塩湖

塩水で満たされた湖
塩水湖から転送)

塩湖(えんこ、英語: salt lakesaline lake)または塩水湖(えんすいこ)とは、塩水をたたえるのこと。淡水をたたえる湖である淡水湖と対になる。

代表的な塩湖、死海
死海の水面に浮かぶ人
古代の塩湖の跡であるボンネビル・ソルトフラッツ

概要 編集

日本陸水学会では「乾燥地域にあって湖水に含まれる総塩濃度が 0.5 g/L 以上の湖」と定義されている[1]。中国では湖水 1L 当たりの塩類が50グラムを超える湖沼と定義されることもある[2]。なお、宍道湖中海のように海水流入によって塩濃度が高くなる汽水湖は塩湖には含まれない[3](汽水湖は半塩湖と称されることがある[4])。

歴史文献資料に塩湖と記されている場合、科学的定義による判断は困難であるが、塩類の析出について記されていたり塩業の生産活動があった湖は塩湖とみられる[2]

塩湖は、塩類の濃度によって以下のように分類される[5]

  • subsaline 0.5–3 パーミル (淡水湖と塩湖の中間)
  • hyposaline 3–20 パーミル (濃度の低い塩湖)
  • mesosaline 20–50 パーミル (中間の濃度の塩湖)
  • hypersaline(超塩湖) 50 パーミル以上 (非常に濃い塩湖、海水の塩分濃度である35パーミルほどを超えるもの)

塩湖の水質組成は湖によって異なり、海塩由来や地質由来などがあるが、流域の地質や気候条件などの影響も受けている[2]

一般的には湖水蒸発に伴う継続的な湖水の低下とともに塩分が濃縮して形成されるが、イシク湖のように亜寒帯湿潤気候にあって湖水位が上昇しながら塩分濃度が増加している例もある[3]

塩湖の上流部の引水などにより湖水位が低下すると湖水の塩性化や水のない塩沼状態が生じる[6]

生物 編集

 
ヒリアー湖の上空からの眺め

魚類が生息して沿岸住民により漁業の対象とされている塩湖以外に、死海(湧水周辺を除く)やモノ湖のように魚類が生きられないほど塩分濃度が高い塩湖や、塩性湿地もある。これらの水中や沿岸には、高い塩分濃度に適応した塩生植物など特異な植物相動物相藻類細菌が見られる。

たとえばオーストラリア大陸南西沖のミドル島にあるヒリアー湖は、海水の約10倍という塩分濃度で生息できる極限環境微生物 (Dunaliella salina) が原因とみられるピンク色の湖水が、観光客に人気となっている[7][8][9]。同様の原因でピンク色になっている湖には、オーストラリア西部のハットラグーン英語版[10]セネガルラック・ローズ[11]などがある。プランクトンによりピンク色になっている湖には、メキシコのピンクラグーン[12]ボリビアラグナ・コロラダ[13]がある。

利用 編集

 
ジブチの塩湖・アッサル湖近くを行くラクダキャラバンの隊列。湖で採れる塩は古代から貴重な資源であり、エチオピアなどに運ばれた

塩湖や塩類平原は天然の塩田として湖塩(こえん)が古来採取され、海から遠い内陸部に食塩を供給してきた。現代では電池の材料であるリチウムが南米のアタカマ塩湖ウユニ塩湖などで生産されている[14]

有名な塩湖 編集

世界の大きな塩湖はカスピ海バルハシ湖グレートソルト湖(面積順)があげられる。

世界一標高の高い塩湖はナムツォで、世界一低い場所にある塩湖は死海である。

カスピ海の北の低地にあるバスクンチャク湖は、8世紀以降塩の産出で栄え、シルクロードを通じ東西へ輸出された。

中華人民共和国山西省運城市塩湖区にある「解州の塩池」は、規模こそ上記の塩湖とは比較にならない程小さいが、古来の、世が乱れた際に各政権が争奪した要地として知られている。

脚注 編集

  1. ^ 杉山雅人. “陸水域における微量元素の生物地球化学過程”. 公益財団法人海洋化学研究所. 2023年4月17日閲覧。
  2. ^ a b c 費傑「環境の変遷と人類の活動を背景とする渭河平原における塩湖の退化と枯渇」『学習院大学国際研究教育機構研究年報』第4巻、学習院大学国際研究教育機構、2018年、154-181頁。 
  3. ^ a b 齋藤圭「<研究ノート>中央アジア・イシク湖及びその流域の水質に関する地理学的研究」『法政地理』第51巻、法政大学地理学会、2019年3月20日。 
  4. ^ 川の本 No.43”. 河川環境管理財団. 2023年4月17日閲覧。
  5. ^ Hammer, U. T. (1986) (英語). Saline Lake Ecosystems of the World. Springer. p. 15. ISBN 978-9061935353 
  6. ^ 中国タリム盆地とジュンガリア盆地の水環境特性と問題点”. 土木学会. 2023年4月17日閲覧。
  7. ^ オーストラリアから ピンクの湖 観光客続々”. 日本経済新聞夕刊2017年5月23日. 2017年5月25日閲覧。
  8. ^ A guide to managing and restoring wetlands in Western Australia. Department of Environment and Conservation. (2012). pp. 18–19. http://www.dpaw.wa.gov.au/images/documents/conservation-management/wetlands/Wetland_management_guide/Chapter_2_Understanding_wetlands_full.pdf 2015年3月2日閲覧。 
  9. ^ オーストラリアの隠れた絶景5か所”. AFPBB News (2016年2月1日). 2018年7月21日閲覧。
  10. ^ ハットラグーン(オーストラリア)”. 文藝春秋 (2015年7月23日). 2018年7月21日閲覧。
  11. ^ セネガルの絶景「ラックローズ」!ピンクの湖の存在はおとぎ話じゃなかった!”. TapTrip. 2018年7月21日閲覧。
  12. ^ メキシコにあるピンクの絶景!ピンクラグーン”. エイチ・アイ・エス. 2018年5月12日閲覧。
  13. ^ ボリビアにある神秘の赤い湖『ラグナ・コロラダ』”. Wondertrip. 2018年8月11日閲覧。
  14. ^ “EV電池は塩湖生まれ”. 日本経済新聞. (2016年6月28日). https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/photo-tpp201606li/ 

関連項目 編集

外部リンク 編集