中空軸平行カルダン駆動方式

中空軸平行カルダン駆動方式(ちゅうくうじくへいこうカルダンくどうほうしき)とは、電気車の主電動機駆動方式のうち、カルダン駆動方式の一種。1941年スイスの電機メーカー、ブラウン・ボベリが開発し、チューリッヒ市交通局の路面電車に採用された「ディスクドライブ」方式が原型とされる。

中空軸平行カルダン駆動方式が使用されているMT55形直流電動機のカットモデル。A中空軸・Bねじり軸(駆動軸)・Cたわみ板継ぎ手

概要 編集

 
中空軸平行カルダン駆動方式を上から見たモデル図。
Aモーター(台車枠に支持)、B中空軸(電機子軸)、Cたわみ板継ぎ手、Dねじり軸、E小歯車、F大歯車、

主電動機は輪軸に平行配置して台車枠に支持されており、主電動機の電機子軸を太めの中空軸とし、その両端にたわみ板継ぎ手を装備して、中空軸の中に一本の駆動軸(ねじり軸と呼ばれる)を通す構造となっており、動力の伝達は、中空軸→主電動機出力軸の反対側のたわみ板継ぎ手→中空軸の中の駆動軸→主電動機出力軸側のたわみ板継ぎ手→小歯車と伝達される。

出力軸を小歯車の反対側から出すことでねじり軸の実効長が確保でき、ねじり軸の移動角度を小さく抑えたまま、継ぎ手全体としては十分な変位量を確保できるため、車両の上下動が大きくなる高速走行時でもスムーズに大きな力を伝達できる。主電動機と歯車装置は、共に台車枠に支持され[注 1]、その重量が台車の軸ばねを介して輪軸に掛かるため、ばね下重量が小さくなり、レールや台車への衝撃が少なくなる。

中空軸を通すためモータの直径は大きくなるものの、WN駆動方式に比して軸方向の寸法を短くできることから、開発当時は、特に狭軌鉄道に出力の大きなモーターを搭載する場合に適していた。

日本での導入例 編集

 
中空軸平行カルダン駆動方式の150 kW直流直巻電動機。出力軸にたわみ板継ぎ手が固定された状態
 
中空軸平行カルダン駆動装置付きの車軸

東洋電機製造が、日本初の可撓継手による平行駆動装置2種類(ブラウンボベリのディスク方式にヒントを得た、たわみ板による中空軸カルダンとWN継手に類似の中実軸歯形継手)を1952年11月に京阪神急行電鉄(現・阪急電鉄京都線751で現車試験をした。この試験の結果を受け、最初の実用中空軸平行カルダン駆動装置を1953年6月に完成した京阪電気鉄道1800型1801用として1セット納入した。駆動機構はモーター側ゴムと歯形継手、ピニオン側にたわみ板継手を使用した。1954年には世界初の1,067 mm狭軌用としてたわみ板継手式中空軸カルダン駆動装置を名古屋鉄道南海電気鉄道に納入し、同年路面電車用として西日本鉄道福岡市内線に投入した1000形に採用された。

1957年には日本国有鉄道(国鉄)モハ90系の駆動装置として採用された。三菱電機アメリカ企業のウェスティングハウス・エレクトリックライセンシーとして製造したWN駆動方式に比べ、軸方向の寸法を最小で済ませることができてスペース効率に優れることと、ギアボックスと電動機の電機子軸の相対位置の変動幅を大きく取れ、劣悪な軌道条件での追従性に優れることから、狭軌の鉄道事業者を中心に普及した。なおこの種の駆動方式ではたわみ板の疲労破壊が問題となるが、1970年に総武緩行線を走行していた101系電車[1]の主電動機継手にてたわみ板を破損し、破損したたわみ板によって制御線が短絡されるという暴走事故にまで発展したものの(死傷者なし)、その後たわみ板は全数交換され類似トラブルはほとんど皆無になった[注 2]

その後たわみ板継手を2個組み合わせた形状のTD (Twin Disc) 継手と中実軸の主電動機を用いる「TD平行カルダン駆動方式」が開発された。一方でVVVFインバータ制御誘導電動機の組み合わせが普及した。結果として主電動機の小型化が推進されたことから中空軸平行カルダン駆動の優位性は相対的に低下し、近時の新系列の電車で本方式を採用する例はほとんど見られなくなった。

採用した鉄道事業者 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 歯車装置は吊り装置により台車枠から吊り下げられている。
  2. ^ 後継のTD継手でも特殊鋼による2組構成だが、炭素繊維強化プラスチック製のたわみ板1組に置き換えに成功し、モーターを搭載する新幹線グリーン車の騒音低下を図っている。
  3. ^ 営業用車両では223系5000番台N700系3000/4000/5000番台グリーン車が該当。

出典 編集

  1. ^ モハ90系は、1959年の車両称号規定改正に伴い101系に改番された。

関連項目 編集