宇野利泰
宇野 利泰(うの としやす、1909年4月21日 - 1997年1月6日)は、日本の翻訳家。元太田鉄工所経営者[1]。日本文芸家協会、日本推理作家協会、各会員[2]。 本名、太田 稔治(おおた としじ)[2]。ペンネームは、江戸川乱歩の土曜会で知り合った翻訳家阿部主計が、タバコの「Union Leader」をもじって命名したもの[3]。書籍によっては、太田 稔(おおた みのる)、多田 雄二(ただ ゆうじ)などの別名義を用いることもあった[4]。
経歴編集
東京市神田区生まれ[2]。裕福な工場経営者の一家に生まれ育つも、宇野の代で工場は人手に渡っている[5]。旧制武蔵高等学校を経て、1932年東京帝国大学独文科卒。
田園調布(4の70)での自宅の隣人が石坂洋次郎であり[6]、海外推理小説に詳しかったことから江戸川乱歩の知遇を得、雑誌『宝石』(岩谷書店)の創刊に貢献。1953年、『宝石』誌上で処女訳を手がける。その後英米推理小説を中心に翻訳活動を展開、E・S・ガードナー、エラリー・クイーン、ジョン・ディクスン・カー、グレアム・グリーン、ジョン・ル・カレなど翻訳作品は膨大な量にのぼる。晩年には目と足の病気に悩まされながら、その死まで翻訳に携わった。
大久保康雄などと同様、下訳者を使って次々に翻訳を発表、下訳者たちの育て方にも秀でており、下訳者より、深町眞理子、稲葉明雄など、数々の著名な翻訳者が出た。
文壇・出版界のゴシップを大いに好んだ奇人とされ、編集者として交流があった小林信彦の小説『虚栄の市』『夢の砦』に、宇野をモデルとした人物が登場している。
1991年、第1回BABEL国際翻訳大賞(日本翻訳大賞)・特別賞を受賞[2]。
翻訳編集
宇野名義編集
- 靴に棲む老婆 (エラリー・クイーン 早川書房 1954年 のち文庫)
- ポケットにライ麦を (アガサ・クリスティー 早川書房 1954年 のち文庫)
- 風が吹く時 (シリル・ヘアー 早川書房(世界探偵小説全集) 1955年)
- 夢遊病者の姪 (E・S・ガードナー 早川書房 1956年 のち文庫)
- 帽子蒐集狂事件 (ディクスン・カー 東京創元社 1956年 のち新潮文庫)
- 奇妙な花嫁 (ガードナー 新潮社(探偵小説文庫) 1956年 のち新潮文庫)
- 伯母の死 (C.H.B.キッチン 早川書房(世界探偵小説全集) 1956年)
- ドラゴン殺人事件 (ヴァン・ダイン 早川書房(世界探偵小説全集)
- 医者よ自分を癒せ (イーデン・フィルポッツ 早川書房 1956年)
- 怪物 (ハリングトン・ヘクスト 早川書房(世界探偵小説全集) 1956年)
- 予言殺人事件 (J.D.カー 現代文芸社 1956年 のち「読者よ欺かるるなかれ」の題で早川書房 1958年)
- タイム・マシン、透明人間、モロー博士の島 (H・G・ウェルズ 世界大ロマン全集 東京創元社 1956年 のち創元推理文庫、のち世界SF全集、のちハヤカワ文庫)
- パール街の少年団 (モルナール 世界少年少女文学全集 東京創元社 1957年 のち偕成社文庫)
- ボスを倒せ (E.S.ガードナー 六興・出版部 1957年 のち新潮文庫)
- 死体を探せ (ドロシー・L・セイヤーズ 現代文芸社 1957年)
- 怯えるタイピスト (E.S.ガードナー 早川書房 1957年 のち文庫)
- 飛ばなかった男 (マーゴット・ベネット 東京創元社 1957年)
- 髑髏城 (ディクスン・カー 世界大ロマン全集 東京創元社 1957年 のち創元推理文庫)
- ディクスン・カー作品集 第8 緑のカプセル (東京創元社 1958年 「緑のカプセルの謎」創元推理文庫)
- ウインター殺人事件 (ヴァン・ダイン 早川書房 1958年)
- 偽証するおうむ (E.S.ガードナー 早川書房(世界探偵小説全集) 1958年)
- スリップに気をつけて (A・A・フェア 早川書房(世界探偵小説全集) 1958年)
- 赤後家の殺人 (ディクスン・カー 東京創元社 1958年 のち創元推理文庫)
- 気ままな女 (E.S.ガードナー 早川書房(世界探偵小説全集) 1958年)
