密着結合

密着結合(みっちゃくけつごう、: tight junction)あるいはタイト結合タイトジャンクションとは、隣り合う上皮細胞をつなぎ、さまざまな分子細胞間を通過するのを防ぐ、細胞間結合のひとつ。

膜タンパク質及び膜脂質の移動を制限することにより、頂端領域と基底領域の領域を区分し、細胞の極性を維持すると考えられている。オリゴデンドロサイトミエリン鞘にも同様の構造が存在する。

膜タンパク質としてオクルディントリセルリンクローディンファミリーがタイトジャンクションに局在し、ストランド(接着構造)形成はクローディンが担っている。

目次

タイトジャンクションの発見編集

1963年にFarquharとPaladeはラットモルモットの腺および管腔組織の様々な上皮細胞に形態の異なる3種類の細胞間接着分子を報告した[1]。これがタイトジャンクション、アドヘレンスジャンクションデスモソームである。この論文では透過型電子顕微鏡観察である超薄切片像で隣り合う上皮細胞の形質膜が隙間なく完全に密着した形態学的な特徴と透過性バリアとしての機能を合わせて示している。1973年には別の電子顕微鏡法である凍結割断レプリカ法によって、タイトジャンクションの膜密着部分では細胞内で粒子が紐状に並んだストランド構造がネットワークを形成し、ベルトとして細胞周囲を取り巻いていることが明らかになった[2]

タイトジャンクションの構成成分の同定編集

タイトジャンクションの構成分子に関しては長らく不明な時期が続いた。タイトジャンクションの構成成分の同定に関しては多くの日本人研究者が貢献しており、その歴史的な経緯は「小さな小さなクローディン発見物語」で記載されている[3]。1970年代にはタイトジャンクションを高純度に単離する方法がなかったため構成分子をモノクローナル抗体のスクリーニングによって同定された。この方法ではタイトジャンクションを多く含む膜分画を調製し、抗原として免疫し、その結果様々な抗原に対してできたモノクローナル抗体の中から免疫染色によってタイトジャンクションを標識するものだけを選び、その抗体を使ってタイトジャンクションに局在する抗原を同定し、クローニングする。この手法により1986年にStevensonらによって最初に同定されたタイトジャンクション構成分子がZO-1である[4]。ZO-1はタイトジャンクションの細胞質側を裏打ちする蛋白質で様々な分子と相互作用をすることが知られている。またZO-1はタイトジャンクションへの濃縮が極めてよいことから細胞間接着形成のすぐれたマーカーとしても知られている。1993年に古瀬幹夫、月田承一郎らはオクルディンというタイトジャンクションの膜タンパク質を発見した[5]。岡崎国立共同研究機構生理学研究所の月田承一郎研究室では当時はタイトジャンクションに隣接して存在する細胞間接着装置アドヘレンスジャンクション(カドヘリンが機能することで当時から知られていた)を齧歯類の肝臓から単離してその分子構築の解明を進めていた。彼らは研究の過程でアドヘレンスジャンクションと同じ分画にZO-1などタイトジャンクションに含まれる蛋白質が濃縮されていることに気がついた。そこでこの細胞接着装置膜分画を従来の齧歯類ではなくヒヨコの肝臓から単離し、裏打ち蛋白質をできるだけ抽出した残りの膜をラットに免疫して作成したモノクローナル抗体を用いて細胞接着装置を同定しようとした。この時、膜タンパク質を同定するために少量のSDS(界面活性剤)を混ぜた抗原で免疫した。この方法で同定し、クローニングしたのがオクルディンであった。しかしその後、ES細胞から作成したオクルディン遺伝子欠失上皮細胞が発達したタイトジャンクションを形成し、オクルディンはタイトジャンクション形成に必須ではないことが示された[6]。そこで彼らは、ヒヨコ肝臓から得た細胞接着装置膜分画に戻り、この膜分画をさらに機会的に破砕して密度による分画などによりタイトジャンクションの精製を試みた。タイトジャンクションの単離には成功しなかったものの、この過程でタイトジャンクションマーカーであるオクルディンと一緒に振る舞う蛋白質バンドを一本見出し、そのアミノ酸配列決定から相同な2種類の蛋白質を同定した。これがタイトジャンクションの接着分子であるクローディンファミリーで最初に同定されたクローディン-1とクローディン-2である[7]。クローディン-1またはクローディン-2を持たないマウスL線維芽細胞に強制発現させると、いずれの場合も、もともと細胞接着活性を示さないL細胞が互いに強固に接着するようになった。さらに細胞間に巨大なタイトジャンクションストランドネットワークが形成された。オクルディンをL細胞に発現させてもこのようなネットワークは形成されないが、クローディンと同時に導入するとクローディンによって形成されたストランドにオクルディンが組み込まれた。

クローディンの構造と機能編集

クローディンは4つの膜貫通ドメインと2つの細胞外ループをもつ分子量23kDの小さな4回膜貫通蛋白質である。G-LW-CCというクローディンモチーフをもつ。ヒトやマウスでは少なくとも27種類のサブタイプの多遺伝子ファミリーを構成する。細胞生物学的な研究からクローディンの基本的な性質は以下のようにまとめられる[8]

