和歌山毒物カレー事件

日本の和歌山県で発生した毒物混入・無差別殺人事件

和歌山毒物カレー事件(わかやまどくぶつカレーじけん)とは、1998年平成10年)7月25日夕方に和歌山県和歌山市園部で発生した毒物混入・無差別大量殺傷事件である。

和歌山毒物カレー事件
場所 日本の旗 日本和歌山県和歌山市園部1013番地の5(事件現場:夏祭り[注 1]の会場)[1]
座標
標的 夏祭りに集まった園部地区の住民
日付 1998年平成10年)7月25日[1][2]
17時50分ごろ(夏祭りの開始時刻)[1] – 19時ごろ(終了時刻)[1]
概要 夏祭りで提供されたカレーライス毒物亜ヒ酸)が混入され、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒を発症[3]。うち4人が死亡した[3]
攻撃手段 カレーライスに毒物を混入[2]
攻撃側人数 1人[3]
武器 亜ヒ酸[3]
死亡者 4人[3]
負傷者 63人[3]
犯人 林 眞須美冤罪を主張)
容疑 殺人・殺人未遂詐欺[4]
動機 未解明[5]
対処 和歌山県警が林を被疑者として逮捕・和歌山地検が林を被告人として起訴
刑事訴訟 死刑(上告棄却により確定[6] / 未執行
管轄
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地区で行われた夏祭り[注 1]において提供されたカレーライス毒物が混入され、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒になり、うち4人が死亡した[11]和歌山カレー事件とも呼ばれる[12]。後に混入された毒物は亜ヒ酸[3]と判明し、被疑者として逮捕被告人として起訴され、殺人・殺人未遂・詐欺の罪に問われた[4]主婦の林 眞須美(はやし ますみ)は無罪を訴えたが、第一審で死刑判決を受け、控訴上告も棄却されたため、2009年最高裁判所で死刑が確定した

地域の夏祭りでの毒物混入事件であり、不特定多数の住民らを殺傷するという残忍性、当初の「集団食中毒」から、「青酸化合物混入」、「ヒ素混入」と原因の見立てや報道が二転、三転したこと、住民らの疑心暗鬼や犯人に関する密告合戦、さらには住民の数を上回るマスメディア関係者が2カ月以上も居座り続けるという異常な報道態勢などが連日伝えられた[13]

2020年令和2年)9月27日時点で[14]林眞須美は死刑囚として大阪拘置所収監されている[15]一方、2009年7月22日付で和歌山地裁再審請求を提起している[16]

事件発生編集

 
事件現場周辺の航空写真(2008年撮影)。オレンジ枠で囲われた場所が事件現場の空き地(園部1013番地の5)[1]、水色の★印はカレーが調理されていたガレージの箇所。赤枠で囲った場所は林眞須美の家(園部1014番地の1)[17]の跡地。『朝日新聞』 (2017) を参考に作成[18]

1998年(平成10年)7月25日、和歌山市園部地区の新興住宅地にある自治会(和歌山市園部第14自治会)が主催した夏祭り[注 1][19]、提供されたカレーライスを食べた未成年者30人を含む合計67人[注 2][3]腹痛吐き気などを訴えて病院に搬送された[8]。異変に気付いた者が「カレー、ストップ!」と祭りのスタッフにそのカレーライスを出すのを直ちに止めるよう命じ、一連の嘔吐がカレーによるものと発覚した。

中毒症状を起こした被害者67人のうち、園部第14自治会の自治会長男性A(当時64歳)および副会長男性B(当時53歳)和歌山市立有功小学校4年生の男子児童C(当時10歳)と、私立開智高校1年の女子生徒D(16歳)の計4人が死亡した[7]。被害者は会場で食べた者や、自宅に持ち帰って食べた者などで、嘔吐した場所も様々だったという。

和歌山県警察および[8]和歌山市保健所は事件発生当初、集団食中毒を疑っていた[注 3][21]が、和歌山県警科学捜査研究所が被害者の吐瀉物や容器に残っていたカレーを検査したところ、青酸化合物の反応が検出された[8]。和歌山県警捜査一課は「何者かが毒物を混入した無差別殺人事件の疑いが強い」と断定し、和歌山東警察署に捜査本部を設置した[7]

