失踪者(しっそうしゃ)とは、どこにいるのか分からなくなってしまった人、足取りのつかめない人のことである。

概説 編集

「失踪者」は自らの意志によってどこにいるのか分からなくした場合も、自らの意思とは無関係に行方が分からなくなってしまった場合も含む。 犯罪や事故に巻き込まれて居所を知らせることができない状態(失踪事件)も、犯罪に関与して居所を知らせられない(知らせたくない)場合なども含まれる。

類似の表現との比較 編集

行方不明 編集

ほぼ、同義語である。「行方不明」という表現は「どこに行ったのか分からない」意味である。事故・事件に巻き込まれていると特定されている場合は、自分の意志が入っていないというニュアンスが(「失踪」に比べれば)比較的強い「行方不明」という表現が多く使われる傾向がある。すでに命が失われていることが予想される場合でも「行方不明」ならば違和感が無い。また未成年に「行方不明」、成年に「失踪者」という使い分けもある[要出典][注釈 1]

家出人 編集

家出人」という表現には「自己意志による」という判断・断定が含まれる。それを避けるために「失踪者」が用いられる。ただし、日本の警察などでは、事件性が薄いと警察関係者が判断した場合に「家出人」という表現が用いられることが多い[注釈 2](児童などを除く。児童の場合は迷子などの場合がある)。また一人暮しなどが増え「家」という観念が薄れつつあるのも「失踪者」という言葉が使われる場合が多くなっている要因である。

日本における失踪者 編集

失踪者の捜索願い(失踪届け出)受理件数はピークであった2002年の10万2880人から2010年の8万655人(1966年以後で最少)までは減少傾向であった。2010年以降は増加傾向であり、2019年は、前年より減少して、8万6,933人となっている。そして、2020年は新型コロナウイルス感染症流行との因果関係は不明であるが、1956年以降最少の7万7,022人であった。2021年以降は増加して、2022年は8万4,910人であった。

これは届け出のあった数字のみであり、実際の数はこれを上回っているものと思われる。最近では失踪しても携帯電話などで連絡がとれる場合には届け出をしない場合もあるという。

一方、2022年における失踪者の所在確認(死亡も含む)数は捜索願いのあったもので8万653人(内、死亡確認が3,739人、その他が9,499人)であり、このうち、1年以内の所在確認数は7万3,636 人(内、死亡確認が3,534人、その他が5,036人)であった。[1]過去に失踪届け出のあった人も含んだ数であり、2022年に届け出のあった失踪者の発見数ではない。

更に行方不明者の動機は、2021年で最も多いのが、認知症が1万8,709人(行方不明者全体構成比の約22.0%)であった。次いで、家庭関係(親子間不和、夫婦間不和等)が1万2,899人(行方不明者全体構成比の約15.2%)であり、次に事業関係(事業不振、失業、職場人間関係不和等)が9,615人(行方不明者全体構成比の約11.3%)であった。これら3つの原因で半数近くを占める。[1]特異行方不明者(犯罪や事故等に巻き込まれ、生命又は身体に危険が生じているおそれ等のある行方不明者)数は、2021年で5万8,765人であった。[2]また、1989年から2022年までの捜索願いを受理した失踪者の合計は296万1,277人で、同期間の所在確認数は捜索願いのあったものだけでは271万7,067人であった。そして、所在確認できなかった行方不明者数は2018年~2022年の5年平均で約1,720人である[1][3]。そして、2009年以降は、東日本大震災があった2011年を除き、所在確認率が95%以上となっている。

更に、捜索願いがなかったものも含めた場合、1989年から捜索願いがなかったものを含めた統計の記録の最後にあたる2008年までであるが、170万3,490人(あったもののみは、158万9,179人)である。[4][注釈 3]この期間は、単純計算はできないが届け出のあった人のうち、年平均で5,000人ほどが未発見のままの状態が続いていた。

失踪者を探すと自称する探偵などのビジネスも、失踪者の増加とともに拡大している。テレビにおいては失踪者を取り上げる番組がしばしば放送され、これにより後日発見されることもある[注釈 4]

警察庁が発表した『行方不明者の状況』[1]によれば、失踪者の数は次のようになる(少年の行方不明者数は2020年(令和2年)までは20歳未満。2022年(令和4年)は18歳未満。)。

