内閣感染症危機管理統括庁
内閣感染症危機管理統括庁(ないかくかんせんしょうききかんりとうかつちょう、英: Cabinet Agency for Infectious Disease Crisis Management、略称: CAICM[3])は、日本の行政機関のひとつ。感染症危機に係る各省庁の対応を統括し、政府全体の見地から迅速かつ的確に対応するための司令塔組織[4]として内閣の重要政策に関する企画立案や行政各部の総合調整権を有する内閣官房に設置される[5][3]。日本語略称・通称は、感染症統括庁[6]。
Cabinet Agency for Infectious Disease Crisis Management | |
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内閣府庁舎と中央合同庁舎第8号館(右奥) | |
役職 | |
内閣総理大臣 | 石破茂 |
感染症危機管理担当大臣 | 赤澤亮正 |
内閣感染症危機管理監 | 佐藤文俊 |
組織 | |
上部組織 | 内閣官房 |
概要 | |
所在地 |
〒100-8968 東京都千代田区永田町一丁目6番1号 |
年間予算 | 4億7600万4千円[1](2024年度) |
設置 | 2023年(令和5年)9月1日 |
前身 |
内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室 厚生労働省新型コロナウイルス対策推進本部[2] |
ウェブサイト | |
内閣感染症危機管理統括庁 |
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを機に、2023年9月1日に第2次岸田改造内閣によって創設された[7]。「庁」の名称があるが、外局ではなく国家安全保障局や内閣人事局と横並びである。
創設までの経緯
編集2022年6月15日、政府が設置した「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議(座長:永井良三)」が提言を発表した[8]。
2022年6月17日、有識者会議の提言を踏まえ、政府はこれまで厚生労働省と内閣官房に分かれていた担当部門を一元化し、首相直属の常設組織として感染症対策の司令塔組織となる「内閣感染症危機管理統括庁」を内閣官房に設ける方針を決定した[9]。
2023年3月7日、衆議院で創設法案として新型インフルエンザ等対策特別措置法及び内閣法の一部を改正する法律案が審議され[10]、4月21日に参議院で可決・成立した[11][12][13]。
2023年8月14日、新型インフルエンザ等対策特別措置法及び内閣法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和5年政令第260号)が公布され、2023年9月1日付で発足することとなった。なお、内閣感染症危機管理総括庁の発足に伴い「新型コロナウイルス等感染症対策推進室」が廃止された[14]。
創設理由
編集これまで感染症対策は医療体制やワクチン、検査、サーベイランス、クラスター対策、保健所支援といった政策を厚生労働省が担い、緊急事態宣言など社会や経済と密接に関わる政策を内閣官房が担当してきたが、統括庁を内閣官房に常設し、首相直轄の司令塔組織とすることで、これまで感染症対策の担当部署が複数の省庁にまたがっていたことによる縦割り行政の弊害を解消する狙いがあるとされる[15][16][17]。
創設時に指摘された課題
編集- 創設根拠となった新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議は、委員の人数が少なく、また委員の人選が不透明であり、さらに会議の内容が不十分であったこと[18][19][20][21][22]。また、事実と異なる記載があったこと[23]。
- 人員が少ないこと[24][25][26][11]
- 政府対策本部が置かれた場合、権限のない対策本部事務局に留まる可能性が高いこと[26][11]
- 法令上は内閣官房長官の所管であるが、担当大臣が置かれた場合は事実上の担務は担当大臣が担うこと[26][11]
- 内閣官房と内閣府の組織が屋上屋を架けるような形で乱立し、肥大化していること[27][28][25][29][30][26][11][3]
職員
編集定数上は、内閣官房の定数に含まれる。報道によれば、発足時は約60人体制[31]であり、通常の専従職員は38人となる。有事には兼任も含め300人体制となる[7]。有事に招集して対応に当たる他省庁の職員はあらかじめリスト化される[32][33]。
官職
編集内閣法に規定する官職として次の者が置かれる。
- 内閣感染症危機管理監 - 庁務を掌理する。内閣総理大臣が内閣官房副長官の中から指名する者をもつて充てる。
- 内閣感染症危機管理監補 - 庁務を整理する。内閣総理大臣が内閣官房副長官補の中から指名する者をもつて充てる。