- 黒いカーテン (ウイリアム・アイリッシュ 世界大ロマン全集 東京創元社 1958年 のち創元推理文庫)
- 完全殺人事件 (クリストファー・ブッシュ 新潮文庫 1958年)
- はなれわざ (クリスチアナ・ブランド 早川書房 1959年 のち文庫)
- 検事踏みきる (E.S.ガードナー 早川書房(世界探偵小説全集) 1959年)
- 聖アンセルム923号室 (コーネル・ウールリッチ 早川書房 1959年)
- カウント9 (A.A.フェア 早川書房(世界探偵小説全集) 1959年)
- 死のスカーフ (E.S.ガードナー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1959年)
- 僧正殺人事件 (ヴァン・ダイン)、赤い家の秘密(A・A・ミルン)(世界推理名作全集 中央公論社 1960年)(「僧正殺人事件」はのち中公文庫)
- Yの悲劇 (クイーン 世界推理名作全集 中央公論社 1960年 のちハヤカワミステリ文庫)
- 法の悲劇 (シリル・ヘアー 早川書房 1960年 のち文庫)
- アラビアンナイトの殺人 (ディクスン・カー 東京創元社 1960年 のち文庫)
- 武器の道 (エリック・アンブラー 早川書房 1960年 のち文庫)
- ミストレス (カーター・ブラウン 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1960年)
- 赤毛のレドメイン家 (イーデン・フィルポッツ 世界推理名作全集第4 中央公論社 1961年 のち創元推理文庫)
- 瓜二つの娘 (E.S.ガードナー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1961年)
- 二つの密室 (フリーマン・W・クロフツ 創元推理文庫 1961年)
- 影をみせた女 (E.S.ガードナー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1961年)
- H.G.ウェルズ短篇集 第1-3 (早川書房 1961年-1962年)
- トレント最後の事件・ほんものの陣羽織・失踪した弁護士・利口なおうむ (ベントリー 世界推理小説大系第11巻 東都書房 1962年 「トレント」のち講談社文庫)
- 重婚した夫 (E.S.ガードナー 早川書房 1962年 のち文庫)
- 笑うきつね (フランク・グルーバー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1962年)
- ひとり者はさびしい (A.A.フェア 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1962年)
- 犯罪カレンダー (エラリイ・クイーン 早川書房 1962年 のち文庫)
- あつかいにくいモデル (E.S.ガードナー 早川書房 1962年 のち文庫)
- 百万に一つの偶然 (ロイ・ヴィカーズ 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1962年)
- スミルノ博士の日記 (ドゥーセ 世界推理小説大系第5 東都書房 1963年)
- 無限がいっぱい ((ロバート・シェクリイ 早川書房〈異色作家短篇集第11巻〉 1963年)
- クロイドン発12時30分 (クロフツ 世界推理小説大系第12巻 東都書房 1963年)
- 金ぴかの鷲 (カーター・ブラウン 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1963年)
- 樽 (クロフツ 新潮文庫 1963年)
- 真昼の翳 (エリック・アンブラー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1963年)
- 宇宙戦争 (H.G.ウエルズ 早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ) 1963年)
