ラディカル・フェミニズム
ラディカル・フェミニズム(英: radical feminism、急進的女性主義[1]
ファイアーストーン、ウィルズは結婚、家族そのものを女性抑圧の元凶とした。また、ティ=グレイス・アトキンソン(Ti-GraceAtkinson)、パメラ・キーロンはプロウーマンラインを強調し、異性愛至上主義に踏み込んで批判を展開した。アリス・エコルズはアトキンソンがザフェミニスツを最もラディカルな組織であると印象づけようとしたが、失敗したとし、分担制を採用したことで組織はファシズムに向かったと論じている。組織の中心となったバーバラ・メルホフ(BarbaraMehrhof)とシェイラ・クロナン(Sheila・Cronan)は「男性の興隆」と題する論文を書き、男女関係は政治的なものであり、男性は権力を持ち、女性は持たないとし、「母性、結婚、売春は男性を支える組織であり、結婚は男性の性欲に奉仕するための組織である」とし、女性のセクシュアリティーをむしろ否定することにより、解放を得る言説を強化した。1971年後半になると、すべての既婚女性から会員資格が剥奪された。ファイアーストーンは内部抗争に疲れ果てた末に退会し、新左翼内の女性差別を批判する一方で、「ラディカルフェミニズムは新左翼の革命思想が革命的すぎるから批判するのではなく、十分に革命的ではないために批判する」とした。その後、彼女自身は「フェミニスト社会主義」をめざした。アリス・エコルズは、ラディカルフェミニズムの運動を総括し、1973年には運動が内部抗争以降に明らかに衰退した原因として、エリート主義、中産階級中心、(ラディカルフェミニズム)女性間の協調のなさを挙げた。サラ・チャイルドは 1983年になって、60年代フェミニズムを振り返り、「私のラディカルな考え方は決定的に間違っていた」と述べ、その理由を白人女性中心であったことを指摘した。</ref>[2][3]、急進的フェミニズム[4])とは、リベラル・フェミニズムへのアンチテーゼであり、社会変革や男女平等を主張しながらも女性へ従来の補助的・性的役割を押し付けてきた新左翼・マルクス主義への失望から誕生したラディカルなフェミニズムの一形態である[5][1][6]。略す際には、ラディフェミとされる[7][8]。
概要 編集
ラディカル・フェミニズムは、性支配一元論をとり、男性を抑圧者とみなし、女・男の利害は競合・敵対すると考える[5][1]。リベラル・フェミニズムよりも、差異派フェミニズム・分離主義なフェミニズムであり、女・男の分離を前提としたうえで、女性という性別を前提とし、「女性という集団」独自の存在意義を強調する[5][8]。結婚・母性・異性愛・家族・性交という諸制度で女性は抑圧されており、それらは女性たちを現状に留めるために構築されており、家族単位でこれらを維持しているとの思想[1]。マルクス主義フェミニズムと共に、革命より改良を目指すリベラルフェミニズムや結婚など上記諸制度に否定的である[9]。
ラディカル・フェミニズムは「異性愛至上主義」を批判した。男性との恋愛・結婚・家庭そのものを女性抑圧の元凶とし、「母性、結婚、売春は男性を支える組織であり、結婚は男性の性欲に奉仕するための組織である」とした。ただし、これはフェミニストの間でも賛否の割れるラディカルな主張であり、男性と恋愛している者・既婚女性排除につながったため、ラディカルフェミズムは組織内で対立と分裂が度々起こった[1][5][10]。
ラディカル・フェミニズムは、労働条件等の法的男女平等化を訴求するところはリベラルフェミニズム[11]やソーシャル・フェミニズム[12][5]に共通する。一方で、それらの改善で満足せず、しばしばデモ活動により、メディアやミスコンなどにおけるジェンダー・バイアスを批判してきた[8][5]。そうした活動を通じて、セクシュアルハラスメントやドメスティックバイオレンス、セカンド・レイプなどの概念を創出してきた[5]。
新左翼・マルクス主義からの独立と対立 編集
ラディカル・フェミニズムは、1960年代末にマルクス主義・既成左翼を甘いと批判した新左翼運動の内部で、社会革命が目的にも関わらず新左翼男性らに従来の補助的・性的役割を押し付けられた女性たちの失望から始まった[1][6]。1970年に出版されたケイト・ミレットの『性の政治学』と、シュラミス・ファイアーストーンの『性の弁証法』を思想的支柱とする。ミレットは、「家父長制」を男性が女性に性的従属を強いるシステムであると定義し、これが私的領域から公的領域に至るまで影響を及ぼしていると批判。男女の性差は家父長制の産物であるとした。またファイアーストーンは、女性の生殖能力も男性優位を前提とした階層構造を発展・維持させている要因であると論じた。更にマルクス主義フェミニズムはマルクス主義の史的唯物論にラディカル・フェミニズムを取り入れたことで生まれた。しかし、マルクス主義フェミニズムはラディカル・フェミニズムを「観念論」と見なし、「市場」と「家族」の相互依存関係も問うべきと批判している。更には新左翼・マルクス主義フェミニズム派が資本主義社会・企業のために女性を含めた労働者階級は抑圧されていると主張すると、ラディカルフェミニズム派はマルクス主義の男性中心主義を指摘・男性からの抑圧は資本主義社会だけではなく、マルクス主義で用いる階級分析論だと女性こそが抑圧された階級と位置づけ対立した[1][13][6]。日本では1990年代に行われたマルクス主義フェミニストの上野千鶴子とラディカル・フェミニストの江原由美子による論争が知られている[14]。