毒物については当初、死亡した自治会長Aの遺体を司法解剖した結果、心臓の血液や胃の内容物から青酸化合物が検出されたため、死因を青酸化合物中毒と判断[7]。また、事件発生直後の鑑定では、青酸化合物を使った農薬などの二次製品に含まれる他の物質は検出されなかったため、県警は混入された毒物を「純粋な青酸化合物」に絞り、県外も含めて盗難・紛失事件がなかったか否かを捜査していた一方、ヒ素など他の毒物の検査は行っていなかった[22]。しかし、A以外の死者3人の遺体からは青酸化合物は検出されなかった一方、Aの胃の内容物や、Bの吐瀉物、Cの食べ残しカレーからそれぞれヒ素が検出され[23]、8月2日には捜査本部が「食べ残しのカレーからヒ素が検出された」と発表[24]。同月6日には「混入されたヒ素は、亜ヒ酸またはその化合物」と発表された[24]

これを受け、捜査本部から「死因はヒ素中毒だった疑いがある」と報告を受けた警察庁科学警察研究所が新たに鑑定を実施した結果、4人の心臓および自治会長以外の3人の心臓から採取した血液から、それぞれヒ素が検出された[注 4][23]。これを受け、捜査本部は10月5日、4人の死因を当初の「青酸中毒(およびその疑い)」から「ヒ素中毒」に変更した[26]

事件を受け、地元自治会や学校では臨時の会議が行われ、今後の対応について話し合われた[要出典]

逮捕・起訴編集

林 眞須美
生誕 (1961-07-22) 1961年7月22日(59歳)[15]
  日本和歌山県有田市(矢櫃地区)[27]
住居  日本・和歌山県和歌山市園部1014番地の1(逮捕当時)[17]
職業元保険外交員[28]
刑罰死刑
配偶者林 健治[注 5][28]
有罪判決 2009年最高裁判所
殺人
犯行期間
1998年7月25日
  日本
死者 4人
負傷者 63人
凶器 亜ヒ酸
逮捕日
1998年10月4日[28]
収監場所 大阪拘置所[15](2020年9月27日時点)[14]

1998年10月4日、知人男性に対する殺人未遂と保険金詐欺の容疑で、元保険外交員で主婦の林 眞須美[28](はやし ますみ、1961年昭和36年〉7月22日[15] - 、事件当時37歳)が、別の詐欺および同未遂容疑をかけられた元シロアリ駆除業者の夫・林健治[注 5]とともに和歌山県警捜査一課・和歌山東警察署による捜査本部に逮捕され[28]、2人とも同月25日に和歌山地方検察庁から起訴された。

10月26日には、眞須美が別の殺人未遂[注 6]および詐欺容疑で、健治も眞須美と同じ詐欺容疑[注 7]でそれぞれ再逮捕され、11月17日に追起訴された[30]

11月18日、眞須美は健治らに対する殺人未遂容疑などで、健治も詐欺容疑で再逮捕され[30]、12月9日には眞須美と健治がそれぞれ詐欺罪で起訴されたほか、眞須美は健治らを被害者とする殺人未遂罪でも追起訴された[31]

さらに12月9日には、カレーの鍋に亜ヒ酸を混入した殺人と殺人未遂の容疑で眞須美が再逮捕された[32]。同年末の12月29日に眞須美は和歌山地検により、殺人と殺人未遂の罪で和歌山地方裁判所へ起訴された[33]

刑事裁判編集

一審編集

林は容疑を全面否認したまま裁判へと臨み、1999年(平成11年)5月13日に和歌山地方裁判所(小川育央裁判長)で開かれた第一審・初公判[34]では5,220人の傍聴希望者が傍聴券抽選会場の和歌山城砂の丸広場に集まった[35]。これはオウム真理教事件麻原彰晃覚せい剤取締法違反の酒井法子に次ぐ記録であり、事件発覚前に無名だった人物としては最高記録である。裁判で和歌山地方検察庁が提出した証拠は約1,700点。1審の開廷数は95回、約3年7か月に及んだ。2002年(平成14年)12月11日に開かれた第一審判決公判で和歌山地裁(小川育央裁判長)は被告人・林の殺意とヒ素混入を認めた上で「4人もの命が奪われた結果はあまりにも重大で、遺族の悲痛なまでの叫びを胸に刻むべきだ」と断罪し、検察側の求刑通り被告人・林に死刑判決を言い渡した[36]。被告人・林は判決を不服として大阪高等裁判所に即日控訴した[36]

