仁義なき戦い 頂上作戦
『仁義なき戦い 頂上作戦』(じんぎなきたたかい ちょうじょうさくせん、Battles Without Honor and Humanity: Police Tactics )は、1974年(昭和49年)1月15日に東映で公開された日本映画。『仁義なき戦いシリーズ』の第四弾。
仁義なき戦い 頂上作戦 | |
---|---|
Battles Without Honor and Humanity: Police Tactics | |
監督 | 深作欣二 |
脚本 | 笠原和夫 |
出演者 |
菅原文太 梅宮辰夫 松方弘樹 小林旭 |
音楽 | 津島利章 |
撮影 | 吉田貞次 |
編集 | 宮本信太郎 |
配給 | 東映 |
公開 |
![]() |
上映時間 | 101分 |
製作国 |
![]() |
言語 | 日本語 |
配給収入 | 3億300万円[1] |
前作 | 仁義なき戦い 代理戦争 |
次作 | 仁義なき戦い 完結篇 |
解説
本作の時代背景は1963年(昭和38年)~1964年(昭和39年)である。このときの暴力集団間の抗争に加えて、高度経済成長を続ける市民社会・マスメディアの暴力集団に対する非難の目、それに呼応した警察による暴力団壊滅運動などの非暴力団側との対立が一つの軸となっている。またやくざの歴史における第二次広島抗争がどのように終焉したかを記録している。さまざまな立場の人間が絡んでいるが、物語は他の作品と同じく終始暴力団員が中心である[2]。
当初はシリーズ第二作『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利(千葉真一)が再登場する予定だったが、千葉が主演映画『殺人拳シリーズ』の撮影に入っていたために実現しなかった[3][4]。
笠原は『仁義なき戦い 広島死闘篇』の頃から本作の構想を持っており、本作を最終作と定めてラストに向かって膨大なエピソードがパノラミックに並列されていく[5]。警察の頂上作戦でともに逮捕された広能と武田が、粉雪の吹き込む裁判所の廊下で震えながら、もはや自分たちの時代でないことを実感する名シーンは「暴力による戦後史」の締めくくりとして見事である[5]。
『女番長 タイマン勝負』が併映で[6]、3億300万円の配給収入を記録、1974年(昭和49年)の邦画配給収入ランキングの第10位となった[1]。
あらすじ
1963年(昭和38年)、東京オリンピックを翌年に控え高度経済成長の真っ只中にある市民社会は、秩序の破壊者である暴力団に非難の目を向け始めていた。しかし広能昌三の山守組破門に端を発した広能組・打本会の連合と山守組との抗争は、神戸を拠点に覇を争う二大広域暴力団・明石組と神和会の代理戦争の様相を呈し、激化の一途を辿っていた。
広能と打本は広島の義西会・岡島友次に応援を要請。穏健派の岡島は慎重姿勢を崩さないが、明石組・岩井信一の説得もありこれを承諾する。そんな中広能組組員・河西清が山守組系列槇原組組員に襲撃され死亡、さらに打本会組員も数名が惨殺される。また打本会組員が一般市民を誤って射殺する事件が発生。市民社会・マスコミによる暴力団への糾弾は激化し、警察も各暴力団を徹底監視する方向性を打ち出した。
広能は警察のマークをかいくぐり河西の報復にはやる一方、打本は腰を上げようとしない。業を煮やした岩井は河西の本葬を行う名目で、広島に応援組員1000名以上を送り込み、山守組への反撃を画策した。その動きを察知した山守組組長・山守義雄と若頭・武田明は打本を脅迫し、岩井の目的を知る。山守は警察へこれを密告し、遂に広能は別件容疑で逮捕。岩井ら明石組とその応援部隊は広島を引き上げざるを得なくなった。残された広能組組員は各地で暴発するが次々と逮捕され、もはや広能・打本連合の劣勢は回避できない状況となった。この劣勢に義西会・岡島は広島の川田組を大金で買収し、山守組への対決姿勢を鮮明にする。しかし岡島の動きを察知した山守により岡島は射殺され、残された義西会組員らはその報復として山守組の各事務所をダイナマイトで爆破する事件を引き起こす。また打本会組員らも一向に腰を上げない親分に業を煮やし、各地で市街戦を展開し、市民社会を恐怖の底に陥れる。世論の暴力団に対する抵抗は頂点に達し、事態を重く見た警察もついに組長クラスの一斉検挙、いわゆる「頂上作戦」に踏み切り、山守、打本らが逮捕される。
