大阪府都市開発5000系電車

泉北高速鉄道が保有する通勤形直流電車

大阪府都市開発5000系電車(おおさかふとしかいはつ5000けいでんしゃ)は、1990年(平成2年)から大阪府都市開発(現・泉北高速鉄道)が導入した通勤形電車である。

大阪府都市開発5000系電車
大阪府都市開発5000系5507F
(2018年7月16日 住吉東駅 - 沢ノ町駅間)
基本情報
運用者 泉北高速鉄道[注 1]
製造所 川崎重工業
東急車輛製造
製造年 1990年 - 1995年
製造数 5編成40両
運用開始 1990年
主要諸元
編成 8両編成
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1500 V架空電車線方式
最高運転速度 100 km/h
設計最高速度 120 km/h
起動加速度 2.5 km/h/s
減速度(常用) 3.7 km/h/s
減速度(非常) 4.0 km/h/s
自重 29.0 t(Tc車)
33.0 t(M1/M2車)
24.0 t(T車)
全長 20,725 mm
全幅 2,744 mm(先頭車)
2,740 mm(中間車)
全高 4,160 mm
車体 アルミニウム合金
主電動機 かご形三相誘導電動機
三菱電機製 MB-5039-A
主電動機出力 170 kW
駆動方式 WNドライブ
歯車比 97/16 (6.06)
編成出力 2,720 kW
制御方式 VVVFインバータ制御
GTOサイリスタ素子
ハイブリッドSiC素子(制御装置更新後)
制御装置 日立製作所
制動装置 回生ブレーキ
併用電気指令式空気ブレーキ
保安装置 ATS-N/ATS-PN
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本項では、難波方先頭車の車両番号+F(Formation=編成の略)を編成名として表記する。

概要

大阪府都市開発は従来、相互乗り入れ先の南海電気鉄道の車両をベースとした車両を導入していたが、本系列はそれから脱却し、同社初となる完全新規設計となった。また、同社ならびに直通先の南海で唯一の8両固定編成・非貫通車となった。

製造は川崎重工業東急車輛製造[注 2]の2社が担当した[注 3]

車体

アルミ合金製で大型押出材を連続溶接して組み立てた構造である。前面は非貫通式で窓に大型局面ガラスを採用している。また全塗装車体とし「清新にして優雅」をデザインの指標としている。ベースカラーはアイボリーで、側窓下に青の濃淡2本のライン、窓上に濃青のラインが入る。窓上のラインは先頭車の前頭部に一番近い窓を覆いながら大胆に傾斜して立ち上がり、窓下のラインと分離→編成最後部で再び合流するという流動感のあるデザインとしている。

1996年7000系営業運転開始に合わせ、濃青ラインの合流部に「SEMBOKU」のロゴが追加されている[3]。なお2023年3月より、車体のラインカラーを濃青2本のみとした新塗装に順次移行している[4]

内装

座席はワインレッド(優先座席がグレー[注 4])のモケットを使用したロングシートで、3000系ではパイプ式だった袖仕切りを枠組み方式に改め、立席客の干渉を防止している。

バリアフリー対応として、扉開閉時のドアチャイム、扉上部にLED式の車内案内表示器(千鳥配置)を搭載している。また5501Fを除き、中間車には車椅子スペースも整備されている[5]

天井は中央に整風グリルと、その両脇に冷風吹き出し口、グローブを取り付けた蛍光灯をそれぞれ線路方向に連続配置し、グリル内にはラインデリアを設置している。

主要機器

制御装置は同社初のGTOサイリスタ素子を用いたVVVFインバータ制御を採用し、1台のインバータで4台の主電動機を制御する。

主電動機はかご形三相交流誘導電動機となり、保守の省力化が図られている。定格出力は170kWで、異常時には南海高野線三日市町駅まで運用可能な性能を有する。

補助電源装置はGTOサイリスタ素子を使用した静止形DC-DCコンバータ/インバータを採用している。コンバータ部で直流1500Vから安定した直流330Vと直流100Vを出力、インバータ部で直流330Vを三相交流220Vに変換する。直流330Vは全車引き通しで並列運転し、インバータ制御を採用した空調装置空気圧縮機それぞれの電源としている。

台車SU型ミンデンボルスタレス台車を採用し、部品点数削減による軽量化と保守の省力化をねらっている。牽引装置は5501Fでは1本リンク方式を採用したが、5503F以降ではZリンク方式に変更されている[5][注 5]

