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仮説実験授業(かせつじっけんじゅぎょう)は、科学の基本的概念や原理的な法則を教授するために開発された授業理論[1]1963年昭和38年)に板倉聖宣が提唱した[1]

目次

概要編集

教科書学習指導案の機能を兼ね備えた「授業書」により授業を進めるのが基本である[2]。授業書には予め問題と選択肢が用意されており、学習者はその選択肢に基づいて実験結果を予想する[2]。さらに、複数の学習者がその予想を話し合った上で実験に臨み、実験結果と仮説を比較検討する[1]。このプロセスを繰り返すことにより、学習者が概念・法則を獲得するに至るとする[1]。板倉は基礎的・基本的な概念に関わるもの常識的に考えると誤答するもの正答が簡単な実験によって判明するものという3つの条件に当てはまる課題が仮説実験授業に適するとしているという[3]。したがって、自然科学理科)に限らず、人文科学社会科学社会科)分野への適用も可能である[1]

授業書の例編集

たとえば、ガリレオ・ガリレイが行ったとされるピサの斜塔の実験を題材にした場合には、以下のような授業書が用意されることになる[4]

  • 問題
    • 高さ50メートルの塔から、重さの違う大小2つの鉄球を落としたとき、結果はどうなりますか。
  • 予想(自分の予想に○をつける)
    • ア - 重い大の鉄球が速く地面に到達する。
    • イ - 軽い小の鉄球が速く地面に到達する。
    • ウ - 同時に地面に到達する。
  • 討論
    • どうしてそう思いますか。考えを話し合ってみましょう。
  • 実験の結果
    • [(記述欄)]

このような「問題-予想-討論-(予想変更)-実験」を、一連の実験群が並べられた《授業書》に沿って繰り返していく。また、問題と問題の間に「おはなし」と呼ばれる読み物が挿入され、科学的認識の醸成を助けることもある。

仮説実験授業研究会と仮説社編集

授業書の開発は仮説実験授業研究会が中心となって行っている[1]。また、仮説社が仮説実験授業に関する書籍を扱っている。授業書本体や、その実施に必要な実験器具、授業の準備の助けとなる実験ノートなども、仮説社で入手することができる。

どんな授業書があるか編集

授業書は、数多くの実験授業にかけられ、「熱心な教師なら誰でも〈たのしい授業〉を実践することができる」ことが確認されて初めて完成となる。検討段階の授業書‘案’は〈 〉でくくられ、完成した授業書は《 》でくくられる形で表記されており、区別されている。

完成度の高い授業書として、以下のようなものが挙げられる[5]

小学校低学年でもできる授業書編集

  • 《足はなんぼん?》
  • 《背骨のある動物たち》
  • 《にている親子・にてない親子》
  • 《空気と水》
  • 《ドライアイスであそぼう》
  • 《かげとひかり》
  • 《ふしぎな石—じしゃく》
  • 《たねと発芽》
  • 《おもりのはたらき》
  • 《もしも原子が見えたなら》

自然界の多様性をとりあげた基本的な授業書編集

  • 《磁石》
  • 《電池と回路》
  • 《まめ電球と回ろ》
  • 《自由電子が見えたなら》
  • 《ゼネコンであそぼう—発電機と電気エネルギー》(ミニ授業書)
  • 《光と虫めがね》
  • 《虹と光》
  • 《宇宙への道》
  • 《月と太陽と地球》
  • 《花と実》
  • 《30倍の世界》

物性=分子原子の一般的な性質に関する授業書編集

  • 《ものとその重さ》
  • 《空気の重さ》
  • 《もしも原子が見えたなら》
  • 《分子模型をつくろう》(作業書)
  • 《溶解》
  • 《結晶》
  • 《粒子と結晶》,《個体と結晶》
  • 《温度と沸とう》
  • 《三態変化》
  • 《水の表面》
  • 《温度と分子運動》

小学校でも教えられる力学関係の授業書編集

  • 《はねと力》
  • 《磁石と力》
  • 《まさつ力と仕事量》
  • 《滑車と仕事量》
  • 《トルクと重心》
  • 《重さと力》
  • 《浮力と密度》
  • 《長い吹き矢,短い吹き矢》
  • 《ふりこと振動》
  • 《ころりん》

