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大口病院連続点滴中毒死事件

旧大口病院で患者が次々に死亡した事件

大口病院連続点滴中毒死事件(おおぐちびょういん れんぞくてんてきちゅうどくしじけん)とは、神奈川県横浜市神奈川区の大口病院(当時、現・横浜はじめ病院)で2016年平成28年)9月に発覚し、2018年(平成30年)7月、同病院で当時勤務していた看護師が逮捕された連続殺人事件。事件の名称について、神奈川県警察は「大口病院"入院患者殺人事件"」[1]神奈川新聞は「大口病院"点滴連続殺人事件"」[2]としている。

大口病院連続点滴中毒死事件
場所

日本の旗 日本神奈川県横浜市神奈川区大口通130

大口病院(事件当時、現・横浜はじめ病院
座標
標的 入院患者
日付 2016年平成28年)9月発覚
概要 入院中の高齢男性2人が相次いで点滴中に界面活性剤を含む消毒液ヂアミトールを投与され中毒死した。
死亡者 入院中の高齢男性3-(推定4人以上)
容疑 看護師(逮捕当時31歳)/殺人罪3件・殺人予備罪5件
対処 神奈川県警察逮捕
管轄 神奈川県神奈川警察署
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被害者として立件された死亡者2人のほか、同時期に死亡していた別の2人の入院患者の遺体からもヂアミトールが検出された。事件前の7〜9月の82日間で48人の患者が死亡し、その後の約70日間の間は死亡者がゼロということから、4人以上の被害人数が疑われたが、発覚以前の死亡者は医師の診断により“自然死”扱いで火葬されていたため、既に証拠は失われていた[3]

事件の発覚編集

事件は2016年9月、最初に判明した被害者の容体が急変した際、看護師が投与中の点滴袋をベッドに落とし、袋内の輸液が急激に泡立ったことから偶然にヂアミトールの点滴混入が発覚した。さらに調べると2日前に同じ部屋で死亡した別の患者の遺体からも同成分が検出された。ナースステーションに残されていた未使用の点滴袋約50個を調べると、10個ほどの点滴袋でゴム栓部分に封をする保護フィルムに細い針で刺した穴が見つかった。そして、同じフロアで亡くなった患者の数が、事件発覚までのおよそ3か月の間に48人に上ることが明らかになった。点滴に混入させる手口から病院内部の者による殺人事件の犯行が疑われたが、捜査は難航した[4]

捜査編集

犯行に使われたヂアミトールは、業務上使われるものだった為、院内各所に置かれており、犯人を特定することは困難を極めた。警察は院内にあるものの鑑定を実施[5]。当時担当していた看護師全員の看護服を調べたところ、容疑者の服からのみ、ポケット付近からヂアミトールの成分が検出された[6]。他にも、容疑者が事件発覚直後の夜勤中、投与する予定のない製剤を手に院内を歩き回る姿が県警の設置した防犯カメラに映っていた[7]ことや、被害者の病室に1人で入っていくのを同僚が目撃していて、そのおよそ5分後に容体が急変し死亡していた[8]、といった状況証拠から絞り込んでいった。

被疑者の逮捕編集

2018年6月末、警察は状況証拠を踏まえ被疑者の看護師に任意の事情聴取を開始。被疑者の看護師は消毒液(ヂアミトール)を注入したことを認めたうえで、「入院患者20人ぐらいにやった」との趣旨の話をした。7月7日、神奈川県警は女を殺人容疑で逮捕した[9]。また同月28日には、2016年9月に死亡した入院患者の点滴に消毒液を混入し殺害したとして、殺人容疑で再逮捕した[10]

被疑者編集

被疑者は、事件後、様々なテレビ局や新聞社によるインタビューや取材に応じ、逮捕前にもテレビ局に「何故、こんなひどいことをしたのか、自分の家族が同じことをされたらどう思うのか。絶対許せません」と、直筆の手紙を送る[11][12]などして自らの関与を否定する発言をしていた。

自供内容と動機編集

「点滴にヂアミトールを入れた」事に関し「間違いありません」と容疑を認めた上で、「入院患者20人ぐらいにやった」と供述。犯行の動機については「自分の勤務時に患者に死なれると、家族への説明が面倒だった」という趣旨を供述した[13]。さらに「患者が亡くなったときに同僚から自分の落ち度を指摘されたことがあり、それ以来、勤務時間外に死亡させることを考えるようになった」[14]、「勤務を交代する看護師との引き継ぎの時間帯に混入させていた」[15]、「混入を繰り返すうちに感覚がマヒしていった」[16]とも話している。

