メインメニューを開く

大井川鐵道井川線

日本の静岡県榛原郡川根本町と静岡市葵区を結ぶ大井川鐵道の鉄道路線

井川線(いかわせん)は、静岡県榛原郡川根本町千頭駅と同県静岡市葵区井川駅とを結ぶ大井川鐵道鉄道路線である。南アルプスあぷとラインの愛称がつけられている。

Daitetsu logomark.svg 井川線
アプト式区間を通る井川線の列車(アプトいちしろ駅 - 長島ダム駅)
アプト式区間を通る井川線の列車
アプトいちしろ駅 - 長島ダム駅
概要
通称 南アルプスあぷとライン
起終点 起点:千頭駅
終点:井川駅
駅数 14駅
運営
開業 1935年3月20日 (1935-03-20)(専用鉄道)
地方鉄道開業 1959年8月1日
所有者 中部電力(運営委託者)
運営者 大井川鐵道(運営受託者)
使用車両 車両の節を参照
路線諸元
路線総延長 25.5 km (15.8 mi)
軌間 1,067 mm (3 ft 6 in)
最小曲線半径 50 m
電化 直流1,500 V 架空電車線方式(アプトいちしろ - 長島ダム間)
運行速度 最高30 km/h (19 mph)
最急勾配 90 (5° 08 )
ラック方式 アプト式(アプトいちしろ - 長島ダム間)
テンプレートを表示
井川線の列車(尾盛 - 閑蔵間の関の沢橋梁
長島ダム駅に停車中の井川線列車。井川方面行きは制御車が先頭。

目次

概要編集

大井川の流れに沿って山間を縫うようにゆっくりと走る。全線の1/3がトンネル橋梁で占められており、また非常にカーブが多く走行中は車輪が軋む音が絶えない。そのため井川線の機関車および制御客車水撒き装置を備えている。

尾盛 - 閑蔵間には、日本でもっとも高い鉄道橋「関の沢橋梁」がある(川底から70.8m)。

山岳地帯を走行するため沿線に民家は非常に少なく、利用者は大半が観光客である。駅の半数がいわゆる秘境駅となっている。終点駅の井川駅は静岡市内だが南アルプスの山中にある。

当路線は鉄道事業法および軌道法に準拠する鉄軌道としては日本で唯一のラック式鉄道アプト式)区間のある路線である。長島ダム建設に伴い一部区間が水没することになったが、補償金を受けて廃止することはせず、湖岸に新線を建設した。途中90.0の急勾配があるため、碓氷峠越えの国鉄信越本線1963年(昭和38年)に廃止されて以来、日本では途絶えていたアプト式を採用した。なお、ループ線などを設けて急勾配を避け建設する手法も可能だったが、早期に建設できるという理由でアプト式のラック式鉄道となったといわれる[1]。また、いくつか種類があるラック式鉄道の中でアプト式を採用したのは、レールの製造会社の都合によるものといわれる[1]

元々762mm軌間で建設されたため、貨車を直通させるために1067mmに改軌された後もトンネルなど車両限界が小さい。車両もそれに合わせて軽便鉄道程度の大きさで、「軽便より小さい」といわれることもある[2]。沿線住民からは『エンジン』という愛称で親しまれている。これはもともと千頭森林鉄道の愛称であり、車両が似ているため引き継がれたものと考えられる。

鉄道資産は中部電力が保有しているが、第三種事業者ではない。また当線の赤字額は中部電力が負担している。

路線データ編集

  • 路線距離(営業キロ):25.5km
  • 軌間:1067mm
  • 駅数:14駅(起終点駅含む)
  • 複線区間:なし(全線単線
  • 電化区間:アプトいちしろ - 長島ダム間(直流1500V)
  • 閉塞方式:特殊自動閉塞式
  • トンネル:61か所
  • 橋梁:55か所

