天皇大権

大日本帝国において天皇が独占した大権

天皇大権(てんのうたいけん)とは、大日本帝国憲法下において国法天皇に属するとされた権能を指す[1]。原則として憲法に根拠を有するとされたが、憲法上の大権(国務上の大権)のほかに皇室法上の大権と慣習法上の大権があった[1]

内容 編集

国務上の大権 編集

国務上の大権とは広義には一切の統治権を意味する[2]。憲法上、立法権は議会の協賛、行政権は国務大臣輔弼を要するとされ、司法権は天皇の名により行うこととされていた[3]

また、国務上の大権は狭義には議会の議決や他の機関への委任をすることなく行使することができる国務に関する権能(憲法第6条から第16条までに定められた権能)をいった[4]。国務上の大権は原則として国務大臣の輔弼を受けることとされていたが、その性格をめぐり憲法学説には対立があった(天皇機関説の項目参照)。

大権事項 編集

憲法第6条から第16条までに定められた大権に関する事項を大権事項といった[5]

なお、統帥権の輔弼は国務大臣の輔弼の管轄外とされた[6]。(但し軍編成の大権は別とされた。)また、栄典大権も法令及び従来の慣習によるもので一般の国務上の大権とは異なるとされた[7]。非常大権については、緊急勅令や戒厳大権に含まれるとする説や独立した別個の大権であるとした説があり、実際に行使された例はない。

統帥権 編集

統帥権の輔弼は国務大臣の輔弼の管轄外とされ、陸軍参謀総長海軍軍令部総長の輔弼を受けることとされた[6]内閣官制第7条により統帥に関する事項は内閣総理大臣を経ずにこれらの軍令機関が直接上奏し、国務に関連するものについては内閣に下付されるものを除いて海軍大臣が内閣総理大臣に報告することとされた(帷幄上奏[8]

皇室法上の大権 編集

皇室法上の大権(皇室大権)とは天皇の皇室家長としての地位に基づくもので、憲法ではなく皇室典範及び皇室令で規定されていた[9]。皇室大権は宮内大臣の輔弼に属するもので(内閣の管轄外)、議会も関与しえない事項とされていた[2]。なお、従来の制として内大臣が常侍輔弼の任に当たることとされた[10]

慣習法上の大権 編集

国家神道に関する大権を祭祀大権といい、美濃部達吉慣習法にその根拠を有するとして慣習法上の大権に分類した[2]。祭祀大権は皇室大権に分類されることもある。

脚注 編集

  1. ^ a b 美濃部 1946, p. 187.
  2. ^ a b c 美濃部 1946, p. 188.
  3. ^ 美濃部 1946, pp. 188–189.
  4. ^ 美濃部 1946, p. 190.
  5. ^ 美濃部 1946, p. 191.
  6. ^ a b 美濃部 1946, p. 198.
  7. ^ 美濃部 1946, p. 199.
  8. ^ 美濃部 1946, p. 259.
  9. ^ 美濃部 1946, pp. 187–188.
  10. ^ 美濃部 1946, p. 273.

参考文献 編集

  •   美濃部達吉憲法撮要』(改訂)有斐閣、1946年。doi:10.11501/1270061全国書誌番号:60011034国立国会図書館書誌ID:000001008887https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1270061 

関連項目 編集