ブレーキは回生ブレーキ併用の電気指令式で、回生効率を高めるためT車優先遅れ込め制御を採用している。

本系列では加減速を電気指令式としたことに合わせ、車両制御情報管理装置(TIS)を導入している。デジタル伝送を活用した主要機器への情報収集・モニタ機能を充実させるとともに、制御伝送を活用した車上試験機能が付加されている。これにより艤装配線が削減されたほか、故障対応の迅速化や保守費用の削減が図られている。

8両固定編成であるが、サハ5601形・サハ5602形には検査を柔軟に行うため、分割併合が容易な電気連結器と入換灯を装備している。

改造工事

大規模修繕(車内リニューアル)

 
5000系 大規模修繕施工車 中百舌鳥にて

本系列は製造から20年以上が経過し、設備や機器の劣化が目立つようになった。また、より現代的なバリアフリー整備が必要となったことから、2014年より大規模修繕が開始された[6][7]

施工内容は以下の通りである。

初めに5501Fが光明池車庫で改造され、2015年4月より営業運転に復帰した[8]。翌2016年4月には施工2本目となる5503Fも営業運転に復帰した[9]。5505Fは特別塗装だったためラッピングを剥離した青地の塗装のまま改造され[10]、改造後は千代田工場にて標準塗装に改められた後、2018年5月より営業運転に復帰した[11]

2019年3月、2020年2月にそれぞれ施工された5507F・5509Fについては、前面・側面行先表示器のフルカラーLED化が併施されている[12][13][14]

制御装置更新工事

2021年12月、5501Fが制御装置をハイブリッドSiC素子に更新され出場した。併せて自動放送装置の設置、TIS更新、行先表示器のフルカラーLED化が行われている[6][15]2022年11月には5503Fが同一の工事を終え出場した[16]

改造工事の進行状況は以下の通りとなっている。

大規模修繕 行先表示器
フルカラーLED化
制御装置更新
自動放送装置の設置
5501F
5503F
5505F
5507F
5509F

特別塗装車

ハッピーベアル

1999年5月5日より、大阪府堺市大阪府立大型児童館ビッグバン開館(同年6月)を記念し、館長である漫画家松本零士のデザインによる特別塗装が5505Fに施された[17]。車体には同館のイメージキャラクターである「ベアル」と「メロウ」が描かれていた。この塗装は当初は2001年4月までの予定であったが、好評のため2005年に塗装を修繕し引き続き運行された。

2009年に、同館開業10周年を機にこの編成の愛称を公募し[18]6月21日に松本も臨席して愛称発表式が行われ[19]、「ハッピーベアル」とすることが発表された[20]。発表後、前面窓裾に愛称のロゴステッカーが貼り付けられた。

前述の大規模修繕のタイミングに合わせ、2017年10月1日をもって運行を終了した。同年9月20日よりメッセージステッカーが貼り付けられ、運行終了後は10月7日開催の「せんぼくトレインフェスタ2017」会場で7000系フロンティア号とともに展示された[21][22]

泉北高速鉄道ラッピング電車

2023年9月8日より、泉北高速鉄道の公式マスコットキャラクター「せんぼくん」「ブラックせんぼくん」と、「和泉こうみ」をはじめとした「鉄道むすめ」のキャラクターを外観、内装ともにあしらったラッピング電車が運行を開始した。

外観は難波方前面と東側側面に「せんぼくん」「ブラックせんぼくん」、和泉中央方前面と西側側面に「鉄道むすめ」が描かれている。内装では、難波方先頭車に「せんぼくん」「ブラックせんぼくん」、和泉中央方先頭車に「鉄道むすめ」をそれぞれ運転台壁面、乗降扉、座席の各部にデザインしているほか、自動放送装置を用いて「せんぼくん」「ブラックせんぼくん」をイメージした声での案内放送がなされている[23]。ラッピングは5503Fに実施され、運行期間は当面の間を予定している[24]

 
5503編成なんば側先頭車のラッピング。前面に泉北高速鉄道公式キャラクターの「せんぼくん」が乗っているように描かれている
 
5503編成の和泉中央側ラッピング。こちらも泉北高速鉄道の鉄道むすめである「和泉こうみ」が描かれている。

その他のラッピング

運用

泉北高速線内(中百舌鳥駅折り返し)の各駅停車と、南海高野線に直通する準急区間急行に使用される。登場当初は線内運転のみの運用で、南海高野線への乗り入れは1992年ダイヤ改正から開始された[5]

2005年10月16日ダイヤ改正後、日中データイム時に8両編成で運転される列車が激減したため、8両固定編成である同車の運用も相応に減少したが、2015年12月5日ダイヤ改正で日中の運用を再開している。2017年8月26日のダイヤ改正では8両編成で運転される列車が増加したため、さらに運用が増えている。