山守の逮捕を知った明石組・岩井は広島へ乗り込み、義西会残党をまとめて陣営の立て直しを画策し、一方の武田は広島各地の大小暴力団を糾合する。武田は義西会への神戸の梃入れは広島親分衆たちの自治を乱す内政干渉と非難。しかし岩井はその親分の1人である岡島を殺し、その上で義西会への謝罪と安全保障をしない以上、広島側の理屈は破綻していると反論。武田は明石組と敵対する腹を据え、神戸へ組員を派遣し、明石組組長・明石辰男邸をダイナマイトで爆破。これに端を発し、各地で岩井組・義西会連合と武田組との間で激しい銃撃戦が展開される。義西会若頭・藤田正一は川田組組長・川田英光に応援を要請するが、野球賭博によるシノギにしか興味を示さない川田は答えをはぐらかす。それどころか、義西会の勢力にカスリを取られる事を嫌う川田は、川田組組員・野崎弘に藤田殺害を迫る。藤田と懇意にあった野崎は葛藤しつつも藤田を殺害し、この同志討ちは岩井に暗い影を落とした。
岩井は拘置所の広能を訪れ、明石組と神和会が兵庫県警の仲介で手打ちとなった事、藤田の死により義西会が自然消滅の状態にある事を伝える。打本も打本会の解散を表明し、もはや岩井になす術はなかった。広島から手を引かざるを得なくなった事を詫びる岩井を広能は労う。1964年(昭和39年)1月、広能に7年4カ月の判決が下る。裁判所の廊下で、広能は同じく長い懲役刑を受けた武田と再会する。武田から、山守に対する判決が1年半にしかならない事を知らされた広能は虚しい徒労感に襲われ、武田と共に自分達世代の時代が終わった事を痛感する。
かくして広島抗争は、死者17名、負傷者26名、逮捕者約1500名を産みだし、何ら実りのない幕引きを迎えたのだった。
キャスト
打本会明石組側
村岡の跡目を巡って山守に敗れた打本は、山守組を破門となった広能と手を組み、神戸を拠点とする日本最大の暴力団組織明石組と盃を交わして傘下に加わり、広島での覇権奪回を図る。
モデルとなった実在の人物は、解説文の最後に () で付した。
広能組(モデル・美能組)
- 広能昌三 - 菅原文太:広能組組長。山守組を破門。シリーズの主人公。(美能幸三)
- 水上登 - 五十嵐義弘:広能組若衆。
- 竹本繁 - 黒沢年男:広能組若衆。
- 河西清 - 八名信夫:広能組若衆。広能組長の壊れた道具と自分の道具を交換したが為、刺客に対応できず殺される。(亀井貢)
- 岩見益夫 - 野口貴史:広能組若衆。
- 弓野修 - 司裕介:広能組若衆。
- 関谷徹 - 松本泰郎:広能組若衆。
上田組
上田組(モデル・小原組)
- 上田利男 - 曽根晴美:上田組組長。大久保の親戚 (小原光男)
打本会
打本会(モデル・打越会)
- 打本昇 - 加藤武:打本会組長。明石組系打本会として山守組と抗争。(打越信夫)
- 森田勉 - 西田良:打本会組頭。
- 福田泰樹 - 長谷川明男:打本会若衆。渾名はヤッチン。鼻を削がれた後に惨殺される。(藤田逸喜)
- 谷口亮 - 小林稔侍:打本会若衆。(谷村祐八)
- 本多志郎 - 高月忠:打本会若衆。
- 柳井秀一 - 岡部正純:打本会若衆。
- 三上達矢 - 有川正治:打本会若衆。(三橋巌夫)
- 菊枝 - 中原早苗:打本の情婦。
明石組
明石組(モデル・山口組)
- 明石辰男 - 丹波哲郎:明石組組長。(田岡一雄)
- 宮地輝男 - 山本麟一:明石組若衆頭。(地道行雄)
- 相原重雄 - 遠藤辰雄:明石組舎弟頭。(安原政雄)
- 岩井信一 - 梅宮辰夫:明石組若衆(幹部)。岩井組組長。明石組の切込隊長。広能と親しい。(山本健一)
- 和田作次 - 木谷邦臣:明石組若衆。岩井の舎弟。
義西会
義西会(モデル・西友会)
- 岡島友次 - 小池朝雄:義西会会長。西の岡。中立を守っていたが抗争に巻き込まれていく。小学校の同窓会旅行時に恩師の目の前で射殺される。(岡友秋)
- 藤田正一 - 松方弘樹:義西会若衆頭。広能とは刑務所時代からの交友。病を患っているが岡島の仇を思い死力を尽くす。(藤井幸一と沖広照義)