- 脅迫された継娘 (E.S.ガードナー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1963年)
- 弁護士プレストン (エドワード・S.アーロンズ 早川書房 1963年)
- バスカーヴィル家の犬、まだらの紐他 (アーサー・コナン・ドイル 世界推理小説大系第4 東都書房 1964年)
- ビロードの爪 (ガードナー 新潮文庫 1964年)
- 華氏451度 (レイ・ブラッドベリ 早川書房 1964年 のち文庫)
- ホンコン野郎 (カーター・ブラウン 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1964年)
- 恋におちた伯母 (E.S.ガードナー 早川書房 1964年 のち文庫)
- 向うみずな離婚者 (E.S.ガードナー 早川書房 1964年
- 寒い国から帰ってきたスパイ (ジョン・ル・カレ 早川書房 1964年 2版 のち文庫)
- 血の栄光 (ジョン・エヴァンズ 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1964年)
- つかみそこねた幸運 (E.S.ガードナー 早川書房 1965年)
- ロボット文明 (ロバート・シェクリー 創元推理文庫 1965年)
- 幸運な脚 (E.S.ガードナー 新潮文庫 1965年)
- ドラゴンの歯 (エラリー・クィーン 創元推理文庫 1965年)
- 死者にかかってきた電話 (ジョン・ル・カレ 早川書房 1965年 2版 のち文庫)
- 吠える犬 (ガードナー 新潮文庫 1965年)
- 鏡の国の戦争 (ジョン・ル・カレ 早川書房 1965年 のち文庫)
- 明日を越える旅 (ロバート・シェクリイ 早川書房 1965年 のち文庫)
- 十月はたそがれの国 (レイ・ブラッドベリ 創元推理文庫 1965年)
- 使いこまれた財産 (E.S.ガードナー 早川書房 1965年)
- 真鍮の栄光 (ジョン・エヴァンズ 早川書房 1965年)
- 高貴なる殺人 (ジョン・ル・カレ 早川書房 1966年 のち文庫)
- 死との契約 (スティーヴン・ベッカー 早川書房 1966年)
- 地球巡礼 (ロバート・シェクリイ 早川書房 1966年 のち文庫)
- 恐怖からの収穫 (ハワード・スコーンフェルド 久保書店 1966年)
- クリスチィ短編全集 第3-5 (アガサ・クリスチィ 創元推理文庫 1966年-1967年)
- ダブル・イメージ (ヘレン・マッキネス 早川書房 1967年)
- アドレナリンの匂う女 (ジェイムズ・ケイン 新潮社 1967年 のち創元推理文庫)
- 汚辱と怒り (エリック・アンブラー 早川書房 1967年)
- 年刊SF傑作選 第4 (ジュディス・メリル編 創元推理文庫 1968年)
- バベルの塔 (モリス・L.ウェスト 早川書房 1968年)
- ワシントンD.C. (ゴア・ヴィダール 早川書房 1968年)
- 宇宙のスカイラーク (E・E・スミス 角川文庫 1968年)
- 時間都市 (J・G・バラード 創元推理文庫 1969年)
- カー短編集 1-3 (ディクスン・カー 創元推理文庫 1970年-1974年)
- 美しい乞食 (E.S.ガードナー 早川書房(世界ミステリシリーズ) 1970年)
- 狂風世界 (J.G.バラード 創元推理文庫 1970年)
- ハーツォグ (ソール・ベロウ 早川書房 1970年 のち文庫)
- コナンと石碑の呪い (ロバート・E・ハワード 創元推理文庫 1971年)
- コナンと髑髏の都 (ロバート・E.ハワード 創元推理文庫 1971年)
- コナンと荒鷲の道 (ロバート・E.ハワード 創元推理文庫 1971年)
- 皇帝の嗅ぎ煙草入れ (カー 世界推理小説大系10 講談社 1972年 のち文庫)
- アイリッシュ短編集 1 (創元推理文庫 1972年)
- コナンと焔の短剣 (R.E.ハワード 創元推理文庫 1972年)
- エクソシスト (ウィリアム・ピーター・ブラッティ 新潮社 1973年 のち文庫、創元推理文庫)
- コナンと毒蛇の王冠 (ロバート・E.ハワード 創元推理文庫 1973年)
