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ラプトレックス学名Raptorex)は、ティラノサウルス科に属する疑問名恐竜モンゴル国あるいは中華人民共和国北東部で発掘されたと推測されている幼体の標本が1体のみ化石として発見されている。模式種は2009年ポール・セレノらが記載したラプトレックス・クリエグスティニ。属名はラテン語で「盗賊」を意味する raptor と「王」を意味するrex に由来する。種小名はホロコーストの生存者であるローマン・クリーグステインの栄誉を称えたもので、科学的研究のため標本をシカゴ大学に寄贈したヘンリー・クリーグステインの父にあたる[1][2]

ラプトレックス
生息年代: 白亜紀後期, 70–66 Ma
Raptorex skeleton.jpg
ホロタイプの骨格。東京都
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
約7000万年前
中生代白亜紀後期)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
上科 : ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
: ティラノサウルス科 Tyrannosauridae
亜科 : ティラノサウルス亜科 Tyrannosaurinae
: ラプトレックスRaptorex
学名
Raptorex
Serenoet al., 2009

白亜紀前期の間の約1億2500万年前にあたる中国の義縣層から出土したと当初は考えられていたが、そのような早い時代の化石である可能性は低く、白亜紀後期のティラノサウルス科の幼体と酷似していることから、Iren Dabasu 層あるいはその他の同様の層から出土したことが後の研究から示唆されている。ティラノサウルス科の成長過程が不明であり、標本が幼体であるため成体の標本と確実に紐づけすることが不可能であるため、現在では多くの研究者がラプトレックスを疑問名と考えている。なお、同じ体躯と年齢のタルボサウルスの幼体と極端に類似している[3]

目次

記載編集

 
幼体標本とヒトの大きさ比較

唯一知られているラプトレックスの標本はティラノサウルス科の幼体標本と同じ基本的なプロポーションを示す。頭骨は比較的巨大で硬く構成されており、長い脚は走行に適し、前肢は2本指で小型だった。これは、小型の頭部に3本指の長い前肢といった基盤的コエルロサウルス類の特徴を持つディロングのような基盤的なティラノサウルス上科と対照的である[1]

 
成体のラプトレックス・クリエグスティニの復元仮説

標本は非常に小型の幼体で、全長3メートル体重65キログラムと推定されている。ホロタイプ標本 LH PV18 は2.5メートルであり、3歳で死亡している[3]

歴史編集

発見編集

模式標本の起源を辿ろうとしたピーター・ラーソンによると、現在は中国内モンゴル自治区フフホト市 Long Hao 地質古生物学研究所のコレクションに所蔵されているラプトレックスのホロタイプ標本 LH PV18 は、モンゴル人の化石商人からアメリカ人のビジネスマンが日本東京都で購入してアメリカ合衆国へ持ち込み、アリゾナ州ツーソンでのジェム・ミネラル&フォッシルショーで再び売買され、そこでホリス・ブッツが眼科医かつ化石収集家ヘンリー・クリーグステインに売り渡した。この時点までに、標本はモンゴルから収集されたタルボサウルスの幼体標本として同定されていた。クリーグステインはアメリカの古生物学者ポール・セレノにこの標本のことを知らせ、セレノはこの標本が中国の義縣層から出土した新種の亜成体を代表するものと提唱した。セレノは標本の記載を改定して発表し、化石の密輸元と彼が考えた中国へそれを送った。

第一の解明編集

模式標本に関するセレノの記載では、セレノと彼の共著者は約6歳の成体に近い年齢の個体として説明した。標本を取り巻く岩石塊内に存在する多数の示準化石が、標本の年代を白亜紀前期と示していると、セレノは当初主張した。シカゴ・トリビューンとの記者会見において、セレノは「我々がラプトレックスの標本の傍の岩石塊から発見した堆積物・魚の骨・カメ・二枚貝およびその他の動物相から、我々は一般的に内モンゴル自治区との境界沿いの地域で化石が発掘されたと正確に特定できた」と述べた[4]。しかしながら、実際にラプトレックスの標本の傍に存在したものは、魚類の椎骨1つと潰れて同定不能な軟体動物の殻だけであった[1][3]。セレノらは魚類の椎骨を白亜紀前期の義縣層の主要な示準化石であるリコプテラに似たものとして同定した[1]。しかし彼らは魚類の骨を記載せず、既知のリコプテラの標本と共通する特徴も記述しなかった[3]