供述では「(事件の)2か月くらい前から点滴に消毒液を入れた」[17]と話しており、その時期同病院に勤務していた看護師は「(亡くなったのは)最初は1日1人。それが3人になり、5人になり、9月になったらもっとひどくなって(1日に)8人とか。4階はおかしいな、という話があった」[11]と証言している。

事件前、現場病棟では「看護師の筆箱に、10本以上の注射針が刺され、針山のような状態になっていた」ことや「白衣が切り裂かれる」「カルテが紛失する」「ペットボトル飲料を飲んだ看護師スタッフの唇がただれる」などの看護師同士の壮絶ないじめトラブルが報告されており[18]、以前より「『あのクリニックの先生は嫌いだから』『あの患者の家族は嫌いだから』患者を受け入れない」といったことまで言う「『女帝』と呼ばれる60代パワハラ看護師の存在」や「人事査定でえこひいきがあったり、自分だけ忙しい仕事を回されたりしているといった不平不満があり、看護師同士で言い争いになったこともあった」という。被疑者自身も、逮捕前に「看護部長は看護師たちをランク付けして、気に入った子とそうでない子の扱いが極端だった。そういうのってよくないですよね」と述べている[19]

病院では、そういった人間関係のトラブルや虐めが原因で複数の看護師が辞職しており、「看護師同士の世代間の対立が原因で、大口病院では患者のケアまでもが疎かになっていた」といい、「見舞いに行った家族の前で看護師が患者さんを怒鳴りつけ、その家族が『本当にひどい。ビデオに撮って告発すればよかった』と激怒していた」こともあったという[20]。事件の被害者遺族も「女性看護師が別の看護師を怒鳴りつけたり、点滴袋が公共スペースに散見されたりするなど『今考えればおかしいところもあったかもしれない』」[21]と指摘している。

精神科医の片田珠美は「担当患者が以前死亡した際に同僚らから自分のミスの可能性を指摘されたとも説明しているので、もともと同僚や上司などに対して怒りを覚えていた可能性がある」と指摘し、(「白衣切り裂き」や「カルテの紛失」「ペットボトル異物混入」も同一犯によるものだとすると)他の看護師に対する怒りをこのような形で表現したのではと推測する。その怒りの矛先を患者に向け変えて(精神分析では「置き換え」)、患者の点滴に無差別に消毒液を入れる事によって「別の看護師の勤務時間中に患者が死亡するように仕向けたわけで、復讐願望を満たそうとしたともいえる」としている[22]

裁判編集

横浜地検は2018年12月7日、患者3人の殺人罪と5人分の点滴液に消毒液を混入した殺人予備罪で看護師を起訴した。4人目に対する殺人罪については、別の患者を殺害しようと消毒液を混ぜた点滴が結果的にこの患者に投与された可能性があるとして、不起訴処分とした[23]

横浜市の対応編集

横浜市には事件前、「看護師のエプロンが切り裂かれた」、「看護師の飲み物に異物が混入された」など、この病院内のトラブルに関する情報が複数寄せられていたが、市は病院に詳細な内容を確認しなかった。市が設置した第三者検証委員会は「患者の安全に関わる内容もあったのに、後手に回った」と、市の対応を批判した[24]

病院の対応編集

病院側にも、複数の看護師のエプロンが切り裂かれているのが見つかったり、6月にはカルテの一部が抜き取れられ、8月には看護師のペットボトルに異物が混入されていたにも関わらず、院長は「院内の出来事で、まして看護師の中の出来事だったので院内で何とか処理すべきだと思った」[25]としながら、有効な手立てをとれず病院から警察に相談するという事もしなかった[26]ため、「病院が対処していれば事件はなかったかもしれない」などの批判の声が病院関係者からも寄せられた[27]

法的・制度上の課題編集

事件後に市が設置した第三者検証委員会による報告書「横浜市の医療安全業務に関する検証報告書(大口病院に関する対応について)」[28]の中で、医療法上、病院から市への報告義務も、市から病院への検査・指導権限も無いという問題が指摘された。医療法を根拠に市と病院の関係がある以上、医療法の範囲を超えた「制度の狭間」となるところに問題が発生したとき、市はどこまで対応できるのかという課題があり、今後、法的、制度上の課題に対しては、国に改善に向けた要望を行うことも考えられる、としている。