隣り合う細胞の両側から細胞接着部位に集積し、タイトジャンクションの細胞膜密着構造と膜内のストランド構造を形成する。
様々な組織で細胞あたり複数のサブタイプが上皮細胞に共発現していることが多く、上皮のタイプによって発現するサブタイプの組み合わせが異なる。
複数のクローディンが共発現している場合、一般にタイトジャンクションはこれらのクローディンがモザイク状に集まって形成される。
タイトジャンクションを形成するクローディンのサブタイプには機能的な差異があり、細胞間隙の透過バリア形成に徹するバリア型クローディンとナトリウムイオンなど無機イオンや水などのような小分子を通す穴を形成するチャネル型クローディンが存在する。

リーク経路編集

比較的大きな分子量をもつ水溶性分子が水溶性分子が極めてわずかずつタイトジャンクションを通って漏れておりその経路をリーク経路という[9]。正常状態でリーク経路におけるわずかな漏れを説明するメカニズムの一つとしてタイトジャンクションのストランド構造が膜内の蛋白質ポリマーとしての切断と再結合を繰り返す動的な振る舞いが考えられる。

ノックアウトマウスを用いたクローディンファミリーの解析[10]編集

バリア型クローディン編集

バリア型クローディンと考えられているのはクローディン-1、クローディン-4、クローディン-5、クローディン-7、クローディン-11、クローディン-14、クローディン-18、クローディン-19である。

クローディン-5と血液脳関門

血液脳関門は脳を守るバリアであり脳実質を囲む毛細血管内皮細胞のタイトジャンクションが重要な役割を担う。脳血管内皮細胞にはクローディン-5の発現が特に多い。クローディン-5以外にはクローディン-3、クローディン-12などの発現がみられる。クローディン-5のノックアウトマウス(ホモ接合体)は生後1日以内で致死となる[11]。電子顕微鏡で形態評価を行うとクローディン-5のノックアウトマウスにもタイトジャンクションストランド形成が確認され、脳血管のネットワークや組織構築は維持された。しかし小分子のトレーサーの通過は正常型マウスと大きく異なった。正常マウスは分子量443D、742D、1900Dのいずれも通過しなかった。しかしクローディン-5ノックアウトマウスでは分子量443D、742Dのトレーサーは通過した。クローディン-5のノックアウトマウス(ホモ接合体)の血液脳関門は分子量およそ800Dまでは通過するがそれより大きな分子は透過しない分子篩のような作用をしていると考えられた。クローディン-5のノックアウトを行うと小分子の透過性のみ亢進するため、クローディン-5の制御によって小分子の薬物輸送や水の透過性制御による脳浮腫の治療などが行える可能性がある。

クローディン-7と大腸炎

クローディン-7の腸管上皮細胞特異的ノックアウトマウスは大腸炎のモデルマウスである。

クローディン-18と胃炎

クローディン-18はプロトンバリアを構成すると考えられている。クローディン-18のノックアウトマウス(ホモ接合体)は胃の壁細胞が成熟し胃酸分泌をはじめる生後4日目から胃炎の症状がみられる。同時に壁細胞やその分化した主細胞の減少がみられる[12]

チャネル型クローディン編集

発現することで上皮細胞間にチャネルを形成して透過性を与える、あるいはタイトジャンクションストランド、のダイナミクスで透過性を与えるのはクローディン-2、クローディン-7、クローディン-10、クローディン-15、クローディン-16である。

クローディン-2とクローディン-15と致死的栄養吸収障害

腸管上皮細胞シートは細胞間の選択的イオン透過性の高い臓器として知られている。腸管に発現が多い2つの細胞間チャネル型クローディンであるクローディン-2とクローディン-15のダブルノックアウトマウスはナトリウムイオンの上皮細胞間透過性が野生型マウスのおよそ20%にまで低下する。また離乳前後に三大栄養素の吸収不全で致死的になる[13]

脚注編集

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  1. ^ J Cell Biol. 1963 May 17:375-412. PMID 13944428
  2. ^ J Cell Sci. 1973 Nov 13(3):763-86. PMID 4203962
  3. ^ 小さな小さなクローディン発見物語 ISBN 4897068509
  4. ^ J Cell Biol. 1986 Sep 103(3):755-66. PMID 3528172
  5. ^ J Cell Biol. 1993 Dec 123(6 Pt 2) 1777-88. PMID 8276896
  6. ^ J Cell Biol. 1998 Apr 20 141(2) 397-408. PMID 9548718
  7. ^ J Cell Biol. 1998 Jun 29 141(7) 1539-50. PMID 9647647
  8. ^ Trends Cell Biol. 2006 Apr 16(4) 181-8. PMID 6537104
  9. ^ Annu Rev Physiol. 2011 73 283-309. PMID 20936941
  10. ^ Semin Cell Dev Biol. 2014 Dec 36 177-85. PMID 25305579
  11. ^ J Cell Biol. 2003 May 12;161(3):653-60. PMID 12743111
  12. ^ Gastroenterology. 2012 Feb 142(2) 292-304. PMID 22079592
  13. ^ Gastroenterology. 2013 Feb;144(2):369-80. PMID 23089202

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集