フロントエンジン・前輪駆動

自動車設計英語版において、FF(エフエフ)または前置きエンジン・前輪駆動配置(まえおきえエンジン・ぜんりんくどうはいち、: Front-engine, front-wheel-drive layout)は、内燃機関と駆動される車輪の両方を車両の前部へ置く。

使用編集

 
前置きエンジン位置

歴史的には、この名称はエンジン全体が前車軸線の後方かどうかにかかわらず使われた。近年は、一部の車メーカーはこの名称に「フロントミッド(front-mid)」という用語を追加している。この用語は、エンジンが乗員室の前、車軸の後ろにある車を表わしている。第二次世界大戦前のほとんどの前置きエンジン車はフロントミッドエンジンの要件を満たしている。

この配置は最も伝統的な形式であり、人気があり、実用的な設計であり続けている。大きな空間を取るエンジンは乗員や荷物が典型的に使用しない位置に収められる。主な欠点は重量配分英語版である。つまり、最も重いコンポーネントが車両の端に位置している。ハンドル操作英語版は理想的ではないが、大抵は予測可能である。

前置きエンジン・後輪駆動配置(RWD)と対照的に、FWD配置は後輪に動力を与えるためのドライブシャフトに場所を提供するためのセンタートンネルまたはより高いシャシクリアランスの必要性を排除した。後ろ置きエンジン・後輪駆動配置(RR)およびリヤミッドエンジン・後輪駆動配置英語版(RMR)と同様に、エンジンは駆動する車輪上に置かれ、これによって多くの使い道でけん引力英語版(トラクション)を改善する。操作される車輪が駆動輪でもあるため、FWD車は一般的に、雪、泥、砂利、濡れた舗装路といったトラクションが低い条件においてRWD車よりも優れていると見なされる。低トラクションで坂道を登る時はRRが最良の2輪駆動配置と考えられている。これは主に登坂時に後輪に荷重が移動するためである。FWD車両の旋回(コーナリング)性能は、エンジンが駆動輪上に置かれているため、一般的により良い[1]。しかしながら、駆動輪がかじ取りも担当するため、車両がすばやく加速すると、コーナリングで使うことができるグリップが小さくなり、アンダーステア英語版につながりうる[2]高性能車英語版ではFWD配置はほとんど使われない。これは、加速時に荷重が後輪に移動すると、負荷が抜けた前輪は鋭くグリップが減少し、これによって現実的に利用可能な出力の量に事実上上限が課されるたである。加えて、高性能車の高い馬力はトルクステアの感覚をもたらしうる。電子トラクション制御は車輪の空転を防ぐことができるが、極上の出力の恩恵を大部分打ち消してしまう[3]。これが高性能なジェンセン・FFおよびアウディ・クワトロにおいて全輪駆動quattro英語版システムを採用された理由であった。

歴史編集

初期の前輪駆動車にはコード・L-29英語版(1929年)、DKW・F1(1931年)、シトロエン・2CV(1948年)、サーブ・92(1949年)、ミニ(1959年)などがある。1970年代以降、欧州車日本車の多くで前輪駆動への移行が進み、1980年代に入るとアメリカ車でもコンパクト・ミドルクラス車種を中心に移行が進んだ。最後に移行したのはフォルクスワーゲンオペル、欧州フォード、およびゼネラルモーターズである。日本ではトヨタ自動車が1980年代初頭、国内メーカーとしては最後に前輪駆動へ移行した。

そのような潮流の中で、BMWは小型車ブランドの「ミニ」を除く全車種において後輪駆動を採用し続け、前輪駆動モデルが一切存在しなかった[4]。しかし、2014年発表の2シリーズ アクティブツアラーで初めて前輪駆動が採用されて以降、他車種にも追従する動きがみられる。