セレノは標本を初期の原始的な非ティラノサウルス科型ティラノサウルス上科として説明し、これはティラノサウルスの進化について重大な示唆をもたらすものであった。体の大型化の後に巨大な頭部・長い後肢・2本指の短い前肢という大きな解剖学的特徴を進化させるよりもむしろ、グループ内に巨大な体躯のものが出現する以前にティラノサウルスの特徴的な形質が出現したことを、真のティラノサウルス科の成体に似たプロポーションの白亜紀前期の小型の種は示唆していた。これは、ラプトレックスが生息したとセレノが信じた時代よりも後の時代に生息した種を含めこれまでに知られていた原始的なティラノサウルス上科が、全て小さな頭部・3本指の長い前肢を持っていたため、当時既に挙げられていた化石証拠と矛盾する[1]

論争と再評価編集

 
頭骨の復元

2010年10月にオンライン上の Nature News[5]で、査読はされていないもののラプトレックスの出所と分類について異議が唱えられた。私立の化石調査・発掘会社であるブラックヒルズ地質学研究所所長のピーター・ラーソンが化石を検査し、ラプトレックスをタルボサウルスの幼体と結論付けるとして Nature で発表した。詳細な産出場所の情報もなしに収集家が標本を寄付したため、化石の傍で発見されたリコプテラの脊椎と軟体動物の殻のみに基づいた時代推定をラーソンは疑ったのである。ラーソンは化石がタルボサウルスの出土するモンゴルの7000万年前の層から出土したと推測し、「化石に付着した1粒の花粉の年代測定も含めた、化石塊のより詳細な分析」を彼は提案した。セレノはラーソンの結論を支持したとその報告書に引用されたが、それを否定する明確な証拠および発表はない。

 
復元図

2011年6月、より詳細な再度の研究がデンバー・フォウラーとピーター・ラーソンらにより査読付きの PLOS ONE で発表された。ここでは、層序学的位置が曖昧であり、個体発生の解釈も標本の成熟度を過大評価しているとして、公表済みのデータ(すなわちセレノの論文)が再分析された。ラプトレックスの椎骨はほぼ癒合しており、標本の骨組織学から6歳の亜成体であることが示唆されているとしてセレノは主張したが、セレノらが成長段階のデータを誤って解釈したとフォウラーらが主張し、実際に標本は約3歳の幼体であることが判明した。また彼らは、セレノらの年代推定における失敗も発見した。セレノらが言及せずにリコプテラとして同定した魚類の骨は、リコプテラの既知の標本と比較して実際には形状が大きく異なり遥かに大型でもあるとして、リコプテラと同じにさえ分類できないとフォウラーらは指摘した。さらに、魚類の骨が Ellimmichthyiformes に分類されると推測し、この目の生息した時代は白亜紀全域にわたるため示準化石にはなり得ないととした。この情報を踏まえて、化石が白亜紀前期のものであると信じる理由がないこと、そしてティラノサウルス科の幼体と酷似していることから、化石の時代は白亜紀後期である可能性が高いとした。この分析に基づいてフォウラーらは、ティラノサウルス科の詳細な成長パターンの情報がないため正確な属までは同定できないものの、ラプトレックスがタルボサウルスに近縁なティラノサウルス科の幼体を代表する可能性が高いと結論付けた。この結果、ティラノサウルス科の派生した特徴は白亜紀前期に進化したとするセレノの仮説は、現在の証拠からは支持されていない[3]

