北斎漫画
『北斎漫画』(ほくさいまんが)は、葛飾北斎による絵手本である。全十五編。半紙本[注釈 1]。第十二編のみ墨摺だが、それ以外は墨と薄い朱が用いられる。英語圏では「ホクサイ・スケッチ」と呼ばれる[1]。

概要 編集
初編の序文によると、1812年(文化9年)秋頃、名古屋在住の門人、牧墨僊宅に逗留し、300点余りの下絵を描いた[注釈 2]。1814年(文化11年)に、名古屋の版元、永楽屋東四郎から初編が刊行された[3][4]。各地の門人や私淑する者の指南書で絵手本、職人の発想源として企画し、版行されたと考えられている[3]。だが、庶民から武士まで広い層に好評で、江戸時代のベストセラーとなった[5]。
当初、一巻完結の予定だったが、好評だったため、版元を変更しながら版行が続き、1878年(明治11年)、第十五編で完結した[注釈 3]。
「漫画」とは、初編序にて「事物をとりとめもなく気の向くまま漫(そぞ)ろに描いた画」と北斎自身が述べている[3]。
本書の企画は、師である勝川春章の友人であった鍬形蕙斎の『諸職画鑑(しょしょくえかがみ)』(1794年・寛政6年)『略画式』(1795-99年・寛政7-11年)等から着想を得たと言われている[7][8]。『武江年表・寛政年間記事』には、「北斎はとかく人の真似をなす、何でも己が始めたることなしといへり、是れは略画式を蕙斎が著して後、北斎漫画をかき」[9]と記されている。また、林守篤『画筌(がせん)』(1721年・享保6年)や、清朝の画譜『芥子園画伝(かいしえんがでん)』(17世紀)からの影響も指摘されている[7]。
一枚摺の浮世絵は安いものと巷間言われるが、半紙本は決して安いものではなかった。北斎研究家の永田生慈が、版元であった名古屋の永楽屋東四郎に値段を尋ねたところ、「当時(幕末から明治初期)の出版物は猛烈に高くて、普通の人が簡単に本を買いましょうという値段ではなかった。」と証言している[10]。
シーボルトが1832年にオランダで発刊した『Japonica』に『漫画』が紹介されており、それ以前からオランダには、北斎による、日本人男女の一生を描いた巻子が伝わっている[11]。
1856年にブラックモンが、日本からの輸入陶磁器の緩衝材に『漫画』を発見したという「逸話」は、現在では疑問視されている[12][3]。
脚注 編集
注釈 編集
出典 編集
- ^ “Transmitting the Spirit, Revealing the Form of Things: Hokusai Sketchbooks, volume 3 (Denshin kaishu: Hokusai manga, sanpen)”. 2020年2月29日閲覧。
- ^ 永田 2009, pp. 7–8.
- ^ a b c d 津田 2008, p. 445.
- ^ 内藤 2017, p. 20.
- ^ 広島県立美術館「浦上コレクション、北斎漫画-驚異の眼・驚異の筆-」2020.12.10-2021.01.312020年12月10日閲覧
- ^ 鈴木 1999, pp. 128-129、246-247.
- ^ a b 内藤 2017, p. 25.
- ^ 練馬区立石神井公園ふるさと文化館 2020.
- ^ 朝倉 1912, p. 173.
- ^ 永田 1990, p. 146.
- ^ 永田 1990, p. 150.
- ^ 永田 1990, p. 152.
参考文献 編集
一次史料 編集
- 斎藤, 月岑『武江年表正編』青藜閣・河内屋喜兵衛ほか書林、1849年 - 1850年。全8冊。
- 朝倉, 無聲補『増訂武江年表』國書刊行會、1912年。
- 飯島, 虚心『葛飾北齏傳』蓬樞閣、1893年9月。上下巻。
二次資料 編集
- 永田, 生慈監修『北斎美術館4 名所絵』集英社、1990年。
- 根本進; 永田生慈対談 (1990). 近代漫画のルーツは北斎. pp. 141-148
- 永田, 生慈『西欧に影響を与えた北斎作品』1990年、149-154頁。
- 津田, 卓子「北斎漫画」『浮世絵大辞典』東京堂出版、2008年、445頁。
- 永田, 生慈「北斎旅行考」『研究紀要』第2号、財団法人北斎館 北斎研究所、2009年、4-14頁。
- 高杉, 志緒 著「北斎の浮世絵指南・絵手本」、浅野秀剛監修 編『北斎決定版』平凡社〈別冊太陽174〉、2010年、164-176頁。
- 浦上, 満『北斎漫画入門』文藝春秋〈文春文庫1145〉、2017年10月。
- 内藤, 正人「北斎漫画AtoZ」『芸術新潮-特集:画狂モンスター北斎 漫画と肉筆画』68(11)、新潮社、2017年、16-47頁。
- 馬渕, 明子監修、国立西洋美術館ほか編『北斎とジャポニスム: Hokusaiが西洋に与えた衝撃』読売新聞東京本社、2017年。
- 練馬区立石神井公園ふるさと文化館, 編『あれもこれも大江戸漫画づくし』2020年。