この基本レイアウトには、駆動系で最も重いコンポーネントであるエンジンの位置に依存して4つの異なる配置が存在する。

中置きエンジン・前輪駆動編集

最初期のこのような配置は厳密に言えばFWDではなく、むしろ中置きエンジン・前輪駆動配置(MF)であった。エンジンは車輪の後ろに縦置きされ、エンジンの前にトランスミッション、車の最前に差動装置(ディファレンシャルギアまたはデフ)が配置された。エンジンがかなり後ろに置かれているため、コード・L-29のようなこういった車の重量配分は理想的ではなかった。つまり、良いトラクションとハンドリングのために駆動輪が十分大きな割合の重量を負担していなかった。1934年式シトロエン・トラクシオン・アバンはトランスミッションを車の前方に、デフをトランスミッションとエンジンの間に置くことによって重量配分問題を解決した。この車の低いユニボディ英語版設計と組み合わされ、この時代としては卓越したハンドンリングが得られた。ルノーはこの形式を採用した最も新しいメーカーであり、ルノー・4や初代ルノー・5で使用した。しかし、内部空間を奪ってしまうため好まれなくなっている。

縦向き前置きエンジン・前輪駆動編集

 
アルファロメオ・スプリント(アルファスッド)。縦向き前置きエンジンと前輪駆動を使用している。

ジャン=アルベール・グレゴワール英語版によって設計された1946年式パナール・ディナXは、前輪の前にエンジンを縦置きし、トランスミッションをエンジンの後ろ、デフをリヤに配置した。1967年までパナールによって使用されたこの配置は上述したコード・L29と似た重量配分問題を潜在的に抱えていた。しかしながら、パナールの空冷水平対向ツイン(2気筒)エンジンは非常に軽く、低い位置に搭載して重心が下がることで影響を低減した。シトロエン・2CVの空冷水平対向ツインエンジンも前輪の前に非常に低く搭載され、トランスミッションは車軸線の後ろ、デフはそれらの間に置かれた。この配置は非常に人気となった。このレイアウトを使用した車にはドイツ製フォード・タウヌスランチア・フラヴィアランチア・フルヴィアがあった。これは、アウディSUBARUの前輪駆動車の標準構成である。1979年、トヨタは自身初の前輪駆動車ターセルを発売した。ターセルは当時に日本市場のその他ほとんどの前輪駆動車とは異なり、エンジンが縦置きであった。この配置は1987年まで第2世代ターセルでも使われ続け、第3世代で新たな横置きエンジンに変わった。カムリカローラといったその他の前輪駆動トヨタ車は最初からエンジン横置きであった。

1966年式オールズモビル・トロネード(とその姉妹モデルキャデラック・エルドラド英語版)はエンジンとトランスミッションを「並列」させる新たな配置を使用した。出力はこれら2つのコンポーネント間で極めて頑丈な鎖を介して伝達され、特別に設計された中間ドライブシャフトはエンジンサンプの下を通された。この車種は前輪駆動車としては史上最高の排気量(8.2 L)を有している。サーブ・99および "Classic" サーブ・900も同様の配置を使用した。イーグル・プレミアルノー・2125で見られものと似た駆動系の配置を使用した。これは後にクライスラー・LHセダン(2004モデル年まで生産された)の基礎となった。

今日、アウディが最も著名なこの機構レイアウトの使用者であり、その前身企業のDKWアウトウニオンにおいて1950年代から使用している。アウディのMLBプラットフォーム英語版は長年の欠点である不均等な重量配分を解決しようと試みた。これはクラッチの前にデフをパッケージングすることで成された。これによって車軸線がエンジンブロックのリヤ面との関連でより前進することが可能になった。

横向き前置きエンジン・前輪駆動編集

 
初代MINIのボンネットは開かれており、前輪を駆動する横置きエンジンが見える。

最初に人気が出た横置きエンジンFWD車は1931年から作られたDKWの "Front" であった。この車は2気筒2ストロークエンジンを搭載していた。サーブはこの設計を彼らの最初の車である1949年式サーブ・92で模倣した。1957年のトラバントも横置きエンジンを持つ車の1つであり、DKWの一種の後継車である。これは、特に共産主義国で作られた車としては目新しいものであった。

イシゴニスの1959年のミニと、オースチン・マキシオースチン・1100/1300、およびオースチン・アレグロといった関連車は横置きされた直列4気筒水冷エンジンを持っていた。トランスミッションはクランクシャフト下のサンプ内に置かれ、出力はトランスファーギアによって伝達された。この「サンプ内トランスミッション」配置を使用したその他のモデルには、日産・チェリーや、プジョー・104およびルノー・14といったPSA-ルノー・X型エンジン英語版搭載車があった。1955年式スズキ・スズライトも横置き2ストローク2気筒エンジン(DKWの技術を使用)を前置きした(ドイツのロイト・LP400を手本にしている)。