控訴審編集

大阪高裁(白井万久裁判長)での控訴審初公判は2004年(平成16年)4月20日に開かれ[37]、結審まで12回を要した。2005年(平成17年)6月28日の控訴審判決公判で、大阪高裁は「カレー事件の犯人であることに疑いの余地はない」として第一審・死刑判決を支持して被告人・林側の控訴を棄却する判決を言い渡しした[38]。被告人・林は判決を不服として同日付で最高裁判所上告した[38]

上告審編集

直接証拠もなく、自白も無く黙秘権を行使し、動機の解明も出来ていない状況の中、弁護側が「地域住民に対して無差別殺人を行う動機は全くない」と主張したのに対し、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は2009年(平成21年)4月21日の判決で「動機が解明されていないことは、被告人が犯人であるとの認定を左右するものではない」と述べ、動機を解明することにこだわる必要がないという姿勢を示したうえで[39]、「鑑定結果や状況証拠から、被告人が犯人であることは証明された」と述べ、林側の上告を棄却する判決を言い渡した[40]

被告人・林は2009年4月30日付で死刑判決の破棄を求めて最高裁第三小法廷に判決の訂正を申し立てたが[41]、申し立ては同小法廷の2009年5月18日付決定で棄却されたため、同日付で林の死刑が確定した[6]。これにより林は、戦後日本では11人目の女性死刑囚となった。[要出典]

再審請求編集

死刑囚・林は2020年9月27日時点で[14]死刑囚として大阪拘置所収監されている[15]一方、2009年7月22日付で和歌山地裁に再審を請求した[16][42]。林とその弁護団は「無罪を言い渡すべき新たな証拠」として「祭り会場に残された紙コップのヒ素が自宅から発見されたものとは異なる。京都大学の研究者の鑑定からも『事件当時のヒ素の鑑定方法は問題がある』ことは明らかだ」と主張した[43]

2014年(平成26年)3月、林は支援者の釜ヶ崎地域合同労働組合委員長・北大阪合同労働組合執行委員長・稲垣浩養子縁組している[44]。この養子縁組は、本人との定期的な面会を行うためと見られる[要出典]

2009年7月の再審請求は和歌山地裁(浅見健次郎裁判長)の2017年(平成29年)3月29日付決定により棄却され[43]、これを不服とした林は2017年4月3日までに大阪高裁に即時抗告した[45][46]。しかし大阪高裁(樋口裕晃裁判長)は2020年(令和2年)3月24日付で死刑囚・林の即時抗告を棄却する決定を出した[47]ため、林はこれを不服として同年4月8日付で最高裁に特別抗告を行った[48]

また林は長男と手紙のやり取りをしており、長男が2019年(令和元年)5月3日にTwitterで公開した林からの3枚の手紙には、最も重要視されている近隣住民の目撃証言で「白いTシャツ」を着ていたとされる点に触れ、他の主婦らは黒っぽい服装をしていたと証言し、当の眞須美も黒いTシャツを着ていたと述べていたが、この手紙の中でも再三「黒色のTシャツ」を着ていたことを強調して述べている[49]

裁判上の特記事項編集

1審において被告人が完全黙秘を貫いたことに対して、メディアが批判的な報道を行ったため、和歌山地方裁判所の判決文において、黙秘権の意義に関し、もっぱらメディア向けとみられる一般的な判示がなされるなど、刑事裁判の在り方の点から見ても特異な事件となった。

