リグナン
リグナン(lignan)は植物に含まれている化合物群の一種である。リグナンは、エストロゲン様作用を示したり抗酸化物質として働く植物エストロゲンの主要な分類の一つである。その他の植物エストロゲンとしては、イソフラボンやクメスタンが知られている。植物リグナンは、フェニルアラニンを出発物質とし、モノリグノールとして知られる置換ケイ皮アルコール(ケイ皮酸を参照)の二量化反応によって生成するジベンジルブタン骨格に由来するポリフェノール性物質である。この反応は酸化酵素によって触媒され、しばしばディリジェントタンパク質によって制御される。
分類
編集フェニルプロパノイドとして知られる多くの天然物は、テルペンにおけるイソプレン単位のように、C6-C3単位 (1) からできている。2分子のC6-C3単位からなるもののうち、側鎖のβ位同士が酸化的に縮合した骨格を持つものを真正リグナン (2)、それ以外をネオリグナン (3) と呼ぶ。最近はC6-C3単位が3分子、4分子縮合した分子が見いだされており、それぞれセスキリグナン、ジリグナンと呼ばれている[1]。
リグナンの例としては、ピノレシノール、ポドフィロトキシン、ステガナシンなどがある。
ヒトの食事の一部として摂取された時、一部のリグナンは腸内細菌によって代謝されエンテロジオール (1)やエンテロラクトン (2) などのほ乳類リグナンとなる。代謝されほ乳類リグナンとなるリグナン類は、ピノレシノール、ラリシレシノール、セコイソラリシレシノール、マタイレシノール、ヒドロキシマタイレシノール、シリンガレシノール、セサミン、アルクチゲニンなどである[2][3]。
食料源
編集アカゴマ(亜麻仁)やゴマはリグナン源として最も知られている。アカゴマにおける主要なリグナン前駆体はセコイソラリシレシノールジグルコシドである。その他のリグナン源としては、穀物(ライムギ、コムギ、エンバク、オオムギ)やカボチャ種子、ダイズ、ブロッコリー、豆、チョウセンゴミシ果実のような一部の果実などがある[4][5]。
セコイソラリシレシノールとマタイレシノールは食物中で発見された最初の植物リグナンである。ピノレシノールとラリシレシノールは、食事における全リグナン摂取に実質的に寄与しているものとして、より最近同定された。典型的には、ラリシレシノールとピノレシノールが全リグナン摂取量の約75%、セコイソラリシレシノールとマタイレシノールが約25%を占めている[4]。この比率は、食物中のシリンガレシノールとヒドロキシマタイレシノールの量が厳密に定量されていないため、変わる可能性がある。
リグナン源[6]:
食品 | 100 g 中の含有量 |
---|---|
アカゴマ | 300,000 µg (0.3 g) |
ゴマ | 29,000 µg (29 mg) |
アブラナ属野菜 | 185 - 2321 µg |
穀類 | 7 - 764 µg |
赤ワイン | 91 µg |
近年の研究によって食品中のほ乳類リグナン前駆体の複雑性が示されている[7]。この研究で分析された22の種、同定された24のリグナンの一部について下記の表に示している。
ほ乳類リグナン前駆体はアグリコンとしている (µg / 100 g)。主要な化合物は太字で示している。
食材 | ピノレシノール | シリンガレシノール | セサミン | ラリシレシノール | セコイソラリシレシノール | マタイレシノール | ヒドロキシマタイレシノール |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アカゴマ | 871 | 48 | not detected | 1780 | 165759 | 529 | 35 |
ゴマ | 47136 | 205 | 62724 | 13060 | 240 | 1137 | 7209 |
ライムギふすま | 1547 | 3540 | not detected | 1503 | 462 | 729 | 1017 |
コムギふすま | 138 | 882 | not detected | 672 | 868 | 410 | 2787 |
エンバクふすま | 567 | 297 | not detected | 766 | 90 | 440 | 712 |
オオムギふすま | 71 | 140 | not detected | 133 | 42 | 42 | 541 |
参考文献
編集出典
編集- ^ 日本薬学会. “リグナン - 薬学用語解説”. 2010年10月26日閲覧。
- ^ Heinonen S, Nurmi T, Liukkonen K, Poutanen K, Wähälä K, Deyama T, Nishibe S, Adlercreutz H (2001). “In vitro metabolism of plant lignans: new precursors of mammalian lignans enterolactone and enterodiol”. J. Agric. Food. Chem. 49 (7): 3178-3186. doi:10.1021/jf010038a. PMID 11453749.
- ^ Liu Z, Saarinen NM, Thompson LU (2006). “Sesamin is one of the major precursors of mammalian lignans in sesame seed (Sesamum indicum) as observed in vitro and in rats”. J. Nutr. 136 (4): 906-912. PMID 16549449 .
- ^ a b Linus Pauling Institute of Oregon State University. “Micronutrient Information Center - Liganans” (英語). 2010年10月26日閲覧。
- ^ 北川勲、三川潮ほか『生薬学』(第3版)廣川書店、1988年10月25日(原著1980年4月10日)、p.p.256-257頁。
- ^ Milder IE, Arts IC, van de Putte B, Venema DP, Hollman PC (2005). “Lignan contents of Dutch plant foods: a database including lariciresinol, pinoresinol, secoisolariciresinol and matairesinol”. Br. J. Nutr. 93 (3): 393–402. doi:10.1079/BJN20051371. PMID 15877880.
- ^ Smeds AI, Eklund PC, Sjöholm RE, Willför SM, Nishibe S, Deyama T, Holmbom BR (2007). “Quantification of a Broad Spectrum of Lignans in Cereals, Oilseeds, and Nuts”. J. Agric. Food. Chem. 55 (4): 1337–1346. doi:10.1021/jf0629134. PMID 17261017.
文献
編集- IUPAC. “Nomenclature of Lignans and Neolignans”. 2010年10月26日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- Lignans リグナン - (オレゴン州大学・ライナス・ポーリング研究所)
- Lignan content in food
- Flax meal and oil and the prevention/treatment of cancer