マルクス主義フェミニスズムとの共通点 編集
反結婚・反専業主婦 編集
ラディカルフェミニストの小倉千加子は、近代の枠組みを認める「保守」とリベラル・フェミニズムを例え、近代の枠組みを認めない「破壊」とラディカル・フェミニズムを例えている。小倉は2002年の著書でリベラルフェミニズムは衰退し、ラディカルフェミニズムが勝ったと主張している。そして、夫は仕事と家事、妻は家事と趣味的仕事という新専業主婦社会は実現しないと主張している。そして、ラディカルフェミニストはマルクス主義フェミニストと共に、結婚に否定的である。結婚しているのにフェミニストを名乗る女性について、結婚することで結婚制度を擁護していると否定的見解を述べている。マルクス主義フェミニストである上野千鶴子も結婚とフェミニズムは相容れないとし、フェミニストと自認する専業主婦については論理矛盾と強く批判している[9]。
ラディカル・フェミニズムは、「個人的なことは政治的である」というスローガンの下、女性の抑圧は階級的抑圧など他の抑圧には還元することができないものだと主張している。 従来の(リベラル)フェミニズム活動が女性の地位の向上や社会参加を推進するための法的平等要求活動なのに対して、ラディカル・フェミニズムの活動は活動家たちが「女性差別的」と判断した文化や慣習などのモノの排他要求活動である。 ラディカルフェミニストのアンドレア・ドゥウォーキンは、「結婚とはレイプを正当化する制度」と述べ、結婚をレイプと同一視している[15]。
反ポルノ(反AV)・反セックスワーク 編集
ラディカル・フェミニズムを端的に象徴するものとして、性にポジティブな立場をとるフェミニストと対立するポルノグラフィ撲滅運動がある。ラディカル・フェミニストは、ポルノグラフィに出演した女性の被害例(身体的・精神的暴力を伴う撮影など)や、ポルノグラフィが男性による性犯罪・ドメスティックバイオレンス・セクシャルハラスメントを助長するとした強力効果論を挙げ、またポルノグラフィの存在を社会的に容認することは女性蔑視を再生産するものとし、女性解放の障害になっているとして、厳罰を伴う法的規制を求めている。1980年代に、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンらが展開した『反ポルノグラフィ公民権条例』運動は特に有名であり、ポルノ・買春問題研究会などの日本のラディカル・フェミニズム団体に多大な影響を与えている。
マルクス主義フェミニストの上野千鶴子は性交渉自体へは否定的ではないが、「そのセックス、やってて楽しいの?あなたにとって何なの?」って思っているとし、セックスワークには否定的である。
批判 編集
2022年6月、フェミニストの室井佑月[16]は週刊朝日において、AV出演被害防止・救済法の成立に反対する一部のフェミニストについて、「家父長制度に反対するどころか賛同することになるのではないか。女性は未熟だから契約はできないというのなら、家長という保証人を立てねば、自分で家も借りられないことになるし、ローンも組めないということになってしまう。フェミニズム運動とは、女性の解放運動ではなかったのか?」と苦言を呈した。室井はそうしたフェミニストをラディカルであるとして、「ラディカルといわれるフェミニストの間違いを指摘すると、途端に 『アンチフェミニスト』『ミソジニスト(女性差別主義者)』とレッテルを貼られ、寄ってたかってネットリンチという制裁を受ける。」と述べ、ラディカル・フェミニストを批判した。「戦時中、子供や夫を戦地へ送り出しても『戦争反対。戦争、嫌だ』といえなかったのは、同調圧力があったからだ。行き過ぎたラディカルフェミニストのやり方は、かつてのそれとそっくりではないか?」「戦争反対といえば愛国者じゃないと批判される。」としたうえで、「自分の間違いを決して認めず、その言葉を鎧(よろい)のように使う者は、自分だけが愛国者で、自分だけがフェミニストだと思い込んでいるところが怖い。」と批判している[7]。
代表的なラディカルフェミニスト 編集
ラディカルフェミニズム団体・サイト 編集
- メガリア/WOMAD - 韓国のラディカル・フェミニズム・コミュニティ[18][19][20][21][19]。
- イクオリティ・ナウ
- ポルノ・買春問題研究会
- ヒューマンライツ・ナウ
関連文献 編集
- マギー・ハム著、木本喜美子・高橋準監訳、『フェミニズム理論辞典』、明石書店、1999/07、ISBN 4750311723
- 吉沢夏子、『女であることの希望 ラディカル・フェミニズムの向こう側』、勁草書房、1997/03、ISBN 9784326651993
- ナディーン・ストロッセン著、松沢呉一監修、岸田美貴訳、『ポルノグラフィ防衛論ーアメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性』、ポット出版、2007/10、ISBN 9784780801057
- アンドレア・ドウォーキン著、寺沢みづほ訳、『ポルノグラフィ-女を所有する男達』、青土社、1991/04、ISBN 9784791751280
関連項目 編集
脚注 編集
出典 編集
- ^ a b c d e f g 栗原涼子 2010.
