大将棋

日本の古将棋のひとつ

大将棋(だいしょうぎ)は、日本の将棋類の一つであり、二人で行うボードゲーム(盤上遊戯)の一種である。主に鎌倉時代において指されており、鎌倉大将棋という名称も提案されている[1]

ルール

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水無瀬兼成の象戯図には大将棋の成りについて、

大象戯成馬 以上三枚
酔象成太子 鳳凰成奔王 麒麟成師子

と、酔象が太子に、鳳凰が奔王に、麒麟が獅子に成るということしか書かれていないため、成立時より駒の成りが変わっている可能性がある。

基本ルール

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  • 縦横15マスずつに区切られた将棋盤の上で行う。
  • 自分から見て手前の五段を自陣、反対に相手から見て五段を敵陣という。
  • 駒は、中将棋の21種類に鐵将石将桂馬悪狼嗔猪猫刄猛牛飛龍を加えた29種類あり、それぞれ動きが決まっている。
  • その他のルールはほぼ中将棋に準ずると思われる。
    • 成りのルールに関しては、本来のルールは敵陣の段数が5段である以外は中将棋の日本中将棋連盟のルールと同様と思われるが、現在ネット上に出回っているプログラムでは敵陣の段数以外本将棋と同様の成りルールとなっている場合がある。

初期配置図

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香車 桂馬 石将 鐵将 銅将 銀将 金将 玉将 金将 銀将 銅将 鐵将 石将 桂馬 香車
反車   猫刄   猛豹   盲虎 醉象 盲虎   猛豹   猫刄   反車
  猛牛   嗔猪   悪狼 鳳凰 獅子 麒麟 悪狼   嗔猪   猛牛  
飛車 飛龍 横行 竪行 角行 龍馬 龍王 奔王 龍王 龍馬 角行 竪行 横行 飛龍 飛車
歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵
        仲人           仲人        
                             
                             
                             
        仲人           仲人        
歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵 歩兵
飛車 飛龍 横行 竪行 角行 龍馬 龍王 奔王 龍王 龍馬 角行 竪行 横行 飛龍 飛車
  猛牛   嗔猪   悪狼 麒麟 獅子 鳳凰 悪狼   嗔猪   猛牛  
反車   猫刄   猛豹   盲虎 醉象 盲虎   猛豹   猫刄   反車
香車 桂馬 石将 鐵将 銅将 銀将 金将 王将 金将 銀将 銅将 鐵将 石将 桂馬 香車