ビデオ映像の証拠採用編集

裁判では、被告人が事件について語りテレビで放送された「ビデオ映像の証拠採用」についても争点となった。これは事案の重大性の中で黙秘を続ける被告人の事件に関する言葉が得られない中で、テレビ局の取材に対して被告人が事件に関するインタビューに応じているという事情があったため、真実解明という点で検察がテレビ局の被告人に対するインタビュー映像の証拠申請をしていた。 それに対し、報道機関はビデオ映像を証拠採用されることは取材方法に対する権力の介入として反発し、弁護側も誘導による不正確な発言および意図的な編集の可能性から証拠採用に反対した。 裁判所は数少ない被告人の事件に関する証言として、民放4社6番組から収録されたインタビュー映像計約13分間分を「言動が趣旨を異にすることなく再現されている」として供述録取書として採用した。また裁判所は「報道機関が報道し、国民の多くが知っている情報を、なぜ真実の追求を目的とする刑事裁判で証拠としてはならないのか、理解に苦しむ」と判決文で述べ、ビデオ映像採用に反発する報道機関に苦言を呈した。

被害者の症状編集

本事件で生存した63名について、和歌山県立医科大学皮膚科が行った調査がある[50]。たとえば、事件後2週間に被害者の多くに共通して見られた兆候は、次のとおりであった。

冤罪疑惑編集

本事件の特徴として「直接的な証拠が一切存在しない」という点が挙げられる。

そのため、例えば「実際には家族や知人が毒を入れていたのに、被告人がそれを庇っている可能性」や「誰かに陥れられた可能性」などを否定できず、冤罪の疑惑がある事件として有識者からも問題点を指摘されている。

証拠も動機もない
  • 「批判を承知であえて言えば、本人が容疑を否認し、確たる証拠はない。そして動機もない。このような状況で死刑判決が確定してよいのだろうか?」(田原総一朗[51]
  • 「私のわだかまりも、この『状況証拠のみ』と『動機未解明』の2点にある。事件に、林被告宅にあったヒ素が使われたことは間違いない。ただし、そのヒ素に足があったわけではあるまいし、勝手にカレー鍋に飛び込むわけがない。だれかが林被告宅のヒ素をカレー鍋まで持って行ったことは確かなのだ。だが、果たしてそれは本当に林被告なのか、どうしたって、わだかまりが残るのだ。」(大谷昭宏[52]
黙秘権の侵害
  • 「2審判決は『誠実に事実を語ったことなど1度もなかったはずの被告人が、突然真相を吐露し始めたなどとは到底考えられない』と言ったが、これは実質的に黙秘権侵害です」(小田幸児 - 林の1審、2審、上告審弁護人)[53]
曖昧な目撃証言
  • 事件当時から目撃証言などの状況証拠を積み重ねてきたが、その中には不自然でつじつまの合わない証言も多く、関係者から疑問視されるケースもある。
  • 被告の次女は、「林死刑囚がカレー鍋の見張りを離れた時間が20分以上あり、他の人物が毒物を入れる機会はあった」と主張している。なお、身内による証言ということもあり、和歌山地裁はこの証言を証拠に採用しないことを決定した[13]
  • 「林眞須美しか、カレーにヒ素を混入する機会がなかった」という結論は、警察が住民らの証言をもとに1分刻みのタイムテーブルを作成し、「消去法」によって導き出したものであった。ところが事件直後の朝日新聞の報道では、時間の証言に裏付けのある人はまれで、総合すると最大で50分前後の開きがあった。ここから、1分刻みのタイムテーブルを作ったことが疑問視されている[13]
  • 事件発生直後、カレーライスを担当した主婦のうち1人が、「知らない人も出入りしたが、当番でコンビを組んだ相手の知り合いと思った」(朝日新聞)と述べている。それにも関わらず、「犯人は夏祭りの関係者の中にいる」という前提で、「消去法」による捜査が行われた[13]
  • 眞須美が「調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていた」という目撃証言についても、服の色や髪の長さなどから、目撃者が見たのは眞須美ではなく、次女である可能性が高い。しかも次女がふたを開けた鍋は、2つあったカレー鍋のうち、ヒ素が混入されていない方であった。ヒ素が混入された鍋は、目撃者からは死角になり見えなかったことが、死刑確定後の再調査によって明らかになっている[13]
鑑定の不確かさ
  • 裁判で林の犯行と断定される上での唯一の物証で決定的な証拠となっていた亜ヒ酸の鑑定において、犯行に使われたとみられる現場付近で見つかった紙コップに付着していたヒ素(亜ヒ酸)、林宅の台所のプラスチック容器についていたヒ素、カレーに混入されたヒ素の3つが東京理科大学教授の中井泉による鑑定の結果、組成が同一とされた。しかし、中井は鑑定依頼内容を、林宅のヒ素と紙コップのヒ素とカレーのヒ素の3つにどれだけの差違があるかを証明することではなく、3つの試料を含む林宅周辺にあったヒ素のすべてが同じ輸入業者経由で入ってきたものだったかどうかを調べることだと理解し、それを鑑定で確認したに過ぎなかった。このため有罪の決め手となった3つの試料の差違を詳細に分析はせず、3つの試料を含む10の資料のヒ素がすべて同じ起源であることを確認するための鑑定を行っていたにすぎなかった。林が自宅にあったヒ素を紙コップでカレーに入れたことを裏付けるためには、3つのヒ素の起源が同じであることを証明しただけでは不充分であり、その3つがまったく同一でなければならない[54]
  • 2012年、弁護側の依頼で鑑定結果の再評価を行った京都大学大学院教授の河合潤により、この3つの間には重大な差違があることがわかり、3つは同一ではないと評価された[54][13]。また、河合は最高裁でも林を有罪とした根拠とされる、被告人の頭髪からも高濃度のヒ素が検出されたとする鑑定結果についても、過誤があったと指摘している[13]
和歌山県警科捜研主任研究員の証拠捏造報道
  • 2012年、カレー事件を捜査していた和歌山県警科捜研主任研究員が、他の事件で証拠を捏造したとして証拠捏造、有印公文書偽造および行使容疑で書類送検されたことが判明した。しかし、捜査関係者によれば、研究員が携わったカレー事件での捏造はなかったと結論づけている[55]