- 内閣感染症危機管理対策官 - 命を受けて、内閣感染症危機管理統括庁の所掌事務に係る重要な政策に関する事務を総括整理し、及びその所掌事務のうち重要事項に係るものに参画する。厚生労働省の医務技監をもつて充てる。
幹部職員
編集予算
編集一般会計の歳出予算では、内閣感染症危機管理統括庁の項はなく、内閣官房共通費に含まれている。予算書に添付の予算参照書の予定経費要求書のなかで、内閣官房共通費の内訳として、内閣感染症危機管理統括庁に必要な経費が4億7600万4千円とされている[1]。
また、職員給与は内閣感染症危機管理統括庁に必要な経費には含まれておらず、内閣官房一般行政に必要な経費として計上されている。
予算の内訳は、新型インフルエンザ等対策訓練要領検討経費 1783万6千円、新型インフルエンザ等対策訓練経費 5896万円、内閣感染症危機管理統括庁職員に対する研修事業経費 753万5千円、新型インフルエンザ等対策普及啓発事業経費 4971万8 千円、国際感染症対策普及啓発事業経費 1855万9千円 、新型インフルエンザ等対策調査研究経費 1億6680万8千円 、その他経費 1億5658万8千円となっている[39]。
職務
編集新型インフルエンザ等対策推進会議の事務局[注釈 3]として、国民の命や健康に重大な影響を与える恐れがある感染症の発生時に国が実施する措置をまとめた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の見直しを行う[3]。見直しの対象となるのは医療提供や検査、ワクチン接種の体制のほか、感染症対策物資の備蓄、初動態勢の在り方、国内外の情報収集など[40]。
新型コロナウイルス禍の教訓を踏まえ、感染症危機が発生した際に関係省庁の職員を招集することで、統括庁が総理・長官を直接支えて、感染症対応の方針の企画立案、各省の総合調整を一元的に所掌する[5]。新型コロナウイルス禍では、医療体制やワクチンの確保では厚生労働省、水際対策では外務省や法務省、地方自治体との調整では総務省といったように首相が関係省庁に個別の指示を出す必要があったが、総合調整を一元的に所掌する機関がないため、十分に機能しなかった。統括庁の設置で省庁の縦割りを廃し、首相が指導力を発揮することが可能となる[6]。
国立健康危機管理研究機構との関係
編集内閣感染症危機管理統括庁の創設決定の際、内閣感染症危機管理統括庁と厚労省感染症対策部に科学的知見を提供する「新たな専門家組織」として、感染症等の情報分析・研究・危機対応、人材育成、国際協力、医療提供等を一体的・包括的に行う国立健康危機管理研究機構が創設されることも同時に決定された。国立健康危機管理研究機構は、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの統合によって生まれる。国立感染症研究所は国の機関、国立国際医療研究センターは国立研究開発法人であったが、国立健康危機管理研究機構は特殊法人となる。国立健康危機管理研究機構は、国立健康危機管理研究機構法(令和5年6月7日法律第46号)の公布の日から3年以内で政令で定める日から発足する。国立健康危機管理研究機構は厚生労働大臣が監督するものであり内閣官房には属さないが、国立健康危機管理研究機構は内閣感染症危機管理統括庁に科学的知見を報告することが法で定められた。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b 令和6年度一般会計予算 (PDF) 財務省
- ^ 政府が感染症対策の司令塔、日本版CDCを新設…そこに求められるものとは?|TOKYO MX+
- ^ a b c d “今なにしてる?「内閣感染症危機管理統括庁」 9月1日ひっそり発足 「第9波」でも情報発信は危機感薄く”. 東京新聞. 2023年9月13日閲覧。
- ^ “内閣感染症危機管理統括庁とは”. 内閣感染症危機管理統括庁 (2023年9月2日). 2023年9月26日閲覧。
- ^ a b “内閣感染症危機管理統括庁について” (2023年9月2日). 2023年9月26日閲覧。
- ^ a b “感染症統括庁、緊急時には最大300人態勢…各省庁から職員派遣”. 読売新聞オンライン (2023年9月2日). 2023年9月2日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会 (2023年7月28日). ““感染症対策の司令塔” 内閣感染症危機管理統括庁 9月1日発足 | NHK”. NHKニュース. 2023年8月24日閲覧。
- ^ 日本アカデミアがコロナ研究をできない憂うべき実態と、その敵:上昌広 | 医療崩壊 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
- ^ 「内閣感染症危機管理庁」設置、司令塔機能を強化─政府が感染症対応の「方向性」決定 | メディカルサポネット
