ロイコクロリディウム

寄生虫のひとつ

ロイコクロリディウム / レウコクロリディウム学名Leucochloridium)は、吸虫の一つ、寄生虫の一種である。カタツムリ触角に寄生してイモムシのように擬態し、だまされたがこれを捕食し、鳥の体内でを産み、鳥のと共に卵が排出され、その糞をカタツムリが食べて再びカタツムリに侵入する。

ロイコクロリディウム
Leucochloridium
ロイコクロリディウムに寄生されているホンオカモノアラガイ(オカモノアラガイの1種)の画像です。片方の目がサイケデリックな色彩の縞模様に変化してしまっていますが、それは寄生虫のカラダの色そもののであり、透けて見えているわけです。
ロイコクロリディウムに寄生されたホンオカモノアラガイ(Succinea putrisオカモノアラガイ英語版の1種)。左眼にスポロシストが現れている。
分類
: 動物界 Animalia
: 扁形動物門 Platyhelminthes
: 吸虫綱 Trematoda
: Diplostomida
あるいは
有壁吸虫目 Strigeidida
亜目 : Diplostomata
上科 : ブラキライマ上科 Brachylaimoidea
: ロイコクロリディウム科 Leucochloridiidae
Poche1907
: ロイコクロリディウム属 Leucochloridium
学名
Leucochloridium
Carus1835 [1]
和名
ロイコクロリディウム
英名
Leucochloridium
下位分類(
  • L. caryocatactis
  • L. fuscostriatum
  • L. holostomum
  • L. melospizae
  • L. paradoxumタイプ種
  • L. passeri
  • L. perturbatum
  • L. phragmitophila
  • L. vogtianum
  • L. variae
ブルードサック(ロイコクロリディウムのスポロシスト)の例
種は L. paradoxum。左が単独のもの、右上がカタツムリの触角の内部、右中が触角の外観、右下が正面から見た図。
カタツムリの両触角に入り込んだブルードサックの動画(再生時間:1分30秒)

名称 編集

属名は "leuco-" は、「白い」を意味する古代ギリシア語 "λευκόςleukós)と、「淡緑色」を意味する古代ギリシア語 "χλωρόςkhlōrós)に、指小辞である-idium が付いたものである。

生態 編集

一般に寄生虫というのは、中間宿主にこっそり隠れており、最終宿主がこれを気付かず食べることが多い。しかし、ロイコクロリディウムは、最終宿主に食べられるよう積極的に中間宿主をに似せるところに特徴があり、すなわちこの特徴は攻撃擬態(aggressive mimicry) の一種である。

この吸虫の卵は鳥の糞の中にあり、カタツムリが鳥の糞を食べることでカタツムリの消化器内に入り込む。カタツムリの消化器内で孵化して、ミラシジウムとなる。さらに中に10から100ほどのセルカリアを含んだ色鮮やかな細長いチューブ形状のスポロシストブルードサック〈broodsac〉と呼ばれる)へと成長し、カタツムリの触角に移動する[2]。なお、ブルードサックは1つの寄生虫ではなく、動かない粒状のセルカリア(幼虫)を多数内包した筋肉の袋にしか過ぎない。また、このイモムシ状のブルードサックは宿主が死ななければ、多数(10前後)見つかる場合がある[3]

袋であるブルードサックは激しく脈動するが、その運動方法や制御方法はまだ分かっていない。ブルードサックが触角に達すると、異物を感じたカタツムリは触角を回転させて、その触角が、あたかも脈動するイモムシのように見える。このような動きを見せるのは主として明るい時であり、暗いときの動きは少ない[4]。また、一般のカタツムリは鳥に食べられるのを防ぐために暗い場所を好むが、この寄生虫に感染したカタツムリは、おそらく視界が遮られることが影響して[5]、明るい所を好むようになる。これをイモムシと間違えて鳥が捕食し、鳥の消化器内でブルードサックからセルカリアが放出され、成虫であるジストマ(吸虫)へと成長する。つまり、カタツムリは中間宿主であり、鳥が最終宿主である。

本属のジストマは、扁形動物らしく長く扁平な体をしており、腹に吸盤がある。鳥の直腸に吸着して暮らし、体表から鳥の消化物を吸収して栄養としている。無性生殖が可能であるが、雌雄同体交尾もできる。鳥の直腸で卵を産み、その卵は糞と共に排出され、またカタツムリに食べられることで生活環を完成させる[6]

