入札談合(にゅうさつだんごう、: bid rigging)、または、単に談合(だんごう)とは、日本における、公共事業、民間事業[1]における競争入札の際に、競売または入札参加者が通謀して、ある特定の者に落札させるため、他の者らが一定の価格以上または価格以下に入札する旨の協定をしておく不正行為ないし商慣習である[2]

入札談合は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律独占禁止法)の「不当な取引制限」(2条4項)に該当し、独占禁止法による規制や談合罪(刑法96条の6第2項)による処罰対象となる。

概要

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入札談合は、地方公共団体、民間企業などの事業主体が実施する競争入札一般競争入札指名競争入札)において行われる。

入札談合の形態はさまざまであるが、通常は、競争業者間において、工事等の発注があった場合には談合を行うこととして、受注予定者の選定方法等、談合の手続を定める「基本合意」を策定し、個別工事等の発注があった場合には、上記の基本ルールに基づいて個別の談合(受注調整行為)を行い、具体的な受注予定者を決定するのが一般的な形態である。

なお、受注予定者の選定方法には、入札参加回数等を点数化して点数の低いものから順番に受注する点数制、一定の順番で受注する輪番制などがある[2]


入札談合の実態と規制の沿革

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日本における入札談合

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公共入札

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入札談合の代表例とされる建設談合について、公正取引員会は1979年の熊本県道路舗装協会事件で初めて審決を出し[3]、その後、公共工事の主流の土木工事分野においても、1981年に静岡建設業協会事件・清水建設業協会事件の審決(両事件を併せて「静岡事件」といわれる。)が同日に出され、社会的に大きな反響を呼んだ[4][5][6]

これ以前にも建設以外の業界については多くの入札談合事件が摘発されており、当時すでに51件の審決が存在していた。ところが、新聞報道等によれば、当時、建設談合を厳しく取り締まるとの公取委の方針に危機感を抱いた建設業界は、公取委に対して強い政治的圧力を加えたといわれている。そして公取委が1984年に公表した建設業ガイドライン(後出)はこの圧力の下に作られたともいわれ、それ以後、1988年に、横須賀米海軍基地談合事件で、公正取引委員会が立ち入り調査するまで建設談合について1件の摘発もされなかった。

このような入札談合に対する消極的な法執行に対しては内外から批判が加えられていた。特に、埼玉土曜会事件をはじめとする大規模な談合やそれに絡む汚職の発覚が談合に対する批判を強いものにした[4]。そのような中、2000年に中尾栄一元建設大臣が大臣在任中に建設業者から受託収賄した容疑で逮捕されたことを契機として同年に公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律、また、同時期の北海道上川支庁農業土木事業談合事件を受け2002年に官製談合防止法が成立していく[6]。加えて、2005年の独占禁止法改正により罰則が強化され、同年末に大手ゼネコン4社が「談合決別宣言」、翌年には日本土木工業協会も同様の宣言をするに至った。この建設業界全体の方針転換により、2006 年以降、各地の入札で入札価格・落札価格が低下したことが確認されている[7][8]

民間入札

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行政機関以外が行う入札でも談合行為は確認されており、2025年、マンションの修繕工事のために管理組合が行った入札で談合が繰り返された疑いがあるとして公正取引委員会が建設業者約20社に調査を行ったことが明らかになっている[9]

諸外国における入札談合

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日本以外でも入札談合は発生しており、各国の独占禁止法当局が規制を行っている。公正取引委員会が1995年に調査したところによると、フランスで学校の電気工事や自治体が発注する住宅ゴミ収集サービスで入札談合事件の摘発が行われたことが確認されている[10]

事例

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官製談合

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公共事業などで競争入札が義務づけられているにもかかわらず発注者が受注者を指名するなど、発注者側(行政などの「官」)が談合を主導する場合を、特に官製談合という。

通常は天下り先の提供や金品など、贈収賄や便宜供与を伴う。官製談合は、独占禁止法や刑法上の談合罪だけでなく、官製談合防止法による規制及び処罰の対象となる。

事例

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  • 新潟市では2001年、下水道工事をめぐる発注で不正と思われる入札があり、その後の調査で過去から幾度にも渡って官製談合があったことが発覚し、2003年9月に大手ゼネコンや地元業者、市役所などが立ち入り検査された。また、2004年には113社の業者に対し排除勧告をし、職員や業者が数名逮捕された。

