ローレンス・ストロール

ローレンス・シェルダン・ストルロヴィチLawrence Sheldon Strulovitch[W 2][W 3]1959年7月11日 - )は、カナダ出身の実業家、ビリオネアであり、ローレンス・ストロールLawrence Stroll)として知られる人物である。

ローレンス・ストロール
Lawrence Stroll
生誕 (1959-07-11) 1959年7月11日(63歳)
カナダの旗 カナダケベック州モントリオール
国籍カナダの旗 カナダ
著名な実績#ファッションブランドへの投資
#F1チームの買収
#アストンマーティン
純資産32億USドル(2021年6月時点)[W 1]
子供ランス・ストロール

概要編集

香港の実業家であるサイラス・チョウ英語版と組み、1990年頃にトミーヒルフィガー、2000年代にマイケル・コース社(後のカプリ英語版)に関わり、両社の株式公開(IPO)を成功させた[W 4][W 5]。それ以前から資産家ではあったが[W 6]、ビリオネアとしてのストロールの資産の大部分は2014年にマイケル・コースの株式を売却した際に築いたものである[W 1][W 7]

ストロールのビジネスの手法は換言してしまえばシンプルで、ニッチなブランドであるとか、問題を抱えているブランドを廉価で買い取り、それらを数年から10年ほどかけて強化したり建て直したりした上で売却し、利益を得るという手法を基本としている[W 2][W 3]

自動車愛好家であり、2018年に破産したF1チーム、フォース・インディアの資産を買い取り、F1チームのオーナーとなった。2021年現在もチームオーナーを務めており、同チームは、2018年8月に設立したレーシング・ポイントを経て、2021年からはアストンマーティンF1としてF1参戦を続けている。

2020年初めには株価低迷に悩まされていたイギリスの自動車メーカー、アストンマーティン・ラゴンダの大株主となった[W 8][W 9][W 10]。同時に、同社の取締役会会長に就任し、立て直しを図っている[W 8][W 9][W 10]

経歴編集

ファッションブランドへの投資編集

ストロールの父レオ・ストルロヴィチ(Leo Strulovitch)はピエール・カルダンポロ・ラルフ・ローレン英語版をカナダに持ち込み、その展開を行った実業家である[W 9]

ストロールも1980年代にファッション業界に入り、ラルフ・ローレンをヨーロッパに持ち込み展開を行った[W 6][W 9][注釈 1]

この事業を進める中で、ストロールは香港の実業家で大手の衣料品製造業を営むサイラス・チョウ英語版と知り合い、以降、長年に渡るビジネスパートナーとなる[W 12]

1989年、創業間もないトミーヒルフィガー(1985年設立)を支援するため、チョウとともに香港を拠点とするスポーツウェア・ホールディングス(Sportswear Holdings Ltd.)を設立した[W 13][注釈 2]。スポーツウェア社はトミーヒルフィガーを創業者のヒルフィガーから買い取るとともに財務面の後ろ盾を与え[W 15]、1989年に新会社のトミーヒルフィガー社(Tommy Hilfiger, Inc.)を設立した[W 16]。ストロールはトミーヒルフィガー社に経営陣として加わり、マーケティングの面から同社を支え[W 17]、同社は1991年に株式公開を果たした[W 16]

マイケル・コースへの投資編集

2003年、スポーツウェア社を通じて、チョウとともにマイケル・コース社(Michael Kors LLC)の過半数株式を取得した[W 5]。「マイケル・コース」はセリーヌでチーフデザイナーを務めていたマイケル・コースが2002年に設立した会社で、2003年当時の評価額は1億ドルであり、ストロールとチョウは全株式の85%を8500万ドルで取得した[W 5]

投資を得たマイケル・コースは2000年代を通して飛躍的な成長を続け、2007年時点で2億ドル程度だった年間売上はわずか4年後の2011年には8億ドルを超えるほどになる[W 5]。その評価額も36億3000万ドルにまで高まった[W 5]

