「ぶらんこ」(1768頃、フラゴナール作)

ロココRococo)とは、美術史で使われた用語で、バロックに続く時代の美術様式を指す。18世紀ルイ15世フランス宮廷から始まり、ヨーロッパの他国にも伝えられ、流行した。

目次

ロココという語編集

語源編集

ロココはロカイユ(rocaille)に由来する言葉である。ロカイユはの意味で、洞窟(グロッタ)に見られるバロック時代の庭園に造られた貝殻と岩を凝集させた装飾を施された岩組のことであった。それが転じて、1730年代に流行していた、貝殻の曲線を多用する繊細なインテリア装飾をロカイユ装飾(ロカイユ模様)と呼ぶようになった。ロカイユ装飾は、イタリアの貝殻装飾に由来すると考えられているが、植物の葉のような複雑な曲線を用いた特有のものである(画像参照)。

 
ロココの家具(1730年)

バロックとロココ編集

新古典主義の時代(18世紀末~)になると、前時代の装飾様式が退廃的であるとして蔑称的に使われたが、その後、時代一般の美術・文化の傾向を指す用語として、広く使われるようになった。ロココ様式(スタイル)、ロココ建築、ロココ趣味などと使う。豪壮・華麗なバロックに対して、優美・繊細なロココともいわれるが、両者の境界は必ずしも明確ではなく、ロココはバロックの一種と考える人もいる。

ロココの時代範囲編集

ルイ15世の愛妾で、才色兼備で知られたポンパドゥール夫人(1721年 - 1764年)を中心とする宮廷のサロン文化の最盛期にロココの華を見ることができる。ルイ15世の晩年の愛妾デュ・バリー夫人の時代でもロココ様式は維持されたものの、ルイ15世の孫ルイ16世(在位1774年 - 1792年)が即位する頃から、装飾を抑え直線と均衡を重んじるルイ16世様式(広義の新古典主義様式)に次第に取って代わられるようになる。しかし、ロココ的な美意識や雰囲気は、宮廷が実権を失う1789年のフランス革命まで継続したと見てよいであろう。

スウェーデンでは、1771年に即位したグスタフ3世の治世を「ロココの時代」と呼称されている。特に芸術や文化の面でロココの影響を受けて「グスタフ朝時代」と呼ばれる一時代を築いた(同時代のフランス文化の影響を受けて広義の新古典主義様式も見られた)。スウェーデンのロココ様式の時代は、1792年にグスタフ3世が暗殺されるまで継続した。

建築編集

全般編集

詳細はロココ建築を参照のこと

  • ロカイユ装飾を多用した室内装飾に特徴がある。

フランス編集

イタリア編集

ドイツ編集

オーストリア編集

スウェーデン編集

ロシア編集

絵画編集

フランス編集

 
「ポンパドゥール夫人の肖像」(1755年、ラ・トゥール作)

イタリア編集

イギリス編集

  • 長らく外国人画家によって指導されてきたイギリスの芸術界もこの時期大きく変貌する。その嚆矢となったのが「最初のイギリス人画家」とも呼ばれるウィリアム・ホガースである。ホガースは「当世風結婚」などの連作で諷刺画の分野で活躍した。また「カンヴァセーション・ピース(団欒画)」とも呼ばれるイギリス特有の集団肖像画のジャンルを開拓したのもホガースである。
  • こうした変化のもとイギリスにもロイヤル・アカデミーが設置され、ジョシュア・レイノルズが初代アカデミーの会長に選ばれた。レイノルズの理念は「グランド・マナー」と呼ばれ、歴史画を頂点とする以後のイギリス美術の模範となった。対してレイノルズのライバルであったトマス・ゲインズバラは肖像画や風景画で今までに見られないイギリス的な感受性を開花させた。この風景画の好みは後のコンスタブルターナーに引き継がれることになる。
  • 啓蒙と理性の時代を反映して科学的な素材を美術に応用している例も見られる。「馬の解剖学」で知られるジョージ・スタッブスや「空気ポンプの実験」などの作品を残したライト・オブ・ダービー(ジョセフ・ ライト)はこうした時代精神に育まれた画家たちである。
  • ホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』(1764年)の刊行により18世紀後半のイギリスではゴシック小説が盛んに読まれた。こうした怪奇なものへの興味はスイス出身でイギリスで活躍したヨハン・ハインリヒ・フュースリーの「夢魔」(1781年)などにも反映している。「天国と地獄の結婚」(1790年頃)の作者であり、幻視者として知られる詩人画家ウィリアム・ブレイクの活躍も同時期のことである。

スペイン編集

  • ドイツ系でありながら国王カルロス3世宮廷画家となったアントン・ラファエル・メングスは18世紀中盤の重要な画家の一人だが、その画風はロココというよりも新古典主義の先駆けといった趣がある。1760年代にそれぞれ画風の異なる、ロココ調の老大家ティエポロと、新古典主義の気鋭のメングスがマドリッドの王宮を舞台に競り合っていたことは興味深い。
  • メングスより後の世代に属すが、フランシスコ・デ・ゴヤの市井のマハ(伊達女)やマホ(伊達男)を描いた初期の作品にはロココ的な優雅さや軽快さを見ることができる。

