女悪魔
女悪魔（おんなあくま、英: Demoness[1]、西: Diabla、独: Teufelinnen Teufelin[2]、仏: Diablesse[3]）は、男性の邪悪な超自然的存在として認識される「悪魔」 (Demon) とは反対に、女性の邪悪な超自然的存在を表す概念。この存在は女性の悪魔、あるいは女性的な悪魔を意味する[4]。
概要 編集
女悪魔は卑猥さ[5]、月経の原因[5]、幼児殺し[6]などと関連付けられる。
『ベン・シラのアルファベット』などでアダムの最初の妻とされることがあるリリスは、夜に人の子供を殺す女悪魔だったり、寝ている男を襲って子供を作るサキュバスとも語られるようになった[7]。女悪魔の概念は、おそらくアダムの最初の妻であるリリスが元となっている。
ハインリヒ・ハイネの『ドイツの宗教と哲学の歴史について』によると、『タンホイザー』に登場する淫蕩の女神ヴェーヌスはベルゼブブの娘とされ、タンホイザーによって「女悪魔」（Teufelinne）と呼ばれる[8]。
ジョン・ウッドロフによると、金剛薩埵とヴァジュラパーニがマラヤ山に向かうと、山には四方に4つの門があった。各門にはそれぞれ雌馬、雌豚、ライオン、犬の頭をした女悪魔が番をしていた。栄光ある者はこれを征伐し、女悪魔と交わると、この交配によって白馬の顔、黒い雌豚の顔、赤いライオンの顔、緑の犬の顔の娘が産まれた。更に進んでいくと、別の8人の女悪魔の哨兵とも鉢合わせた。これらは雌ライオン、雌虎、狐、狼、ハゲワシ、カンカ（Kanka、謎の生物[注 1]）、烏、梟の頭を持っていた。栄光ある者は彼女らとも交合し、それによって外見はそれぞれの母親に似て荒々しく、心は父親に似て神を敬い、洞察力と知恵を持つ娘が8人産まれた[9]。
ヘクター・ボイスによると、スコットランドで美形な若い男性の下に、閉ざされているはずのドアを通り抜けて、女悪魔が結婚を申し込んできた。男性が司教に相談すると、司教は彼に断食し、祈り、告解するように命じた。それを実践すると、女悪魔はもう現れなくなった。ピエール・ド・ランクルによると、エジプトで、誠実な装蹄師が夜中に鋳造に従事していると、美しい女悪魔が近寄ってきたという。装蹄師はその悪魔の顔に熱い鉄を投げつけると、女悪魔はすぐに逃げ出した[10]。
語源 編集
女悪魔を意味する英語の「demoness」は、「悪魔」を意味する「demon」と「女性」を意味する「ess」を掛け合わせた言葉である。「demoness」の最も古い使用例は、17世紀の聖書学者ジョセフ・ミードによるものが挙げられる[12]。他の英語に「deviless」があるが、この単語を最も初期に使用したのはトマス・アーカートであり、フランス語の「diablesse」から翻訳された[13]。
吉田敦彦は1976年に出版された『小さ子とハイヌウェレ』でヒディムバーを指して「女悪魔」という用語を使用している[14]。
中村了昭はラーマーヤナに登場するニクムビラーを「女悪魔」と訳している[15]。大阪市立大学名誉教授の大沢慶子は「Teufelinne」を「女悪魔」と訳した[8][16]。
主な女悪魔 編集
ユダヤ神話 編集
キリスト教 編集
ゾロアスター教 編集
スラヴ神話 編集
テュルク神話 編集
インド神話 編集
大衆文化 編集
1992年、セクシーな女悪魔を主人公としたスティーブ・クロンプトンによる漫画『デミ・ザ・デーモネス』が出版された[19]。
日本の漫画『カナン様はあくまでチョロい』は、人間の世界の高校に潜入するカナンという女悪魔を題材にした作品である[20]。
脚注 編集
- ^ ウッドロフはこの生物が何なのか分からなかった。
出典 編集
- ^ “demonessの意味・使い方・読み方”. 英辞郎. 2022年8月5日閲覧。
- ^ 中山淳子『グリムのメルヒェンと明治期教育学 童話・児童文学の原点』臨川書店、2009年4月1日、112頁。
- ^ “diablesse(フランス語)の日本語訳、読み方は - コトバンク 仏和辞典”. コトバンク. プログレッシブ 仏和辞典 第2版. 2022年8月8日閲覧。
- ^ Cuestiones filológicas
- ^ a b Sharma, Arvind (1994). Religion and Women. State University of New York Press. p. 160. ISBN 978-1438419602
- ^ Jörg B. Quenzer (2021). Exploring Written Artefacts: Objects, Methods, and Concepts. De Gruyter. p. 547. ISBN 978-3110745450
- ^ 川井ササ『[名画]と読む危険な美女』PHP研究所、2014年10月25日、222頁。
- ^ a b 大沢, 慶子「ハイネの「タンホイザー」について : ジャンル的位置づけの試み」『人文研究』第31巻第3号、大阪市立大学、1979年、176頁、ISSN 04913329。
- ^ “Chapter Twenty-eight: Matam Rutra (The Right and Wrong Interpretation)”. インターネット・セイクリッド・テキスト・アーカイブ. 2022年8月8日閲覧。
- ^ Spence, Lewis (2003). An Encyclopaedia of Occultism. p. 392. ISBN 978-0486426136
- ^ 青木健『古代オリエントの宗教』講談社、2012年、45頁。ISBN 978-4062881593。
- ^ “DEMONESS Meaning & Definition for UK English”. Lexico. 2022年8月5日閲覧。
- ^ “DEVILESS”. Lexico. 2022年8月8日閲覧。
- ^ 吉田敦彦『小さ子とハイヌウェレ 比較神話学の試み 2』みすず書房、1976年8月、142頁。
- ^ ヴァールミーキ 編、中村了昭 訳『新訳ラーマーヤナ 5』平凡社、2013年4月26日、47頁。
- ^ “Zur Geschichte der Religion & Philosophie in Deutschland”. プロジェクト・グーテンベルク. 2022年8月5日閲覧。
- ^ 渡辺 和子『図解 世界の宗教』西東社、2010年5月10日、191頁。
- ^ サティヤ・サイ・ババ 著、藤原慶子、小栗知加子 訳『1995年 夏期講習 シュリーマド バーガヴァタム』2009年11月23日、287頁。
- ^ “Best Local Erotic Comic 2010 Demi the Demoness People & Places”. フェニックス・ニュー・タイムズ. 2022年9月3日閲覧。
- ^ “人間界に潜伏する女悪魔と天然男子高生のラブコメ新連載「カナン様はあくまでチョロい」”. ナタリー (2022年6月1日). 2022年8月5日閲覧。