出典編集

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  1. ^ 点滴中毒死、元看護師逮捕 消毒液「20人に入れた」 KyodoNews(共同通信)/YouTube 2018年7月7日公開
  2. ^ 「県警の歴史で最も難しい事件の一つ」大口病院・点滴連続殺人事件1年 神奈川新聞〈カナロコ〉 2017年9月23日配信
  3. ^ 大口病院の点滴殺人 2カ月で48人死亡も44人は自然死扱いに デイリースポーツ/ライブドアニュース 2018年7月10日配信
  4. ^ 病院で何が? 点滴異物混入事件の深層 NHK クローズアップ現代+ 2016年10月5日放送
  5. ^ 横浜「大口病院」、事件発覚以降に死亡患者が激減 捜査は難航 デイリー新潮/週刊新潮 2016年12月8日号掲載
  6. ^ 決め手は看護服のポケット、消毒液成分付着 連続中毒死 朝日新聞デジタル 2018年7月7日配信
  7. ^ 防犯カメラに「インスリン手に院内巡回」 毎日新聞 2018年7月11日配信
  8. ^ 病室に逮捕の女 5分後急変 横浜・連続点滴中毒死 FNNプライムオンライン 2018年7月8日配信
  9. ^ 患者中毒死 31歳○○を逮捕 殺人容疑で神奈川県警 毎日新聞 2018年7月7日配信
  10. ^ 点滴中毒死、元看護師を再逮捕 共同通信/ロイター 2018年7月28日配信
  11. ^ a b 「犯人を絶対許せません」 元看護師 逮捕前 直筆400文字の手紙 FNNプライムオンライン 2018年7月9日配信
  12. ^ 大口病院事件「私は関わりありません」 本紙などに元看護師 東京新聞〈TOKYO Web〉 2018年7月8日配信
  13. ^ 「20人前後に消毒液」=患者中毒死で元看護師-勤務時死亡は「面倒」 時事ドットコム 2018年7月9日配信
  14. ^ “落ち度”指摘され消毒液混入か NHKニュース 2018年7月10日配信
  15. ^ 逮捕の元看護師「20人以上殺害した」横浜 日テレNEWS24 2018年7月8日配信
  16. ^ 「次第に感覚マヒ」 1日5人死亡日も、犯行エスカレートか 産経ニュース 2018年7月13日配信
  17. ^ 患者中毒死、元看護師「2か月前から点滴に消毒液を入れた」と供述 TBS NEWS 2018年7月11日配信
  18. ^ 「点滴殺人の大口病院 現場病棟で看護師同士のいじめトラブル」 NEWSポストセブン/女性セブン 2016年10月20日号掲載
  19. ^ 大口病院事件逮捕1カ月 実像と乖離「***容疑者像」 神奈川 産経ニュース 2018年8月8日配信
  20. ^ 「点滴殺人」の病院 患者を怒鳴りつける看護師の対応に家族が激怒 NEWSポストセブン/女性セブン 2016年10月27日号掲載(ライブドアニュース 2016年10月13日配信)
  21. ^ 「大口病院選ばなければ」 中毒死から1年 遺族、心境語る 産経ニュース 2017年9月19日配信
  22. ^ 大口病院・20人殺害か…○○容疑者、他の看護師への復讐願望を患者に「置き換え」か (2/2) Business Journal 2018年7月11日配信。記事名に実名が使われているため、この箇所を省略した。
  23. ^ 「大口病院事件、患者8人への罪で一括起訴 産経新聞 2018年12月7日配信
  24. ^ 点滴中毒死逮捕 医療への信頼が大きく揺らぐ 読売新聞 2018年7月10日配信
  25. ^ 点滴混入殺人「大口病院」看護師たちにトラブル?風評恐れて警察届けず J-CASTテレビウォッチ 2016年9月26日公開
  26. ^ 解決至らぬ“点滴殺人” 元看護師からの手紙 テレ朝news 2017年4月8日配信
  27. ^ 大口病院中毒死 消毒液、原液投与か 元看護師の殺意、裏付け 毎日新聞 2018年7月10日配信
  28. ^ 横浜市の医療安全業務に関する検証報告書(大口病院に関する対応について) (PDF) - 横浜市医療安全業務検証委員会 2017年3月

関連項目編集

外部リンク編集