2015年ダイヤ改正からは平日朝時間帯の難波行き区間急行で運用される場合は、難波方から4両目の車両(サハ5601形)が和泉中央駅 - 天下茶屋駅間で女性専用車両に設定されている。

高野線堺東駅以北にはホーム有効長が6両編成の駅があるため、高野線に直通する各駅停車への運用実績はない。また方向幕に高野線の行先(北野田駅 - 三日市町駅間)が収録されていたが、登場時点で泉北車の高野線中百舌鳥駅以南での定期運用は消滅していたため、営業線での使用実績はなかった。

定期検査は、2002年から自社光明池車庫にて行われていたが、南海グループ参入後の2016年からは再び南海電鉄千代田工場に変更されている。このため入出場の回送時に限り、南海高野線中百舌鳥駅 - 千代田工場間を走行する。

編成表

2023年現在、5編成40両が在籍する。

編成番号/形式 1号車
クハ5501
(Tc1)
2号車
モハ5001
(M1)
3号車
モハ5101
(M2)
4号車
サハ5601
(T)
5号車
サハ5602
(T’)
6号車
モハ5102
(M2’)
7号車
モハ5002
(M1’)
8号車
クハ5502
(Tc2)
竣工 ラッピング履歴
5501F 5501 5001 5101 5601 5602 5102 5002 5502 1990年10月26日[1]
5503F 5503 5003 5103 5603 5604 5104 5004 5504 1992年11月16日[28] 沿線大学ラッピング(2020年終了)
泉北高速鉄道ラッピング電車(2023年9月 - )
5505F 5505 5005 5105 5605 5606 5106 5006 5506 1993年10月13日[29] 元:特別塗装車「ハッピーベアル」
(1999年5月5日 - 2017年10月1日)
5507F 5507 5007 5107 5607 5608 5108 5008 5508 1995年4月1日[2][30] シルバニアファミリー号(2021年終了)
5509F 5509 5009 5109 5609 5610 5110 5010 5510 1995年2月23日[2] パチンコ店ラッピング(2019年終了)
備考 弱冷車 女性専用車両ステッカー 弱冷車

参考文献

  • 大阪府都市開発(株)鉄道事業本部運輸部 森田一夫「新型車両プロフィールガイド 大阪府都市開発 泉北高速鉄道5000系」『運転協会誌』1990年11月号(通巻377号)、日本鉄道運転協会、1990年、518-520頁。
  • 大阪府都市開発株式会社技術部電気・車両課長 竹林悦三「新車ガイド3 技術の粋を結集したハイテク電車 泉北高速鉄道5000系の概要」『鉄道ファン』1990年11月号(通巻355号)、交友社、1990年、90-94頁。

脚注

注釈

  1. ^ 2014年に大阪府都市開発より改称。
  2. ^ 現・総合車両製作所横浜事業所。
  3. ^ 東急車輛製造は5501Fの和泉中央方の4両、5509Fを担当した[1][2]
  4. ^ 登場時よりグレーとされたのは5503F以降で、5501Fは追って張り替えられた。
  5. ^ 5501Fについても、のちにZリンク方式に改造されている。
  6. ^ 本工事おける車椅子スペース整備の対象はあくまで先頭車のみであるため、5501Fは大規模修繕後も中間車に車椅子スペースがなく他の編成より配備数が少ない。

