ラディトール英語: Radithor)は、アメリカ合衆国でかつて販売されていた特許薬英語版放射線偽医療英語版の代表例として知られており、特に放射線ホルミシスの原理を過度かつ広範に、疑似科学的に応用したものである。ラディトールは3回蒸留を行った蒸留水と、ラジウム226と228が其々最低1マイクロキュリー(1μCi)(=37キロベクレル(37kBq))とで構成されていた。

国立原子力博物館に展示されているラディトールの瓶(米国ニューメキシコ州

ラディトール及び放射性薬は1932年に終わりを迎えたが、それはアメリカの実業家であり億万長者であり、かつラディトールの最も熱烈な使用者の一人であったエベン・バイヤーズの早すぎる死によるものであった。ラディトールの歴史は、放射線ホルミシスの過度な疑似科学的応用であると考えられている。そして、ラディトールは医薬品及び放射性製品の規制管理の強化に繋がった。

歴史 編集

ラディトールは、1918年から1928年の間に、ニュージャージー州イーストオレンジのベイリー・ラジウム・ラボラトリーズ社(英語: Bailey Radium Laboratories, Inc.,)によって製造された。この会社の所有者かつ代表者はウィリアム・J・A・ベイリーであった。彼は、ハーバード大学中退した人物であり[1]医学博士も保持していなかった[2]。ラディトールは、「生ける屍の治療法(英語: A Cure for the Living Dead[3]」や「永久の快活(英語: Perpetual Sunshine)」と宣伝された。この高額な品は、他の病気の中でも、特に勃起不全に効果があるとされていた[4]

イェール大学出身で、裕福なアメリカ合衆国のソーシャライトであり、アマチュアゴルファーであり、実業家でもあったエベン・バイヤーズは、1932年にラディトールに含まれるラジウムによる放射線中毒により死亡した[5]。バイヤーズは、で裏打ちされた棺で埋葬された。1965年に研究のために墓が掘り起こされた際には、彼の身体は未だに高い放射能を持っており、その放射能を計測すると225,000ベクレルであった[4]。比較すると、凡そ0.0169グラムカリウム40が一般的な人の体内に存在しているとされるが、その放射能は凡そ4,400ベクレルである[6]

バイヤーズの死は、アメリカ食品医薬品局の権限強化の切っ掛けとなり、加えてほとんどの放射線を基礎に据えた特許薬英語版の終焉へと繋がった。1990年8月1日ウォール・ストリート・ジャーナルは、バイヤーズの悲劇を「ラジウム水はよく効いた、彼の顎が腐り果てるまで(英語: The Radium Water Worked Fine Until His Jaw Came Off)」と題し、記事を掲載した。

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ “Medicine: Radium Drinks”. Time. (Apr 11, 1932). http://content.time.com/time/magazine/article/0,9171,743525,00.html 2010年7月11日閲覧。. 
  2. ^ Literary Digest, 16 April 1932 Archived 3 December 2010 at the Wayback Machine.
  3. ^ Radium Cures – museumofquackery.com museumofquackery.com
  4. ^ a b Jorgensen, Timothy J. (2016年11月2日). “When 'energy' drinks actually contained radioactive energy”. The Conversation US. https://theconversation.com/when-energy-drinks-actually-contained-radioactive-energy-67976 2016年11月4日閲覧。 
  5. ^ “Death Stirs Action on Radium 'Cures'. Trade Commission Speeds Its Inquiry. Health Department Checks Drug Wholesalers. Autopsy Shows Symptoms. Maker of "Radithor" Denies It Killed Byers, as Does Victim's Physician in Pittsburgh. Walker Uses Apparatus. Friends Alarmed to Find Mayor Has Been Drinking Radium-Charged Water for Last Six Months.”. New York Times. (1932年4月2日). https://select.nytimes.com/gst/abstract.html?res=FA0F16F93D5A13738DDDAB0894DC405B828FF1D3 2011年10月1日閲覧. "Federal and local agencies, as well as medical authorities in various parts of the country, were stirred to action yesterday as a result of the death of Eben M. Byers, wealthy Pittsburgh steel manufacturer and sportsman, who died here Wednesday at the Doctors' Hospital from causes attributed to radium poisoning resulting from the drinking of water containing radium in solution. ..." 
  6. ^ Radioactive Human Body” (英語). sciencedemonstrations.fas.harvard.edu. 2021年1月21日閲覧。

外部リンク 編集