本事件の影響編集

カレーライスのイメージ悪化編集

和歌山毒物カレー事件では、報道で「毒入りカレー」の文字が前面に出ていたため、カレーライスのイメージが悪化し、食品会社はカレーのCMを自粛し、料理番組でもカレーライスのレシピ紹介を取りやめた。またテレビアニメ『たこやきマントマン』と『浦安鉄筋家族』では、ストーリーにカレーライスが出る回が放送されなかった[注 8]。そして、日本ではちょうど夏祭りが各地で開催される時期だったことから、事件後は各地の夏祭りで食事の提供が自粛されるなどの騒動に発展した。

この他、前述の犠牲者である小学4年生の男子児童は事件当時、和歌山市立有功小学校に通学していたが[56]、同小学校では事件発生から19年が経った2017年時点でも、学校給食の献立でカレーライスが出されていない[注 9][57]

模倣犯の出現編集

和歌山毒物カレー事件の後、飲食物に毒物を混入させるといった模倣犯が日本では多数現れた。中でもアジ化ナトリウムは混入が相次ぎ、1999年にはアジ化ナトリウムの管理を徹底させるべく、日本においてアジ化ナトリウムは毒物に指定され、毒物及び劇物取締法による流通規制が行われるに至った。

林眞須美が起こした訴訟編集

林眞須美は、本事件後に多数の訴訟を起こしたことで知られる。

その中で「カレー毒物混入事件法廷写真・イラスト訴訟」では、取材対象に無断で撮影した写真や、無断で描画したイラストを報道した時に、肖像権侵害となるのはどういった場合なのかについて、日本の最高裁判所として初めて基準を示すに至った[58]。この中で最高裁は、撮影や描画された人物の社会的地位、活動内容を鑑みて、撮影や描画を行った場所、目的、さらに、撮影や描画をどのように行ったか、そもそも撮影や描画の必要性があったかを総合し、撮影や描画された側の人物が社会生活上の我慢の限度を超えるかどうかで判断すべきとし、林眞須美の写真や一部のイラストについて違法と判断した[58]

なお、この訴訟以外にも、例えば2012年に再審請求中の林は、事件の裁判において虚偽の証言をしたとして、100万円の損害賠償を求めて夫を提訴した。

その他、週刊朝日の調べにより、マスメディア関係者や事件の発生地の地元住民、生命保険会社に勤務していたときの同僚など、計50人ほどを相手に訴訟を起こしていることが判明。しかし、弁護士も立てていないため訴訟の遂行は難しいという。