出典

  1. ^ a b 「新製車両一覧表」『私鉄車両編成表’91年版』ジェー・アール・アール、1991年、135頁。
  2. ^ a b c 「新製車両一覧表」『私鉄車両編成表’95年版』ジェー・アール・アール、1995年、158頁。
  3. ^ 「POST 7/1,泉北高速鉄道7000系,営業運転開始」『鉄道ファン』1996年10月号(通巻426号)、交友社、1996年、118頁。
  4. ^ 泉北高速鉄道5000系5503編成が新塗装での運用を開始”. 鉄道ファン. 交友社 (2023年3月11日). 2024年1月6日閲覧。
  5. ^ a b c 「大阪府都市開発 泉北高速鉄道の現況」『鉄道ピクトリアル』1995年12月臨時増刊号(通巻615号)、電気車研究会、1995年、75頁。
  6. ^ a b 「泉北高速鉄道の概況」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、123-124頁。
  7. ^ 「2014年度 車両動向一覧表 改造車両・車号変更」『私鉄車両編成表2015』ジェー・アール・アール、2015年、206頁。
  8. ^ 泉北5000系5501編成が運用復帰”. 鉄道ファン. 交友社 (2015年4月8日). 2024年1月6日閲覧。
  9. ^ 「2015年度 民鉄車両動向」『鉄道ピクトリアル』2016年10月臨時増刊号(通巻923号 鉄道車両年鑑2016年版)、電気車研究会、2016年、118頁。
  10. ^ 青地塗装の5505F(泉北高速鉄道公式Twitter) - せんぼくん【公式】@泉北高速鉄道、2018年2月21日
  11. ^ 「10月号特別企画 2016・2017年度 民鉄車両動向」『鉄道ピクトリアル』2018年10月号(通巻951号)、電気車研究会、2018年、163頁。
  12. ^ 「10月号特別企画 2018年度 民営鉄道車両動向」『鉄道ピクトリアル』2019年10月号(通巻965号)、電気車研究会、2019年、141頁。
  13. ^ 「10月号特別企画 2019年度 民営鉄道車両動向」『鉄道ピクトリアル』2020年10月号(通巻978号)、電気車研究会、2020年、157頁。
  14. ^ 泉北5000系5507編成の表示器がフルカラーLEDに”. 鉄道ファン. 交友社 (2019年7月21日). 2024年1月6日閲覧。
  15. ^ 「2021年度 民営鉄道車両動向」『鉄道ピクトリアル』2022年10月号(通巻1003号)、電気車研究会、2022年、156頁。
  16. ^ 「2022年度 民営鉄道車両動向」『鉄道ピクトリアル』2023年10月号(通巻1016号)、電気車研究会、2023年、166頁。
  17. ^ 「POST 泉北高速鉄道5000系にペイント編成」『鉄道ファン』1999年8月号(通巻460号)、交友社、1999年、129頁。
  18. ^ 泉北高速鉄道5000系ペイント列車愛称募集』(プレスリリース)泉北高速鉄道、2009年2月23日http://www.semboku.jp/news/dt_158.html2012年11月2日閲覧 
  19. ^ 「ペイント列車」愛称発表式及び松本零士氏一日駅長を開催します!』(プレスリリース)泉北高速鉄道、2009年5月26日。 オリジナルの2012年7月9日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20120709180226/http://www.semboku.jp/event/dt_80.html2012年11月2日閲覧 
  20. ^ ペイント列車の愛称が『ハッピーベアル』に決定しました!』(プレスリリース)泉北高速鉄道、2009年6月21日。 オリジナルの2012年7月18日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20120718083247/http://www.semboku.jp/news/dt_168.html2012年11月2日閲覧 
  21. ^ ありがとう「ハッピーベアル」~ラッピング車両「ハッピーベアル」の運行を終了します~』(プレスリリース)泉北高速鉄道、2017年9月15日http://www.semboku.jp/cat_news/6141/2017年9月15日閲覧 
  22. ^ “泉北高速鉄道「フロンティア号」「ハッピーベアル」10/7イベントで揃い踏み”. マイナビニュース. (2017年10月3日). https://news.mynavi.jp/article/20171003-a255/ 
  23. ^ 泉北高速鉄道ラッピング電車 特設サイト”. 泉北高速鉄道. 2024年1月6日閲覧。
  24. ^ 泉北高速鉄道5000系に「せんぼくん」と「鉄道むすめ」ラッピング”. 鉄道ファン. 交友社 (2023年9月9日). 2024年1月6日閲覧。
  25. ^ 泉北高速鉄道で,桃山学院大学・桃山学院教育大学・プール学院短期大学 合同ラッピング電車運転”. 鉄道ファン. 交友社 (2018年2月14日). 2024年1月6日閲覧。
  26. ^ 泉北高速鉄道線開業50周年事業 「泉北シルバニアファミリー号」を運行します』(PDF)(プレスリリース)南海電気鉄道、2021年2月25日https://www.nankai.co.jp/library/groupinfo/news/pdf/210225.pdf2024年1月6日閲覧 
  27. ^ 本日公開! 開業50周年記念「泉北シルバニアファミリー号」3月15日運行開始!”. 鉄道ホビダス. ネコ・パブリッシング (2021年3月13日). 2024年1月6日閲覧。
  28. ^ 「新製車両一覧表」『私鉄車両編成表’93年版』ジェー・アール・アール、1993年、157頁。
  29. ^ 「新製車両一覧表」『私鉄車両編成表’94年版』ジェー・アール・アール、1994年、156頁。
  30. ^ 「民鉄車両 1995年度新製車・改造車・廃車一覧表」『鉄道ピクトリアル』1996年10月臨時増刊号(通巻628号 新車年鑑1996年版)、電気車研究会、1996年、186頁。

関連項目

松本零士による特別デザイン車両が存在する(した)他社の鉄道車両

上記のうち、忍者列車の2系列以外は松本の作品『銀河鉄道999』をモチーフにしたものである。

外部リンク