まで流して見せたことで聴衆から大喝采を得た。子供のころに母親から「胸を張って負け犬になれない者は、勝者にもなれない」と言われたことが出席した理由だと語った。

第30回では最低主演女優賞と最低スクリーンカップル賞を受賞したサンドラ・ブロックがハル・ベリー以来の授賞式出席を行ったが、彼女はアカデミー賞の主演女優賞にも選ばれ、史上初めて同じ年に両方の賞を受賞した。ただ、ブロックはこの際に「一つしかないオリジナルのトロフィー」を持ち帰ってしまっており(受賞者にはレプリカが渡されるが、受賞会場に受賞者が現れることはまれであるため、このようなハプニングが起こってしまった)、実行委員会がブロックに返却を求める事態となっている[5]

受賞作品(主要部門) 編集

1980年(第1回) 編集

1981年(第2回) 編集

1982年(第3回) 編集

1983年(第4回) 編集

1984年(第5回) 編集

1985年(第6回) 編集

1986年(第7回) 編集

1987年(第8回) 編集

1988年(第9回) 編集

1989年(第10回) 編集

10周年特別賞 編集

1990年(第11回) 編集

1991年(第12回) 編集

1992年(第13回) 編集

1993年(第14回) 編集

1994年(第15回) 編集

1995年(第16回) 編集

1996年(第17回) 編集

1997年(第18回) 編集

1998年(第19回) 編集

1999年(第20回) 編集

特別大賞 編集

2000年(第21回) 編集

2001年(第22回) 編集

2002年(第23回) 編集

2003年(第24回) 編集

2004年(第25回) 編集

ラジー賞創設25周年特別大賞 編集

2005年(第26回) 編集

2006年(第27回) 編集

2007年(第28回) 編集

2008年(第29回) 編集

2009年(第30回) 編集

2000年代最低賞 編集

2010年(第31回) 編集

2011年(第32回) 編集

2012年(第33回) 編集

2013年(第34回) 編集

2014年(第35回) 編集

2015年(第36回) 編集

2016年(第37回) 編集

2017年(第38回) 編集

2018年(第39回) 編集

2019年(第40回) 編集

2020年3月14日に予定されていた授賞式は新型コロナウイルス感染症流行の影響で中止となり、最低賞は3月16日に財団のYouTubeチャンネルで発表された[14]

2020年(第41回) 編集

2021年(第42回) 編集

  • 最低映画賞:『ダイアナ:ザ・ミュージカル』
  • 最低主演男優賞:レブロン・ジェームズ(『スペース・プレイヤーズ』)
  • 最低主演女優賞:ジーナ・デ・ヴァール(『ダイアナ:ザ・ミュージカル』)
  • 最低助演男優賞:ジャレッド・レト(『ハウス・オブ・グッチ』)
  • 最低助演女優賞:ジュディ・ケイ(『ダイアナ ザ・ミュージカル』)
  • ブルース・ウィリスの最低演技賞2021(特別賞):ブルース・ウィリス(『コズミック・シン』)
  • 最低スクリーンカップル賞:レブロン・ジェームズ&彼がドリブルしたワーナーのカートゥーンキャラクター(もしくはタイム・ワーナーの製品)(『スペース・プレイヤーズ』)
  • 最低監督賞:クリストファー・アシュレイ(『ダイアナ:ザ・ミュージカル』)
  • 最低脚本賞:ジョー・ディピエトロ(『ダイアナ:ザ・ミュージカル』)
  • 最低リメイク・パクリ・続編賞:『スペース・プレイヤーズ』

2022年(第43回) 編集

2023年(第44回) 編集

  • 最低作品賞:『プー あくまのくまさん
  • 最低主演男優賞:ジョン・ヴォイトマーシー
  • 最低主演女優賞:ミーガン・フォックス『バトル・オブ・ザ・キラーズ』
  • 最低助演女優賞:ミーガン・フォックス『エクスペンダブルズ ニューブラッド
  • 最低助演男優賞:シルヴェスター・スタローン『エクスペンダブルズ ニューブラッド』
  • 最低スクリーンカップル賞:血に飢えた切り裂き魔/殺人鬼としてのプー&ピグレッド『プー あくまのくまさん』
  • 最低リメイク、パクリ、続編賞:『プー あくまのくまさん』
  • 最低監督賞:リース・ウォーターフィールド『プー あくまのくまさん』
  • 最低脚本賞:『プー あくまのくまさん』
  • ラジー名誉挽回賞:フラン・ドレシャー(1998年に最低主演女優賞にノミネートされた、現SAG / AFTRA(全米映画俳優組合)会長のフラン・ドレシャーは、俳優組合を見事に導き、2023年の長期にわたるストライキを成功裏に終結させた)

子役のノミネートに対する批判 編集

2023年度のラズベリー賞の「最低女優賞」候補として、映画『炎の少女チャーリー』で当時12歳で主演した子役ライアン・キーラ・アームストロングが選ばれたことが1月に発表された。これに対し、「まだ幼い子役をネガティヴな意味合いの賞の候補にする」という点で物議をかもし各方面から批判の声が相次いだ。『ワンダヴィジョン』などに出演する子役のジュリアン・ヒリアードも「そもそもラジー賞は意地悪な賞だけど、子どもをノミネートするのは間違っている。なぜ、子どもをいじめのリスクにさらすのか」とTwitterで苦言と疑問を呈し、映画監督のジョー・ルッソも「人々のがんばりを侮辱し続けるのであれば(するべきではないが)、ターゲットは大人であるべきだ」と怒りの声を上げた[17]