かつてメディアを相手に500件以上の訴訟を起こしたロス疑惑三浦和義は生前、林を支援しており、林に対しマスメディアを訴えることを勧め、手紙や面会で方法を伝授していた。これに対し林も「三浦の兄やん、民事で訴えちゃるって、ええこと教えてくれた」と答えた[59]

2017年3月、和歌山地裁は請求を棄却したが、弁護団は即時抗告するとともに、有罪を根拠づけたヒ素鑑定を行った東京理科大学教授の中井泉らを相手取り、6500万円の損害賠償を求める民事訴訟を提起した[13]

その他編集

  • 障害者郵便制度悪用事件村木厚子を取調べ中に、担当検察官である國井弘樹は、村木に向かい「あの事件だって、本当に彼女がやったのか、実際のところは分からないですよね」といい、否認を続けることで冤罪で罪が重くなることを暗示し、自白を迫った[60]
  • 逮捕前、自宅を取り囲む報道関係者たちに笑いながらホースで放水している姿を撮った映像が繰り返し使用され、ふてぶてしい印象付けがメディアによりなされたが、これについて後に夫は、報道が過熱し夜中中取り囲まれたが、彼らが蚊に刺されないよう殺虫剤を持って行ったりしたにもかかわらず、郵便受けから郵便を抜き取ったり、塀にはしごをかけ2階の子供部屋を盗撮したりされたため、眞須美に「あいつらのぼせ上ってるから、記者会見する言うて集めて、上からいっぺん頭冷やしたれ」と命令したとした上で、「いかにもカレーに毒入れそうなおばはんの『絵』」にされたと語っている[61]
  • フジテレビジョンニュースJAPAN』で、キャスターの安藤優子が、事件の注目人物であった逮捕前の林に電話インタビューを試みている。逮捕前だったこともあり、注目人物であった林の名前を自主規制音を被せて匿名化していたが、編集ミスで1か所だけ自主規制音が入っていなかったため、その部分だけ「林さんは…」という言葉がのって放送されてしまった。そのため、林から「おかげで外に買い物にも行けない。どうしてくれるのか?」と、猛抗議を受けた。
  • 林夫婦が住んでいた家(木造2階建て住宅・約180 )は2人の逮捕後、無人となり、壁などに落書きされたり、無断で敷地内に侵入したりする者が相次いでいたため、和歌山東警察署パトロールを継続していたが[62]、2000年(平成12年)2月16日未明に放火され、全焼した[注 10][63]。そのニュースを聞かされた獄中の林は「ああ、そう」と答えた。林の自宅はその後解体され[68]、土地(約360 ㎡)は競売に出された結果、2004年春に地元自治会が住民からの寄付を募って、380万円で買い取った[69]。そして、住民たちの協議により、花壇として整備された[注 11][70]

関連書籍編集

  • 週刊文春特別取材班『林真須美の謎 ヒ素カレー・高額保険金詐取事件を追って』ネスコ、1998年12月。ISBN 978-4890369935
  • 三好万季『四人はなぜ死んだのか インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」』文藝春秋、1999年7月。ISBN 978-4163554303
  • 林眞須美『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら 林眞須美 家族との書簡集』講談社、2006年8月。ISBN 978-4062135139
  • 今西憲之「和歌山カレー毒物混入事件 林真須美被告の夫・健治氏 独占告白10時間「私たち夫婦は保険金詐欺のプロ。金にならんことはやらん。真犯人は別」」『週刊朝日』第111巻第56号、朝日新聞社出版部、2006年11月3日、 36-39頁、 NAID 40007455802 - 2006年11月3日号・通号4782。
  • 林眞須美、林健治(林眞須美の夫)、篠田博之月刊『創』編集長)『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』創出版、2014年7月15日。ISBN 978-4904795316 - 林夫妻と本事件を取材し続けている篠田らによる共著書。
  • 帚木蓬生『悲素』新潮社、2015年7月。ISBN 978-4103314226 - 事件に関わった実在の医師の記録に基づく小説。
  • 田中ひかる『「毒婦」和歌山カレー事件20年目の真実』ビジネス社、2018年7月。ISBN 978-4828420370
  • 和歌山カレー事件 林眞須美死刑囚長男『もう逃げない。〜いままで黙っていた「家族」のこと〜』ビジネス社、2019年7月。ISBN 978-4828421155

