メインメニューを開く

八つ墓村 (1977年の映画)

1977年制作の日本の映画作品

八つ墓村』(やつはかむら)は、1977年に公開された、野村芳太郎監督の日本映画。原作は横溝正史同名小説

八つ墓村
Village Of The Eight Tombs
監督 野村芳太郎
脚本 橋本忍
原作 横溝正史
製作 野村芳太郎
杉崎重美
織田明
出演者 萩原健一
小川真由美
山崎努
渥美清
音楽 芥川也寸志
撮影 川又昂
編集 太田和夫
配給 松竹
公開 日本の旗 1977年10月29日
上映時間 151分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
配給収入 19億8600万円
(1977年邦画配給収入3位)[1]
テンプレートを表示

解説編集

1960年代後半からの横溝ブーム(漫画化・映画化にいたる経緯は「石坂浩二の金田一耕助シリーズ」の項を参照)を受けて、松竹は1975年に『八つ墓村』の制作を決定する。監督の野村芳太郎をはじめ、脚本の橋本忍、撮影は川又昂、音楽に芥川也寸志と『砂の器』を制作した陣営を起用し、2年3箇月の製作期間と7億円の制作費をかけた[2]上で東宝作品などと競うように封切られ、目論見通り配収19億8600万円という松竹映画の歴代に残る大ヒット作となった。

探偵・金田一耕助の役には渥美清を配するなど、同時期の東宝配給による石坂浩二のシリーズとは作風が大幅に異なる。事件を「祟りに見せかけた犯罪」ではなく「本当の祟り」として描き、主要登場人物を大幅に削減して人物関係を簡略化し、推理物でありながら金田一による謎解きのくだりが短縮され、終局は背景を鍾乳洞洞窟とした迫力ある恐怖描写に差し替える等、推理劇風のオカルト映画へと改変した異色作となった。テレビCMで流された濃茶の尼のセリフである「祟りじゃ〜っ」[3]は、キャッチコピーとして流行語にもなった。

金田一役に渥美清が起用されたのは横溝自身の希望によるものである。松竹から本作の映画化の申し込みがあった際、金田一についてはまだ決まってないが二枚目になるだろうと言われ、それに対し横溝は「探偵というものは狂言回しでしょう。主人公は別にいるんですヮ。犯人か被害者かどちらかが二枚目になるでしょう、二枚目を二人出されちゃ困る。だから金田一役、やっぱり汚れ役にしてほしい、お宅ならやっぱり渥美清だろうって、ぼく、そういったことがあるんですけどね。」と述べている[4]

舞台は原作の昭和20年代から現代(公開当時)へと移している(この作品よりも後に製作された東宝のシリーズは原作の通りの時代設定)。日本航空と提携した上で辰弥の職業を空港職員に設定し、ジェット機が離着陸する近代的な場面を冒頭に見せる事で、失われつつある農村風景や前近代的風習の古さを強調している。

テレビ初放送は1979年10月12日、フジテレビ系列にて。ビデオリサーチ調べでは、関東地区の視聴率は34.2%。

あらすじ編集

寺田辰弥は首都圏空港で航空機誘導員をしていたが、ある日の新聞尋ね人欄の記述により、大阪北浜の法律事務所を訪ねることになった。体にあった火傷の痕で辰弥は尋ね人本人と認められるが、そこで初めて会った母方の祖父であるという井川丑松は、その場で突然、苦しみもがき死んでしまう。辰弥は、父方の親戚筋の未亡人である森美也子の案内で生れ故郷の八つ墓村に向かうことになった。辰弥は美也子から、腹違いの兄・多治見久弥が病床にあり余命幾ばくもなく子もいないため、辰弥が故郷の豪家の多治見家の後継者であると聞かされる。赤子であった辰弥を連れて村を出た母の鶴子は、別の地で結婚した後、辰弥が幼いころに病死しており、辰弥は自分の出自について今まで何も知らずにいたのだった。

美也子に聞かされた多治見家と八つ墓村にまつわる由来は、戦国時代にまで遡った。1566年、毛利に敗れた尼子義孝という武将が、同胞と共に8人で今の八つ墓村の地に落ち延び、村外れに住みついた。しかし落ち武者たちは、毛利からの褒賞に目の眩んだ村人たちの欺し討ちに合って惨殺される。落ち武者たちは「この恨みは末代まで祟ってやる」と呪詛を吐きながら死んでいった。このときの首謀者である村総代の庄左衛門は褒賞として莫大な山林の権利を与えられ、多治見家の財の基礎を築いた。だが、庄左衛門はあるとき突如として発狂、村人7人を斬殺した後、自分の首を斬り飛ばすという壮絶な死に方をする。村人は、このことにより落武者の祟りを恐れ、義孝ら8人の屍骸を改めて丁重に葬り祠をたてたことから、村は八つ墓村と呼ばれるようになったというものだった。