年次別行方不明者届受理状況
年度 総数 男女別 成人・少年別 所在確認数
男性 女性 成人 少年
1966(昭和41)年 91,593 46,144 45,449 46,783 44,810 63,667
1970(昭和45)年 100,753 49,195 51,558 55,761 44,992 74,218
1980(昭和55)年 101,318 48,398 52,920 55,206 46,112 88,821
1990(平成2)年 90,508 47,047 43,461 53,111 37,397 80,666
2000(平成12)年 97,268 58,946 38,322 71,854 25,414 83,730
2010(平成22)年 80,655 51,706 28,949 61,123 19,532 78,467
2015(平成27)年 83,948 53,319 28,716 64,064 17,971 80,232
2019(平成31/令和元)年 86,933 55,747 31,186 70,108 16,825 84,362
2020(令和2)年 77,022 48,994 28,028 63,107 13,915 79,640
2022(令和4)年 84,910 54,259 30,651 71,808 13,102 80,653
年齢別行方不明者届受理状況(2022年)
年齢別 9歳以下 10歳代 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳以上 合計
届出数 1,061 14,959 16,848 10,342 7,020 5,623 4,529 10,779 13,749 84,910
比率 1.25% 17.62% 19.84% 12.18% 8.27% 6.62% 5.33% 12.69% 16.19% 100.00%
同年代人口
10万人当たり
11.5 138.3 132.9 75.7 40.3 32.1 30.2 65.9 111.5 ---

認知症失踪者 編集

警察庁の統計によれば、認知症を抱える人の行方不明の届出がなされた件数は前述のとおり、2022年で1万8,709人であり、統計を取り始めた2012年以降増加しており、2012年の9,607人と比べて約1.95倍に増えた。

2022年中に行方不明になり警察に届け出があった人のうち、所在確認できなかったのは147人だった。交通機関を利用して遠方に行ったまま戻れなくなるケースもあり、早期の発見が求められている。

都道府県別では兵庫県が最多の2,115人であった。次いで大阪府の1,996人、埼玉県の1,902人である。

死亡が確認されたのは491人に上り、主な死因は交通事故のほか、低体温症などによる衰弱死や、河川用水路に転落した溺死などであった。特に、体力や判断力が低下した高齢者の場合、遠方まで徘徊(はいかい)し発見が遅れた場合は命に関わる。所在確認までの期間は、届け出の受理から1週間以内が約99.6%で、受理当日が約77.5%を占めた。60代以上の行方不明理由は認知症がトップとなっている。[5][6][7]

なお、認知症有病者数が、2025年に推計約675万人~約730万人(内、症状の重さ別で見た場合、正常~軽度は約274万人~約296万人、中等度は273万人~約295万人、重度は約145万人~約161万人)になることが予測されている[8]

警察庁は各地の警察に対し、届け出人の意思に基づきホームページやSNS(交流サイト)で行方不明者の情報公開をしたり、地域の自治体や高齢者施設、タクシー事業者などでつくる「はいかい高齢者SOSネットワーク」と情報を共有したりする対策を呼びかけている。取り組みには地域差がある。大阪府警2014年から、自治体や高齢者施設などが保護した身元不明者の顔写真や特徴などの情報を掲載した「身元不明迷い人台帳」を府警本部と警察署に設置している[9][10]

群馬県警は本人や家族の同意の上、顔写真や手のひらの静脈の形状といった本人確認用の情報を事前に登録する活動を進めている。福井県警は県を通じて、全市町が把握する認知症の人の名前や特徴、顔写真の提供を受け、データベース化している[11]

また、行方不明になる恐れがある人に自治体が衛星利用測位システム(GPS)端末を貸与し、警察の捜索に位置情報を活用する協定を結ぶ地域がある。実際に群馬県高崎市では、2015年10月1日より全地球測位システム(GPS)の端末(NTTドコモ製、縦44×横37㎜×厚さ12㎜、重量約30g)の無料貸出(但し、端末の充電代やにGPS機器を装着して利用する場合の靴の購入費等は有料)を行っていおり、GPSを高齢者の靴や衣服に装着し、所在が不明になると、委託先の見守りセンターが位置情報を家族に知らせる仕組みとなっている[12][13]

更に、神奈川県横須賀市では、全国初のLINEによる認知症の行方不明者情報を発信するシステムを2020年9月から運用を開始している[14][15]。それに続き、2021年10月1日から鹿児島市で「おかえりサポート」の名で運用が開始されている[16]

一方、年代別では20代が1万6,848人と最も多く、次いで10代が1万4,959人だった。原因や動機では、20代は仕事がうまくいかないなど「職業関係」の割合が高く、10代は親が厳し過ぎるといった「家庭関係」が目立った。[5]

児童失踪者 編集

9歳以下の行方不明者が、2010年の705人から2022年の1,061人と約1.50倍と急増している。行方不明理由で最も高かったのは、親が厳し過ぎるといった「家庭関係」が全体の約30.9%を占めていた。