- コナンと黒い予言者 (ロバート・E.ハワード 創元推理文庫 1973年)
- ドイツの小さな町 (ジョン・ル・カレ 早川書房 1974年 のち文庫)
- コナンと古代王国の秘宝 (ロバート・E.ハワード 創元推理文庫 1974年)
- すばらしいペテン (E.S.ガードナー 早川書房 1975年)
- 死の館の謎 (ディクスン・カー 創元推理文庫 1975年)
- ブラックサンデー (トマス・ハリス 新潮社 1976年 のち文庫)
- 真昼の翳 (エリック・アンブラー ハヤカワ・ミステリ文庫 1976年)
- ラヴクラフト傑作集 2 (創元推理文庫 1976年)
- Xの悲劇 (クイーン 講談社文庫 1977年 のちハヤカワ・ミステリ文庫)
- 思考機械の事件簿 (ジャック・フッドレル 創元推理文庫 1977年)
- 第八の日に (ソーントン・ワイルダー 早川書房 1977年)
- ダーティ・ストーリー (エリック・アンブラー ハヤカワ・ミステリ文庫 1979年)
- ピーター卿の事件簿 (ドロシー・L.セイヤーズ 創元推理文庫 1979年)
- ヒューマン・ファクター (グレアム・グリーン 早川書房 1979年 のち文庫)
- ギリシャ棺の秘密 (エラリイ・クイーン ハヤカワ・ミステリ文庫 1979年)
- キュービー・セブン (レオン・ユリス 新潮社 1980年)
- 血に飢えた悪鬼 (ディクスン・カー 創元推理文庫 1980年)
- ジュネーヴのドクター・フィッシャーあるいは爆弾パーティ (グレアム・グリーン 早川書房 1981年 のち文庫)
- 「新聖書」発行作戦 (アーヴィング・ウォーレス 新潮文庫 1981年)
- ローマ帽子の秘密 (エラリイ・クイーン ハヤカワ・ミステリ文庫 1982年)
- 陸橋殺人事件 (ロナルド・A・ノックス 創元推理文庫 1982年)
- カー短編全集 4-5 (ディクスン・カー 永井淳共訳 創元推理文庫 1982年)
- フランス白粉の秘密 (エラリー・クイーン ハヤカワ・ミステリ文庫 1983年)
- キホーテ神父 (グレアム・グリーン 早川書房 1983年)
- ありえざる伝説 (ウィリアム・ゴールディング他 峯岸久共訳 早川文庫 1983年)
- 警察官に聞け (アントニイ・バークリイ他 ハヤカワ・ミステリ文庫 1984年)
- ホワイトストーンズ荘の怪事件 (セイヤーズ他 創元推理文庫 1985年)
- サイオン (ジョーン・D.ヴィンジ ハヤカワ文庫 1985年)
- 第十の男 (グレアム・グリーン 早川書房 1985年)
- 殺意の海辺 (ジョン・ディクスン・カー ハヤカワ・ミステリ文庫 1986年)
- ファン・クラブ誘拐事件 (アーヴィング・ウォーレス 新潮文庫 1986年)
- 知られざる名探偵物語 (ジュリアン・シモンズ ハヤカワ・ミステリ文庫 1987年)
- オランダ靴の秘密 (エラリイ・クイーン ハヤカワ・ミステリ文庫 1987年)
- 血のついたエッグ・コージィ (ジェームズ・アンダースン 文春文庫 1988年)
- 探偵小説十戒 幻の探偵小説コレクション (ロナルド・ノックス編 深町真理子共訳 晶文社 1989年)
- Zの悲劇 (エラリイ・クイーン ハヤカワ・ミステリ文庫 1989年)
- キャプテンと敵 (グレアム・グリーン 早川書房 1989年)
- 盗み (ソール・ベロウ 早川書房 1990年)
- ベラローザ・コネクション (ソール・ベロウ 早川書房 1992年)
- ドルリイ・レーン最後の事件 (エラリイ・クイーン ハヤカワ・ミステリ文庫 1996年)
- ブラッディ・マーダー―探偵小説から犯罪小説への歴史 (ジュリアン・シモンズ 新潮社 2003年)
太田稔名義編集
- ハックスレー短篇集 新潮社 1961 (新潮文庫)
- 宙ぶらりんの男 ソール・ベロー 新潮社 1971 (新潮文庫)
- 犠牲者 ソール・ベロー 新潮社 1973 (新潮文庫)
多田雄二名義編集
脚注編集
参考文献編集
- 宮田昇『戦後「翻訳」風雲録 翻訳者が神々だった時代』本の雑誌社、2000年。ISBN 4-938463-88-1。