- ^ 「性别學與婦女硏究: 華人社會的探索」p126,Fanny M. Cheung、 張妙淸、 Han-ming Yip 1995年
- ^ “韓国を破滅に導く「フェミvs.アンチ・フェミ」の不毛すぎる対立(金 敬哲)”. 現代ビジネス. 2022年3月26日閲覧。
- ^ 松久玲子「1920年代のメキシコにおけるフェミニズム運動 ― メキシコ革命と婦人参政権運動のはざまで ―」『社会科学』第67巻、同志社大学人文科学研究所、2001年8月、1-19頁、CRID 1390572174865032576、doi:10.14988/pa.2017.0000008139、ISSN 0419-6759。
- ^ a b c d e f g “【特集1-2】フェミニズム(三成美保)”. 比較ジェンダー史研究会. 2021年11月18日閲覧。
- ^ a b c 上野千鶴子『家父長制と資本制 : マルクス主義フェミニズムの地平』岩波書店、1990年、12頁。ISBN 400000333X。全国書誌番号:91012051 。
- ^ a b “室井佑月「やっぱりわからない」”. AERA dot.. 2022年7月14日閲覧。
- ^ a b c 世界第 10~12 号 - p95,1997年,岩波書店
- ^ a b 上野千鶴子, 小倉千加子『ザ・フェミニズム』筑摩書房、2002年。ISBN 4480863370。全国書誌番号:20314266。
- ^ 「現代フェミニズム理論の地平: ジェンダー関係・公正・差異」p35 ページ ,有賀美和子 , 2000年
- ^ フェミニズムには多様な潮流がある。もっとも長い歴史をもつのがリベラル・フェミニズムである。これはかつてフェミニズムの主流派を占め、法や文化における性的平等の認識を支配した。リベラル・フェミニズムは、「性的平等」の権利を、「性別に基づき他者と異なる扱いをうけることはないという個人の権利」と定義する。平等が達成されるのは、集団であれ個人であれ、女性が男性と社会的に平等になったときではなく、女・男ともに、個人が自分自身の選択により自己の利益を最大限に追求することができる選択権を保障されたときとされる。
- ^ ソーシャルフェミニズムは個人主義を基礎に置くリベラル・フェミニズムとは異なり、女性抑圧の根源を資本主義に求めた。主体としての女性についても、「個人」としての女性を問題視するのではなく、「女性という集団」を論じようとする。他方で、平等化達成のためには体制変革が必要であると考え、抑圧された他の諸集団との連携を重視する。
- ^ “ミレットとファイアーストーン”. 2009年9月12日閲覧。
- ^ “1990年前後発行の上野千鶴子と江原由美子によるフェミニズム論争が載っている論文を探している。”. レファレンス協同データベース. 2021年11月18日閲覧。
- ^ 『ポルノグラフィ―女を所有する男達』p38,アンドレア・ドウォーキン, 寺沢みづほ(翻訳),青土社,1991年,ISBN 9784791751280
- ^ “社会学者・宮台真司が室井佑月に「フェミニズム」を説く!文化の男化が進むと持続可能性が破壊される!?”. 文化放送 (2022年4月22日). 2023年2月10日閲覧。
- ^ “フェミニストを免罪符にするな これ以上「女を盾に」するのはやめろ|室井佑月の「嗚呼、仰ってますが。」”. 日刊ゲンダイDIGITAL. 2023年2月10日閲覧。
- ^ “女性嫌悪もすごいが男性嫌悪もすごい!? 芸能人を追い込み遺族を愚弄する「韓国ネット民の闇」 (2019年9月20日) - エキサイトニュース(7/8)”. エキサイトニュース. 2022年6月13日閲覧。
- ^ a b “韓国文学ブーム引っ張る「女性作家たち」の凄み | 「韓国フェミニズム」知られざるその後”. 東洋経済オンライン (2022年2月23日). 2022年6月13日閲覧。
- ^ Lee, Claire (2018年8月9日). “South Korean authorities face backlash over warrant for radical feminist site operator” (英語). The Korea Herald. 2022年3月26日閲覧。
- ^ “Controversy over radical feminist website growing” (英語). koreatimes (2018年8月12日). 2022年6月13日閲覧。
参考文献 編集
- 栗原涼子「ニューヨークにおけるラディカルフェミニズムの運動と思想」『學苑』第835巻、光葉会、76-88頁、2010年5月。ISSN 13480103 。