警察庁によると、その多くは家出迷子であり、無事に見つかるケースがほとんどである[17]

また、児童失踪対策に対して、東京都府中市[18]福岡市[19]や大阪府豊中市[20]新潟市石川県羽咋市[21]など一部自治体は、希望者を対象に小型端末により位置情報が記録される仕組みの見守りサービスを行っている[17]

一方で、誘拐事件の中には児童がSNSを通じて自らついていくケースも多くあり、「知らない人についていかない」と呼び掛けたり、防犯ブザーなどの防犯機器所持だけでは不十分であり、現実世界でもネット上でも『入りやすく、見えにくい場所』で犯罪が起きることを前提に十分に注意を払う意識を持つ必要があるとの指摘もある[22]

誘拐に関しては、警視庁による統計データでは、誘拐認知件数は2021年で94件(未就学児と小学生の合計件数である為、10~12歳が含まれている。)あり、その内わいせつ目的以外の誘拐が72件であった。わいせつ目的以外の場合、略取誘拐の罪で検挙された者の約7割が親族である。誘拐全体で見れば、約44%が親族による未成年者の略取であり、それ以外の残りの約3分の1はわいせつ目的の誘拐である[23]

そして、児童失踪事件の中には、2次被害が発生する例があり、山梨キャンプ場女児失踪事件の失踪児童の母親に対してSNSや匿名掲示板などを利用した誹謗中傷を行うケースや泉南郡熊取町小4女児誘拐事件の失踪児童の親に対し、児童の居場所を知っているように装い約7400万円を騙し取る詐欺事件が発生している[24]

居所の把握できない児童 編集

厚生労働省が調査した居所の把握できない児童数は2014年5月1日時点で全国で約2,908人である。そのうち、同年5月2日から9月1日までに、5月時点で居所を把握できない全国の児童の約92.3%にあたる2,684 人(92.3%)の所在が確認できており、9月1日時点で居住実態が把握できない児童数は全国で224人となった。なお、224人について、自治体に個別に聞き取り等を行った結果、同年10月20日時点で、さらに83人の居住実態が確認できており、同日時点で居住実態が把握できない児童は141人となった。[25]これらの児童のことを「所在不明の子[26]」、「所在不明児[27]」と呼ぶ。2018年6月1日時点で28人である。その内、平成28年度調査(2017年6月1日時点)から引き続き居住実態が把握できない児童は、6人である。[28]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 蒸発も使われる。
  2. ^ 「家出人」と判断し分類すると警察の業務としては簡単になる、ということになる。この判断のありかたを巡って議論が起きることがある。
  3. ^ 上記データと同様で、同期間の失踪届け出のあった失踪者の発見数ではない。/参考資料:[1]1989年から2007年までの行方不明者数の累計(平成19年中における家出の概要資料 補表1の資料を基に作成)より
  4. ^ しかし、霊能力者を出演させている『奇跡の扉 TVのチカラ』などは、家族を探したいという周囲の人間の気持ちを視聴率獲得の為に利用しているだけではないか[要出典]、と批判されることもある。[誰によって?]