マイケル・コースの出資者であるストロールとチョウが保有していた株式は、同社の株式公開が行われた2011年の時点で18億6000万ドル相当の価値を持つことになった[W 5]

2011年にニューヨーク証券取引所上場されたマイケル・コースの株式は公開当日に25%も値を上げ[W 5]、2014年には公開時のほぼ4倍にまで価値を増し、ストロールは同年に保有する全ての株式を売却した[W 4]。ストロールの資産の大部分はこの時に得たものだとされている[W 1][W 7]

この間、スポーツウェア社はマイケル・コースのほか、アスプレイガラードといった宝飾品会社や、ペペ・ジーンズ英語版にも同様の投資を行った[W 6]

F1チームの買収編集

2006年以降、自動車レースのフォーミュラ1(F1)の運営会社であるフォーミュラワン・グループは、その株式の大部分を投資会社のCVCキャピタルによって保有されていた[W 18][W 19]。2010年代半ば、CVCキャピタルにF1の株式を手放す動きが見られ始めると、その売却先としてストロールの名が挙がるようになった[W 20]。結果として、それは実現せず、CVCキャピタルは2016年にフォーミュラワン・グループの株式をリバティメディアに売却した[W 21]

ストロールがF1への投資を考えていたことはたしかで、それは息子のランスがF1ドライバーとしてデビューすることに合わせて具体性を帯びていくようになる。

2017年にランスはウィリアムズからデビューしたが、この際はランスの実力が未知数だったこともあり、父親であるストロールが金でシートを買ったと揶揄する声は多かった[W 22][W 23]。同年3月に18歳でデビューしたランスは、6月に開催されたアゼルバイジャングランプリで3位に入り、F1史上2番目の若さで表彰台に立った[W 24][W 25][注釈 3]

2018年にフォース・インディアが破産した際、ストロールはチョウらとともにコンソーシアムを組織し[W 8]、同チームを9000万ポンドで買収して従業員らを救済し、さらに同チームの1500万ポンドの債務も引き受けた[W 27][W 10]。ストロールはフォース・インディアの資産を引き継いだ新チームとして「レーシング・ポイント」を立ち上げ、ストロールの投資によって同チームはF1への継続参戦が可能となった[W 10][注釈 4]。同チームは、2020年終盤のサヒールグランプリで、ドライバーのセルジオ・ペレスの力走もあって優勝を果たしている[W 10]

アストンマーティン編集

2020年初め、アストンマーティンブランドを保有するアストンマーティン・ラゴンダ社は売上と株価の低迷に悩まされていた[W 28][注釈 5]。同年1月、ストロールは再びチョウらとコンソーシアムを組織し[W 8]、同社に1億8200万ドルの投資を行い、株式の20%を取得し、ストロールは同社の経営陣に加わり、取締役会の会長(エグゼクティブチェアマン)に就任した[W 8][W 9][W 10]

これに伴い、F1チームのレーシング・ポイントも2021年シーズンからは「アストンマーティン」(アストンマーティン・フォーミュラ1)に改称した[W 31][W 32][注釈 6]

人物編集

ストロールはスイス・ジュネーブを拠点に活動を行っている[W 9]

自動車愛好家としての側面編集

熱狂的な自動車愛好家であり、上記のF1チームの買収やアストンマーティンへの投資のほか、自動車関連に大きな額を費やしていることで知られる[W 10]

上記のF1との関わり以前にも、トミーヒルフィガーの経営に携わっていた間、1991年から1994年まで同社とペペ・ジーンズでチーム・ロータスのスポンサーを務めた[1][W 33]

個人としては、2000年代以前からフェラーリの自動車を収集しており、1967年型275GTB/4 S NARTスパイダー、1957年型250テスタロッサという希少車も含め多数の車を所有している[W 6][W 7]。そのコレクションの資産価値はおよそ1億6000万ドルに相当するとされる[W 7]。このフェラーリとのつながりは、息子ランスのフェラーリ・ドライバー・アカデミー入り(2010年 - 2015年)と関連付けて語られることもある[W 6]

