信号処理(しんごうしょり、: signal processing)とは、信号(光・音声・画像信号など)を数理手法で処理(分析・加工)する学問・技術の総称である。

左図の信号は一見してノイズであるが、フーリエ変換による信号処理を施した結果、右図のように特定の周波数の成分を多く含むことが分かる。

アナログ信号処理デジタル信号処理に分けられる。信号処理を支える基礎的な分野は信号理論とも呼ばれる[1]

基本的には、信号から信号に変換するものであり、信号とは別の形式の情報を得るもの(例えば、カテゴリ分けや関連づけ、推論的な情報を得る認識や理解など)は含まれない。圧縮も含まれないことが多い。但し、認識や理解、圧縮の前段階としての信号の変換は信号処理と呼ばれる。そのため、信号処理はそれらの技術に対して非常に重要であるとともに関連が強い。なお、また入力と出力が同じ種類(物理量)の信号である場合(例えば入力と出力ともに同じ音圧である場合)には、フィルタリングとも呼ばれる。

信号処理の例としては、ノイズの載った信号から元の信号を推定するノイズ除去や、時間的な先の値を推定する予測、時間周波数解析などを行う直交変換、信号の特徴を得る特徴抽出、特定の周波数成分のみを得るフィルタなどがある。

高速フーリエ変換ウェーブレット変換畳み込み等のアルゴリズムがあり、以前はそれぞれ専用のハードウェアで処理していたが、近年ではDSP汎用のハードウェアでソフトウェアで処理したり、FPGAによる再構成可能コンピューティングによって処理する方法が開発されつつある。

応用 編集

手法 編集

  • 時間周波数解析: 時間とともに変化する信号 (非定常信号) を、その周波数成分がどう遷移するか短時間ごとに区切って変換し、解析する手法
    • 手法
    • 表現
      • スペクトログラム: 横軸を時間、縦軸を周波数として、成分の強度 (magnitude) を輝度で表したグラフ
      • Rainbowgram: スペクトログラムに位相情報を追加したグラフ
  • 要素技術・基礎理論
  • フィルタ (信号処理)

領域 編集

信号は、以下のような領域のどれかでよく扱われる。時間領域(一次元の信号)、空間領域(多次元の信号)、周波数領域自己相関領域、ウェーブレット領域である。ある信号の基本的特性を最もよく表す領域の処理手法を取捨選択して処理が行われる。測定機器から得られたサンプルデータ列は時間領域か空間領域の表現となっている。これに離散フーリエ変換を施すと周波数領域の情報が得られる。これを周波数スペクトルと呼ぶ。自己相関はある信号自身の時間的・空間的に異なる部分との相互相関として定義される。

時間領域と空間領域 編集

時間領域と空間領域で共通する処理手法はフィルタリングによる入力信号の強化である。フィルタリングは一般に、ある(入力または出力)サンプルについて、その周囲のサンプルを変換することで構成される。フィルタは様々な性質で分類されるが、以下にその例を挙げる。

  • 「線形」フィルタは入力サンプル列に線形変換を施す。それ以外のフィルタは「非線形」である。線形フィルタは重ね合わせの条件を満足する。つまり、入力に複数の信号の要素が含まれているとき、線形フィルタを通した出力も同じ複数の信号を同じ線形比率で含んでいる。
  • 「因果性」フィルタは時系列上過去のサンプルだけを使って処理を行う。「非因果性」フィルタは時系列上未来のサンプルも使った処理をする。非因果性フィルタは遅延を追加することで因果性フィルタに変換できる。
  • 時不変」フィルタは時間で変化しない一定の性質を持つ。その他の適応フィルタなどは時間で変化する。
  • 「安定」フィルタと「不安定」フィルタがある。安定フィルタは時間と共にある値に収斂する出力を生成するか、ある範囲の値を生成する。不安定フィルタは発散する出力を生成する。
  • 「有限インパルス応答」(FIR)フィルタは入力信号のみを使うのに対して、「無限インパルス応答」(IIR)フィルタは入力信号と共に、それ以前の出力信号も使う。FIRフィルタは常に安定であるが、IIRフィルタは不安定な場合がある。

多くのフィルタはZ領域(周波数領域の上位概念)の伝達関数で記述できる。フィルタは漸化式でも記述できる場合がある。 FIRフィルタの出力は、入力信号とインパルス反応畳み込みで計算できる場合がある。フィルタをブロック図で表現すれば、ハードウェアを使ってそのアルゴリズムを実装するのに使用できる。

周波数領域 編集

信号にフーリエ変換を施すことによって、時間領域や空間領域から周波数領域に変換することができる。フーリエ変換は信号情報を周波数毎の大きさと位相に変換する。フーリエ変換の結果に対して、各周波数の大きさ成分を二乗してパワースペクトルに変換することが多い。

信号を周波数領域で分析する目的は、信号の特性の分析にある。技術者はスペクトルを分析して信号に存在している周波数成分と欠けている周波数成分を知ることが出来る。

いくつかの共通して使われる周波数領域への変換手法がある。例えばケプストラム(cepstrum)は入力信号をフーリエ変換で周波数領域に変換し、それの対数をとって、再度逆フーリエ変換を施す。これにより、非常に弱い周波数成分を強調することができる。また、自己相関からフーリエ変換によってパワースペクトル密度、またはその逆が成り立つ(Wiener-Khintchineの定理)。

参考文献 編集

  • 梶川嘉延(2017) システムと信号処理の過去・現在・未来. IEICE会誌 [2]
    • 信号処理の歴史(1940年代~2000年以降)。読みやすく、詳細かつ網羅的
  • 電子情報通信学会. 知識ベース 知識の森 1群5編 信号処理[3]

脚注 編集

  1. ^ 飯國 (2011) "信号理論とは,それら信号の特徴を解析,処理するための基礎理論であり,情報通信,システム制御,信号処理などにおける基盤となるものである." 電子情報通信学会 知識の森 1群5編 信号理論 全体概要 http://www.ieice-hbkb.org/files/01/01gun_05hen_abm.pdf
  2. ^ https://app.journal.ieice.org/trial/100_6/k100_6_414/index.html
  3. ^ http://www.ieice-hbkb.org/portal/doc_537.html

関連項目 編集