リナロール
リナロール | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | 3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オール |
別名 | リナロオール (S) 体 コリアンドロール (R) 体 リカレオール |
分子式 | C10H18O |
分子量 | 154.25 |
形状 | 無色液体 |
CAS登録番号 | [78-70-6] (S) 体 [126-90-9] (R) 体 [126-91-0] |
SMILES | CC(C)=CCCC(O)C=C |
性質 | |
密度と相 | 0.87 g/cm3, 液体 (20 °C) |
沸点 | 198 °C |
比旋光度 [α]D | −20.1 ((R) 体、20 °C) |
屈折率 | 1.46 (20 °C、D線) |
リナロール (linalool) は分子式 C10H18O で表されるモノテルペンアルコールの一種である。スズラン、ラベンダー、ベルガモット様の芳香をもつため、大量に香料として利用されている。他のモノテルペン香料物質の原料となるほか、ビタミンAやビタミンEの合成中間体でもある。消防法に定める第4類危険物 第3石油類に該当する[1]。
天然での存在 編集
非常に多くの植物の精油成分として見出される。特に含有量が多いのはローズウッド、リナロエ、芳樟の精油で、これらは工業的なリナロールの合成法が確立されるまでリナロールの供給源であった。
またネロリ(ダイダイの花)、ラベンダー、ベルガモット、クラリセージ、コリアンダー(種子)の精油にも比較的多く含有されている。慣用名のリナロールはリナロエに、(S)-d 体の慣用名のコリアンドロールはコリアンダーに、(R)-l 体の慣用名のリカレオールはローズウッドの現地名とされる Licari Kanali に由来する。
光学純度 編集
天然物中のリナロールでは (R) 体が過剰であるものが多い。芳樟油はもともと (R)-リナロールの化学純度が高く、また高い光学純度を持つので現在でも (R) 体のリナロールの供給源として重要である。ネロリ、ラベンダー、ベルガモット、クラリセージはいずれも (R) 体を過剰に含む。かつてギアナで採取されていたローズウッドの精油から得られたリナロールは(R)-体が過剰であった。
ローズウッドの精油からのリナロールで現在市場に供給されているものはほぼラセミ体である。
(S) 体を過剰に含むのはコリアンダー、一部のオレンジやジャスミンの精油である。コリアンダーは光学純度が中程度であり、オレンジやジャスミンでは含有量が少ない。このため (S) 体の商業的な供給はほとんどなされていない。
合成法 編集
リナロールの工業的な合成法はいくつか知られている[2][3]。
β-ピネンを出発原料とする方法 編集
β-ピネンを熱により開環してミルセンとし、塩化水素を付加させて塩化ゲラニルとする。これをアセチル化するとアリル転位を起こして酢酸リナリルが得られるので、加水分解してリナロールとする。
アセチレンとアセトンを出発原料とする方法 編集
アセチレンをアセトンに付加させた後、リンドラー触媒で部分還元して3-メチル-1-ブテン-3-オールとする。3-メチル-1-ブテン-3-オールにジケテンを反応させると、アセト酢酸エステルを生じてキャロル転位を起こし、メチルヘプテノンを生成する。これにアセチレンを付加させてデヒドロリナロールとし、再びリンドラー触媒で部分還元することでリナロールが得られる。
なお、リナロールに対してジケテンの反応からリンドラー触媒での部分還元までを繰り返すとイソプレン単位を1つずつ増やしていくことができる。
イソプレンを出発原料とする方法 編集
イソプレンに塩化水素を1,4-付加させて塩化プレニルとした後、これを用いてアセトンをプレニル化してメチルヘプテノンとする。以降の合成法はアセチレンとアセトンを出発原料とする方法と同様である。
α-ピネンを出発原料とする方法 編集
α-ピネンを水素化してピナンとし、これを空気酸化でヒドロペルオキシドとしたあと、還元して得られるピナノールを熱分解するとリナロールが得られる。
光学純度 編集
リナロールの光学活性体を合成する方法は光学活性 α-ピネンを出発原料とする方法や、酵素で光学分割する方法が特許として出願されている[4]。 しかし、光学活性体の工業的な合成は今のところなされていないようである。
用途 編集
フレーバー、フレグランス両方の香料原料として使用される。光学活性体での香りの質および強さに差があることが知られている。(S) 体はオレンジ様の香りで、(R) 体はラベンダー様であるとされており、また閾値は (R) 体が (S) 体の1/5であるとされている。
またゲラニオールやシトラールなどの合成原料として使用される。ビタミンAやビタミンEのようなテルペノイドの部分骨格を持つ医薬品の原料としても使用されている。
出典 編集
- ^ 法規情報 (東京化成工業株式会社)
- ^ 中島基貴編著 『香料と調香の基礎知識』産業図書、2000年、129–130頁。ISBN 978-4-7828-3560-9。
- ^ 井上祥平 『有機工業化学』 裳華房〈 化学の指針シリーズ〉、2008年、147–151頁。ISBN 978-4-7853-3222-8。
- ^ 押久保重政、野崎倫生(高砂香料)『光学活性リナロールの製造法』 特開平9-000278[リンク切れ]。
- ^ Kudo K, Hanafusa T, Ono T (2017). “In vitro analysis of radioprotective effect of monoterpenes”. Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry 313 (1): 169–174. doi:10.1007/s10967-017-5268-0.