歴史編集

  • 1935年(昭和10年)3月20日:大井川電力の専用鉄道として大井川専用軌道千頭 - 大井川発電所(現在廃止)間で運行開始(762mm軌間、内燃動力)。川根両国駅、沢間駅開業。
  • 1936年(昭和11年)11月19日:1067mmに改軌、ただし、千頭 - 沢間間は軌間762mmの寸又川専用軌道(後の千頭森林鉄道)が乗り入れるため三線軌条[3]
  • 1954年(昭和29年)4月1日:中部電力の専用鉄道として大井川ダム - 堂平(井川駅の先)間の運行開始。中部電力専用鉄道に改称。
  • 1959年(昭和34年)8月1日:中部電力専用鉄道を大井川鉄道が引き継ぎ、大井川鉄道井川線として旅客営業開始。土本駅、川根小山駅、奥泉駅、川根市代駅、川根唐沢駅、犬間駅、川根長島駅、尾盛駅、閑蔵駅、亀久保信号場、井川駅開業。
  • 1969年(昭和44年):千頭森林鉄道が廃止され、廃止後に千頭 - 沢間間の762mm軌条が撤去される。
  • 1970年(昭和45年):千頭 - 川根両国間に並行する側線を往復するミニSL列車の運行開始。
  • 1971年(昭和46年)4月1日:井川 - 堂平間廃止。亀久保信号場廃止。
  • 1981年(昭和56年)8月1日:大加島仮乗降場開業。
  • 1989年(平成元年)11月26日:ミニSL列車の運行終了[4]
  • 1990年(平成2年)10月2日:アプトいちしろ - 接岨峡温泉間を新線に変更。アプトいちしろ - 長島ダム間アプト式・電化。川根市代駅を移転してアプトいちしろ駅に、川根長島駅を接岨峡温泉駅に改称。長島ダム駅、ひらんだ駅、奥大井湖上駅開業。大加島仮乗降場、川根唐沢駅、犬間駅廃止。
  • 1998年(平成10年)
    • 10月18日:接岨峡温泉 - 井川間が土砂崩れのため不通となる[5]
    • 10月31日 - 11月30日 : 紅葉の名所である関の沢橋梁への観光客の便宜を図るため、接岨峡温泉 - 閑蔵間に限り1日3往復のみ折り返し列車を延長して乗り入れ[5]
  • 1999年(平成11年)
    • 3月8日:不通だった接岨峡温泉 - 井川間が復旧[5]
    • 8月1日:愛称が「南アルプスあぷとライン」に決定。
  • 2000年(平成12年)
    • 9月12日:長島ダム駅付近での土砂崩れのため、奥泉 - 井川間が不通となる[6][7]
    • 9月23日:奥泉 - 井川間が復旧[7]
  • 2007年(平成19年)
    • 9月3日 - 10月19日:川根両国 - 沢間間の法面崩落現場の復旧のため、千頭 - 奥泉間を運休し、バスによる代行輸送を行う。
    • 12月3日 - 2008年(平成20年)3月31日:再び千頭 - 奥泉間を運休し、バスによる代行輸送を行う。
  • 2009年(平成21年)3月29日:全線でATSの使用を開始。
  • 2010年(平成22年)8月28日:台風の被害により崖崩れの恐れがあるとし、千頭 - 奥泉間を運休して代行バスによる振替輸送を開始[8][9]。当該区間の代行バスは、季節ごとにダイヤを更新しながら運転した。
  • 2011年(平成23年)
    • 8月12日:前年より運転を見合わせていた千頭 - 奥泉間が復旧。
    • 9月21日台風15号による道床流出(約20m)のため接岨峡温泉 - 井川間が不通となる。
    • 10月7日:接岨峡温泉 - 井川間の運転再開[10][11]
  • 2014年(平成26年)9月2日:閑蔵駅の約600m南側で崩土のため、接岨峡温泉 - 井川間が不通となる。
  • 2017年(平成29年)3月11日:接岨峡温泉 - 井川間が復旧[12]
  • 2018年(平成30年)5月8日:大雨による土砂崩れのため閑蔵 - 井川間が不通となる[13]
  • 2019年(平成31年)3月9日:閑蔵 - 井川間が復旧[14][15]

運行形態編集

通常は、千頭 - 井川間の通し運転が基本で、車庫のある接岨峡温泉駅から井川駅間(ゴールデンウィークや8月・11月に運転)、千頭駅から接岨峡温泉駅間の区間列車もある。全列車が機関車牽引の客車列車であるため、大井川本線とは異なりワンマン運転は行われていない。

全列車がDD20形ディーゼル機関車が推進・牽引する客車列車によって運行される。旅客列車においては、連結器の負担軽減および損傷時のリスクを考慮して、麓側の千頭側に重量物である機関車が、井川側には制御客車クハ600形が連結される。クハ600形から機関車を制御するため、井川線で運用されるすべての客車・cトキ200形・cワフ0形には制御回路が引き通されている。

基本的な編成は以下のとおり。

千頭 - アプトいちしろ、長島ダム - 井川
機関車(DD20形)-客車-客車-客車-制御客車(クハ600形)
アプトいちしろ - 長島ダム
電気機関車(ED90形)-機関車(DD20形)-客車-客車-客車-制御客車(クハ600形)

いずれも多客時と閑散期には客車の連結両数(2 - 8両)が増減する。

ダイヤ上、途中駅で連結・解放を行う列車も存在するが、この場合は機関車(DD20形)が編成中間に入る。また分割併合がなくても、多客時に6両以上の客車で運転する場合には中間または後部に補助機関車として連結されることもあるが、連結された機関車も先頭車から総括制御される。

機関車(DD20形)-客車-客車-制御客車(クハ600形)-機関車(DD20形)-客車-客車-制御客車(クハ600形)
機関車(DD20形)-客車-客車-機関車(DD20形)-客車-客車-制御客車(クハ600形)
機関車(DD20形)-機関車(DD20形)-客車-客車-客車-客車-制御客車(クハ600形)