中学高校程度の物理学関係の授業書編集

  • 《速さと時間と距離》
  • 《力と運動》
  • 《電流》
  • 《電流と磁石》
  • 《ものとその電気》
  • 《程度のもんだい》
  • 《磁気カードの秘密》
  • 《電子レンジと電磁波》
  • 《偏光板の世界》
  • 《光のスペクトルと原子》
  • 《電池であそぼう》
  • 《磁石につくコインつかないコイン》

化学・生物・地学関係の授業書編集

  • 《いろいろな気体》
  • 《燃焼》
  • 《爆発の条件》
  • 《錬金術入門》
  • 《原子とその分類》
  • 《熱はどこにたくわえられるか》
  • 《生物と細胞》
  • 《生物と種》
  • 《ダイズと豆の木》
  • 《地球》
  • 《不思議な石,石灰石》

社会の科学編集

  • 《日本の都道府県》(ミニ授業書)
  • 《ゆうびん番号》
  • 《沖縄》 ミニ授業書
  • 《日本歴史入門》
  • 《おかねと社会》
  • 《鹿児島と明治維新》(ミニ授業書)
  • 《日本の戦争の歴史》
  • 《えぞ地の和人とアイヌ》
  • 《世界の国ぐに》
  • 《世界の国旗》
  • 《焼肉と唐辛子》(ミニ授業書)
  • 《はじめての世界史》
  • 《世界が一つになってきた歴史》
  • 《対数グラフの世界》
  • 《コインと統計》
  • 《オリンピックと平和》
  • 《二つの大陸文明の出会い》
  • 《あかりと文明》
  • 《社会にも法則があるか》
  • 《三権分立》
  • 《生類憐みの令—道徳と政治》
  • 《禁酒法と民主主義》
  • 《差別と迷信—被差別部落の歴史》
  • 《洗剤を洗う》
  • 《たべものとウンコ—地球はひとつ》
  • 《たべもの飲みもの,なんの色》
  • 《ゴミと環境》
  • 《日本国憲法》
  • 《靖国神社》
  • 《徴兵制と民主主義》

算数・数学の授業書編集

  • 《つるかめ算》
  • 《量の分数》
  • 《分数の乗法》
  • 《分数の除法》
  • 《かけざん》
  • 《2倍3倍の世界》
  • 《電卓であそぼう》
  • 《広さと面積》
  • 《勾配と角度》
  • 《図形と角度》
  • 《円と角度》
  • 《円と円周率》
  • 《図形と証明》
  • 《落下運動の世界》
  • 《本当の数とウソの数》
  • 《1と0》

国語・外国語などの授業書編集

  • 《漢字と漢和辞典》
  • 《漢字の素粒子と原子》
  • 《道路標識》
  • 《変体仮名とその覚え方》
  • 《読点の世界》
  • 《英語のこそあど》

技術・体育・迷信その他の授業書編集

  • 《技術入門》
  • 《物の投げ方の技術と技能》
  • 《コックリさんと遊ぼう》
  • 《虹は七色か六色か》


板倉の展開した授業研究の幅は広く、上記の授業書の他にも、「新総合読本」、「たのしい授業プラン」、「ものづくり」、「サイエンスシアター運動」など多岐に渡る。また、近年は学校外での実施を指向する「わくわく科学教室」や「大道仮説実験」などもある他、授業書とその成果を英訳して出版する動き[6]もある。

脚注編集

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  1. ^ a b c d e f 碓井岑夫 2003, p. 102.
  2. ^ a b 小林重章 2011, p. 40.
  3. ^ 竹綱誠一郎 1999, p. 128.
  4. ^ 竹綱誠一郎 1999, p. 129の例を参考に作成。
  5. ^ 板倉聖宣 2011, p. 104.
  6. ^ Kiyonobu Itakura 2019.

参考文献編集

  • 碓井岑夫「仮説実験授業」『新版学校教育辞典』今野喜清・新井郁男・児島邦宏、教育出版、2003年、102頁。ISBN 4-316-34950-3
  • 小林重章「仮説実験授業」『新版教育小事典第3版』平原春好・寺﨑昌男、学陽書房、2011年、40頁。ISBN 978-4-313-61033-0
  • 竹綱誠一郎、鎌原雅彦『やさしい教育心理学』有斐閣〈有斐閣アルマ〉、1999年。ISBN 4-641-12068-4
  • 板倉聖宣『仮説実験授業のABC 第5版』仮説社、2011年。ISBN 978-4-7735-0229-9
  • Kiyonobu Itakura (2019). Hypothesis-Experiment Class Kasetsu. Trans pacific press. ISBN 978-4814002108. 

関連項目編集

外部リンク編集