これに応じ、ラジー賞共同創設者のジョン・ウィルソンは同月の25日に声明を発表し「自分たちがどれほど無神経だったかに気付くきっかけとなった」と述べて陳謝した。同時にアームストロングを候補から外すと共に18歳未満の俳優やフィルムメーカーは候補の対象外とすると発表しつつ「我々は誰かのキャリアをつぶすつもりはない」と釈明した[17]

なお、子役のノミネートはこれが初めての事ではなく、これ以前にもマコーレー・カルキンが1994年に『リッチー・リッチ』等の出演に際して「最低男優賞」候補としてノミネートされている。また、1999年公開の『スター・ウォーズ エピソードI/ファントム・メナス』において、当時8歳でアナキン・スカイウォーカーを演じたジェイク・ロイドは、同作への出演で「最低助演男優賞」にノミネートされことが原因で学校で陰湿ないじめに遭い引退に追い込まれた顛末を明かしている[17]

類似する賞 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 記事「ラズベリー (スラング)」、英辞郎Rasberry」「raspberry tart」の項目を参照のこと。コックニー押韻俗語英語版 の一種である。
  2. ^ 第2回(1981年度)で最低作品賞を受賞している。
  3. ^ 第16回(1995年度)で7冠を果たしている。
  4. ^ 2001年9月11日アメリカ同時多発テロ発生時にジョージ・W・ブッシュが子どもたちに読み聞かせていた絵本『The Pet Goat』を指している。
  5. ^ 第21回(2000年度)で7冠を果たしている。

出典 編集

  1. ^ 12歳女優の「最低女優賞」ノミネート撤回、ラジー賞が謝罪”. CNN (2023年1月26日). 2023年2月6日閲覧。
  2. ^ “ラジー賞、B・ウィリスの「最低賞」撤回 失語症公表で”. ロイター通信. (2022年4月1日). https://jp.reuters.com/article/awards-razzies-idJPKCN2LT2Y4 2022年4月1日閲覧。 
  3. ^ 最低映画や俳優に贈られるゴールデンラズベリー賞、引退ブルース・ウィリスの受賞取り消し”. 日刊スポーツ (2022年4月1日). 2022年4月1日閲覧。
  4. ^ ブルース・ウィリスの最悪映画賞受賞撤回、失語症の公表受け”. CNN.co.jp (2022年4月1日). 2022年4月1日閲覧。
  5. ^ サンドラ・ブロックさん、ラジー賞のトロフィーを返してください!主催者が悲痛な訴え”. シネマトゥデイ (2010年4月19日). 2010年4月19日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j アカデミー賞前夜に最低映画決定、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」が5冠”. 映画ナタリー (2016年2月28日). 2016年2月29日閲覧。
  7. ^ “Razzie Awards Mock 'Fifty Shades of Grey,' Redeem Sylvester Stallone” (英語). The Hollywood Reporter. http://www.hollywoodreporter.com/news/razzie-awards-mock-fifty-shades-870615 2018年11月20日閲覧。 
  8. ^ a b c d e f g h i j 最低映画ラジー賞で「バットマンvsスーパーマン」4冠、名誉挽回賞はメル・ギブソン”. 映画ナタリー (2017年2月26日). 2017年2月26日閲覧。
  9. ^ Razzies 2017 Winners Announced: Batman v Superman "Loses" Worst Picture But Still "Wins" Big”. E Online. E!. 2017年11月20日閲覧。
  10. ^ a b The Emoji Movie named worst picture at the 2018 Razzies”. The Guardian (2018年3月3日). 2019年2月24日閲覧。
  11. ^ ドウェイン・ジョンソン、ラジー賞を「快く受け取る」”. CNN.co.jp (2018年3月8日). 2018年11月20日閲覧。
  12. ^ Razzie Awards Include Kevin Spacey In “In Memoriam” Segment”. NewNowNext (2018年3月4日). 2019年2月24日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i j k Trump picks up two Razzies as Holmes & Watson dominates worst of Hollywood”. The Guardian (2019年2月23日). 2019年2月24日閲覧。
  14. ^ Kimberly Nordyke , Annie Howard (2020年3月16日). “'Cats' Leads Razzie Awards 'Winners' After Coronavirus Cancels Ceremony”. The Hollywood Reporter. 2020年5月17日閲覧。 40th Razzie Awards: The Lock-Down Edition - YouTube
  15. ^ a b c d e f g h i LIST: The winners of the 2021 Razzie Awards”. 2023年1月30日閲覧。
  16. ^ 2021 Razzie Awards Winners Include Sia's Music, the My Pillow Guy and Rudy Giulia”. 2023年1月30日閲覧。
  17. ^ a b c 12歳の子役が「最低女優賞」ノミネート⇒批判殺到で撤回。過去にはいじめに苦しんだ子役も”. HUFFPOST (2023年6月19日). 2023年6月19日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集