さらに、辰弥の父だという多治見要蔵も、28年前に恐ろしい事件を起していた。要蔵は事件当時に多治見家の当主で妻もありながら、若い鶴子を強引に妾にし、多治見家の離れに軟禁していた。しかし、鶴子が生まれたばかりの辰弥を連れて出奔してしまい、その数日後の夜に要蔵は発狂して妻を斬殺、村人32人を日本刀と猟銃で虐殺し、失踪したという。

八つ墓村では、辰弥の帰郷と呼応するように、また連続殺人が起こりはじめ、私立探偵の金田一耕助が事件調査のため村に姿を現わす。

原作との主な差異編集

原作の重要な要素のうち、下記は省かれている。

  • 来村前の辰弥を探っていた不審人物および送られてきた警告状
  • 辰弥が守り袋に持っていた鍾乳洞の地図(「竜の顎(あぎと)」というキーワードのみを聞かされていた)
  • 野村荘吉による美也子への疑惑(美也子の夫は特に不審点の無い交通事故死)
  • 里村兄妹(慎太郎、典子)の存在(森荘吉(原作の野村荘吉、美也子の義兄ではなく義父)は要蔵の従弟なので、美也子自身に優先順位の低い間接的相続権がある)
  • 小梅と小竹による辰弥への睡眠薬投与(鍾乳洞への入口が別棟の納屋にあるため、なお入口は壁の隠し扉で長持に偽装はされていない)
  • 落雷による双児杉の損壊、疎開医新居の存在および久野医師の殺人計画書
  • 慶勝院梅幸および麻呂尾寺の長英と英泉の存在(事件終結後に金田一が亀井陽一の存命を知るが、辰弥には対面させないことにした)
  • 鶴子が恋文や写真を封じ込めた屏風
  • 金田一の指導による洞窟探検、およびそれを応用した辰弥と典子による探検
  • 村人たちによる鍾乳洞内での辰弥追跡(鍾乳洞の入口で待ち構える態勢を選択する)、および美也子による扇動
  • 辰弥による財宝発見

その他の原作からの変更点のうち、既述の時代設定以外で特に重要なものとして下記を挙げることができる。

  • 新聞の尋ね人に弁護士のフルネームが「諏訪啓」、辰弥の養父の名が「辰造」(原作では虎造)と記載されている。
  • 辰弥の火傷跡は背中に大きなものが十字に2個あるのみ。
  • 久野医師は要蔵の弟ではなく甥で、名は恒三郎である。
  • 僧侶の被害者は濃茶尼妙蓮のみ、久弥の初七日では亀井陽一と鶴子の関係を知る工藤校長が毒入り料理を食べて死亡する。
  • 辰弥と美也子は恋仲となり、洞内を探検して亀井と鶴子が情交していた「竜の顎(あぎと)」を発見し情を交わす。
  • 犯人であることを辰弥に知られた美也子は、般若面の形相になって辰弥を追い回して殺そうとするが、辰弥の悲鳴で落盤が起き、埋もれて死ぬ。辰弥は落盤で開いた天井の穴(八つ墓明神の近くに開いていた)から脱出する。多治見家は落盤で飛び立った蝙蝠の大群が押し寄せたため火事になり全焼した。