- 光川アイ子 - 堀越光恵:ホステス。岡島の情婦。
- 拳骨ラッパ - 吉田義夫:岡島の学校時代の担任教師。
川田組
川田組(モデル・河合組)
山守組神和会側
村岡組を譲り受けた山守組は広島最大の暴力団となったが、打本会や、打本会を傘下におさめた明石組の侵攻から広島を守るため、明石組と拮抗する神戸の暴力団組織神和会と提携する。
山守組(モデル・山村組)
- 山守義雄 - 金子信雄:山守組組長。(山村辰雄)
- 山守利香 - 木村俊恵:山守義雄の妻。(山村邦香)
- 武田明 - 小林旭:山守組若衆頭。武田組組長。(服部武)
- 江田省一 - 山城新伍:山守組若衆(幹部)。江田組組長。(原田昭三)
- 槙原政吉 - 田中邦衛:山守組若衆(幹部)。槇原組組長。(樋上実)
- 吉井信介 - 志賀勝:山守のガード役。(後の共政会副会長、吉岡信彦)
- 山崎恒彦 - 福本清三:山守組若衆。(山田吉彦)
- 丸山勝 - 北斗学:武田組若衆。
- 金田守 - 誠直也:江田組若衆。
- 古賀貞松 - 高並功:武田組若衆
- 織田英士 - 笹木俊志:武田組若衆
- 友田孝 - 沢美鶴:武田組若衆
- 山本邦明 - 大木晤郎:江田組若衆
- 江田欣三 - 栩野幸知:江田組幹部・省一の弟
- 吉倉周三 - 岩尾正隆:槇原組の呉の小組長。
- 的場保 - 成瀬正:槇原組若衆
- 上原亮一 - 平和勝司:槇原組若衆
- 森久宏 - 白井孝史:槇原組若衆
- 武田組組員 -広瀬義宣
早川組
早川組(モデル・山口(英)組)
- 早川英男 - 室田日出男:早川組組長。元打本組。(山口英弘)
- 杉本博 - 夏八木勲:早川組若衆。(四代目共政会会長、沖本勲)
- 松井隆治 - 宮城幸生:早川組若衆。杉本の兄貴分。
- 三重子 - 渚まゆみ:松井の情婦。福田の元情婦。
- 楠田時夫 - 白川浩二郎:早川組若衆
大友組
- 神代巳之吉 - 小田真士:大友組幹部
養西会
- 沖山昭平 - 小峰一男:養西会若衆
神和会
神和会(モデル・本多会)
その他
- 千鶴子 - 城恵美:女子高校生
- 弁護士 - 汐路章
- ホステス - 富永佳代子
- 安川昌雄 - 国一太郎:食堂店主(抗争の犠牲者)
- 前島幸作 - 阿波地大輔:自動車修理業(抗争の犠牲者)
- 捜査主任 - 鈴木康弘
- 県警本部課長 - 芦田鉄雄
- 記者 -前川良三
- 記者 - 唐沢民賢
- 新聞社編集長 - 鈴木瑞穂
以下ノンクレジット
スタッフ
逸話
- 川谷拓三は本作では役がなく、勝手にエキストラとして出演した[8]。このためノンクレジットである。本作に出演した小倉一郎の話では、ラッシュを観ると、喫茶店でコーヒーを飲んでいる学生、警官隊の一人、ヤクザの一人というぐあいに注意してみるとあちこちに顔を出していたと話している[8]。しかし完成した劇場版でどの程度出ているかは不明なところがあり、劇中ラスト近くで、小倉扮する野崎弘が松方弘樹扮する藤田正一を射殺し、警官隊が野崎の自宅に踏み込むシーンの外にずらっと並ぶ警官隊の中にいると小倉は話しているが[8]、踏み込むシーンはあるものの、外に警官隊が並ぶシーンがなく確認が難しい。
- 「仁義なき戦いシリーズ」の映画ポスターや広告デザインは、関根忠郎による惹句(キャッチコピー)と[9]、東映宣伝部のそれまでの映画ポスターや宣材には見られない報道写真のようなリアルタッチなモノになった[9][10][11][12][13]。それまでの映画のポスターは主役のカッコ良さを前面に押し出したポスターが基本で[9]、東映は特に脇役に関しても誰は何センチとか、スターの配列にうるさかったが[9]、企画会議で主役の菅原文太が「俺の顔なんてポスターには要らんよ」と言い、深作欣二も「それでお願いしたい」と言ったことから、その他のスターからも配列で揉めないことが確認され、作品全体を表す広告展開が行われた[9]。主役を押し出さなくてもいい広告展開は東映では初めてのケースだった[9]。