- ^ “会議録情報 第211回国会 衆議院 本会議 第8号 令和5年3月7日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ a b c d e “会議録情報 第211回国会 参議院 本会議 第17号 令和5年4月21日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ “感染症危機管理統括庁を新設 改正法が可決・成立 初動の迅速化狙う”. 朝日新聞. (2023年4月21日) 2023年5月1日閲覧。
- ^ “感染症で首相権限強化 危機管理庁設置、改正法成立”. 時事通信. (2023年4月22日) 2023年5月1日閲覧。
- ^ “感染症対応の司令塔「統括庁」9月1日発足 危機管理監に栗生氏、対策会議も一新”. 科学技術振興機構 (2023年8月28日). 2023年9月20日閲覧。
- ^ 「官邸VS厚労省」の弊害、打破できるか 感染症危機管理庁が決定 【新型コロナウイルス】:朝日新聞デジタル
- ^ ギドラからゴジラへ「危機管理庁」設置3つの目的 | 政策 | 東洋経済オンライン
- ^ 政府 きょうにも発表 「感染症危機管理庁」新設へ|テレ東BIZ
- ^ “尾身氏「聴取たった7分」のコロナ検証報告書 「お手盛り」批判も”. 毎日新聞. 2022年10月16日閲覧。
- ^ “ヒアリングわずか2回 有識者会議のコロナ検証「徹底的」にほど遠く”. 毎日新聞. 2022年5月21日閲覧。
- ^ “(社説)コロナ検証会議 期限ありきのおかしさ:朝日新聞デジタル” (日本語). 朝日新聞デジタル 2022年5月21日閲覧。
- ^ “第71回厚生科学審議会感染症部会 議事録”. www.mhlw.go.jp. 2023年6月5日閲覧。
- ^ “会議録情報 第211回国会 参議院 厚生労働委員会 第15号 令和5年5月25日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年6月24日閲覧。
- ^ 日経BOOKプラス (2023年9月22日). “<9/25新刊>『1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録』”. 日経BOOKプラス. 2023年10月2日閲覧。
- ^ “会議録情報 第211回国会 衆議院 内閣委員会 第7号 令和5年3月17日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ a b “会議録情報 第211回国会 衆議院 内閣委員会 第9号 令和5年3月29日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ a b c d “会議録情報 第211回国会 参議院 内閣委員会 第10号 令和5年4月20日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ “会議録情報 第211回国会 衆議院 内閣委員会 第5号 令和5年3月10日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ “会議録情報 第211回国会 衆議院 内閣委員会 第6号 令和5年3月15日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ “会議録情報 第211回国会 参議院 本会議 第13号 令和5年4月7日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ “会議録情報 第211回国会 参議院 内閣委員会 第7号 令和5年4月11日”. kokkai.ndl.go.jp. 2023年8月24日閲覧。
- ^ “感染症統括庁は9月1日発足 トップは栗生俊一官房副長官か”. 毎日新聞. 2023年8月24日閲覧。
- ^ 「危機管理庁」創設を決定 政府、感染症対応へ法整備: 日本経済新聞
- ^ 「内閣感染症危機管理庁」創設を正式決定 日本版CDC - 産経ニュース
- ^ “内閣感染症危機管理統括庁 幹部名簿2024年8月1日時点”. 2024年8月9日閲覧。
- ^ “感染症司令塔、9月設置へ”. 西日本新聞me. 2023年8月24日閲覧。
- ^ a b “感染症危機管理監に栗生氏”. 時事通信. 2023年8月25日閲覧。
- ^ a b 令和5年9月5日付官報 本紙第1055号 p72023年9月5日
- ^ 内閣総理大臣辞令(令和5年9月1日付)2023年8月25日、内閣官房。2023年10月3日閲覧
- ^ “令和6年度内閣感染症危機管理統括庁予算案について”. 2024年8月9日閲覧。
- ^ “感染症行動計画の見直しに着手 コロナ後初、対応検証へ|全国のニュース|Web東奥”. Web東奥. 2023年8月26日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- 内閣感染症危機管理統括庁
- 内閣感染症危機管理統括庁(内閣官房) (@Kanboukansen) - X(旧Twitter)