脚注

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注釈

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  1. ^ 協和エクシオ日本電気インフォメーションテクノロジー大明電話工業日本コムシス東洋電機通信工業三和大榮電氣興業ジェイコス新興通信建設池野通建大和通信建設大興電子通信富士通ビジネスシステム(当時)の10社。
  2. ^ 当時、契約センターの発注する工事のほとんどを受注していた日本電気インフォメーションテクノロジー(当時)に対し、他の9社が、同社に対する対抗と懐柔を企図して設けた会合である。
  3. ^ 10社のうち、協和エクシオは、東京高等裁判所に対し、課徴金納付を命ずる審判審決の取消請求訴訟を提起したが、同裁判所は同請求を棄却した。
  4. ^ 逮捕時点では、木村以外は知事を辞職し、木村も逮捕後に辞職している。

出典

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  1. ^ 平成25年経済産業省競争環境整備室リーフレット「中小企業向け独占禁止法の手引き」[1]P.10
  2. ^ a b 林, 秀弥「入札談合と市場の画定」『神戸市外国語大学外国学研究』第94号、神戸市外国語大学外国学研究所、2022年2月28日、53–63頁、2025年1月25日閲覧 
  3. ^ 審決等データベース「(社)熊本県道路舗装協会に対する件」”. 公正取引委員会. 2025年3月16日閲覧。
  4. ^ a b 泉水, 文雄「入札談合と独占禁止法」『法律時報』第66巻第7号、1994年6月、p44–49、ISSN 0387-3420 
  5. ^ a b 菊池, 兵吾 (1982-11). 公正取引協会. ed. “建設業団体による受注予定者決定事件(社団法人静岡建設業協会に対する件(昭和五七年(勧)一二号,五七年九月八日審決)社団法人清水建設協会に対する件(昭和五七年(勧)一三号,五七年九月八日審決)清風会に対する件(昭和五七年(勧)一四号,五七年九月八日審決))”. 公正取引 (公正取引協会) 11 (385): 38-43. doi:10.11501/2682308. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2682308 2025年1月25日閲覧。. 
  6. ^ a b 亀本和彦 (2003). “公共工事と入札・契約の適正化--入札談合の排除と防止を目指して”. レファレンス (国立国会図書館調査及び立法考査局) 53巻 (9号): 7-42. 
  7. ^ 森本恵美・荒井弘毅 (2014). “脱談合宣言の影響:2006 年に何が起こったのか”. 土木学会論文集F4(建設マネジメント) (土木学会) Vol.70 (No.2): 38-54. 
  8. ^ 佐藤峰 (2023). “法改正が入札価格に与える影響:入札談合等関与行為防止法改正の事例から”. オイコノミカ (名古屋市立大学経済学会) 58巻 (1号): 23-39. 
  9. ^ マンション修繕工事で談合疑い 関東の主要20社に立ち入り 公取委”. 朝日新聞 (2025年3月4日). 2025年3月16日閲覧。
  10. ^ 『平成7年度公正取引委員会年次報告-附属資料12「海外競争政策の動き」』公正取引委員会。 
  11. ^ a b c d 金井, 貴嗣、泉水, 文雄、武田, 邦宣 編『経済法判例・審決百選』(第2版)有斐閣、2017年10月25日。ISBN 978-4-641-11534-7OCLC on1008572891 
  12. ^ 公正取引委員会審判審決 平成6年(1994年)3月29日 審決集40号49頁、平成3年(判)第4号、『(株)協和エクシオに対する件』。(「横須賀米海軍基地談合・協和エクシオ事件」(課徴金納付)審判審決)
  13. ^ 東京高等裁判所判決 平成8年(1996年)3月29日 判時1581号37頁、平成6年(行ケ)第80号、『審決取消請求訴訟事件』。(「横須賀米海軍基地談合・協和エクシオ事件」第一審判決)
  14. ^ https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190621-00010000-kyt-l26
  15. ^ 兵庫県道路公社の入札情報を漏らした疑い、30代県職員を逮捕…播但連絡道路の耐震工事 読売新聞 2023年9月30日
  16. ^ 職員逮捕についてのお詫び(令和5年10月2日) 兵庫県道路公社ニュースリリース 2023年10月2日
  17. ^ 職員の再逮捕についてのお詫び(令和5年10月21日) 兵庫県道路公社ニュースリリース 2023年10月21日

参考文献

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関連項目

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