ラドン222

ラドンの同位体

ラドン222(Radon-222、222Rn、Rn-222、古名:ラジウム・エマナチオンまたは単にラドン)は、ラドンの中で最も安定した同位体で、半減期は約3.8日である。原始核種ウラン238崩壊系列の中で一過性に生じるものであり、ラジウム226の直接の崩壊生成物でもある。ラドン222は1899年に初めて観測され、その数年後に新元素同位体として同定された。1957年には、それまでラドン222のみを指す名称であった「ラドン」という呼び方が、元素の名称となった。ラドン222は、その気体である性質と高い放射能の為、肺癌の主要な原因の1つとなっている。

ラドン222
概要
名称、記号 ラジウム・エマナチオン,222Rn
中性子 136
陽子 86
核種情報
天然存在比 Trace
半減期 3.8215 日
親核種 226Ra (α)
崩壊生成物 218Po
同位体質量 222.0175763 u
スピン角運動量 0
α崩壊 5.5904 MeV

歴史編集

1898年に放射性鉱石の化学分析によるラジウムの発見に続き、1899年にはマリピエール・キュリーがラジウムから発せられる新しい放射性物質を観測し、数日間にわたって強い放射性を観測した[1]。同じ頃、アーネスト・ラザフォードロバート・ボウイ・オーウェンズトリウム化合物から同様の放射性物質(寿命は短い)を観測している[2]:8。ドイツの物理学者フリードリッヒ・エルンスト・ドルンは、1900年代初頭にこれらの放射物を徹底的に研究し、新種のガス状元素であるラドンの所為だと考えた。特に、ウラン系列の生成物であるラドン222を研究し、これを「ラジウム・エマナチオン」(radium emanation)と名付けた[3]

20世紀初頭、ラドンという元素には幾つかの呼び名があった。この元素の化学的性質を広く研究していた化学者のウィリアム・ラムゼーが「ニトン」(niton)という名前を提案し、ラザフォードが「エマネーション」(emanation)という名前を提案した。当時、ラドンは222Rnという同位体のみを指し、219Rnと220Rnは其々アクチノン(actinon)とトロン(thoron)と呼ばれていた[4]。1957年、国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、同位体の命名規則に基づいて、ラドンという名称を222Rnだけではなく、元素を指すものとして推奨した[4]。この決定は、ラザフォードがラドン220を同定した事よりも、ドーンがラドン222を同定した事を不当に高く評価していると考えられ、議論を呼んだ。また、ラドンという名称が歴史的に使用されて来た事で、元素と同位体222Rnのどちらが議論されているのかについて混乱が見られた[4]

崩壊特性編集

 
ウラン238の崩壊系列はウラン系列またはラジウム系列と呼ばれ、ラドン222はその一員である。

ラドン222は、ウラン系列で半減期1600年のラジウム226のα崩壊により生成される。ラドン222自体は半減期が約3.82日のポロニウム218にα崩壊し、ラドンの同位体の中で最も安定している[5]。その最終崩壊産物は安定した鉛206である。

理論的には、222Rnは222Raへの二重ベータ崩壊が可能であり、質量測定によっては222Frへの一重ベータ崩壊も可能であるとされている[6][注 1]。これらの崩壊モードが探索された結果、両方の遷移の部分半減期英語版の下限が8年である事が判明した。もし222Rnのベータ崩壊が可能であれば、その崩壊エネルギーは非常に低く(24±21keV)、半減期は105年程度で、アルファ崩壊に比べて非常に低い分岐確率になると予測される[6]

