偽キリル文字(にせキリルもじ、: faux Cyrillic, pseudo-Cyrillic)とは、ラテン文字圏を中心に使われている言葉遊びの一種で、ラテン文字を似た字形キリル文字と置き換える表記法である。

偽キリル文字の「ШЗ́ДЯ」(WEAR)が使われたTシャツ。ロシア語としては意味をなさない。

概要 編集

英語などのラテン文字の単語中に、Я (R の鏡文字) や И (N の鏡文字) のようなラテン文字に似た字形のキリル文字を混ぜるというものである。似た字形のものを使うが、А/AС/C の様に同一形のものは使われにくい。これらは大文字では似ているものの、小文字では似ないことが多いので、原則として全文を大文字で書く必要がある。

偽キリル文字の発音は、置き換えられたラテン文字と同じものを用いる。例えば、『TETЯIS』という表記は、元の通り「テトリス」と読ませるわけであるから、Я の発音は /ja/ ではなく /r/ となる。

偽キリル文字を使う目的は様々あるが、「ロシア(あるいはソ連)らしさ」を醸し出すために使われることも多い。前述の『TETЯIS』にもそういった狙いがある(ラテン文字からキリル文字への一般的な対応付けによる、実際のロシア語では "Тетрис" である)。ポール・マッカートニーのアルバム『バック・イン・ザ・U.S.S.R.』の世界共通盤CD[1]に記した名義 "PAUL McCARTИEЧ" や、フィンランドの音楽グループ レニングラード・カウボーイズのロゴ "LЭИIИGЯAD COWBOYS" など、音楽グループをはじめとした各方面で用いられている。

ソ連・ロシアと関係ない用途でも広く使われ、ヘヴィメタルウムラウトと同様に文字装飾の一環として定着している。おもちゃ屋のトイザらスでも英字ロゴに鏡文字の R が見られるが、これはアルファベットを習いたての子供の誤字をイメージしたものである[2]

この他、ラテン文字とキリル文字を並べて線対称にして特徴付ける用法も多い。三菱・RVRのロゴやナイン・インチ・ネイルズのロゴなども ЯVR, NIИ という表記を用いている。

転用される主な文字 編集

キリル文字 ラテン文字 IPA (ロシア語)
Я R /ja/
И N /i/
З E /z/
Э E /e/
Ш W /ʃ/
Ц U /ʦ/
Ф O /f/
Д A /d/
Ч Y /ʧ/
У Y /u/
Ж X /ʒ/
Г L /g/
г r /g/
н h /n/

転用の例 編集

  • From Wikipedia, the free encyclopedia
-> FЯФM ШIКIPЗDIД, THЗ FЯЗЗ ЗИCУCLФPЗDIД
  • Union of Soviet Socialist Republics
-> ЦИIФИ ФF SФVIЗT SФCIДLIST ЯЗPЦБLICS

日本における利用 編集

日本語のひらがななどとは字形に類似点が見られないためか、日本語に対しての偽キリル文字利用例は多くない。 多くの場合は英語に対しての利用か、ローマ字に転化して用いられる。基本的な用途はラテン文字文化圏と変わらない。

トイザらスのロゴの場合、カタカナとひらがなのまぜ書きに写された。

テレビ朝日系列で放送されたドラマ、「TRICK(トリック)」のタイトルロゴのKは左右反転していて偽キリル文字風であるが、こういった文字が使われているわけではなく鏡文字遊びである。

一方で、ラテン文字への転用があまり行われない小文字キリル文字が、「(゚д゚)」のような顔文字の部品や、ギャル文字を構成する部品として使われるなど、独自のキリル文字転用文化が成立している。

備考 編集

ギャラリー 編集

脚注 編集

  1. ^ このアルバムは1988年にソ連(当時)限定でLPとして発売され、1991年に世界共通盤としてCDが発売された。
  2. ^ よくある質問一覧 | トイザらス・ベビーザらス オンラインストア

関連項目 編集