カナダのモントランブラン・サーキットのオーナーでもある[W 10]

家族編集

ストロールはベルギー生まれの妻クレア=アン・キャレン(Claire-Anne Callens)との間に息子のランスと、娘のクロエの2子がいる[W 6]

ストロールはランスのレーシングドライバーとしてのキャリアに多額の投資を行っていることでも知られる。ランスがウィリアムズからデビューした際は同チームには日本円換算で82億円もの持参金を持ち込んだとされており、これはF1チームへの持参金としては史上最高額だとされている[W 23]

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ ラルフ・ローレンは1967年に設立されたブランドだが、ヨーロッパへの進出は1980年代に入ってからのことだった[W 11]。当時は、米国ブランドの服を「本場」ヨーロッパで売ることは「エスキモーに氷を売るようなものだ」であるとか、「アラブ人に砂を売るようなものだ」などと言われるほどの難事と考えられていた[W 11]
  2. ^ 社名の「スポーツウェア」は「スポーツに用いる服」という意味ではなく、ファッションジャンルのひとつである「スポーツウェア」(スポーティーなデザインの服)を指している。このジャンルはトミーヒルフィガーが手掛けている分野でもある[W 14]
  3. ^ ランスはその後も実力不相応にF1のシートを得ているという揶揄に悩まされ続けることになる[W 26]。2020年時点で、「F1ドライバーとして不適格」と言えるほどに実力が低いわけではないと擁護する声もある[W 26]
  4. ^ 「改名」とされることがあるが、厳密には、ストロールたちは2018年8月に新会社の「Racing Point UK Limited」を設立し、旧フォース・インディアの資産や従業員を全て引き受ける形でチームを立ち上げた。
  5. ^ 同社は2018年10月に株式公開を行ったが、その時点で19ポンドだった株価は2ヶ月足らずで11ポンド台まで低下し、回復の見込みの立たない状態が続いていた[W 29][W 30]
  6. ^ 運営会社の名称も「Racing Point UK Limited」から、「AMR GP Limited」に変更された。