キャスト編集

本作では「田治見」でなく「多治見」と表記している。

寺田辰弥
演 - 萩原健一(少年時代:吉岡秀隆
多治見家の後継ぎとして東京から呼ばれる青年。JAL航空誘導員として働いている。自身の出生の謎を知るため岡山の八つ墓村へとやってくる。「龍の顎(あぎと)」で自分は生まれたと教えられている。 
金田一耕助
演 - 渥美清
私立探偵。諏訪弁護士から井川丑松の毒殺について調査のために雇われる。麦わら帽子に白シャツ姿。中盤で全国各地を巡って、32人殺害の被害者たちを含む関係者の現況や戦国時代にまで遡る血縁などを調べ、連続殺人の背景を明らかにした。
森美也子
演 - 小川真由美
八つ墓村の西側に家を構える森家(通称:西家)の未亡人。辰弥を岡山まで案内する。多治見家と辰弥の仲介役を務める。原作の典子の設定の一部も継承している。 
多治見久弥[5]
演 - 山崎努
多治見家当主で辰弥の異母兄。親戚連中から財産を狙われていることを嫌い、自分の余命の短さを察して辰弥を探し出すよう申し出る。薬に硝酸ストリキニの毒物を混ぜられ二番目の被害者となる。後に、要蔵が辰弥は自分の子でないと血液検査で確認していたことを知りながら跡取りを任せるよう遺言を残した事が明らかになる。
多治見春代
演 - 山本陽子
辰弥の異母姉。一度嫁に出たが子宮筋腫で婚家から戻ってきた過去がある。辰弥に父・要蔵の秘密を明かす。洞窟に避難している辰弥に差し入れに向かったところを殺害され七番目の犠牲者となる。その際、犯人の左小指を噛み深手を負わす。
多治見小竹
演 - 市原悦子
多治見家の実質権力者である双子の老婆の姉。親族連中から財産を狙われていることを嫌い、辰弥に何としても跡目を継いでもらうように厳しく当たる。連続殺人の犠牲者とならなかったものの鍾乳洞から現れた蝙蝠の大群に多治見家を荒され、仏壇の火が家に燃え移り多治見家もろとも運命を共にした。 
多治見小梅
演 - 山口仁奈子
多治見家の実質権力者である双子の老婆の妹。姉ほど口数は多くないが、小竹と同様に辰弥には厳しく当たる、鍾乳洞で要蔵の遺体に小竹と2人で参っていたときに誘拐されて殺害され、五番目の犠牲者となる。
井川鶴子
演 - 中野良子
辰弥の実の母。八つ墓村の郵便局で働いていた。要蔵に連れ去られ監禁された末に辰弥を産む。幼いころにいじめられた辰弥には「お前のお父さんは仕事で遠いところにいる」と教えていた。
多治見要蔵
演 - 山崎努(二役)
多治見家の先代の跡取りで辰弥達の父親。妻子が居るにもかかわらず鶴子に恋をし、拉致監禁したうえ妾になることを承知させ、辰弥を産ませる。鶴子の失踪後狂いだし村の住人32人を虐殺する。その後行方不明になる。 
井川丑松
演 - 加藤嘉
辰弥の実の祖父。大阪まで足を運び辰弥と最初に面会するが、持病の薬に混入された硝酸ストリキニで毒殺され最初の犠牲者となる。辰弥が要蔵の子供でない秘密を工藤から聞いており、その一部を出発前に勘治に語っていた。
井川勘治
演 - 井川比佐志
丑松の子。鶴子の兄。父から聞いた秘密を辰弥に明かす。ちなみに演じた井川比佐志は94年版では諏訪弁護士を演じている。
工藤(校長)
演 - 下條正巳
村の小学校の校長。辰弥の出生の秘密を知るただ一人の人物(原作の梅幸の役割の一部を担う人物)。村の迷信にもとらわれず常識人で、誰からも好かれる人物、多忙な中、辰也に事の真相を時間を割いて話そうとしたが、法事の席で漬物に硝酸ストリキニを入れられ3番目の犠牲者となる。工藤校長の死で八つ墓明神の祟りだと村中がパニックに陥る。
久野恒三郎(医師)
演 - 藤岡琢也
村に唯一の診療所の医師で要蔵の甥(弟の息子)(原作の久野恒実里村慎太郎の設定の一部を合わせた人物)。薬品管理が杜撰で医師としても心もとない。県会議員選挙に出馬し湯水のように金を使う。多治見の財産を狙っており辰弥を快く思っていない。
森荘吉
演 - 浜村純
西家の当主で美也子の義父。
吉岡太一郎
演 - 浜田寅彦
村でトラックの運送会社を運営する多治見家の親戚。村の鍾乳洞が観光名所になると思い何かと多治見家に資金援助を申し出るが、ことごとく退けられる。
吉蔵
演 - 山谷初男
西屋の博労。年ごろ50歳前後の、顔も体もゴツゴツといかつい男。26年前の事件では新妻を殺された。それゆえに要蔵の身内である辰弥に憎しみを抱き、辰也が村へ来たときは露骨に睨み付ける。犠牲者が増えていくことで、暴徒化し西家に乗り込んでくるものの、原作と異なり、金田一による真犯人の発表により冷静さを取り戻して生き残る。
濃茶の尼
演 - 任田順好
迷信深く八つ墓明神の祟りを恐れている尼。被害妄想となり辰弥に早くこの村から出て行けと警告する。
神戸の弁護士。原作と異なり里村家とは血のつながりがなく、年齢も初老の人物へと変わっている。金田一を雇って丑松殺害の事件の調査を依頼する。
岡山県警の警部。連続殺人の調査を任されている人物で、金田一の捜査を全面的に従って協力する。
八つ墓村の巡査。村人たちの暴徒を鎮めるようになだめているが、最初の犠牲の「8人」から4の倍数で犠牲者が増えて20年前の事件が32人になっている事から村人「128人」全員が犠牲になるのではないかと恐怖する。

スタッフ編集

ロケ地編集

多治見家
岡山県高梁市成羽町吹屋ふるさと村にある広兼邸でロケが行われた。
鍾乳洞
岡山県 - 満奇洞
岩手県 - 滝観洞
山口県 - 秋芳洞景清洞大正洞
高知県 - 龍河洞
沖永良部島鹿児島県) - 水蓮洞、昇龍洞

脚注編集

[ヘルプ]
  1. ^ 『キネマ旬報ベスト・テン全史: 1946-2002』キネマ旬報社、2003年、223頁。ISBN 4-87376-595-1
  2. ^ あの頃映画 松竹DVDコレクション 八つ墓村 映像特典 シネマ紀行
  3. ^ 映画本編では「祟りじゃ」「祟りなんじゃ」という科白は何回も出てくるが、テレビCMのように長く叫ぶ科白は無い。
  4. ^ 『横溝正史読本』(小林信彦編・角川文庫、2008年改版)89ページ参照。
  5. ^ 原作では「田治見」姓だが、本作では「多治見」となっている。

関連項目編集

外部リンク編集