メインメニューを開く

同時代ゲーム

大江健三郎の小説

同時代ゲーム』(どうじだいゲーム)は1979年に出版された日本小説家大江健三郎による書簡体形式の長編小説である。

新潮社より「純文学書下ろし特別作品」として出版された。

文化人類学者の山口昌男などが日本に紹介していた文化理論の影響を受けている。

あらすじ編集

語り手である主人公はメキシコの大学に在籍する研究者である。メキシコ滞在中に、神主だった父親の仕事「村=国家=小宇宙」の神話や歴史を書くことを受け継ぐ決意をする。

主人公の故郷である「村=国家=小宇宙」は、徳川中期に権力から逃れた脱藩者により四国の山奥に建国された。明治維新以後「村=国家=小宇宙」は大日本帝国の版図に組み込まれるが、租税や徴兵から逃れるため「二重戸籍」の仕組みを持っていたが、この仕組みが露見し、大日本帝国は軍隊を派遣し戦争が勃発する。

建国以来、「村=国家=小宇宙」はどう発展したのか。藩権力にどう対峙したのか。大日本帝国を相手にどうやって戦ったのか。そして主人公の一族のの歴史はどうだったのか。

語り手から双子の妹に対する手紙という形式で神話や歴史が綴られる。

登場人物編集

語り手の双子の妹。「壊す人」の巫女として育てられる。
壊す人
「村=国家=小宇宙」の創始者。
オシコメ
伝説上の百歳近く生きた女性指導者。
亀井銘助
幕末に発生した一揆において農民と藩の調停役を果たした。後に自ら一揆を主導して獄死する。後世、メイスケサンとして祀られる。
「無名大尉」
二重戸籍を正して大日本帝国に村=国家=小宇宙を取り込む為に派兵された軍隊の指揮官。五十日戦争で死亡する。
父=神主
「村=国家=小宇宙」の神話歴史を研究した。ロシア人とのクウォーター。
ツユトメサン
語り手の末弟。村の若者で、高校生として野球部に所属していた。後にプロ球団入りするが、引退後に北海道に渡り、熊と誤認されて射殺される。
露一兵隊
語り手の長兄。太平洋戦争で精神を病み、精神病院に25年間入所した後に死亡する。
露・女形
語り手の次兄。舞台俳優の傍ら、大阪ミナミゲイバーを経営していた。モロッコ性転換手術を受けた後に死亡する。
コーニーチャン
魚屋。戦後の闇商売で得た資金を元手にツユトメさんの支援者となる。
カーネーチャン
語り手の伯母。旅芸人。露・女形の支援者。
アポ爺とペリ爺
二人組の科学者。天体力学の専門家。月の軌道の地球へのアポジー(遠地点)・ペリジー(近地点)に由来する。

関連作品編集

『いかに木を殺すか』
『同時代ゲーム』が読者に十分に受け入れられていないという感触を持った大江は読者への架橋として、『同時代ゲーム』と対をなす長編『女族長とトリックスター』を構想し、草稿を1000枚強書き上げた。しかし、これを定稿に仕上げても、もう一つの『同時代ゲーム』ができるだけではないか、という懸念から長編をあきらめ、草稿を細かく切り分けて、それを批評的に乗り越える形で中編、短篇を仕上げた。これらは中短篇集『いかに木を殺すか』にまとめられた。大江はこれらを『同時代ゲーム』の補注の位置付けであると述べている。[1]
M/Tと森のフシギの物語
同時代ゲームの内容を、語り方、文体を平易にして書き直したものである。MはMatriarch(女族長)、TはTrickster(トリックスター)を意味する。

逸話編集

晦渋なことで知られる本作品について、評論家の小林秀雄は軽口で、大江に対し「おれは二頁でやめたよ!」と言ったという。[2]。大江自身はこの作品を気に入っており、平易に書き直した『M/Tと森のフシギの物語』から「『同時代ゲーム』にたちかえってくれる批評家、読者が現れてくれればどんなに倖せだろう」と書いている[3]

出典編集

  1. ^ 19 長篇『女族長とトリックスタ ー 』が幻の小説となるまで 『小説のたくらみ 、知の楽しみ』
  2. ^ 大江健三郎『私という小説家の作り方』新潮文庫、2001年、95頁
  3. ^ 同上、98頁

出版編集

『同時代ゲーム』(新潮文庫) ISBN 4-10-112614-3