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ a b c 夏祭りは住民の親睦を図るため[8]、1992年(平成4年)に園部第14自治会が主導して毎年7月の最終土曜日に開催していた[9]。ただし、1997年(平成9年)は病原性大腸菌O157の影響で中止されていた[8]。事件後、自治会の夏祭りは開かれていない[10]
  2. ^ 当初発表では患者数は66人とされていたが[8]、7月27日になって新たに1人(軽症)が入院した[20]
  3. ^ 和歌山市保健所には25日22時ごろ、患者が搬送された一病院から「青酸化合物特有の瞳孔が閉じている症状が出た」という連絡があったが、他の病院に問い合わせても同様の報告はなかったため、保健所は毒物対応を具体的に指示しなかった[8]
  4. ^ この際、使用された毒物の組成を調べるために、SPring-8が使用された。亜ヒ酸に含まれる特定の不純物元素の量を比較して、異同識別が行われた。この為の重元素不純物の検出には『SPring-8の性能が必要』とされたためである[25]
  5. ^ a b 林健治は2014年、実名で妻・眞須美や篠田博之(月刊『創』編集長)とともに著書『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』(創出版)を出版している[29]
  6. ^ 知人男性(当時35歳)にヒ素入りのうどんを食べさせて殺害しようとした容疑[30]
  7. ^ 林夫婦が共謀し、健治の病状を偽って高度障害保険金約1億3,700万円を詐取したとされる容疑[30]
  8. ^ これらの回は、前者は再放送時に初放送され、後者はVHSソフト化の際に収録された。
  9. ^ 2017年に有功小学校の校長は『産経新聞』記者の取材に対し、その理由を「何年たってもわが子を失った痛みは消えない。重く受け止めたい」と述べている[57]
  10. ^ 放火犯の男は同年4月3日に和歌山県警察非現住建造物等放火容疑で逮捕されたほか[63]、放火する4日前(2月12日)には林宅に侵入して現金やセカンドバッグ・腕時計など(時価合計約21万3,500円相当)を盗んだとして、窃盗容疑でも追送検された[64]。男はそれらの罪で和歌山地方裁判所に起訴され[65]、2001年9月6日に「窃盗は計画的な犯行で、放火の手段も巧妙。また、住民に著しい危険・恐怖を与えた」として、懲役8年を求刑されたが[66]、同年10月30日に和歌山地裁(小川育央裁判長)から「放火は衝動的・快楽的な犯行だが、犯行時は心神耗弱状態だった」として、懲役4年の実刑判決を受けた[67]
  11. ^ 事件から20年となる2018年(平成30年)には、事件の風化を防ごうと植樹する計画が持ち上がったが、被害者から「事件を思い出すのが辛い」という反対の声が上がり、中止された[10]

出典編集

  1. ^ a b c d e 和歌山地裁 2003, p. 2.
  2. ^ a b 和歌山毒物カレー事件から19年 犠牲の男児の通学先、今も給食にカレーのメニューなし」『産経新聞産業経済新聞社、2017年7月24日、2面。2021年1月4日閲覧。オリジナルの2021年1月4日時点におけるアーカイブ。
  3. ^ a b c d e f g h 最高裁第三小法廷 2009, p. 1.
  4. ^ a b 最高裁第三小法廷 2009.
  5. ^ 最高裁第三小法廷 2009, pp. 6-7.
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参考文献編集

刑事裁判の判決文

民事裁判の判決文

書籍

  • 年報・死刑廃止編集委員会『コロナ禍のなかの死刑 年報・死刑廃止2020』(編集委員:岩井信・可知亮・笹原恵・島谷直子・高田章子・永井迅・安田好弘・深田卓) / (協力:死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90・死刑廃止のための大道寺幸子基金・深瀬暢子・国分葉子・岡本真菜)、インパクト出版会、2020年10月10日、第1刷発行。ISBN 978-4755403064

関連項目編集

外部リンク編集