出典 編集

  1. ^ a b c d 警察庁生活安全局人身安全・少年課 (22 June 2023). 令和4年における行方不明者の状況について (PDF) (Report). 2023年6月24日閲覧
  2. ^ 警察庁 (2022). 令和4年警察白書 2-42 行方不明者届の受理件数の推移(平成29~令和3年) (Excel) (Report). 2023年6月24日閲覧
  3. ^ 参考資料:1989年から2019年までの行方不明者数と所在確認者数について(「令和元年における行方不明者の状況について」にある年次別行方不明者届受理状況の資料を基に作成)より
  4. ^ 警察庁生活安全局生活安全企画課 (2009-06). 平成20年中における家出の概要資料 (PDF) (Report). 2018-12-04閲覧 {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  5. ^ a b 警察庁生活安全局人身安全・少年課 (22 June 2023). 令和4年中における行方不明者の状況(図表) (PDF) (Report). 2023年6月24日閲覧
  6. ^ “認知症の不明者1万8千人、10年で倍増 警察庁まとめ” (日本語). 日本経済新聞. (2023年6月22日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE2207V0S3A620C2000000/ 2023年6月24日閲覧。 
  7. ^ “去年 認知症などの行方不明者 全国で延べ1万8700人余 過去最多” (日本語). NHK. (2023年6月22日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230622/k10014106641000.html 2023年6月24日閲覧。 
  8. ^ 二宮 利治; 清原 裕; 小原 知之; 米本 孝二 (2014). “日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究” (日本語). 厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 厚生労働科学特別研究 (厚生労働省) H26-特別-指定-036. https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/23685 2022年7月24日閲覧。. 
  9. ^ 大阪府 (2021年9月7日). “身元不明者情報”. 2022年7月24日閲覧。
  10. ^ 大阪府警察 (2016年9月9日). “身元不明迷い人台帳閲覧制度運用要領の制定について”. 2022年7月24日閲覧。
  11. ^ “https://www.asahi.com/articles/ASL6H5DX1L6HUBQU00X.html” (日本語). 朝日新聞. (2019年6月15日). https://www.asahi.com/articles/ASL6H5DX1L6HUBQU00X.html 2022年7月24日閲覧。 
  12. ^ 高崎市. “はいかい高齢者救援システム(GPS)”. 2022年7月24日閲覧。
  13. ^ “認知症行方不明 早期発見の工夫が命を守る” (日本語). 読売新聞. (2022年7月29日). https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20220719-OYT1T50323/ 2022年7月24日閲覧。 
  14. ^ “LINEで認知症不明者情報 神奈川県横須賀市、全国初” (日本語). 日本経済新聞. (2020年8月18日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62765290Y0A810C2L82000/ 2020年8月23日閲覧。 
  15. ^ 横須賀市からの緊急情報をLINEでお届けします(2020年8月18日)』(プレスリリース)横須賀市市長室広報課、2020年8月18日https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/0520/nagekomi/2020_line.html2020年8月23日閲覧 
  16. ^ かごしま市認知症おかえりサポートシステムのお知らせ』(プレスリリース)鹿児島市健康福祉局、2021年10月22日https://www.city.kagoshima.lg.jp/kenkofukushi/chouju/tiikihoukatu/kenko/fukushi/choju/ninchi/nintisyookaerisupport.html2021年10月31日閲覧 
  17. ^ a b 松本裕樹; 清水阿喜子; 佐藤崇大 (2023年5月16日). “子供の行方不明 年間1000人以上 対策どうすれば?” (日本語). NHK. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230516/k10014068681000.html 2023年6月24日閲覧。 
  18. ^ 府中市 (2023年1月13日). “地域のみんなで見守る「otta見守りサービス」”. 2023年6月24日閲覧。
  19. ^ 福岡市 (2023年2月28日). “IoTを活用した子ども見守り事業(通称:オッタバイ)を展開しています”. 2023年6月24日閲覧。
  20. ^ 豊中市 (2022年6月29日). “ICTを活用した見守りサービス OTTADE!(おったで!)”. 2023年6月24日閲覧。
  21. ^ 羽咋市 (2022年4月11日). “アプリを活用した児童の見守りサービス スタート”. 2023年6月24日閲覧。
  22. ^ “実は日本全国で少女たちが大量蒸発している SNSで誘惑されて” (日本語). FRIDAY. (2019年12月9日). https://friday.kodansha.co.jp/article/82464 2023年6月24日閲覧。 
  23. ^ 統計>令和3年の刑法犯に関する統計資料>第2 罪種・手口別の認知・検挙状況>1 重要犯罪>(6) 略取誘拐・人身売買”. 警察庁. pp. 28-30 (2022年8月). 2023年6月24日閲覧。
  24. ^ 水谷竹秀 (2022年1月6日). “年1000人超の子どもが行方不明!日本の驚く現実 「ミッシングチルドレン」親たちの苦悩” (日本語). 週刊女性: pp. 1-4. https://toyokeizai.net/articles/-/478383 2023年6月24日閲覧。 
  25. ^ 厚生労働省 (2014-11-13). 「居住実態が把握できない児童」に関する調査結果等の報告について (PDF) (Report). 2018-12-4閲覧 {{cite report}}: |accessdate=の日付が不正です。 (説明)
  26. ^ コトバンク
  27. ^ コトバンク
  28. ^ 厚生労働省 (2017). 平成29年度「居住実態が把握できない児童」に関する調査結果【全体版】 (PDF) (Report). 2018-12-4閲覧 {{cite report}}: |accessdate=の日付が不正です。 (説明)

関連項目 編集

  • 指名手配
  • ゴースティング (行動)英語版 - 知り合いや恋人が説明もなく音信不通になる行動。日本語でいう蒸発、失踪癖。俗に人間関係リセット症候群とも。
  • アンバーアラート ‐ アメリカにおける児童の行方不明者が出た警戒アラート。高齢者の場合はシルバー・アラート。

外部リンク 編集