日本では、旭川医科大学の研究により、北海道からL. perturbatumL. paradoxum が(1980年代から頻繁に)発見されており[7]、前者は内陸部に、後者は沿岸部に多くの分布が見られる[7]。また、沖縄本島豊見城[3]からは未記載種が発見されており[7]、近隣の台湾で発見されている L. passeri とほぼ同種である[7]

分類 編集

ここでの本属の記述は、ラテン語音写形とする(※それでも、原音準拠の形と慣習的音写形がある[注 1]など、複数の語形を記載することになる。)。そうでないと本属の種小名や近縁種の学名との整合性が取れない不統一な音写形になってしまい、いたずらに混乱を招きかねないからである。

上位分類 編集

  • Familia Leucochloridiidae Poche1907 レウコクロリディウム科
    • Genus Dollfusinus Biocca et Ferretti1958 デルフシヌス属
    • Genus Leucochloridium Carus1835 レウコクロリディウム属
    • Genus Neoleucochloridium Kagan, 1952 ネオレウコクロリディウム属
    • Genus Urogonimus Monticell, 1888 ウロゴニムス属
    • Genus Urorygma Braun1901 ウロリュグマ属(ウロリグマ属)
    • Genus Urotocus Looss1899 ウロトクス属

下位分類 編集

ブルードサックの色彩や模様に基づいた種別も可能ではあるが、ジストマはほとんど区別がつかないため、DNAバーコーディングによる同定が必要である[7]

 
Urogonimus macrostomusシノニムLeucochloridium macrostomum)に寄生されたオカモノアラガイ
 
L. paradoxum に寄生された Succinea putris
 
モノアラガイの触角に現れた L. variae のブルードサック

また、同じレウコクロリディウム科(ロイコクロリディウム科)のウロゴニムス属 (Urogonimus) に分類されている Urogonimus macrostomus Rudolphi1802(ウロゴニムス・マクロストムス)(■右列に画像あり)を本属(レウコクロリディウム属)に分類して Leucochloridium macrostomum (Rudolphi1802)(レウコクロリディウム・マクロストムム)とする学説もある。

Leucochloridium paradoxum 編集

レウコクロリディウム・パラドクスウム(ロイコクロリディウム・パラドクスウム)は、タイプ種である。
ドイツ人医師カール・グスタフ・カルスによって、ドレスデン近くのピルニッツ英語版にあるエルベ川の島から採取されたスポロシストに基づき、1835年記載された[1]。本属を本属として記載したのはカルスによる本属と本種の記載が最初であったが、のちには、1835年より早くに他属名で記載されていた caryocatactis 種(1800年原記載)と holostomum 種(1819年原記載 Distoma holostomum)が本属に再分類されている。
本種は、最初の発見地であるドイツのほかにも、オランダイギリスデンマークスウェーデンノルウェー[8]ポーランドベラルーシロシアサンクトペテルブルク地域、日本北海道[7]で見付かっている[9][10]。また、南半球で唯一の例として、南アメリカロビンソン・クルーソー島で発見されたレウコクロリディウムは本種と考えられており[11]セミスラッグ英語版を中間宿主にしている[11]
北半球における中間宿主は、オカモノアラガイ英語版の1種である Succinea putris [9](■右列に画像あり)とSuccinea lauta [7]が確認されている。また、南半球のものが同種であれば、確認された中間宿主はOmalonyx gayana [11]である (cf. Omalonyx)。最終宿主は鳥類全般であり、キンカチョウから見つかった例がある[8]

Leucochloridium variae 編集

レウコクロリディウム・ワリアエ(ロイコクロリディウム・ヴァリアエ)は、北アメリカに棲む。アメリカ合衆国アイオワ州[12]ネブラスカ州[13][14]オハイオ州[15]などで見つかっている。
中間宿主は Novisuccinea ovalis [16][12]オカモノアラガイ科英語版の一種)である。最終宿主は、コマツグミ[17]カモメ[8]キンカチョウ[8]など。

関係者 編集

記載論文 編集

参考文献 編集

論文

関連文献 編集

論文

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 例えば、y を「ィュ」、ry を「リュ」と読むのは原音準拠、y を「イ」、ry を「リ」と読みやすく変えているのが慣習的音写形。また、v を u と区別せずに「ウ」と読むのは古典発音で、区別して「ヴ」と読むのは中世以降の発音。

出典 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集