しかしシリーズを追うごとにこれがエスカレートし、中身がよく分からない広告が増え[10]、本作『仁義なき戦い 頂上作戦』では、上半分がギラギラと光る文太の目、下半分は大砲の砲弾が砂丘にポツンと置かれる、或いは文太も役者の顔も一切なしで、砲弾だけが砂丘に置かれる広告もあり[9][14]、遂に岡田茂東映社長が「自己満足もはなはだしい。ファンに理解してもらえない」と激怒し、「ポスターを作り変えろ」と指示した[10]。この話が文太に伝わり、文太が東映本社に怒鳴り込み、社長室で、岡田「こんなもんでお客が入るわけがない!」 文太「それじゃあ、ストリップ小屋の看板みたいなのにしろと言うんですか!」などと岡田社長と文太の火の出るような大喧嘩が行われた[10]。岡田社長と文太の板挟みに弱り抜いた宣伝部は苦し紛れに、大学の映研部員に集まってもらい是非を討論してもらい、決定を委ねましょうと一計を案じた[10]。映研部員たちは言うまでもなく小難しいのが好きだから文太に賛成し、圧倒的に文太が支持され岡田社長は敗北した[10]。岡田社長はさぞ心が折れてるかと思いきや、何故かニコニコ。東映幹部は「あれは社員に刺激を与えるために社長が仕組んだ片八百長だよ」と解説した[10]。
ビデオ
「仁義なき戦い#ビデオとテレビ放映」を参照。
脚注
- ^ a b 『キネマ旬報ベスト・テン全史: 1946-2002』キネマ旬報社、2003年、198-199頁。ISBN 4-87376-595-1。
- ^ 深作欣二監督・笠原和夫脚本・菅原文太主演による1975年公開の映画『県警対組織暴力』でも本作と全く同じ時代背景が取り扱われており、それまで消極的だった警察による暴力団対策の変遷が警察側の視点から描かれている。
- ^ 千葉真一 『千葉流 サムライへの道』ぶんか社、2010年、48-49頁。ISBN 4821142694。
- ^ 小林信彦 『映画を夢見て』 筑摩書房、1991年、177 - 185頁。
- ^ a b 深作欣二・山根貞男 『映画監督深作欣二』ワイズ出版、2003年7月、285頁。ISBN 4-89830-155-X。
- ^ 「1974年度日本映画/外国映画業界総決算」『キネマ旬報』1975年(昭和50年)2月下旬号、キネマ旬報社、1975年、108頁。
- ^ 『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』洋泉社、2014年10月、204-205頁。ISBN 978-4-8003-0504-6。
- ^ a b c 小倉一郎 『みんな、いい人』太陽企画出版、1995年、194-196頁。ISBN 4-88466-254-7。
- ^ a b c d e f g 関根忠郎、山根貞男、山田宏一 『惹句術ーじゃっくじゅつー 映画のこころ』講談社、1986年、168-218頁。ISBN 406202005X。
- ^ a b c d e f g 「〈ルック映画〉 岡田東映社長に勝った菅原文太」『週刊現代』1974年1月10、17日号、講談社、31頁。
- ^ 『仁義なき戦い』がwithコロナの時代に全国行脚! 深作欣二監督の実録シリーズを劇場鑑賞するチャンス!!
- ^ “【今だから明かす あの映画のウラ舞台】 宣伝も“仁義なき戦い” 「抗争」広島に潜入し資料収集 (1/2ページ) ★実録編(上)”. 夕刊フジ. 産業経済新聞社 (2016年2月26日). 2016年1月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月1日閲覧。
- ^ “最強の任侠映画『仁義なき戦い』頂上決戦!一番ヤバいキャラはこの人 松方弘樹、菅原文太、田中邦衛…”. 週刊現代 (2017年3月17日). 2019年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月1日閲覧。
- ^ 仁義なき戦い 頂上作戦〈深作欣二監督生誕90周年記念上映〉 2020.7.31(金) - 8.6(木) 京都みなみ会館
関連項目
外部リンク
- 日本映画データベース
- 仁義なき戦い 頂上作戦 - allcinema
- 仁義なき戦い 頂上作戦 - KINENOTE
- 仁義なき戦い 頂上作戦 - オールムービー(英語)
- 仁義なき戦い 頂上作戦 - IMDb(英語)