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反魂香(はんごんこう)は、古典落語の演目のひとつ。同演題では、主に東京で広く演じられる。

この項目では、同演目の元となった上方落語高尾(たかお)についても記述する。

目次

概要編集

高尾編集

原話は、1733年享保18年)に出版された笑話本『軽口蓬莱山』の一編「思いの他の反魂香」(大店の娘が店員との恋を引き裂かれ、乳母のすすめで起請を火にくべる、という内容)。それに歌舞伎の「伊達騒動」もののパロディが加味され、現在の演じ方が出来上がった。

反魂香」とは、中国の伝説上ので、焚くとその煙の中に死者が現れるというもの。

主な演者に、橘ノ圓都3代目桂春団治らが知られる。

反魂香編集

『高尾』をもとに、一部登場人物のディテイルやクスグリの場所を改変したもの。上方の演出同様、ハメモノを用いる場合がある。

主な演者に、8代目三笑亭可楽三笑亭夢楽らが知られる。

あらすじ編集

高尾編集

深夜。喜六(吉兵衛とも)は、最近長屋に引っ越してきた隣人の僧侶が念仏をとなえる声で眠れなくなり、苦情を言いに行く。僧侶は「これには仔細(=込み入った理由)がござる」と告げ、自身の身の上を語り始める。

僧侶はもともと因州鳥取藩士・島田重三郎(しまだ じゅうざぶろう)という名で、江戸の藩屋敷に勤めていた際、仲間数人と吉原遊廓へ行き、妓楼・三浦屋の遊女・高尾太夫にひと目ぼれをした。高尾も島田の愛を受け入れ、睦まじい仲になるが、高尾は時の仙台藩主・伊達綱宗に見初められる。ところが高尾は、島田との操を立てるあまり、綱宗になびかず、激昂した綱宗に斬殺されてしまった。島田は高尾の菩提を弔うため、「土手の道哲」と名を改め、念仏に明け暮れている。

喜六は「芝居見て知ってるわい、そんなもん。島田重三郎いうたら、もっとええ男や」と僧侶をなじる。僧侶は「しかし、島田はそれがし(=私)に相違ござらん」と弁解し、「それが証拠に、我(われ)より送りし品は、千匹猿の割りこうがい。高尾より我に贈りし品は、魂帰す反魂香」と、香箱を手に取る。喜六は「18日は観音講」と、地口でまぜ返す。僧侶は「この香をば火の中にくべますと、高尾の姿が朦朧と現れる」と説明しつつ、火鉢に粉をくべる。すると、青い陰火が火鉢から立ち上り、高尾太夫の幽霊が現れる(この時、下座から太鼓の「うすドロ」が鳴り、「あら不思議やな 高尾の姿 ありありと」との謡の付いた三味線が入る)。

「お前は、島田重三(しまだ じゅうざ)さん」「そちや女房、高尾じゃないか」「あだにや(=粗末に)焚いてくだしゃんすな。その香(か)の切れ目が、縁の切れ目」「焚くまいとは思えども、そなたの顔が見たきゆえ。南無高尾幽霊遁処菩提、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」(※この会話部分は歌舞伎調で演じる)

驚愕した喜六は、「俺も3年前に嬶(かか=妻)死なしたんや。その粉、半分ばかりおくれんか」と反魂香をせびるが、僧侶は応じない。しびれを切らせた喜六は、「根性悪い餓ッ鬼やで。俺はこれから、薬屋に行て探してくる」と宣言し、寝静まった街に繰り出す。

喜六は戸締まりした薬屋の戸を叩き、「20がとこ、おくれ。火にくべるのン」と店主に掛け合うが、肝心の反魂香の名を忘れてしまう。「『お前は島田重三さん』『そちや女房、高尾じゃないか』……20文」「気持ちの悪い人やで。そこに品物の名前が書いてますさかい、見て決めとくなはれ」「ちきんたん……」「そら千金丹だ」「こしなか・とみやまの……」「そら越中富山の反魂丹」「越中富山の反魂丹。18日は観音講……これや! これや!」

帰宅した喜六はカンテキを出し、中国伝来の腹痛止めである反魂丹の丸剤を放り込み、ウチワであおいて火をおこしながら、妻の幽霊が現れることを期待する。「『お前は下駄屋の喜六さん』『そちや女房、おちょねじゃないか』……モッチャリしてけつかンなあ。『あだにや焚いてくだしゃんすな』『心配すな、アホ。20文も出したら、袋に山盛りある』」

しかし何も起こらないため、喜六は「袋ぐち(=袋ごと)みな入れたれ」と、丸剤をすべて放り込む。すると、もうもうと煙が立ちはじめ、戸を叩く音とともに、「喜ィさん」と名を呼ぶ女性の声がする。「表の戸をドンドン叩くは、そちや女房、おちょねじゃないか」

「アホらしい。隣のお梅! 紙子くさい(かんこくさい=焦げくさい)の、お宅かえ?」

反魂香編集

長屋連中は、最近引っ越してきた浪人者(『高尾』同様に僧侶・道哲とする演じ方もある)が夜どおし(かね)をたたく音に安眠を阻害されており、月番(=長屋における雑事の当番)の八五郎(あるいは熊五郎)が代表して苦情を言いに行くことに決まる。

