半魚人(はんぎょじん)とは、ヒトと魚類の中間的な身体をもつ、伝説の生物

海の司教。1531年にバルト海にて捕獲とある。

概要編集

半魚人は、体の一部が魚で残りの部分が人間という特徴を持つ半獣人の一種である。英語ではマーフォーク(merfolk)といい、男性の場合マーマン(merman)、女性の場合はマーメイド(mermaid)と称される。マーとはラテン語のmare(=海)を指す[1]

半魚人の図像や伝承は古代から世界各地に見られるが、体を構成する人と魚の比率は様々である[1]。上半身が人、下半身が魚の姿(=人の脚がない)のものは人魚と呼ぶのが普通である。近年の創作作品の中では、「手足に鰭や水かきがあり、全身が鱗で覆われ、頭部が魚で、言葉を話す人間のような生物」といった描写が、ステレオ的に用いられている(一例として[2])。二腕二脚だが、鱗や鰓を持つなどの特徴があるものは水棲人(すいせいじん)とも呼ばれる。

バリエーション編集

ダゴン(ダガン)編集

ユーフラテス河中流域に起源をもつ 神。魚の頭部と人の体(あるいは魚の尾と人の体)を持つ。ただし、神話のうちダゴンに関する部分は失われているため、詳しいことはわからない。 詳細はダゴンの項目参照[3] [4]旧約聖書イスラエルと敵対するペリシテ人の信仰する神として語られていることから、キリスト教圏では海の怪物としてイメージされる事が多い[1]

オアンネス編集

バビロニアのオアンネスに関して、現存する最古の文献はBC3世紀の『バビロニア誌』(ベロッソス著)である。昼間海から上がり、人間たちに各種の文化を教えたという[5]。シュメールのエンキ、アッカドのエアと同一視される[3]。文献によっては別名としてダゴンを挙げる[6]

魚のアプカルル(英:Fish-Apkallu)編集

神話のなかでは、アプカルルは古の賢聖であり、人々に知恵を授けたとされている。アプカルルは上半身は人間、下半身が魚の姿をしており[1]、その彫像は守護精霊として7体セットで用いられた。オアンネスの神話がもとになっているとされる[7]

海の司教(Sea bishop)編集

西ヨーロッパの伝説。画像にあるとおり「鱗の生えた人間」の姿をしている。 普段は海中に棲んでいるが、時折、人間たちに捕らえられることがあるという。捕らえられた「海の司教」は、「言葉を理解する事はできないが、地上で暮らすことはできる」とされる。詳細は 海の司教の項目参照。

北米インディアンの伝承編集

人魚=リュウグウノツカイ説を唱えた内田恵太郎が紹介した話。彼らの祖先がアジアから北米に移動してきたとき、半人半魚の男が先導した。腰から上は人、足の替わりに二股の魚の尾があった。顔は人だが、どことなくイルカに似ていた。長い髪と髭は緑色。彼らを新天地北米に導くと、魚人は歌いながら海に消えた[8]

イプピアーラ(Ipupiara)編集

グアラニー族の民間伝承に登場する妖怪。獰猛で、むさぼり喰うために人を殺す男性型の水の精(オーメン・ダグア)[9]半魚人説と人魚説がある[10]。詳細はイプピアーラの項目参照。

中国の半魚人編集

中国の古典博物誌『山海経』には、体は魚で頭部と手足が人間の「陵魚」など、複数の人面魚体の半魚人が記録されている[1]。また、東晋時代に書かれた『捜神記』には、南方の海に棲む「鮫人」の記録がある。鮫人は機を織って暮らし、泣くと涙が珠になったという。同時代に書かれた『博物志中国語版』には、鮫人と人間との間の報恩譚が記されている[1]

出典編集

  1. ^ a b c d e f 秋道智彌『魚と人の文明論』臨川書店、2017年、205-217頁。ISBN 978-4-653-04118-4
  2. ^ トロ 2018.
  3. ^ a b 朱鷺田祐介『海の神話』新紀元社、2006年、122-124頁。ISBN 4-7753-0494-1
  4. ^ 池上正太『オリエントの神々』新紀元社、2006年、140頁。ISBN 4-7753-0408-9
  5. ^ 渋澤龍彦(著者) (1990年9月1日) (日本語). 幻想博物誌 (電子書籍). 河出文庫. 河出書房新社.. ASIN B00BHAJS4Q 
  6. ^ 『世界の妖怪大百科:本当にいる妖怪が大集合』学研教育出版、2014年、133頁。
  7. ^ 朱鷺田 2006.
  8. ^ 篠田知和基『世界魚類神話』八坂書房、2019年6月25日、127頁。ISBN 978-4-89694-262-0
  9. ^ 福嶋伸洋「熱帯雨林の人魚イアーラの図像学──『オデュッセイア』、『ウズ・ルジアダス』から『マクナイーマ』へ」『和田忠彦還暦記念論集』双文社印刷、2012年、171頁。
  10. ^ サンパウロのイプピアーラ公園に設置されているイプピアーラの像は下半身が魚である

参考文献編集

  • 大林太良『神話の話』講談社〈講談社学術文庫346〉、1979年、67-73頁。ASIN B000J8HXQW
  • 内田恵太郎 「人魚考」 『自然』 15巻8号 中央公論社、42–47頁、1960年。doi:10.11501/2359570 
  • 九頭見和夫 「江戸時代以前の「人魚」像―日本における「人魚」像の原点へのアプローチ―」 『人聞発達文化学類論集』 4号 福島大学人間発達文化学類、51–61頁、2006年。ISSN 1880-3903 
  • 高馬三良『山海経 中国古代の神話世界』平凡社〈平凡社ライブラリー34〉、1994年1月14日。ISBN 4-582-76034-1
  • 中野美代子 『中国の妖怪』 岩波書店〈岩波新書〉、1983年、140–143頁。 
  • 増子和男 「唐代伝奇「陸顕伝」に関する一考察(中)」 『日本文学研究』 34号 梅光女学院大学日本文学会、113–123頁、1999年。ISSN 0286-2948 
  • 松岡正子 「「人魚傳説」―『山海經』を軸として―」 『中國文學研究』 8巻 早稻田大學中國文學會、49–66頁、1982年12月1日。ISSN 0385-0919 
  • 南方熊楠 「猴(申年)」、渋沢敬三編 『南方熊楠全集. 第2巻 (十二支考 第2)』 乾元社、1951年。doi:10.11501/2941217 
  • 藪田嘉一郎 「白水郎考」 『日本古代文化と宗敎』 平凡社、1976年。 
  • 吉岡郁夫 「人魚の進化」 『比較民俗研究』 8号 筑波大学比較民俗研究会、35–47頁、1993年。ISSN 0915-7468 
  • 朱鷺田祐介(著者) (2006年11月1日) (日本語). 海の神話 (電子書籍). 新紀元社.. ISBN 9784775304945 
  • サリー・ホーキンス(出演), マイケル・シャノン(出演), ギレルモ・デル・トロ(監督) (2018年12月5日) (英語, 日本語). シェイプ・オブ・ウォーター オリジナル無修正版 (DVD). 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン.. ASIN B07HCV78Z9 

関連項目編集