わかち書き

文章において、語の単位を明らかにする目的で語と語の間に空白を挿入すること、またその表記法
分かち書きから転送)

わかち書き(わかちがき)とは、文章においての区切りに空白を挟んで記述することである。分かち書き[1]分ち書き[1][2]別ち書き[2]分書[3]とも表記する。分別書き[3]放ち書き[1]とも。

わかち書きがされた英文の日記

日本語のわかち書き 編集

日本語は、通常の文章では、空白(スペース)によって語を区切ることはない。日本語の通常の文章は仮名漢字交じりなので、漢字カタカナひらがな等の文字種の違いや、句読点中点によって語や文章の区切りを識別する。しかし、句読点をこのような目的に使用するせいで、文構造や修飾関係、節の切れ目などを表わす機能があいまいなものになっている。句読点を付ける厳密な条件は決まっておらず、また一種類のみの文字種で構成された文章では、文章は語の区切りを誤りやすい。単語の区切りを誤って読むことは、「ぎなた読み」と呼ばれる。

例えば、

  • こうしまるやさいいち

という文は、「講師丸谷才一」と「こう閉まる野菜市」に読める可能性がある。その場合、それぞれ、

  • こうし まるやさいいち
  • こう しまる やさいいち

とわかち書きをすれば誤読の可能性はなくなる。わかち書きをしないことにより、日本語はコンピュータによる検索や語数チェックなどのデータ処理が非常に難しくなっている。

分かち書きにも様々な流派がある。

  • 日本語の文章において語の区切りに空白を挟んで記述すること(原文)
  • にほんご の ぶんしょう に おい て ご の くぎり に くうはく を はさん で きじゅつする こと(単語ごとの区切り)
  • にほんごの ぶんしょうに おいて ごの くぎりに くうはくを はさんで きじゅつする こと(文節ごとの区切り)
  • にほんごの ぶんしょうにおいて ごのくぎりに くうはくをはさんで きじゅつすること(文章の長さでの区切り)

現代における使用例 編集

  • 日本語では、わかち書きは、漢字が制限されている小学校低学年や外国人初学者向けの教科書や、ROM容量が制限されたテレビゲームでの、ひらがなカタカナのみから構成される文によく使われてきた。ハードの性能が進化してからも、『ポケットモンスター』など低年齢層のプレイを想定したゲームでは、わかち書きでの表記が使用されていることがある。
  • 漢字の不使用自体を作法とするカナタイプの文章では、文意を正確に伝えるためにわかち書きが必須である。挟む空白は、全角2バイト文字1個分)のこともあるが、その半分(半角)のこともある。
  • 日本語に不慣れな外国人あるいは日本語学習者がひらがなを主体としたわかち書きの文章を用いる例があり[4]、そのたどたどしいさまが、けなげさ、可愛らしさにつながりより深い共感を生む場合がある[5]

日本語での詩歌での分かち書き 編集

短歌俳句川柳では通常、分かち書きはしない。これら詩歌においては分かち書き(改行も含む)に生ずる空白は、朗読の休止など、文学的表現上の意味や意図をもってなされるとみなされる。

  • をりとりてはらりとおもきすすきかな(飯田蛇笏、『山廬集』に収録)

のように全てかな書きであっても分かち書きをしない。

  • 寒い月 ああ貌がない 貌がない(富澤赤黄男、『蛇の声』に収録)

のように分かち書きがある作品は、空白部分は朗読を休止するものと解される。

日本語の点字のわかち書き 編集

日本語の点字は、仮名文字体系で表記されるので、墨字から点訳する場合は、わかち書きをする必要がある。基本的に文節ごとに区切るが、サ変動詞「する」や複合名詞の対応などは点字独自のルールがある。たとえば先述の例文を点字式で表記する場合は以下のように「きじゅつ」と「する」を分けて書く。

  • にほんごの ぶんしょうに おいて ごの くぎりに くうはくを はさんで きじゅつ する こと。(点字式)

朝鮮語のわかち書き 編集

朝鮮語(韓国語)でも、一般に普及しているハングル専用表記の場合は、わかち書きを必要とする。そのため、日本語のわかち書きと同様、ほぼ文節に当たる単位(語節:助詞を語尾と見ればということになる)で分けるのが普通である。

ラテン文字を使用する言語のわかち書き 編集

ラテン文字を使用する言語では、語と語の間にスペースを置くことが多く、日本ではこれを「わかち書き」と呼ぶことがある。

古典ラテン語ではわかち書きを行う習慣がなく、中世に至ってわかち書きが普及した。碑文で中黒「・」(・)が使われることもあったが、多くの場合には単語の区切りが表されなかった。わかち書きは6世紀の頃にアイルランドで発明されたとみられており、ヨーロッパ大陸で普及したのは8世紀から10世紀にかけてである[6]

なおラテン文字を使用する多くの言語では語単位のわかち書きを行うが、ベトナム語では原則音節単位に空白を挿入するわかち書きを行う点で特異である。

ゲエズ文字を使用する言語のわかち書き 編集

アフリカエチオピア周辺の諸言語の表記に使用されているゲエズ文字では、語と語の間にコロン「:」に似た記号を挿入しわかち書きを行う。ただし現代ではこの記号はスペースに置きかえられつつある[7]

わかち書きを行わない言語・文字体系 編集

以下の言語と文字体系では、通常わかち書きを行わない。

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ a b c "分ち書". デジタル大辞泉. コトバンクより2022年12月11日閲覧
  2. ^ a b 岩波書店広辞苑』(第五版)1998年。
  3. ^ a b "分書". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2022年12月11日閲覧
  4. ^ 琴欧洲 (2014年3月25日). “ありがとう ございます”. 琴欧洲オフィシャルブログ|『ちゃんこ鍋とヨーグルトって意外と合うんです』. 2016年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月8日閲覧。大相撲力士 琴欧洲の引退に際してのブログ。
  5. ^ 琴欧洲親方の「泣けるブログ」存続”. 東スポWEB. 東京スポーツ新聞 (2014年4月24日). 2022年12月11日閲覧。
  6. ^ 「中世の言語哲学(永嶋哲也周藤多紀)」『『西洋哲学史II 「知」の変貌・「信」の階梯』責任編集:神崎繁 熊野純彦 鈴木泉、講談社〈講談社選書メチエ〉、2011年12月10日、190頁。ISBN 978-4-0625-8515-6 
  7. ^ T. Daniels, Peter; Bright, William, eds (1996-02-08). “Ethiopic Writing written by Haile, Getatchew”. The World's Writing Systems. Oxford University Press. p. 575. ISBN 978-0-1950-7993-7 (章自体はpp. 569–576.)

関連項目 編集