垂直/短距離離着陸機

垂直/短距離離着陸機V/STOL機, 英語: vertical/short take-off and landing aircraft)とは、短距離離着陸(STOL)能力をもち,必要に応じて垂直離着陸(VTOL)も可能な飛行機垂直離着陸機の主流となっている[1]

RIAT2008に参加したイギリス空軍ハリアーGR9
艦船に向けて着陸進入中のアメリカ海兵隊MV-22オスプレイ

概要編集

垂直離着陸機の多くはVTOLとSTOLの両方に対応しており、このような機体は垂直/短距離離着陸機と称される[2]。この場合、実際の運用では垂直離陸(VTO)はめったに行われず、短距離離陸(STO)と垂直着陸(VL)を組み合わせたSTOVL方式short takeoff/vertical landing)での運用がほとんどとなる[3]

離陸の際には、例え垂直離陸できるだけの推力があったとしても、少しでも滑走してに風を当て、揚力を発生させれば、それだけ離陸重量が大きくなり、搭載量を増やすことができる。例えば地上静止推力10,659kgfF402-RR-408(ペガサス11-61)エンジンを搭載したAV-8B攻撃機の場合、VTO時の最大離陸重量は9,414kgなのに対し、STO時には14,061kgまで増大する。またこの際にスキージャンプ勾配を使用すれば、搭載量を更に増やすことができる[3]

これに対し、着艦の際には、燃料などを消費した分だけ機体の重量が軽くなっているため、安全確実な垂直着艦を選択することになる[3]。垂直着艦では上下する飛行甲板にも安全に降りることができ、艦の動揺や風向風速による制約が小さいとされる[2][注 1]

イギリス海軍のクイーン・エリザベス級では、大きな艦型のおかげで滑走レーンが長いことを活用して、着艦の際に、垂直にではなく斜めに下降するSRVL(Shipborne Rolling Vertical Landing)を行うこともある。これは60ノット程度の低速で前進しながら、艦尾方向からストレート・インで進入・接地するもので、若干ながら前進速度をつけることで主翼が揚力を発揮できるようになり、より重い状態でも着艦できるようにすることで、兵装を投棄せずに済むと期待されている[注 2]。ただし接地後の制動は車輪ブレーキに依存するため、この方法を用いるのは天候条件が良好なときに限られる[5]

V/STOL機の一覧編集

V/STOL機には多数の形式が存在する。以下に示すのは、その一部である。

推力偏向スラスト機編集

ファンおよびジェット排気の推力偏向スラスト用の回転ノズルを4個装備

ティルトジェット機編集

ティルトローター編集

旧ベル 609
技術実証機
XV-15のスケールアップ版

ティルトウイング編集

4発の回転プロペラを持つティルトウィング機
4発のティルトウイング(連結シャフトを有するターボプロップ)
方向を変えられるダクテッド・プロペラを装備する、V-22よりもやや小型の試作輸送機

推力/揚力分離型機編集

ベクトル・ノズルおよびリフト・エンジンを装備したジェット輸送機
初の超音速VTOL機(試験中にマッハ2.03を記録)
  • ライアン XV-5
翼の中のファンがエンジンの排気ガスで駆動される。
ハリアーに類似した攻撃戦闘機であるが、翼およびリフト・エンジンが小型化され、超音速飛行が可能である。試験飛行は行ったが、運用開始には至らなかった。

超音速機編集

数多くの超音速V/STOL機が提案・製造されてきたが、飛行試験までに至らなかった機体がほとんどである。2016年に装備化されたF-35Bは、初の、そして唯一の実用超音速V/STOL機である。[6]

スイベル・エンジンを用いてマッハ2を目指した(モックアップのみ)
マッハ2を目指した戦闘機、マッハ1.04を記録したが実用化はされなかった。
マッハ2を目指したデルタ翼の戦闘機。リフト・エンジンを用いた、初めての超音速VTOL機であった。試験間にマッハ2.03を記録したが、実用化はされなかった。
マッハ1.7で飛行する超音速ハリアーであったが、完成には至らなかった。
複雑な「ブラインド・カーテン」状の翼を有していたが、自重を支えることができなかった。
リフト・エンジンに加えて、スイベル・テールパイプを装備していた。
推力偏向ノズルを有するエンジン(プラット・アンド・ホイットニー F135)に加えて、シャフト駆動されるリフトファンを装備している。短距離離陸、超音速飛行および垂直着陸を1つのソーティーで行うことのできる初めての航空機である。[7]

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ フォークランド紛争の際に増援として派遣された空軍ハリアーGR.3攻撃機は、初めての艦上展開でも問題なく適応した[2]
  2. ^ 前任のインヴィンシブル級航空母艦シーハリアーFA.2を運用していた際には、特に中東など気温が高い状態では、エンジンのオーバーヒートを避けるために出力を上げることができず、着艦する際に燃料や兵装を投棄せざるをえないケースが発生した[4]

出典編集

  1. ^ V/STOL』 - コトバンク
  2. ^ a b c 野木 1997.
  3. ^ a b c 野木 2015.
  4. ^ Calvert 2019.
  5. ^ 井上 2020.
  6. ^ "Report: F-35 Work Falls Behind Two More Years." CQ Politics, 23 July 2009.
  7. ^ Kjelgaard, Chris (Senior Editor). "From Supersonic to Hover: How the F-35 Flies." space.com, 21 December 2007.

参考文献編集

  • Calvert, Denis J. (2019). “シーハリアーの開発と運用”. 世界の傑作機 No.191 BAe シーハリアー. 文林堂. pp. 34-53. ISBN 978-4893192929 
  • 井上, 孝司「徹底比較! 米英新空母のメカと戦力 (特集・世界の空母2020)」『世界の艦船』第929号、海人社、2020年8月、 92-101頁。
  • 野木, 恵一「航空母艦発達史」『世界の空母ハンドブック』海人社〈世界の艦船別冊〉、1997年、18-25頁。NCID BB09185700
  • 野木, 恵一「発着艦方式の徹底比較 : STOVL/STOBAR/CATOBAR (特集 世界の空母 2015)」『世界の艦船』第825号、海人社、2015年11月、 126-129頁、 NAID 40020597400

外部リンク編集