レトロウイルス科Retroviridae)とは、RNAウイルス類の中で逆転写酵素を持つ種類の総称。プラス鎖ゲノムの一本鎖RNA(ssRNA)から成る。単にレトロウイルスと呼ばれることも多い。

レトロウイルス科
リンパ球に結合するHIV-1
分類
レルム : リボウィリア Riboviria
: パラルナウイルス界 Pararnavirae
: アルトウェルウイルス門 Artverviricota
: レウトラウイルス綱 Revtraviricetes
: オルテルウイルス目 Ortervirales
: レトロウイルス科 Retroviridae
亜科

尚、逆転写酵素を持つものは、必ずしもRNAウイルスであるとは限らず、DNAウイルスであるB型肝炎ウイルス (HBV)がその一例である。 B型肝炎ウイルスは転写でプレゲノムRNAを生成したのちに逆転写によってDNAを合成している。下記も参照されたい。

特徴 編集

レトロウイルス科のウイルスは直径約100nmの球状の形をしており、脂質のエンベロープに覆われている。ウイルス粒子のコアには逆転写酵素と通常2組の同一なRNAゲノムを持つ。共通の遺伝子としては、プロモーター活性のある2つのLTR(long terminal repeat)と呼ばれる塩基配列の繰り返し領域に挟まれて、gag(構造タンパク質をコード)、pro(プロテアーゼをコード)、pol(逆転写酵素などをコード)、env(エンベロープのタンパク質をコード)を持っている。

生活環 編集

ウイルスのエンベロープが細胞膜の受容体と結合することで、細胞内にRNA逆転写酵素が侵入する。

その後逆転写酵素が作用し、プラス鎖ウイルスRNAを鋳型にマイナス鎖DNAを合成する。そして合成されたマイナス鎖DNAを鋳型にプラス鎖DNAが合成され、一本鎖RNAが二本鎖DNAに変換される。

その後二本鎖DNAは宿主細胞のDNAに組み込まれ、プロウイルスと呼ばれる状態になる。プロウイルスは恒常的に発現している状態となっており、ウイルスRNAやメッセンジャーRNAが次々と合成されていく。メッセンジャーRNAはウイルス蛋白を合成させ、完成したウイルスは宿主細胞から発芽していく。

このレトロウイルスは近現代において「天然のナノマシン」として、様々な遺伝子治療や遺伝子研究に利用されている。

分類 編集

レトロウイルス科は以下の2亜科に分けられる[1]

スプマウイルス亜科 編集

細胞を培養すると泡状 (spuma) の細胞変性効果が見られることから名づけられたウイルス。病原性は不明。

オルトレトロウイルス亜科 編集

レンチウイルス属 編集

レンチウイルス属は、ヒトや他の哺乳類で、長い (lente) 潜伏期間を特徴とする、慢性的で致命的な疾患を引き起こす一属。

アルファレトロウイルス属 編集

アルファレトロウイルス属

ベータレトロウイルス属 編集

ベータレトロウイルス属

ガンマレトロウイルス属 編集

ガンマレトロウイルス属にはマウス白血病ウイルス、猫白血病ウイルス、細網内皮症ウイルスがある。 XMRV (Xenotropic murine leukemia virus-related virus)は前立腺がん慢性疲労症候群との関連が示唆されたが、後に人の疾病との関連は否定された[2]

デルタレトロウイルス属 編集

デルタレトロウイルス属は腫瘍 (onc) を引き起こすウイルス。

関連 編集

B型肝炎ウイルス (HBV: hepatitis B virus) はDNAウイルスであるが、DNA→RNA→DNAと逆転写を経て複製するためレトロイドともよばれ、HIVの治療薬でもある逆転写酵素阻害薬の一部が効果を示す(エンテカビルアデホビルラミブジンテノホビルは日本でも保険適応がある)。

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ Virus Taxonomy: 2019 Release”. 国際ウイルス分類委員会 (ICTV). 2020年5月12日閲覧。
  2. ^ http://www.cancerit.jp/3493.html