ダンテ・ジアコーサの1964年式アウトビアンキ・プリムラフィアット・128、およびフィアット・127はトランスミッションを横軸エンジンの片側に置き、差動装置(デファレンシャル)をトランスミッションの真後ろに片側にオフセットして置くために駆動系を折り返した。そのため、車輪へのドライブシャフトは一方の方がもう一方よりも長い。これにより、重量が車輪の少し前に位置するようになった。現在、世界的に主流となっているのは、このシステムである。

前輪駆動車は強い加速の下で「トルクステア」に悩まされる傾向にある[5]。これはドライブシャフトの長さが左右で異なり、それによってドライブシャフトの継手での入射角が異なることによって引き起こされる。これらの継手の可動範囲が狭いほど、それらが車輪にトルクを伝える効率が低下する。

前輪駆動設計の特徴編集

前輪ドライブシャフト編集

前輪駆動車において、ドライブシャフトはデファレンシャルから前輪へ直接駆動力を伝達する。短いインナースタブシャフトはデフのサイドギアにスプライン結合され、アウタースタブシャフトは前輪ハブにスプライン結合される。それぞれのスタブシャフトは連結する中間シャフトの両端に、自在継手(ユニバーサルジョイント)を収容するヨーク(ハウジング)を備えている。

自在継手は、シャフトの長さや水平方向の角度、ステアリングの回転に伴うシャフトの角度など、サスペンションの動きによる変化を許容しながら、シャフトを回転させ続ける。等速ユニバーサルジョイントがコンポーネント間で出力を滑らかに伝達するために通常使われる。内側の自在継手は、摺動式またはトリポード型継手を使うことができる。トリポード型継手は中間シャフトにスプライン結合され、サークリップによって保持される。ニードルローラーベアリング上に支持されるボールはトリポード(三脚)のそれぞれの支柱に合わされ、これらはヨーク内部の筒耳(トラニオン)においてスライドする。 これにより、シャフトの長さや水平方向の角度の変化に対応している。駆動力はトラニオンとボールを介して伝達され、シャフトを回転させる。

外側の自在継手は、大きな角度変化は許容するが、軸の長さの変化は許容しない。通常は保持器付き玉(ボール&ケージ)型で、内輪(インナーレース)が中間軸にスプライン接続されている。ヨークには外輪(アウターレース)が形成されている。ケージはボールを両輪の溝の位置に保持している。

ボールは、シャフトからハブへの駆動を伝達し、水平方向の角度を変えたり、広いステアリング角度を実現したりする。各継手には柔軟性のあるゴムブーツが装着されており、グリスを保持し、汚れや湿気を防いでいる。

デフが車両の中心線上に位置していない場合、中間シャフトを装着することで、左右のドライブシャフトの長さを等しくすることができる。これにより、ドライブシャフトの角度が左右で等しくなり、ステアリングの乱れや振動を防ぐことができる。中間シャフトの外周は、トランスアクスルケースに固定されたベアリングで支えられ、自在継手でアライメントを調整する。片側のドライブシャフトを長くして使用する場合もある。また、振動を吸収するためにゴム製のダイナミックダンパーを装着する場合もある。

出典編集

  1. ^ Hillier, Victor; Peter Coombes (2004). Fundamentals of motor vehicle technology. Nelson Thornes. pp. 9. ISBN 978-0-7487-8082-2 
  2. ^ Engine & Driveline Layouts”. Drivingfast.net. 2010年1月6日閲覧。
  3. ^ Road Test: Rear Drive vs. Front Drive vs. All-Wheel Drive”. www.motortrend.com. 2011年7月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
  4. ^ BMW Technology Guide: Rear wheel drive”. BMW. 2014年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月12日閲覧。
  5. ^ Antuan Goodwin (2012年6月28日). “What the heck is torque steer?”. ROAD SHOW by CNET. 2021年5月12日閲覧。

推薦文献編集

  • Sedgwick, Michael Cars of the 50s and 60s. Gothenburg, Sweden: A B Nordbok, 1983. (Includes pictures of the engine layouts of the Traction Avant and other designs.)

関連項目編集