2013年にラプトレックス・クリエグスティニの模式標本の傍で発見された魚類の脊椎をニューブレイらはヒオドン科に属するとして同定し、白亜紀後期のモンゴルのネメグト層から出土し記載されたヒオドン科の化石と同じ分類群を代表する可能性があるとした。ニューブレイらによると、ヒオドン科の脊柱はネメグト層の外では発見されておらず、これはラプトレックス・クリエグスティニの模式標本の傍で発見された椎骨、ならびに模式標本自体が、白亜紀後期のネメグト層に由来することを示唆している[6]

分類編集

 
復元されたラプトレックスとプシッタコサウルスの骨格

ラプトレックスはティラノサウルス上科ティラノサウルス科タルボサウルスのジュニアシノニムと推測されている。現在は、バガラアタンよりも派生的でドリプトサウルスよりも基盤的な位置の基盤的ティラノサウルス上科に置かれている[7]

以下は、ラプトレックスを基盤的ティラノサウルス上科に置くクラドグラム。Loewen らにより2013年PLOS ONE で発表された[7]

ティラノサウルス上科
プロケラトサウルス科


プロケラトサウルス



キレスクス



グアンロン





シノティラヌス




ジュラティラント



ストケソサウルス







ディロング




エオティラヌス




バガラアタン




ラプトレックス




ドリプトサウルス





アレクトロサウルス



シオングアンロン





アパラチオサウルス





アリオラムス・アルタイ



アリオラムス・レモトゥス




ティラノサウルス科











出典編集

  1. ^ a b c d e Sereno, P.; Tan, L.; Brusatte, S. L.; Kriegstein, H. J.; Zhao, X. & Cloward, K. (2009). “Tyrannosaurid skeletal design first evolved at small body size”. Science 326 (5951): 418–422. doi:10.1126/science.1177428. PMID 19762599 .
  2. ^ Ansari, Azadeh (2009年9月17日). “Tiny T. rex fossil discovery startles scientists”. CNN.com. 2009年9月18日閲覧。
  3. ^ a b c d e Fowler, DW; Woodward, HN; Freedman, EA; Larson, PL; Horner, JR (2011). “Reanalysis of "Raptorex kriegsteini": A Juvenile Tyrannosaurid Dinosaur from Mongolia”. PLoS ONE 6 (6): e21376. doi:10.1371/journal.pone.0021376. PMC: 3126816. PMID 21738646. http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0021376. 
  4. ^ Mullen W (2009) Fossil identified as mini-T. rex. Chicago Tribune, Sept 18th 2009. Available: http://articles.chicagotribune.com/2009-09-18/news/0909170802_1_fossil-bones-tyrannosaurus-rex-chicago-paleontologist-paul-sereno. Accessed 2011 March 8.
  5. ^ Corbyn, Zoë (2010年10月11日). “Big Row over tiny T. rex”. Nature.com. 2010年10月31日閲覧。
  6. ^ Michael G. Newbrey, Donald B. Brinkman, Dale A. Winkler, Elizabeth A. Freedman, Andrew G. Neuman, Denver W. Fowler and Holly N. Woodward (2013). “Teleost centrum and jaw elements from the Upper Cretaceous Nemegt Formation (Campanian-Maastrichtian) of Mongolia and a re-identification of the fish centrum found with the theropod Raptorex kreigsteini. Mesozoic Fishes 5 – Global Diversity and Evolution. Verlag Dr. Friedrich Pfeil. pp. 291–303. ISBN 978-3-89937-159-8. オリジナルの2015-09-24時点によるアーカイブ。. http://www.pfeil-verlag.de/07pala/pdf/4_59d11.pdf. 
  7. ^ a b Loewen, M.A.; Irmis, R.B.; Sertich, J.J.W.; Currie, P. J.; Sampson, S. D. (2013). Evans, David C. ed. “Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans”. PLoS ONE 8 (11): e79420. doi:10.1371/journal.pone.0079420. PMC: 3819173. PMID 24223179. http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0079420.