叫化鶏

下処理した鶏を蓮の葉でくるんだのち、さらに土で全体を包み、丸ごと炉で蒸し焼きにする、中国江南地方の料理

叫化鶏(きょうかどり、中国語 叫化雞 ジアオホワジー jiàohuàjī、叫化童雞 ジアオホワトンジー jiàohuàtóngjī)、は、下処理したの葉でくるんだのち、さらに土で全体を包み、丸ごと炉で蒸し焼きにする、中国江南地方料理。別名として乞食鶏(こじきどり)、富貴鶏(ふうきどり)などがあり、英語で「Beggar's Chicken」と呼ばれる。

叫化鶏

概要 編集

「叫化」は、江蘇省上海市湖南省貴州省などで「乞食」、「物乞い」を意味する言葉[1]で、「叫花子」という地方も多い。乞食が調理法を考案した料理とされ、その名がある。「童雞」というのは若鶏で、若鶏を使うと「叫化童雞」と呼ばれる。

蓮の葉でくるんでいることで、肉は柔らかく、味が逃げず濃厚なうまみが出る上、蓮の香りも加わって、風味豊かなことが特徴。ただし、「本格的」に粘土で固めて調理されたものは土の臭いが強過ぎることで、嫌う人が多い。これを回避するために、蓮の葉と粘土の間にナイロンのシートで包むことにより、土の臭いが料理に移らない工夫が通常はされている。

歴史 編集

この料理が誕生したいきさつが伝説のように語り継がれているが、大筋は以下のようなものである。

代の末[2]か、代の初め頃、江蘇省常熟県の虞山の麓あたりで、食べるものに困った乞食が偶然に鶏を手に入れた[3]が、調理の手段を持たなかった。仕方なくそのまま泥で鶏を包み、土中に埋め、その上でたき火をした。その後、鶏を掘り出して食べたところ、柔らかくて大変に美味な上、泥といっしょに羽根もきれいに取ることができた。

これがきっかけとなって、改良を加え、「下ごしらえをした鶏をの葉でくるんだのち、粘土で全体を包み、オーブンで蒸し焼きにする」という料理法が生み出され、1882年[4]に常熟市の「山景園菜館」のメニューとなり、蘇州市の「王四酒家」などの名物料理として定着したのだという。

中華人民共和国成立後の1950年代になって、この手法に通じた調理人が浙江省杭州市の「天香楼菜館」に移り、「叫化童雞」の名で国内外の賓客をもてなすことが多かったことから、杭州の名物料理としても知られるようになった。

その後、四川料理店や広東料理店などでも出すところが現れ、泥の代わりに小麦粉の生地を使ったり、日本料理塩釜焼きのようにを使う例もでている。

作り方の例 編集

  1. 1.75kg程度の鹿苑鶏か三黄鶏の若鶏または成鳥をまるごと1羽用意し、毛を抜き、足先を切り落とし、脇に切り目を入れて、内臓を取り出し、内側を洗って、肋骨が折れるように小槌で軽くたたいておく。
  2. 醤油紹興酒をあわせたたれに1時間ほどつけ込む。
  3. 切ったネギショウガラードで炒めて香りを出し、エビ砂ずり豚肉金華ハム、戻した干し椎茸などをさいの目に切った具を加えて炒め、醤油、砂糖紹興酒うま味調味料で味を付ける。
  4. 鶏の腹の中に炒めた具とクローブ1粒を詰め、鶏の頭を曲げて穴に差し込み、豚の網油か薄切りした脂身で皮を覆い、洗った蓮の葉で全体を包む。さらに、セロハンタケノコの皮で包む場合もある。外れないように紐で縛る。
  5. 泥か粘土で全体を包み込む。(水でしめらせた塩やパン生地で包む場合もある。)
  6. オーブンに入れ、強火で泥が乾くまで40分間程度焼き、その後は弱火でじっくりと中に火が通るまで2時間程度焼く。
  7. 焼き上がったら、大皿に乗せて客席に出し、木槌で泥を割って取り除いてから、蓮の葉を開いて切り分け、ごま油をまぶし、白ネギ、甜麺醤とともに食べる。

類似の料理 編集

浙江省景寧シェ族自治県シェ族(ショー族)にはサツマイモをハス、または、サトイモの葉で包み、稲藁など縛り、泥を塗ってから、の灰の中に入れて作る「煨泥巴番薯(ウェイニーバファンシュー)」という焼き芋がある[5]

脚注 編集

  1. ^ 李栄編、『現代漢語方言大詞典』p943、2002年、南京・江蘇教育出版社
  2. ^ 宋憲章、『江南美食養生譚』p106(浙江大学出版社、2010年)は崇禎年間とする。
  3. ^ 杜福祥、謝幗明編、『中国名食百科』p1187(山西人民出版社、1996年)の記載のように、盗んだとする言い方もある。
  4. ^ 宋憲章、『江南美食養生譚』p106、浙江大学出版社、2010年
  5. ^ 梅松華、『畲族飲食文化』p81、p309、学苑出版社、2010年