発生と危険性編集

すべてのラドン同位体は、自身の放射能、ガス状の性質、化学的不活性、崩壊生成物(子孫核種)の放射能の為に危険である。特にラドン222は半減期が長い為、ウラン238の崩壊によって微量に生成されて土壌や岩石に浸透し、建物やウラン鉱山に濃縮されてしまう。これは、他の天然同位体が遥かに早く崩壊する(半減期が1分未満)ので放射線被曝に大きく寄与しないのと対照的である[8]。高濃度のガス状の222Rnを吸い込むと、息を吐く前に減衰し、その娘核種である218Poと214Poが肺に蓄積され、高エネルギーのアルファ線ガンマ線が細胞を損傷する事になる。長期間222Rnとその子孫核種に曝されると、最終的に肺癌を引き起こす[8]。また、ラドンは、汚染された飲料水や摂取したラジウムの崩壊によって体内に入る可能性があり[9]、ラドンの拡散はラジウムの最大の危険性の一つである[10]。この様に、222Rnは発癌性がある。実際、米国ではタバコに次ぐ肺癌の原因となっており[9]、年間2万人以上がラドンによる肺癌が原因で死亡している[8][11]

関連項目編集

脚注編集

  1. ^ AME2016[7]222Rnの質量を222Frよりも小さくしており[5]、これは単一ベータ崩壊を禁じるものであるが、与えられた誤差の範囲内では可能であり、ベリらによって明確に予測されている。

出典編集

  1. ^ Fry, C.; Thoennessen, M. (2013). “Discovery of the astatine, radon, francium, and radium isotopes”. Atomic Data and Nuclear Data Tables 99 (5): 497–519. arXiv:1205.5841. Bibcode2013ADNDT..99..497F. doi:10.1016/j.adt.2012.05.003. 
  2. ^ Thoennessen, Michael (2016) (英語). The Discovery of Isotopes. Cham: Springer International Publishing. doi:10.1007/978-3-319-31763-2. ISBN 978-3-319-31761-8. http://link.springer.com/10.1007/978-3-319-31763-2 
  3. ^ George, A.C. (2008). “World History of Radon Research and Measurement from the Early 1900s to Today”. AIP Conference Proceedings 1034 (1): 20–36. Bibcode2008AIPC.1034...20G. doi:10.1063/1.2991210. https://www.rtca.com/pdfs/historical%20evolution%20of%20radon%20measurements.pdf. 
  4. ^ a b c Thornton, B.F.; Burdette, S.C. (2013). “Recalling radon's recognition”. Nature Chemistry 5 (9): 804. Bibcode2013NatCh...5..804T. doi:10.1038/nchem.1731. PMID 23965684. 
  5. ^ a b Audi, G.; Kondev, F. G.; Wang, Meng; Huang, W.J.; Naimi, S. (2017-03). “The NUBASE2016 evaluation of nuclear properties”. Chinese Physics C 41 (3): 030001. doi:10.1088/1674-1137/41/3/030001. ISSN 1674-1137. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1674-1137/41/3/030001. 
  6. ^ a b Belli, P.; Bernabei, R.; Cappella, C.; Caracciolo, V.; Cerulli, R.; Danevich, F.A.; Di Marco, A.; Incicchitti, A. et al. (2014). “Investigation of rare nuclear decays with BaF2 crystal scintillator contaminated by radium”. European Physical Journal A 50 (9): 134–143. arXiv:1407.5844. Bibcode2014EPJA...50..134B. doi:10.1140/epja/i2014-14134-6. 
  7. ^ Huang, W.J.; Audi, G.; Wang, Meng; Kondev, F. G.; Naimi, S.; Xu, Xing (2017-03). “The AME2016 atomic mass evaluation (I). Evaluation of input data; and adjustment procedures”. Chinese Physics C 41 (3): 030002. doi:10.1088/1674-1137/41/3/030002. ISSN 1674-1137. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1674-1137/41/3/030002. 
  8. ^ a b c EPA assessment of risks from radon in homes (Report). Office of Radiation and Indoor Air, United States Environmental Protection Agency. (2003). https://www.epa.gov/sites/production/files/2015-05/documents/402-r-03-003.pdf. 
  9. ^ a b EPA Facts about Radon (Report). United States Environmental Protection Agency. pp. 1–3. https://semspub.epa.gov/work/11/176336.pdf 2019年2月22日閲覧。. 
  10. ^ Radiation protection: Radium”. United States Environmental Protection Agency. 2015年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月22日閲覧。
  11. ^ Radon Fact Sheet: What it is, how it affects us, why it matters”. Air Chek, Inc.. 2019年2月22日閲覧。