かつては小型蒸気機関車やディーゼル機関車DB1形による観光列車が千頭 - 川根両国間で運行されていた。

車両編集

 
井川線で使用されているアーチバー台車

ダム建設のための専用鉄道として建設された経緯から、車両限界はかなり小さいものとなっている。車両定規[2]によると、最大幅は1850mm以下、最大高さは2700mmとされている。

かつての地方鉄道法においては、最大幅は2744mmと設定されていた。一般的な軽便鉄道の車両では最大幅は2100mm前後で、現在も運用されている近鉄260系電車の車体幅は2106mm、馬面電車として鉄道ファンに知られている花巻電鉄のデハ4・5の最大幅が1600mmだった。これらと比較すると、井川線の車両規格の小ささが窺える。

また、連結器高さもレール面から640mmと、普通鉄道の880mmより低い位置になっており、連結器も小型の自動連結器が装備されている。井川線用の小型連結器で、同社では「4分の3自動連結器」と呼称している。客車・貨車のボギー台車は、すべて軸間距離1300mmのアーチバー台車で統一されている。

客車はすべて手動ドアであり、駅に停車すると乗客がドアを手で開けて、車掌がドアを閉めてまわる。

駅一覧編集

営業中の区間編集

駅名 駅間キロ 営業キロ 標高
(m)
接続路線 所在地
千頭駅 - 0.0 298 大井川鐵道:大井川本線 榛原郡
川根本町
川根両国駅# 1.1 1.1 298  
沢間駅 1.3 2.4 323  
土本駅 1.5 3.9 325  
川根小山駅# 1.9 5.8 354  
奥泉駅# 1.7 7.5 369  
アプトいちしろ駅 2.4 9.9 396  
長島ダム駅# 1.5 11.4 485  
ひらんだ駅 1.2 12.6 485  
奥大井湖上駅 1.3 13.9 490  
接岨峡温泉駅# 1.6 15.5 496  
尾盛駅 2.3 17.8 526  
閑蔵駅# 2.7 20.5 557   静岡市
葵区
井川駅 5.0 25.5 686  

廃止区間編集

奥泉駅 - 川根市代駅(現在のアプトいちしろ駅付近) - 大加島仮乗降場 - 川根唐沢駅 - 犬間駅 - 川根長島駅(現在の接岨峡温泉駅)

井川駅 - (貨)堂平駅

現存区間上の廃駅編集

  • 亀久保信号場:閑蔵 - 井川間、1971年4月1日廃止

ギャラリー編集

脚注編集

[ヘルプ]
  1. ^ a b 宮脇俊三『線路の果てに旅がある』小学館、1993年
  2. ^ a b 『RM LIBRARY 96 大井川鐵道井川線』ネコ・パブリッシング
  3. ^ 差異がある『地方鉄道及軌道一覧. 昭和15年11月1日現在』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  4. ^ 鉄道ファン 1990年2月号 114頁
  5. ^ a b c 鉄道ジャーナル』第33巻第5号、鉄道ジャーナル社、1999年4月、 93頁。
  6. ^ “井川線 奥泉-井川間が不通”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (2000年9月20日) 
  7. ^ a b “大井川鉄道 奥泉-井川間 通所運行に”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (2000年9月25日) 
  8. ^ “山頂に割れ目、バスで一部代行輸送 大井川鉄道井川線”. 朝日新聞 (朝日新聞社). (2010年8月29日). オリジナルの2010年8月31日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100831023934/http://www.asahi.com/travel/rail/news/TKY201008290082.html 2015年11月20日閲覧。 
  9. ^ 南アルプスあぷとラインのバス代替輸送について”. 大井川鐵道. 2011年1月23日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年11月20日閲覧。
  10. ^ 平成23年台風第12号による被害状況等について(第28報) 平成23年12月28日14時30分現在 (PDF) - 内閣府 防災情報
  11. ^ 平成23年台風第15号による被害状況等について(第13報) 平成23年12月28日14時30分現在 (PDF) - 内閣府 防災情報
  12. ^ “大井川鐵道井川線、接阻峡温泉~井川間3/11運転再開 - 記念イベントも開催”. マイナビニュース. (2017年1月12日). http://news.mynavi.jp/news/2017/01/12/372/ 2017年1月21日閲覧。 
  13. ^ 大井川鐵道井川線部分運休について : 奥大井の旅なび - 川根本町まちづくり観光協会、2018年5月8日
  14. ^ 井川線 閑蔵駅〜井川駅間が305日ぶりに復旧します! - 大井川鐵道、2018年12月6日
  15. ^ 井川線 閑蔵—井川間の運転再開”. railf.jp(鉄道ニュース). 交友社 (2019年3月10日). 2019年3月11日閲覧。

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集