夜ふけになり、八五郎の苦情を受けた浪人・島田重三郎は「亡き妻の回向(えこう=供養)をしております」と弁解し、夫婦の契りを交わした高尾太夫との過去を説明する(※『高尾』に見られるような、主人公によるメタ的なまぜ返しはない)。

「なるほど、そんな訳があったんですかい。それはわかったが、お前(めえ)さん、せめて昼間だけにしてくんなはいよ」「おやかましい次第、何とぞご容赦を願います。高尾とそのとき取り交わしました、反魂香。これをば火の中にくべ、鉦をたたきますと、煙の中から高尾の姿が現れます」「なに? 幽太? 幽的かい? 一度目の前で焚いてくれ。見せてくれたら木戸銭出そうじゃねえか」島田が香炉に反魂香をくべると、煙が人の形をとりはじめ、遊女の姿に変わる。「そちゃ女房、高尾じゃないか」「お前は、島田重三さん。香(こう)の切れ目が、縁の切れ目。あだにや焚いてくだしゃんすな」

「こりゃ驚(おでれ)えたねえ。実はあたしも、お熊(あるいは、お梅、おかじ、おせきなど)って嬶(かかあ)に死なれましてね、面(つら)拝みたくなっちゃったン。その粉、ちょいと分けちゃもらえねえかね?」「これは私と高尾が取り交わしましたものゆえ、あなた様には何のお役にも立ちません」「少しおくれよ」「いけません」「わずか!」「だめです」「ちょっぴり……」「大抵の頼みなら聞き入れられるが、このことだけは、どうかご勘弁を願いたい」島田は深々と頭を下げる。八五郎は「お侍に頭を下げられちゃ、無理は言えねえ」と引き下がり、島田宅を出る。

死んだ妻に一目会いたい気持ちが抑えられない八五郎は、「あの火にくべるやつは何と言ったかな……そうだ、ハンゴンタン。越中富山の反魂丹だ」と間違って思い出し、すぐさま薬屋へ向かい、戸を叩いて開けさせ、反魂丹を買う。

帰宅した八五郎は七輪を出し、ウチワであおいで火を起こしながら妻との会話を思い出し、妄想に至る。「もういけねえ、って時に、苦しい息の下で言いやがったねえ。『お前さんはあたしが死んだら、若いおかみさんを持つんだろ?』『馬鹿言っちゃいけねぇ。俺はお前が死んでも、生涯やもめ(=独身)で暮らすよ』『ほんとかい』『ほんとだよ』って、手をキューッと握り合ったのがこの世の別れだったんだ。それが今晩出てきやがんだ。『そちゃ女房、お熊じゃないか』『お前はやもめの八っつぁんかい。取り交わせし越中富山の反魂丹。あだにや焚いてくだしゃんすな』……なんて言ってきやがるだろうね。『お前さん。もう、今晩は寝かさないよ! 眠るならつねるよ。つねるな、って言うんなら、くすぐるよ』『ああ、くすぐってえ。俺はくすぐられンのに弱いんだ。ところでお前は今どうしてんの?』『あたしはお前さんが来るのを、蓮の台(うてな)の上ン乗って待ってンのよ。早くおいでよ』『おいでったって、死ななきゃ行かれないじゃねえか』『早くお死になよ!』『それは勘弁願いてえなあ』『なによあんた、娑婆に未練があンのねえ。悪い女引っ張り込もうってんならただじゃおかないよ! ほっぺたつねっちゃうんだから』……ああ、火種ェ入れンのを忘れた」

火が起こり、八五郎はひとつまみの反魂丹をくべてみる。「ゴホッ、ゴホ……煙は出てくるけど、なかなか嬶が出てきやがらねえ」しびれを切らせ、薬を袋ごと放り込むと、大量の煙がわき出した。そのとき、裏口をたたく音がする。「あいつ、恥ずかしい、ってんで裏口から来やがったな。そちゃ女房、お熊じゃないか?」

「違うよ、隣のお崎だよ。さっきからきなくさいの、お前の家(うち)じゃないのかい」

バリエーション編集

  • 『高尾』では、島田が遊廓通いが発覚して藩を追われたために高尾と別れ別れとなった、と説明する演じ方が多いが、『反魂香』では島田が江戸を離れているうちに高尾と綱宗が出会い、高尾の死をきっかけに自ら脱藩した、と説明されることが多い。
  • 『反魂香』で島田が高尾に贈った品は、『高尾』のこうがいではなく、「家宝の千羽鶴の掘られた小柄」とする演じ方が多い。
  • 『反魂香』は主人公の妻の名によって、サゲが変化する。
「おかじ」の場合。主人公が「かじ! かじやい!」と叫ぶ声を聴いた長屋連中が桶を持って主人公宅に飛び込み、水をかけて火を消してしまう。怒った主人公に長屋の者が「ここで火事が出たと思ったんだ」と話すと、主人公は「かじが出ねえから、煙を出してたんだ」と言ってサゲる。
「おせき」の場合。煙を察知して主人公宅に飛び込んだ隣の主婦に主人公が「これを火にくべていたんだ」と反魂丹の袋を見せる。隣の主婦が「これは咳(せき)止めの薬よ」と教えると、主人公が「どおりで出ないわけだ」と納得し、サゲとなる。

出典・参考編集

関連項目編集

  • 野ざらし - 落語の演目。女の幽霊見たさに主人公が奔走する。
  • くしゃみ講釈 - 落語の演目。商品の名を忘れた主人公が聞き覚えの演芸で思い出そうとするシーンが共通する。