駒の動き

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駒の動きに関して、便宜上●、★と書く。

  • ●はその位置に動ける。
  • ★はその場所まで飛び越えていける。

駒の表記は1文字表記を行うため、便宜上「龍王」を「竜」、「飛龍」を「龍」、「飛牛」を「丑」、「猛牛」を「牛」と表記している。

元の駒 動き 成駒 動き
玉将(ぎょくしょう)
王将(おうしょう)
全方向に1マス動ける。 - - -
金将(きんしょう)
縦横と斜め前に1マス動ける。 飛車(ひしゃ)
飛車を参照。
銀将(ぎんしょう)
前と斜めに1マス動ける。 竪行(しゅぎょう)
竪行を参照。
銅将(どうしょう)
縦と斜め前に1マス動ける。 横行(おうぎょう)
横行を参照。
猛豹(もうひょう)
縦と斜めに1マス動ける。 角行(かくぎょう)(小角(ちょろかく)ともいう)
角行を参照。
香車(きょうしゃ)
前方に何マスでも動ける。飛び越えては行けない。 白駒(はくく、はっく)
前後と斜め前に何マスでも動ける。飛び越えては行けない。
反車(へんしゃ)
前後に何マスでも動ける。飛び越えては行けない。 鯨鯢(けいげい)
縦と斜め後ろに何マスでも動ける。飛び越えては行けない。
盲虎(もうこ)
前以外の方向に1マス動ける。 飛鹿(ひろく)
鹿
縦にどこまでも動け、それ以外の方向に1マス動ける。
麒麟(きりん)
斜めに1マス動け、縦横に2目先に飛び越えて移動できる。 獅子(しし)
獅子を参照。
鳳凰(ほうおう)
縦横に1マス動け、斜めに2マス先に飛び越えて移動できる。 奔王(ほんおう、ほんのう)
奔王を参照。
歩兵(ふひょう)
前に1マス動ける。 と金(ときん)
金将を参照。
仲人(ちゅうにん)
縦に1マス動ける。 醉象(すいぞう)
醉象を参照。
角行(かくぎょう)
斜めに何マスでも動ける。飛び越えては行けない。 龍馬(りゅうま、りゅうめ)
龍馬を参照。
飛車(ひしゃ)
縦横に何マスでも動ける。飛び越えては行けない。 龍王(りゅうおう)
龍王を参照。
醉象(すいぞう)
後方以外の方向に1マス動ける。 太子(たいし)
玉将と同じ。太子が存在するときは玉将を取られてもゲームを続行できる。
横行(おうぎょう)
横に何マスでも動け、縦には1マス動ける。飛び越えては行けない。 奔猪(ほんちょ)
横と斜めに何マスでも動ける。飛び越えては行けない。
竪行(しゅぎょう)
縦に何マスでも動け、横には1マス動ける。飛び越えては行けない。 飛牛(ひぎゅう)
縦と斜めに何マスでも動ける。飛び越えては行けない。
龍馬(りゅうま、りゅうめ)
斜めに何マスでも動け、それ以外の方向には1マス動ける。飛び越えては行けない。 角鷹(かくおう)
横と後方と斜めに何マスでも動ける。この時飛び越えては行けない。■に1マス進んだ後に元いたマスに戻る奥の□に行くか選択できる。
龍王(りゅうおう)
縦横に何マスでも動け、それ以外の方向には1マス動ける。飛び越えては行けない。 飛鷲(ひじゅう)
縦横と斜め後ろ何マスまでも動ける。この時飛び越えては行けない。どちらかの■に1マス進んだ後に元いたマスに戻る奥の□に行くか選択できる。
奔王(ほんおう、ほんのう)
縦横と斜めに何マスでも動ける。飛び越えては行けない。 - - -
獅子(しし)
■に1マス進んだ後に元いたマスに戻る隣接する□又は■に行くか選択できる。 - - -
鐵将(てつしょう)
前方3方に1マスだけ動ける。 金将(きんしょう)
金将を参照。
石将(せきしょう)
斜め前方に1マスだけ動ける。
桂馬(けいま)
前へ2、横へ1の位置に移動できる。
その際、駒を飛び越えることができる。
悪狼(あくろう)
前方と真横に1マスだけ動ける。
嗔猪(しんちょ)
前後と真横の4方に1マスだけ動ける。
猫刄(みょうじん)(猫叉(ねこまた))
斜め4方に1マスだけ動ける。
猛牛(もうぎゅう)
前後と真横に2マスまで動ける。
2マス目に動くときは飛び越えては行けない。
飛龍(ひりゅう)
斜め四方に2マスまで動ける。
2マス目に動くときは飛び越えては行けない。

各駒の移動能力及び成りの特徴

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  • 歩兵・香車・鐵将・石将・桂馬は成るまでは前にしか進めず、仮に不成のまま敵陣1段目に進んだ場合は行き所のない駒となるが、日本中将棋連盟と同様の成りルールとすればいずれもルール上認められていることになる。
    • ただし桂馬以外は、成りによって元の駒の完全上位互換になる駒であり、基本的に不成とする意味が皆無であるため(歩兵については中将棋同様の獅子の特別ルールがあるとした場合、ごく稀に不成が戦略的に有効になるケースもあるが)、実戦的には敵陣に突入して即成っているはずである。
  • 香車・反車は成らない限り端以外の列に動けず、仲人も成らない限り初期配置以外の列に動けない。
  • 生駒の角行・麒麟・石将・猫刄・飛龍は成らない限り何手かけても筋違いの場所に到達できず、このうち石将は成るまでは盤の一部のマス目にしか動けない。
    • 成らない限り筋違いの場所に到達できない駒については、次に示す駒が筋Aと筋Bで別々の筋に配置されている。
      • 筋A:石将2枚・麒麟・飛龍2枚
      • 筋B:猫刄2枚・角行2枚
  • その他鐵将・桂馬は成るまでは盤の一部のマス目にしか動けない。
  • 獅子・飛鷲・角鷹は二歩移動できる。
  • 成りによる性能変化に関する特徴は次の通りである:
    • 成りによって元の駒の完全上位互換になるもの:醉象(→太子)、香車(→白駒)、麒麟(→獅子)、盲虎(→飛鹿)、角行(→龍馬)、反車(→鯨鯢)、龍王(→飛鷲)、龍馬(→角鷹)、飛車(→龍王)、歩兵(→金将(と金))、鐵将(→金将)、石将(→金将)、悪狼(→金将)、嗔猪(→金将)
      • このうち歩兵と麒麟については、中将棋同様の獅子の特別ルールがあるとした場合、前者は獅子の付け喰いに使えないルール、後者は先獅子のルールとの関連で、ごく稀に不成が戦略上有効になるケースもある。
    • 成りによって元の駒の完全上位互換にならず、利きの変化においてデメリットを伴うもの:金将(→飛車)、銀将(→竪行)、銅将(→横行)、猛豹(→角行)、鳳凰(→奔王)、竪行(→飛牛)、横行(→奔猪)、仲人(→醉象)、桂馬(→金将)、猫刄(→金将)、猛牛(→金将)、飛龍(→金将)
      • これを失う利きの数で分類すると次の通りとなる:
        • 1マスの利きを失うもの:仲人(→醉象)
        • 2マスの利きを失うもの:金将(→飛車)、銅将(→横行)、猛豹(→角行)、竪行(→飛牛)、横行(→奔猪)、桂馬(→金将)、猫刄(→金将)
        • 4マスの利きを失うもの:銀将(→竪行)、鳳凰(→奔王、斜め四方2マス目へは飛び越しで移動できなくなる)、猛牛(→金将)
        • 6マスの利きを失うもの:飛龍(→金将)
      • これらの駒では、成るか成らないかについて慎重な検討を要することもある。
      • 猛豹については、角行(ちょろ角)に成ると何手かけても筋違いの場所に到達できなくなってしまうという独特のデメリットがある。
      • 猛牛と飛龍については、成ることにより全体的な利きのマス目の数が8マスから6マスに減ってしまう駒であり、成りによるデメリットがやや大きめである。
        • これらの駒の成るメリットとしては、前者は斜め前、後者は縦横に動けるようになる点が挙げられる。後者の場合は筋違いの場所に到達できるようになる。
      • 本将棋と同様の成りルールの場合は、不成で進んだ小駒を敵陣から引いて成る場合(本将棋の4段目での銀成りと同様の例)、金将・銀将・銅将・猛豹・仲人・猫刄について6段目での成りがありうる(ルール上は醉象・盲虎・嗔猪も同様だが、元の駒の完全上位互換の駒に成るため、実戦的には敵陣に突入して即成っているはずであり、実戦ではまず起こりえない)。またその成りルールでは鳳凰・猛牛・飛龍(ルール上、成りによって元の駒の完全上位互換になる駒も含めれば、麒麟も同様)については6段目のみならず7段目での成りがありうる。
    • 中将棋にある駒は、利きの変化においてデメリットを伴う成りであっても、小駒が走り駒になるなど、駒の動きが総体的に強力になる傾向がある。