ドイツ編集

  • 三十年戦争以来の混乱からようやく1700年代に相対的安定期を迎えたドイツではカトリック教会を中心に大規模な教会建築の復興が行われる。この時期のドイツ芸術は特に「後期バロック」と呼ばれることが多く、絵画も教会や宮殿の装飾として発達したものである。ミュンヘンのアザム教会の建築と装飾・絵画を担当したアザム兄弟や、シュタインガーデン近郊のヴィース教会の建築と装飾・絵画を担当したツィンマーマン兄弟はその代表である。

彫刻編集

フランス編集

ロシア編集

工芸編集

ロココ様式はインテリアのデザインや装飾として出発し、建築などに波及していっためずらしい例である[1]

家具編集

フランス編集

1715年に幼いルイ15世が即位しオルレアン公フィリップ摂政となった。バロックとロココの過渡期であるこの時期の様式をフランス・オルレアン公様式、またはレジャンス(摂政)様式という[1]。やがて、婦人を中心とした社交生活が華やかになるとともに、女性的・感覚的で、直線を排した軽快で華麗なフランス・ロココ(ルイ15世様式)は完成されていった。

フランス・ロココの家具は、装飾彫刻はバロック様式に比べて浅く掘られ、ライトグレーやクリーム色などの淡い色に金箔を押したものが多く、カブリオール(猫足)と呼ばれる曲線の脚を持ち、陶磁器金メッキ金物との組み合わせといった特徴がある。オーナメントの主なモチーフはアカンサス・貝殻・渦巻き・婦人像などがあり、アシンメトリーのデザイン手法が用いられた。

イギリス編集

アン女王の治世にブルジョア家庭に流行した家具はクイーン・アン様式と呼ばれる[1]。クイーン・アン様式は、フランス・バロックのスタイルを残しつつ、貝殻の曲線や角の丸み、猫足などのロココの要素が取り入れられている。大ぶりな安楽椅子であるウイングチェアはこの時代に誕生した。

イギリス家具史上でジョージアン時代と呼ばれる時期に、家具デザイナートーマス・チッペンデールが贅を尽くした宮廷用家具を、美しさと合理性をもった庶民用へと変化させて工場で量産した[1]。チッペンデールの庶民向け家具はチッペンデール様式と呼ばれている。チッペンデール様式はクイーン・アン様式をフランス・ロココ風に変形させたもので、スワンネックや、カブリオールの先端に施されるボールクローと呼ばれる玉を掴んだ爪の飾りに特徴がある。また、ゴシックシノワズリの要素を取り入れた家具も多い。

イタリア編集

家具に関しては、後期バロックとイタリア・ロココの区別はあまりない[1]。花づな・花束をモチーフとした豊かな曲線が好まれた。明るい色調の木材が好まれ、シタンオリーブトネリコを素材とした寄せ木細工が作られた。フランス・ロココと比べて金めっきの使用は控えめである。

ドイツ編集

ドイツ・ロココはバロックが発展したもので、優美さと流線の美しさが強調されている。ドイツ・ロココの宮廷家具はフランス・オルレアン公様式の貝殻模様などの装飾モチーフを借用するなど、フランス・ロココの影響を受けて発展した[1]。また、ブルジョア階級の家具はイギリスやオランダ家具の影響を受けている。

陶磁器編集

ドイツ編集

フランス編集

  • セーヴルの陶器が有名。これもポンパドゥール夫人の支援により発達したものである。

イギリス編集

イタリア編集

デンマーク編集

音楽編集

フランスでF.クープランラモーら、イタリア(スペイン)のD.スカルラッティ、オーストリアのモーツァルトらに見られる装飾音符を多用した軽快・優美・繊細な音楽様式を音楽におけるロココ様式と呼ぶ。バロック時代後期から古典派まで様々な形で現れ、別名ギャラント様式ともいう。

  • 前3者はチェンバロ(クラヴサン)曲集が多数、モーツァルトはピアノソナタのほか、フルートとハープの協奏曲、初期のピアノ協奏曲、オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』などが好例。

ギャラリー編集

建築編集

彫版印刷編集

ロココ様式の絵画編集

ロココ時代の絵画編集

脚注編集

  1. ^ a b c d e f 中村 1999, pp. 115-117.

参考文献編集

  • ワイリー・サイファー『ロココからキュビスムへ』河村錠一郎訳、河出書房新社、1988年。
  • ロココ 十八世紀のフランス マックス・フォン・ベーン 飯塚信雄訳. 理想社, 1970.
  • ロココと世紀末 窪田般弥 青土社, 1978.8.
  • ロココへの道 西洋生活文化史点描 飯塚信雄 文化出版局, 1984.2.
  • ロココの時代 官能の十八世紀 飯塚信雄 1986.5. 新潮選書
  • バロックとロココ ヴォルフ・フォン・ニーベルシュッツ 竹内章訳. 法政大学出版局, 1987.9.
  • ロココの装飾 野口栄子編著. 岩崎美術社, 1988.2.
  • 手芸が語るロココ レースの誕生と栄光 飯塚信雄 1990.11. 中公新書
  • バロックとロココ 高階秀爾 岩波書店, 2003.1. 岩波美術館
  • 中村幸夫 『図で見る洋家具の歴史と様式』 理工学社、1999年ISBN 4844582313

関連項目編集

(参考)フランスに「フルール・ド・ロカイユ」という香水がある。