出典編集

書籍
  1. ^ GP Car Story Vol.32 Lotus 107、「万策尽きて……」(クリス・マーフィー インタビュー) pp.74–77
ウェブサイト
  1. ^ a b c Lawrence Stroll” (英語). Forbes (2021年6月19日). 2021年6月28日閲覧。
  2. ^ a b Siddharth Vikram Philip (2020年2月7日). “The Billionaire’s Big Job of Restoring Aston Martin” (英語). Bloomberg. 2021年6月28日閲覧。
  3. ^ a b Siddarth Philip (2020年2月7日). “Lawrence Stroll's next big job: Restoring Aston Martin” (英語). Autonews. 2021年6月28日閲覧。
  4. ^ a b Silas Chou” (英語). The Business of Fashion. 2021年6月28日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g Edwin Durgy (2011年12月7日). “Hong Kong Investors To Take Massive Profits From Michael Kors IPO” (英語). Forbes. 2021年6月28日閲覧。
  6. ^ a b c d e f Nicolas Van Praet (2012年3月7日). “Quebecer Stroll newest member of Forbes' billionaires list” (英語). Financial Post. 2021年6月28日閲覧。
  7. ^ a b c d Will Yakowicz (2019年12月5日). “Fashion Billionaire Lawrence Stroll Reportedly In Talks To Buy Stake in Aston Martin” (英語). Forbes. 2021年6月28日閲覧。
  8. ^ a b c d e アストンマーティンの経営執行役会長に就任するストロール、経営およびマーケティング面の改善を誓う” (日本語). autosport web (2020年2月2日). 2021年6月28日閲覧。
  9. ^ a b c d e f Jasper Jolly (2020年1月31日). “Aston Martin: The billionaire building 'a British Ferrari'” (英語). The Guardian. 2021年6月28日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h Dave Stubbings, Hannah Finch (2021年4月12日). “All about Lawrence Stroll: The billionaire behind Aston Martin and its F1 team” (英語). BusinessLive. 2021年6月28日閲覧。
  11. ^ a b Lauren Goldstein (2001年7月21日). “Ralph's European Invasion” (英語). Time. 2021年6月28日閲覧。
  12. ^ Fred Gehring (2015年7月). “Tommy Hilfiger’s Chairman on Going Private to Spark a Turnaround” (英語). Harvard Business Review. 2021年6月28日閲覧。
  13. ^ Ko Tin-yau (2016年11月8日). “How tycoon Silas Chou made a fortune from two global brands” (英語). Hong Kong Economic Journal. 2021年6月28日閲覧。
  14. ^ Designer Bio” (英語). Tommy Hilfiger (2017年2月). 2021年6月28日閲覧。
  15. ^ Elizabeth Paton (2014年9月7日). “Tommy Hilfiger: a name traded for an empire” (英語). Financial Times. 2021年6月28日閲覧。
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  17. ^ Lisa Lockwood (2010年9月10日). “Match Point: Joel Horowitz and Tommy Hilfiger” (英語). WWD. 2021年6月28日閲覧。
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  19. ^ Parmy Olson (2006年3月28日). “CVC Gets Into Gear With Ecclestone's F1 Stake” (英語). Forbes. 2021年6月28日閲覧。
  20. ^ Christian Sylt (2014年6月1日). “Ecclestone Says He Doubts Fashion Tycoon Lawrence Stroll Will Buy Into F1” (英語). Forbes. 2021年6月28日閲覧。
  21. ^ 米企業がF1取得を発表。エクレストンはCEOに残留” (日本語). autosport web (2016年9月8日). 2021年6月28日閲覧。
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  24. ^ ストロール初表彰台「3位だなんてまだ信じられない。チームが支えてくれたおかげ」ウイリアムズ F1日曜” (日本語). autosport web (2017年6月26日). 2021年6月28日閲覧。
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  26. ^ a b Luke Smith (2020年10月30日). “メルセデス代表、”汚名”に苦しむストロールの実力を評価「彼はペイドライバーじゃない」” (日本語). Motorsport.com. 2021年6月28日閲覧。
  27. ^ 消滅危機のフォース・インディアF1をストロール父が救済。チームは新オーナーのもと、活動継続へ” (日本語). autosport web (2018年8月8日). 2021年6月28日閲覧。
  28. ^ Theo Leggett (2021年3月2日). “Aston Martin: The billionaire building 'a British Ferrari'” (英語). BBC. 2021年6月28日閲覧。
  29. ^ Stephen Wilmot (2019年3月1日). “アストンマーティン、株価回復へ険しい道のり” (日本語). The Wall Street Jornal. 2021年6月28日閲覧。
  30. ^ 【まだ出口は見えず?】アストン マーティンの苦境は続く 注視が必要” (日本語). Autocar Japan (2020年3月30日). 2021年6月28日閲覧。
  31. ^ Jonathan Noble (2020年1月31日). “ストロール父がアストンマーチン大株主に。レーシング・ポイントの名称も変更へ” (日本語). Motorsport.com. 2021年6月28日閲覧。
  32. ^ レーシング・ポイントF1オーナーのストロール父、アストンマーティン社の株価暴落に伴い出資金を増額へ” (日本語). autosport web (2020年3月16日). 2021年6月28日閲覧。
  33. ^ Alan Baldwin (2021年3月5日). “Aston Martin boss Stroll has big plans for F1 team and brand” (日本語/英語). Reuters. 2021年11月2日閲覧。

参考資料編集

書籍
  • 『GP Car Story』シリーズ

外部リンク編集