歴史

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主に平安大将棋から派生して誕生したものと考えられている。あまりに大規模なため実際に指されていたかの疑惑もあったが、鎌倉時代には普及していたことが明らかになっている。

本項で示す形の大将棋が文献に最初に現れるのは、1297年-1304年にかけて書かれたとされる「普通唱導集」とされる[2]。ここには大将棋指しに対しての死後の追悼文に、

大将基 伏惟 々々々々
反車香車之破耳 退飛車而取勝
仲人嗔猪之合腹 昇桂馬而支得

という表現が見られる[3]。この表現は130枚制大将棋の初期配置や駒の動きと矛盾せず、13世紀には大将棋があったものと強く推測される。

また、出土資料では、鶴岡八幡宮の鎌倉時代の出土品に「鳳凰」(裏が「奔王」)と書かれた駒が含まれている[4]

脚注

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  1. ^ 尾本恵市(編)「日本文化としての将棋」三元社(2002/12) p151 佐伯真一"平安から室町のさまざまな将棋"
  2. ^ 「遊戯史研究」5号、佐伯真一「「普通唱導集」の将棋関係記事について」、1993年。
  3. ^ 村山修一編『普通唱導集』(法藏館、2006/05出版、ISBN 9784831875587)45ページ。
  4. ^ 天童市将棋資料館『天童の将棋駒と全国遺跡出土駒』(2003年)、40ページ。

関連項目

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参考資料

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  • 象戯図式』江戸時代に発刊された古将棋の解説書
  • 『ものと人間の文化史23 将棋』増川宏一・法政大学出版局・1977年・ISBN 4588202316(象戯図式の解説図が収録されている)

外部リンク

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大将棋の駒(自陣初期配置・括弧内は成駒)
        仲人
(醉象)
          仲人
(醉象)
       
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
歩兵
(金将)
飛車
(龍王)
飛龍
(金将)
横行
奔猪
竪行
飛牛
角行
(龍馬)
龍馬
角鷹
龍王
飛鷲
奔王 龍王
(飛鷲)
龍馬
(角鷹)
角行
(龍馬)
竪行
(飛牛)
横行
(奔猪)
飛龍
(金将)
飛車
(龍王)
  猛牛
(金将)
  嗔猪
(金将)
  悪狼
(金将)
麒麟
(獅子)
獅子 鳳凰
(奔王)
悪狼
(金将)
  嗔猪
(金将)
  猛牛
(金将)
 
反車
鯨鯢
  猫刄
(金将)
  猛豹
(角行)
  盲虎
飛鹿
醉象
太子
盲虎
(飛鹿)
  猛豹
(角行)
  猫刄
(金将)
  反車
(鯨鯢)
香車
白駒
桂馬
(金将)
石将
(金将)
鐵将
(金将)
銅将
(横行)
銀将
(竪行)
金将
(飛車)
玉将 金将
(飛車)
銀将
(竪行)
銅将
(横行)
鐵将
(金将)
石将
(金将)
桂馬
(金将)
香車
(白駒)